言えない 生き残ったのが俺だとは②~驚きと再会~
 作:無名


人気者の彼女と、友達のいない彼氏。
それでも、二人は幸せだったー。

しかし、交通事故で入れ替わってしまった挙句、
彼女は彼氏の身体のまま、息を引き取ったことを知らされる。

彼は”人気者”の彼女の身体で大学生活を続けていたもののー…?

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

”彼”は、一度は死んだー。
医師も、確かに彼の死亡を一度は確認したー。

医学的に、彼は確実に死亡していたー。

けれどー…
”死ななかったー”

生命活動を停止してから、何日も経過した
そのタイミングでー、火葬される前日に
”彼”は意識を取り戻したのだー

それはー、
通常ではあり得ないことー。

しかしー、
既に”彼”の身体には通常ではあり得ないことが起きていたからー、
それは不思議なことではなかったのかもしれないー。

あるいは、奇跡かもしれないー。

彼ー…
”秀保”は一度死に、火葬される前日に、
意識を取り戻したのだー。

そうー、
彼氏と、秀保と入れ替わっていた麻由美は
死んでいなかったー。

秀保の身体で一度は死に、そして息を吹き返したのだー。

だが、事故の衝撃で、麻由美の身体以上にダメージを受けていて
身体はボロボロだったー。

動けるようになるまで、相当時間もかかったし、
”家族すらいない”状態の秀保の”蘇生”は、
ほとんどの人間の耳に入らなかったー。

そのため、麻由美になった秀保の耳にも当然入らずー、
かと言って、秀保(麻由美)も大けがをしている状態で
連絡を取ることもできずー、
そのまま、数か月が経過していたー。

ーーーがーーー

ようやく動けるようになり、
”大学”の近くにやってきた秀保(麻由美)は、
信じられない光景を目の当たりにしたー。

それはー、
麻由美(秀保)が、楽しそうに友達と大学にやってくる姿ー。

まるでー
”自分のこと”など、忘れてしまったのようにー。

声を掛けることもできずー、
それから何日も大学の周辺で、”麻由美になった秀保”の姿を
遠くから見つめる日々を送ったー。

そしてーーー
秀保になった麻由美は知ったー。

”秀保はわたしの身体で、楽しく大学生活を送り続けている”
ことをー。

しかもーー
友達との会話の中で”死んだのが秀保の方でよかった”とも取れるような
友達の言葉に、麻由美(秀保)は笑っていたのも見てしまったー

「ーーなんでー…」
ボソッと呟く秀保(麻由美)ー

”わたしの身体と人生を奪われたー”
秀保(麻由美)は、そんな風に思ってしまいー、
ボロボロの顔を触りながら、ガリッと唇をかみしめたー。

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

事故直後に麻由美となった秀保は、
”生き残ったのは俺”と言うこともできないままー、
麻由美としての生活を続けていたー。

今ではすっかり”生前の自分”が悪く言われていても、
笑ってその話に乗ることができるようにもなったー。

最初の頃は”死んだのがアイツの方で良かった”みたいなことを
言われれば悲しかったし、腹が立ったー。
でも、今はもう、何とも思わなくなったー

いやー
”自分のことを言われている”と感じなくなったー

”麻由美”になって数か月ー。
数か月も他人の身体で過ごせば、
”他人”は”自分”となり、
”自分”は”他人”となるー。

そんなことを思い知らされたー。

「ーあ、井本くん!」
後輩の井本 達夫に手を振る麻由美(秀保)ー

「あ!先輩!」
嬉しそうに微笑む達夫ー。

最近、麻由美(秀保)は、サークルで繋がりのある後輩・達夫と
親しくなっていたー。

達夫は大人しい性格の持ち主で、
友達は少なくー、女子にも慣れていないー…
そんな雰囲気の持ち主。

彼を見ていると、なんとなく麻由美(秀保)は、
放っておけないような気持ちになってしまい、
ついつい親切にしてしまうー。

そうこうしているうちに、達夫と親しくなりー、
つい先日ー、”麻由美”から告白して、
今やカップルになっていたー。

身体は人気者の麻由美とは言え、
中身は奥手だった秀保ー。
奥手な人間同士、付き合い始めても、”くん呼び”で”先輩”呼びだけれどもー。

「ーー僕、先輩と付き合ってるって言ったら、
 クラスの子に、”遊ばれてるだけだよ”とか
 それは”罰ゲームだよ”とか言われちゃってー」

少し寂しそうに呟く達夫ー。

「ーーふふ、そんなことないないー。
 井本くんを騙して、わたしに何の得があるのー?
 何にもないでしょ?

 好きだから、告白しただけー」

麻由美(秀保)が微笑みながら言うー。

かつて、自分も”麻由美はどうして自分なんかと付き合ってくれるんだろうー”と、
思い、疑心暗鬼になったことがあるー。
だから、達夫の気持ちもよくわかるー。

そう思いながら、かつて”自分が麻由美に言われたように”
安心させるような言葉を口にするー。

嬉しそうに笑う達夫ー

そんな達夫の姿を見て、”女”として心の底から
喜びを感じた麻由美(秀保)は少し戸惑いの表情を浮かべながら、
どうして達夫のことが好きになったのかを少し考えるー。

”元々、麻由美の中にも達夫に対する好印象のようなものがあった”のだろうかー。
それとも”かつての自分に似ている”から、親近感のようなものを感じるのだろうかー。

どちらかは分からないー。

それでもー、今の麻由美(秀保)にとっては、
達夫は大事な存在であることには変わりなかったー。

二人で今日も楽しく雑談をしながら、
大学の正門から外に出て、駅まで一緒に歩いていくー。

だがーーー
駅まで半分ぐらいまで歩いて来たところで、
”それ”は、姿を現したー。

「ーーーーえ」
達夫が、表情を歪めるー。

それに気づいた麻由美(秀保)が、達夫の見つめている方向に
視線を向けるとー、
そこには、顔や手に痛々しい傷跡が見える男が立っていたー

一瞬、麻由美(秀保)は”誰”だか分からなかったー
だがーーー

”そ…そんな…まさかー…!”

ボロボロとは言え、”元・自分”の姿を見て、
麻由美(秀保)は、その相手が”秀保”であることに気付いたー

「ご、ごめんー。井本くん、今日は先に帰っててー」
麻由美(秀保)が言うと、達夫は「えっ…でも?」と、
困惑の表情を浮かべるー。

「ー大丈夫だからー」
麻由美(秀保)が、嘆願するようにそう言うと、
達夫は「わ、分かったー…」と、頷いて
そのまま足早に立ち去っていくー。

達夫が十分離れた場所に去って行ったのを確認すると、
麻由美(秀保)は表情を歪めたー。

「ーーー…ま…麻由美…?」
麻由美(秀保)のその言葉に、
秀保(麻由美)は「ーー久しぶりー」と、だけ呟くと、
「死にかけてて、会いに来るのに、時間がかかっちゃった」と、
少し不気味な笑みを浮かべたー。

「ーーー…ほ、ホントにー…? し、死んだって聞いたけどー?」
麻由美(秀保)が言うと、
秀保(麻由美)は「うんー。一度死んでたみたいー」と、言葉を口にしてから、
そのあと、火葬前日に蘇生して、今に至るまでを説明したー。

「ーー本当はもっと早く連絡したかったんだけどー、
 秀保のスマホ、事故で壊れちゃってたし、わたしも動けるようになったのは
 本当に最近のことだからー。

 ほら、秀保、家族もいないからー…なかなか連絡できる状況になくて」

秀保(麻由美)のそんな言葉に、
麻由美(秀保)は、驚きの表情を浮かべたままだったー。

”よかったー”
そんな言葉はーー
出て来なかったー。

むしろー

”どうして、今になってー?”

と、いう思いの方がはるかに強かったー。

「ーーねぇ、どうして?」

そんな麻由美(秀保)の考えを打ち消すかのように、
秀保(麻由美)が先に言葉を口にしたー。

「ーえ」
麻由美(秀保)が戸惑っていると、
「ねぇ、どうして”わたしのフリ”して普通に過ごしてるの?」と、
秀保(麻由美)は首を傾げながら言葉を口にしたー。

その声にはー
怨みのようなー…そんな雰囲気を感じたー

「え…い、いやー、そ、それはそのー」
麻由美(秀保)は戸惑うー。

「ーーーなんで、自分のこと、誰にも言わないのー?」
秀保(麻由美)が低い声でそう呟くー。

”秀保の身体が傷だらけ”
だからだろうか。
余計に迫力…というか、そんなものを感じるー。

”麻由美”は怒っていないのかもしれない。
けれど、”身体”が違うだけで、何だか恐ろしいような
そんなオーラを感じるー。

「そ…それは…そのー
 みんなが、”生き残ったのが麻由美でよかった”って言うしー…
 なんだか…言い出せなくて」

麻由美(秀保)が申し訳なさそうにそう言い放つー。

「ーー」
秀保(麻由美)は沈黙しているー。

「ーだ、だって、みんなが”死んだのが俺でよかった”って
 雰囲気の中ー、言い出せるわけないだろー…!?」

困惑した様子で麻由美(秀保)が言うー。

「ーーねぇ」
秀保(麻由美)は、そんな麻由美(秀保)に向かって、
少し怒りを感じるような口調で言葉を発したー

「ーじゃあ、なんでわたしの身体で勝手に”彼氏”作ってるのー?」
とー。

”彼氏”とは、後輩の達夫のことだろうー。

「い…いや、そ…それは…そ、そのー」
麻由美(秀保)が言うと、
「わたしの彼氏は、秀保だよ?なのに何で勝手に彼氏を作ってるの?」と、
秀保(麻由美)は、怨みの籠った口調で言葉を繰り返したー

「ーご、ごめ…
 そ、それはー…”俺”の身体は死んだって病院で聞かされてたしー、
 そ、そうなったら、もう、俺は麻由美の身体で生きていくしか…
 ないからー…
 だ、だからー、その…彼氏とかも作ったりー…

 ほ、ほら、恋人が死んだら、新しい恋人を作ったりする人も、いるだろー?」

麻由美(秀保)が、困惑しながらそう言い放つー。

”秀保になった麻由美”が死んだと思っていた以上、
自分はもう”麻由美”として生きていくしかないと思ってたし、
だから恋人も作ったのだとー。

「ーふ~ん…」
秀保(麻由美)は、時々、痛そうに身体を震わせながら頷くとー、
「わかった」と、穏やかな笑みを浮かべたー。

どうやら、分かってくれたようだー。

「ーーでも、これで安心だね」
秀保(麻由美)が笑うー。

「え?」
麻由美(秀保)が、少し戸惑いながら言葉を口にすると、
秀保(麻由美)は笑みを浮かべたー。

「ーこれで、もうわたしのフリをする必要はなくなったからー。
 だってほら、わたし、こうして無事に動けるようになったし、
 みんなに入れ替わりのこと、説明できるでしょ?」

秀保(麻由美)の言葉に、
麻由美(秀保)は凍り付くー。

”人気者の麻由美”として数か月を過ごした秀保はー
既にこの生活に馴染み切っていてー
”手放したくない”と、そう思い始めていたー。

「ーいや、いや、待ってくれ!」
麻由美(秀保)が言うと、秀保(麻由美)が表情を歪めるー。

「ー入れ替わりなんて言ったって、みんなが混乱するだけだしー
 お、俺だけが頭おかしいと思われるならともかく
 麻由美だっておかしくなったと思われちゃうかもしれない!

 そ、それに、麻由美は今、俺の身体だから、
 ーほら、俺、みんなに嫌われてるだろ?
 入れ替わりなんて言い始めたら、みんなに色々言われるのは
 俺の身体の麻由美の方だと思うんだ!

 それにー、今更”あの事故の時に入れ替わってたの”なんて言っても
 みんな”じゃあ、何であの時言わなかった”ってなるだろうしー、
 とりあえずこのまま、俺たちで相手のフリをしながらー」

かなりの早口で麻由美(秀保)が言うと、
秀保(麻由美)は「わたしの身体、奪う気ー?」と、
低い声で呟いて、睨みつけて来たー。

「ーーえ… そ、それはー ちがっ…」
麻由美(秀保)はギクッとするー

”元に戻る方法を探しながら”というのは口実で
このまま”元に戻る方法を探したけれど見つからなかったー”という
流れにしようと、そう思っていたのも事実ー。

だが、あっさり見破られてしまったー。

「ーーーみ、みんなを混乱させないためにー
 そ、それに、麻由美のためにー」

麻由美(秀保)はそう言うと、
秀保(麻由美)は、身体を少し震わせながら、
「ーーーみんなに、言うからー。入れ替わりのこと」
と、言葉を口にするー。

「ーいや… ま、待って!」
麻由美(秀保)が、そう叫ぶー。

だが、秀保(麻由美)は、ボロボロの身体のまま振り返ると、
静かに呟いたー

「ーーーちゃんと、元に戻らなくちゃ、ダメでしょ?」
とー。

「ーーーーー~~~…」

確かに、麻由美の言ってることは間違ってないー。
だが、事故の前よりも何となく”圧”を感じるというかー、
少し違和感を感じるー。

そんな風に思いながら、麻由美(秀保)は、
立ち去っていく秀保(麻由美)の後ろ姿を見つめることしかできなかったー。

このままじゃー…
せっかく手に入れた”わたし”の人生がー、また元の”俺”の人生に戻ってしまうー

そう、思いながらー。

③へ続く

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

このお話は元々、
”入れ替わった後、
 新しい身体で生きていくしかなくなってしまって、
 やっと新しい生活になれたところで、
 元の自分が姿を現したら…?”というところから
浮かんだお話デス~!!

どうやって、その状況を作り出すか色々考えた結果、
入れ替わり相手が死んでしまった(と、思い込んでいた)状態で
物語を描くことにして、こうなりました~!

今更元自分が出現して、
混乱する彼が、どんな道を選ぶのかは、
次回の最終回で見届けて下さいネ~!

今日もありがとうございました~!