言えない 生き残ったのが俺だとは③~憎しみと怒り~(完) 作:無名 交通事故に巻き込まれて入れ替わってしまった二人ー。 自分の身体になった彼女が息を引き取ったと聞かされ、 戸惑いながらも、彼女の身体での生活に慣れつつあった彼ー。 しかしー、ある再会をきっかけに、彼の新たな日常は壊れ始めるー。 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 「ーーーみんな…久しぶり!」 翌朝ー 大学にやってくると、 ”秀保(麻由美)”の姿があったー。 自分が麻由美で、あの事故で入れ替わってしまってー、 そして、病院で一度は心停止になって死んでいたけれどー、 その後火葬前日に蘇生した、ということを話していたー。 麻由美(秀保)が困惑の表情を浮かべるー。 昨夜ー、麻由美(秀保)は、 死んだと思っていた”秀保(麻由美)”と再会を果たしたー。 動けるようにはなったものの、かなり痛々しい傷跡などが 残っている秀保(麻由美)ー。 どうやら今日は、大学に”生存の報告”に来て、事情を説明、 大学への復帰の相談をしに来たようだったー。 だがー、昨日、再会した秀保(麻由美)は、 ”入れ替わり”のことを周囲に打ち明けようと、そうしていたー。 ”秀保が麻由美の身体で普通に生活を続けていること”に 強い不満を持っている様子だったー。 「ーーーーーな、なんだよお前ー」 「ーあんたが麻由美とか、あり得ないー」 「ーーーでもーーどうなんだろう?」 秀保(麻由美)の周りに集まっている同じ大学の仲間たちが 困惑の言葉を口にするー。 麻由美(秀保)はその様子を少し離れた場所から 見つめながら、困惑していたー。 ”ーーせっかく、せっかくー…この生活に慣れて来たのにー” 麻由美になった秀保は、”麻由美”としての生活にも慣れー、 今の麻由美の”人気者”としての立場にも心地よくなっていたー。 それに溺れることなく、周囲に優しく接するように心がけて、 ”麻由美”の輝きを失うことなく、この数か月間を過ごして来たー。 それなのにー。 「ーーー…ひ、秀保!!無事だったんだ!」 麻由美(秀保)は、咄嗟にそんな言葉を口にしながら、 他の生徒たちと話している秀保(麻由美)に近付いていくー。 「あ、麻由美!ひ、秀保くん、無事だったの?」 友達の一人が、麻由美(秀保)に対してそう言い放つー。 「う、うんーそうみたいー。わ、わたしもびっくり!」 麻由美(秀保)はあくまでも”麻由美”のフリをしながら そう言うと、その様子に秀保(麻由美)は声を震わせたー 「ーねぇ、なんでわたしのフリしてるの?」 とー。 その言葉に、周囲がどよめくー。 「ーねぇーー…なんで?? ねぇ、なんでー? ねぇ、ねぇ、なんで?」 秀保(麻由美)が、怨念に満ちた声でそう言い放ってくるー。 やっぱりー、”違和感”は、身体だけではない気がするー。 麻由美自身、秀保の身体で何か月も生死の淵をさ迷ったことで 少し性格や振る舞いにも影響が出ているような気がするー。 「ーーーな、何のことー…? ひ、秀保ー?」 麻由美(秀保)は”とぼけた”ー。 あくまでも”わたしが麻由美”だと振る舞ったー。 麻由美の人生を奪いたいー…と、いうことよりも ここで”入れ替わり”がバレたら、 また自分が”孤立した秀保”に戻ることー、 そして何よりも”数か月も麻由美のフリをしていたこと”を 周囲から罵倒されることが怖かったー。 ”死んだのが秀保でよかった”などと言われて ”俺が生き残ったとは言えない”などと考えてしまう秀保が、 ”実は入れ替わっていたんだ”と、周囲に打ち明けられないのは ある意味、当然とも言えたー。 ”言えない 入れ替わっているのに麻由美のフリをしていたなんてー” そんなことを思いながら、 「ーーわ、わたしが麻由美で、秀保は秀保でしょ?」と、困惑した表情で そう言い放つー。 が、当然、秀保(麻由美)も食い下がって来るー。 麻由美の個人情報を口にし始めるー その中には”麻由美”しか知らないような内容までー。 「ーーー…ち、違う!わ、わたしが麻由美だよ! 何言ってるの!?」 明らかに”形勢不利” 麻由美(秀保)はそう感じながらもそう叫ぶとーー 「そ、そうだよ!秀保くん!何言ってるの?」 と、麻由美の友達が叫んだー 「え?」 麻由美(秀保)は、てっきり”自分の方が苦しい言い訳をしている”と 感じていたために困惑の表情を浮かべたー。 周囲の仲間たちも口々に”麻由美(秀保)”を庇う言葉を口にし始めるー。 「っていうか、何で麻由美ちゃんのことそんなに知ってるんだよー。 お前、ストーカーか!?」 男子の一人が言うー。 秀保(麻由美)は呆然とした表情で 「わー、わたしが…わたしが本当の麻由美!入れ替わってるの!」と、 必死に叫ぶー。 だが、それを信じる者はいなかったー 「ーーー……何でこんなことー」 秀保(麻由美)はそう呟くと、 ボロボロの顔を麻由美(秀保)に向けたー。 「ーーー許さない」 そう呟いて、そのまま立ち去っていく秀保(麻由美)ー 麻由美(秀保)は、”自分の方が苦しい言い訳”をしていた気がするのに 周囲が守ってくれたことに驚きー、 そして、こう思ったー。 ”そ、それに、麻由美は今、俺の身体だから、 ーほら、俺、みんなに嫌われてるだろ? 入れ替わりなんて言い始めたら、みんなに色々言われるのは 俺の身体の麻由美の方だと思うんだ!” 昨日、秀保(麻由美)に言い放った言葉を思い出すー。 そうだー… そういうことかー。 ”麻由美”だから、言い訳が苦しくても周囲は麻由美を信じるんだー。 そう思った麻由美(秀保)は、 「これならー」と、少しだけ笑みを浮かべたー ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 秀保(麻由美)に連絡を入れて”さっきはごめん”と、 伝えた上で、 ”急に入れ替わりなんて言っても、みんなが戸惑うだけだし、 お互いのフリをしながら元に戻る方法を探そう”と、 麻由美(秀保)は言葉をかけたー。 だが、麻由美(秀保)に”元に戻る方法”を 探すつもりはないー。 ”戻りたがっているフリをしながら、このまま”を維持したいー。 そんな風に考え始めていたー。 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ それから数日ー。 麻由美(秀保)は、彼氏の達夫と共に 大学の帰路を歩いていたー。 「ーーーじゃあ、井本くん、また明日ー」 麻由美(秀保)がいつものように雑談を終えて手を振るー。 麻由美が暮らすアパートに向かっていつものように歩きー、 そしてー、帰宅したーーー がーーー 「ーーー!!!!」 アパートの中に、既に秀保(麻由美)が待ち構えていたー。 そういえばー、秀保と麻由美はお互いに相手の家の 合鍵を持っているー それを使ったのだろうー。 「ー身体、返してー」 傷だらけの秀保(麻由美)が言うー。 「ーーわ、わ、わ、分かってるよー! 元に戻る方法を、見つけようとしてー」 麻由美(秀保)が言うと、 「ーーー探してる様子、ないじゃん」と、不満そうに 秀保(麻由美)が呟くー。 「ー…い、いや、よ、夜にネットでー色々とー」 麻由美(秀保)が咄嗟にそう言うと、 「身体を返してよ!」と、秀保(麻由美)が近付いてくるー。 「うわっ!や、やめっ!」 ”秀保”の力に抵抗できず、床に押し倒された麻由美(秀保)は 「お、落ち着いて!麻由美、落ち着いて!」と、叫ぶー。 しかし、 秀保(麻由美)は目に涙を浮かべながら、 「元に戻りたいー!この身体、痛いよー!」と、目に涙を浮かべるー。 秀保になった麻由美に違和感を感じたのはー ボロボロの状態で、ずっと孤独で、ずっと激痛に耐えていたからー… なのかもしれない。 人間、過酷な環境に何か月も置かれれば、性格は、歪むー。 「ーーご、ごめんー!ごめん!身体は返すよ! 一緒に元に戻る方法を探そう!」 麻由美の身体で過ごしたかったー… が、ここまで言われてはやはりー、元に戻る方法を一緒にー… 麻由美(秀保)はそんな風に思いながらそう言葉を口にするー。 がー 「こんな身体、もうやだ!!! わたしが秀保なんて、耐えられない!!!」 秀保(麻由美)は泣きながらそう言い放ったー 「ーーーー!!!!!!」 その言葉に麻由美(秀保)は表情を歪めるー ”わたしが秀保なんて、耐えられないー” どういう意味で、秀保(麻由美)がその言葉を 口にしたのかは分からないー。 単に、誰が相手であろうと”他人の身体”で生きていくのは嫌だ、 と、そういう意味かもしれないー。 入れ替わったあとにあまりにも辛い経験をしてきたからこそ、 そう思うようになったのかもしれないー。 けれどー 「今、なんてー…?」 麻由美(秀保)が困惑の表情を浮かべながら、そう言葉を口にするー。 麻由美(秀保)は ”やっぱり、麻由美も元々俺のこと、心の奥底ではそう思っていたのかー” と、そんな風に勘違いしてしまったー。 「ーーーーー…お、俺だってー!」 麻由美(秀保)は、秀保(麻由美)に”力”で押さえつけられながらも、 そう声を上げるー。 「ー俺だって、好きでそんな身体に生まれたんじゃないー! 可愛いやつとか、イケメンとかー、それだけで得ばっかりしてー、 ずるいじゃないか!」 そう叫ぶと、麻由美(秀保)が、秀保(麻由美)の急所を蹴りつけたー。 その痛みは”元自分”だからこそ、知っているー。 「ーーー…か、返して!こんな身体は嫌だ!こんな身体はーー!!!!」 秀保(麻由美)のその言葉にー、 麻由美(秀保)は、少しだけ笑みを浮かべるとー、 悲鳴を上げながら、外に飛び出したー。 これも”元・自分”だからこそ分かるー。 どうせ世間は、俺のほうを不審者だと解釈するんだー ”可愛い子”と、”俺みたいなやつ”ー。 それが揃っていると、世間は第1印象で俺のほうを悪人だと決めつけるんだー、 とー。 そう、分かっているのだー。 悲鳴を上げながら外に飛び出すとー、 間もなく近所の住人が気付いて、誰かが通報ー、 秀保(麻由美)は駆け付けた警察官に取り押さえられてー、 ”身体を奪われた!”というような言葉も、 誰にも信じてもらえずー、そのまま連行されたー。 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 「ーー今日も可愛い♡」 大学に向かう準備を終えた麻由美(秀保)は、 鏡で自分の姿を見つめながら微笑むー。 ”秀保のやつ、やっぱ身体目的だったんだな” ”ああいう男子と付き合うのは、もうやめた方がいいよー” ”でも、麻由美に何事もなくてよかったー” ”どうしようもねぇやつだよな” またー 大学では”秀保”に対する罵詈雑言が始まったー。 今後は、前とは違い、直接的な悪評だー。 前は”秀保が死んでよかった”と、直接言うようなやつはいなかったー。 けど、今回は違うー。 世間的には”秀保”が彼女を襲って逮捕されたのだからー、 大学の仲間たちは容赦のない言葉を、”秀保”に浴びせたー。 ”やっぱ、言えないよなー ここにいるのが俺なんてー” 麻由美(秀保)は自虐的に笑うー。 やっぱりー、自分が秀保だとは言えないー。 あの時ー… 麻由美の身体で自分だけが生き延びてしまったと思ったあの時ー、 周囲にすぐにそのことを打ち明けていればー、 秀保(麻由美)の反応も違ったのだろうかー。 「ーーーーーー…」 ”麻由美”のことは今でも好きだー。 でも、この”麻由美として”の生活を味わってしまったらー もう、元には戻れないー。 麻由美だって、そうだったはずだー。 ”秀保のことが好き”と言いつつ、 いざ、”秀保”自分がなったら、”耐えられない”とそう言ったのだからー、 人間とは、欲深い生き物だー。 「ーー先輩!」 ”彼氏”の達夫が、笑いながら駆け寄って来るー。 「井本くんーお待たせ」 麻由美(秀保)は、達夫に手を振りながら微笑むー。 どうせー もう、自分は嘘をついたんだー。 だったら、とことん、嘘をつこうー いいや、もう、自分が秀保であったことは忘れようー。 麻由美(秀保)は、心の中でそう呟くと、 ”麻由美”として生きていくことを決めて、 達夫と共に歩き出すのだったー。 ”中身が俺だとは、言えないー。いや、死ぬまで”言わない”ー。” この日がー ”言えない”から”言わない”に変わった瞬間だったー。 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ ”許せないー” ”絶対にー” 秀保(麻由美)は警察の取り調べを受けながら、 恨みに満ちた目でそう呟いたー。 あの事故さえなければ、 二人は今も幸せな日々を送っていたのかもしれないー。 けれどー 人間の”関係”は、些細なことでも変化するー。 「ーーー許せないー。許さないからー」 この先、どのような未来を辿るとしても、 もう、二人の絆が”今まで通り”に戻ることは、ないー。 おわり ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 最終回でした~!★ スッキリはしない、どこか後味の悪い結末に…! 麻由美になった秀保くんは とりあえず、新しい身体で~!みたいな形に 落ち着きましたケド、 この後もなんだか、何かが起っちゃいそうな気がしますネ~…! 入れ替わりは、信頼している人間同士であっても 良い方向に転がることもあれば きっと、悪い方向に転がっちゃうこともあると思うので、 今回の作品では”悪い”ほうをあえて描いて見ました~!★ …次に、解体新書様で作品が載る頃には そろそろ年末の気配もしてくる頃になりますネ~! その頃には今よりもっともっと寒くなっていると思うので、 皆様も健康管理に気を付けて下さいネ~! 私は寒いのは得意なので…、体調だけ崩さないように気を付けます~笑 今回もありがとうございました~! |