言えない 生き残ったのが俺だとは①~悲しみと希望~ 作:無名 友達のいない彼氏と 友達が多く、人気者の彼女ー。 それでも二人は幸せだったー。 しかしある日ー、 交通事故で二人は入れ替わってしまい、間もなく、彼女はー…? ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 同じ大学に通う二人は、とても仲良しだったー。 彼女の里崎 麻由美(さとざき まゆみ)は、 明るく、優しく、社交的で友達の多い人気者ー。 一方の彼氏・石川 秀保(いしかわ ひでやす)は、 友達の少ないタイプの男子大学生で、 奥手で、寡黙なタイプー。麻由美とは正反対で、容姿にも恵まれておらず、 周囲からは孤立しているような状態だ。 しかし、本質は優しく、 学園祭の際に困っている麻由美を助けたことがきっかけで、 意気投合して、長い時間をかけてだんだんと距離を縮めていき、 恋人同士となったー 付き合い始めたあとも ”石川が、里崎さんの彼氏とはあり得ない”とか ”絶対すぐに別れるでしょ”とか、 心無い言葉をたくさん言われたもののー、 それでも、麻由美は”わたしは好きなの!”と、悪口を言っている子を叱りー、 さらには秀保に対しても”周囲の言葉は気にしなくていいからねー”と、 優しく言葉を掛けてくれたー。 そんな状況が1年近く続きー、 秀保は”自分とは縁のないはずだった幸せ”を噛みしめていたー。 だがーー 「ーーーーーー………ぅ… く… なんで…」 この日のデート中ー。 悲劇は起きたー。 幅の広い歩道を歩いていた二人ー。 そこに、暴走した車が突然突っ込んできたのだー。 気付いた時には、遅かったー。 まさか”車が突っ込んでくる”とは思ってもみなかったー 異様な音と、周囲の悲鳴に似た声を聞き、 咄嗟に振り返った時には もう車は目の前に迫っていてー、 秀保は慌てて、隣を歩いていた麻由美を突き飛ばそうとしたものの、 それすら間に合わず、二人は車に跳ね飛ばされてしまったのだー。 「ーーーー… だ… だいじょう…ぶ… だいじょうぶ…だから」 倒れたままの”秀保”がそう呟くー。 這いずるようにして、麻由美が秀保の方に近付いていくー。 だがー、麻由美は同時に、表情を歪めていたー ”あれー…?か、髪が長いー?” ”こ、声もーー” ”な、なんで目の前に、俺がー…?” 麻由美は、目の前で血を流してあおむけに倒れている ”自分自身”を見て驚いていたー 「ーーま…ゆみ?」 麻由美(秀保)がそう言い放つと、 秀保(麻由美)は苦しそうにー「ーー秀保ー…わ、わたしは…だ、い…… ???」と、 首を傾げたー。 ”彼女”も、違和感に気付いたようだー。 「ど…どうしてー…」 胸が路上に押し付けられるのを感じながらも、 激痛に耐えながら、麻由美(秀保)は、秀保(麻由美)に近付いていくー。 ”どうして、俺が麻由美にー?” どうやら、秀保が麻由美にー、 麻由美が秀保になっている状況のようだー。 だがーー… そんなことを考えている余裕はないー。 「ーーま…まゆみー…」 麻由美(秀保)は、そう呟くも、 秀保(麻由美)のところにたどり着くこともできずー、 そのまま意識を失ったー。 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 「ーーー本当によかったー」 「ーー生き残ったのが、アイツだったら、俺、あの野郎をぶん殴ってたぜ!」 「麻由美が無事でよかった」 「里崎さんを守るためだけに、あいつは産まれて来たんだなー」 「ー麻由美、元気出してねー」 ”麻由美”は大学に復帰したー。 あれから約1か月ー。 あのあと、病院に運び込まれた”麻由美”は、 なんとか一命を取り戻して、ベッドの上で目を覚ましたー。 がーーーー… ”お…俺が…麻由美に…?” 鏡で最初に自分の姿を見た時は、 心底驚いたー。 事故に巻き込まれた直後のことは、朦朧としていて ハッキリとは覚えていないー。 だが、自分と麻由美の身体が入れ替わってしまっていた状態だったことは ハッキリと覚えているー。 「ーーー…あ、あの…!俺と一緒に事故に巻き込まれた子はー!?」 麻由美(秀保)はそう叫んでしまった直後にー、 「ーーあ…」と、周囲をキョロキョロしてから 何度か咳き込んで、 「わ、わ、わたしと一緒に巻き込まれた彼はー!?」と、 叫んだー。 ”わたし”と言うだけでとても強い違和感を感じたものの、 とりあえず、身体のことよりも”麻由美の安否”を心配する気持ちで まずはいっぱいだったー。 だがーーーー 看護師から帰って来た言葉は、衝撃的な言葉だったー。 ”残念ながらー” 秀保になった麻由美は、先ほど急変して、 息を引き取ったー… という、恐ろしい現実を知らされることになったー。 ”秀保”には、家族がいないー。 両親は小さい頃に離婚、母親は中学の頃に病気で命を落としたー それ以降は親族を頼ってなんとか生き延びてきたものの、 親族とも疎遠になっているー。 秀保の遺体は、どうなるのかも、 麻由美(秀保)には分からないー。 「ーーーーなんで、俺がーーー…」 麻由美(秀保)は退院するまでの間、何度も何度もそう思ったー 生き延びたのは”麻由美”のほうだったのにー。 秀保もそれを望んでいたのにー。 それなのにー、”中身”は、秀保の状態で生き延びてしまったー。 身体は生きていても、これでは麻由美は死んだも同然だー。 ”麻由美”は生きているのに、”麻由美”は死んでしまったー。 「ごめんー」と、 入院中、何度も何度もそう呟いたー。 そしてーー ようやく退院してきたと思ったら、このありさまだー。 ”生き延びたのが麻由美でよかったー” ”死んだのがアイツでよかった” そんな、大学の仲間たちの言葉ー。 まぁ、それは当たり前なのかもしれないー。 ”麻由美”は人気者で 自分は孤立気味の男子大学生ー。 人間なんて、そんなものかもしれないー。 周囲は、”秀保が死んで、麻由美が生き延びたこと”を、 ”よかったね”と、そう喜んでいたー。 もちろん、表立って”秀保が死んでよかった”という人間はほとんどいないー。 しかし、話をしていれば分かるー。 ”麻由美が死んで、秀保が生き延びた”じゃなくてよかったー。 みんな、そう思っているのだとー。 だからーーー 言えなかったー。 事故に遭った際に身体が入れ替わっていて、 生き残ったのが”俺”だとはーー 「ご、ごめんねー…ちょっと、記憶がハッキリしないところがあってー」 麻由美(秀保)は苦笑いしながら、友達の夏江(なつえ)に対して そんな言葉を口にするー。 「ーうん。でも、麻由美が助かって本当によかったー。 秀保くんが、麻由美のこと、守ってくれたんだよねー」 夏江がそう言いながら、笑うー。 麻由美の親友である夏江は 麻由美の彼氏となった”秀保”に対しても、 表立って悪口を言ったりすることはなかったし、 ”嫌”という感情が伝わってくるような振る舞いはなかったー。 けれどー やっぱり彼女も、内心では”麻由美と秀保が恋人同士になったこと”を よく思っていなかったのかもしれないー。 「あんまり、秀保くんのことは引きずらないほうがいいよ? 秀保くんも、それを望んでないだろうしー、 麻由美なら、いくらでももっと素敵な彼氏も現れるから、ね?」 夏江はそう言ったー。 秀保は”素敵な彼氏”ではなかったと、そういうことなのだろうかー。 麻由美(秀保)は内心で少しだけムッとしたー。 がーーー 「う、うんー…忘れるー」 苦笑いしながら麻由美(秀保)は言うー。 元々人付き合いが得意ではない秀保はー、 ”死後の自分”が悪く言われていても、 何も言い返すことができなかったしー、 むしろーー… ”生き残ったのが俺だなんて、絶対に言えないー”と、 怯えていたー。 もしも、”麻由美の身体で生き延びた”などと知られてしまったら、 どうなってしまうだろうかー。 そんな恐怖からー、 麻由美になった秀保は、麻由美として 振る舞い続けていたー。 仮にも麻由美の彼氏だった秀保は、 当然、麻由美のことをある程度は知っているー。 普段、どんな風に振る舞っているのかー、 普段、誰と親しいのかー、 そういった”外から見えること”については把握しているー。 しかし、恋人相手とは言え、 相手の100%を知っているわけではない。 その部分は”事故の後遺症で記憶がハッキリしない部分がある” ということにしておき、補いつつ、 日々を過ごしていたーー。 ”男から女になった”ことで、色々戸惑う部分も多いながらも、 秀保は、”麻由美”になりきって、大学生活を送っていくー そしてーー 「ーー…よし!今日もかわいい!」 大学に向かう準備を終えて、自分の姿を鏡で確認すると、 麻由美(秀保)は嬉しそうに微笑んだー。 麻由美と入れ替わったばかりの頃は ”女って面倒臭い”と、そう思ったー。 メイクとか、男の時には考えなくてもよかったことを 考えないといけないし、 髪は長くてジャマだー。 最初は、バッサリ切ろうかとも思ったけれどー、 元々、秀保は”髪の長い子”の方が好きだったために我慢したー。 今は、それで良かったと思っているー それどころかー、 最初は面倒だと思っていた”おしゃれ”が今は楽しくなりつつあったー。 大学でも、孤立していた自分とは打って変わって ”人気者”になった自分に、次第に酔いしれるようになったー。 ”死んだのが秀保の方でよかった”と、言う空気の周囲に合わせて 自分自身も次第に”死んだのが秀保でよかった”という 態度を取るようになっていたー。 「ーーーふふ」 男子に声を掛けるだけで、男子たちは喜ぶー。 同性の女子たちからも慕われているー。 そんな、”最高”の身体ー。 「ーーー俺はもう秀保なんかじゃないー。 わたしは麻由美なんだー… ふふふふ」 鏡の前で麻由美(秀保)はそう呟くー。 容姿に恵まれなかった自分がー、 こんなにー こんなに綺麗な女性になっているー。 そう思っただけでゾクゾクと興奮するようになっていたー。 「ーーあ、先輩ー。この前はありがとうございましたー」 同じ大学に通う後輩の男子・井本 達夫(いもと たつお)が、 そんな声を掛けて来るー。 ”秀保は、バカではないー” ”人気者の麻由美”になったからと言って 横暴な態度を取ったり、高飛車な態度を取っていれば すぐに”人気者の麻由美”という立場は壊れてなくなるー。 それを、ちゃんと理解しているー。 人間、信頼を積み重ねるまでの時間はかかるけれど、 信頼を壊すまでは”あっという間”なのだー。 だからー… 「ーーーあ、井本くんー。 ううんー、気にしないで」 にっこりと微笑む麻由美(秀保)ー。 だからー。 誰にでも”優しく”振る舞ったー。 後輩にも、友達にも、先輩にも、だー。 ”可愛い身体”を手に入れても、 調子に乗ってしまってはいけないのだー。 秀保は、そこをちゃんと理解しー、 ”麻由美”の人気を壊さずー、 望んだわけではないけれど、 悪い言い方をすれば、”麻由美”の身体と人生だけではなくー ”人気”まで、奪い取りー、新たな人生を送り始めていたー。 「ーー麻由美ー…守れなくて、ごめんー。 でも、俺は麻由美として生きていくからー。麻由美の分まで」 帰宅すると、麻由美(秀保)は、 ”麻由美”の写真の前で手を合わせながらそう言い放ったー。 麻由美として生きることが楽しくなってもー、 本当の麻由美に対する感謝や、申し訳ないという気持ちは忘れていないー。 だが、今、クヨクヨしていても、麻由美が帰ってくるわけではないー。 だからー… これでいいのだー。 守れなかった彼女と入れ替わってしまった秀保はー、 彼女の身体で生きていくことを、改めて決意したのだったー ・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 「ーーーーーーーーーーーーーーー」 翌日ー。 傷だらけの男が、大学のほうを見つめているー。 「ーーーなんで」 傷だらけの男は、楽しそうに友達と話しながら 大学に入っていく麻由美(秀保)を見つめながら そう呟いたー… ②へ続く ・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 皆様こんにちは~!★! ようやく涼しく(急に下がりすぎ…?笑)なってきましたネ~! 私は暑いのが苦手なので、 やっと…!な気持ちですが、 あまりにも急に寒くなってきた気がするので、 体調を崩さないように、皆様も気を付けて下さいネ~! 今回のお話は 入れ替わったうちの片方が 早々に死んでしまった状態から始まる物語…★! これだと、入れ替わりの意味があまり…?と 思ってしまう皆様もいるかもしれませんネ~! でも、ちゃんとこれにも意味があるので、 次回の②以降もぜひ楽しんでください~★! …今はまだ、これしか言えないのデス~! |