レンタルスーツ②~理由~ 作:無名 幼馴染が”レンタルスーツ”などという 謎のバイトに手を染めていることを知った彼。 後日、その幼馴染と直接会うことになり…? ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 「ーあ、ヨシくん!久しぶり~!」 幼馴染の梨桜が、待ち合せをしたファミレスにやってくると、 「ーあ、久しぶりー」と、 義治は少し戸惑った様子で言葉を口にしたー。 やってきた梨桜は、 先日、バイト中に焼肉屋で遭遇した時とは 全然雰囲気の違うー… 義治の”よく知る”梨桜だったー。 メイクも派手じゃないしー 髪の色も黒だしー、 服装も落ち着いた感じだしー、 表情も穏やかだー。 この前とは、まるで別人のように見えると同時に、 ”高校時代の頃までの梨桜と同じ”で、 義治は安堵の感情を覚えていたー。 梨桜は着席すると、早速「あ、まずは何か頼んじゃおっか~」と、 微笑みながら言葉を口にしたー。 梨桜は美味しそうなパフェだけを頼むと、 義治も、梨桜に促されて、ちょうど、どうせ梨桜とファミレスに来るから、 と、まだ食べていなかった朝ご飯を補給するべく、 メニューを見つめ始めたー。 やがて、注文を終えると、 2人は会話を始めるー。 まずは近況の報告ー。 梨桜も、大学ではそれなりに上手くやっているようだー。 義治も、自分の近況を色々と話していくー。 そしてー、 それぞれが注文したものが机に届き始めたタイミングで 梨桜は”本題”を口にし始めたー。 「ーそれで、この前言った”レンタルスーツ”ってバイトだけどー」 梨桜はそう言うと、 「ーー着ぐるみになるとか、なんとかいうやつー?」 と、義治は言葉を口にするー。 「ーうん。なかなかイメージ湧かないと思うんだけどー… これー」 梨桜はそう言うと、スマホを手に、 バイト先であるという”レンタルスーツ”の紹介動画を見せて来たー。 するとそこには、女性が注射器のようなものを打たれて、 みるみると空気が抜けるかのように、ペラペラになっていきー、 ”皮”のような、そんな状態になっていく様子が映し出されていたー。 まさに、着ぐるみ、 あるいは脱皮した昆虫の抜け殻、とでも言うべきだろうか。 そんな光景が広がっていたー。 ”そして、これをもう一度注射することで、元に戻ることができます” 説明をしていた男性がそう言うと、ペラペラになった女性に もう一度同じ”注射器”のようなものを打ち込むと、その女性は みるみるうちに”元通り”に戻って行ったー。 さらにはー ”こうして、僕が着るとー” 再び、説明役の女性を皮にした男は、その”皮”を着てー、 その女性になってみせたー ”こうして、僕自身が”着た相手”になれるのですー。 もちろん、簡単に脱ぐことはできますが、 ご覧くださいー” そう言いながら、乗っ取られた女性が 自分の頬を引っ張り始めるー。 ”直接引っ張ったりしてもご覧の通りー 怪しい部分など微塵もなく、 こうして、本人そのものとして行動できるのですー” その動画を見ながら、 呆然とする義治ー。 「ーーえ…そ、それで、この女の人みたいなことを 梨桜もやってるってことー?」 義治が戸惑いながらそう言葉を口にすると、 「ーう、うんーまぁ… あ、大丈夫だよー? ちゃんと、いっぱい規約があって、返さないといけないように なってるし、犯罪とか、そういうことはできないようになってるからー」と、 梨桜はそう言葉を口にしたー。 先週の週末ー 義治のバイト先である焼肉屋に梨桜がやってきた際にも、 梨桜は”バイト”中だったのだというー。 つまり、あの時の梨桜は”身体は梨桜でも、中身は別人”の状態ー。 どうりで、強い違和感を感じるような振る舞いが 目立っていたわけだー。 がー、梨桜の話が本当なら”この前の梨桜”の振る舞いは全て納得がいくー。 梨桜の身体でも、中身が梨桜じゃないのであればー、 当然、義治を見ても何の反応も示さないのは当たり前だし、 梨桜とは別人のような振る舞いをしているのも当たり前だし、 ”黒井 梨桜さんですよね?”と、義治が確認したとき、 梨桜が顔色を変えた理由も頷けるー。 ”レンタルスーツ”というサービスを利用して 梨桜の身体を借りていた人物が、”この皮の知り合いか!?”と 思って、慌てて逃げて行ったのだろうー。 「ーーで、でもーーー… その時、梨桜、相手の男をホテルに誘ったりしてたけどー…」 義治が悲しそうに言うと、 梨桜は戸惑いながら「そういう…お客さんもいるからねー」と、苦笑いするー。 単に”女子大生として休日を過ごしたい”だけの人もいれば ”おしゃれを楽しみたい”人、 ”同性の可愛い子になりたい”人、 ”なんとなく他人になってみたい”人、 ”Hな目的で使いたい”人ー、 色々な人がいるー。 レンタルスーツの規約上、人生を破壊するようなHな行為は 当然禁じられているものの、 男をホテルに連れ込んだりするようなことは、禁じられていないのだというー。 「ーーー…い、いやいやいやいやー… そ、それ、梨桜のためにもよくないんじゃないかー?」 義治がそう言葉を口にするー。 ”レンタルスーツ”は、正式に認可も下りているようでー、 警察による検査なども定期的に受けているらしく ”違法”ではないらしいー。 違法ではないバイトであれば、 口出しすることではない、ということは分かっているー。 が、梨桜がそういうことをしている、というのは 義治からしてみればどうしても悲しいことであるのも事実だったー。 「ーーーーーーーーー…ーー」 梨桜はパフェを口に運び、それを飲み込んだ後に 言葉を口にするー 「ーーわたしだって、本当はやりたくないよ」 とー。 「ーー……え…… じ、じゃあ、なんでー…? そいつらに、脅されてるとかー?」 義治が言うと、 梨桜は「ううんー。そういうのじゃないー。いつでも退職できるし、 始めたのもわたしの意思だよ」と、 バイト先である”レンタルスーツ”の運営側には非はないと、 そう言葉を口にしたー。 「じゃあ、なんでー?」 義治が改めて確認する。 「ーーー…お金、足りないのー」 梨桜がそう言葉を口にするー。 その言葉に、困惑する義治ー。 が、すぐに梨桜は「あ、助けて、って意味じゃないからねー」と、 ”お金を要求しているわけではない”と、そう言葉を付け加えるー。 久々に会った相手が急にお金のことを口にし始めたら 警戒するのは無理もないし、 梨桜も、それを分かってすぐに補足の言葉を口にしたのだー。 「ーーーー…わたし、親が病気って話はしたよねー?」 梨桜の言葉に、義治は「あぁ、高校の時に聞いたー」と、頷く。 梨桜の母親は病気で、父親は既に病気で他界しているために、 金銭的に非常に苦しい状況が続いているのだー。 これまでは、父親側のおじさんが支援してくれていたものの、 その人も少し前に病気で倒れてしまい、 どうにも行かなくなり、梨桜が”レンタルスーツ”のバイトを始めたのだというー。 「ーこういう内容のバイトだから、時給はすっごく高いのー なんとなく、想像つくでしょ?」 梨桜の言葉に、義治は「ま…まぁ」と、頷くー。 梨桜は自分の学費を稼ぎつつ、 さらには母親の治療費から、実家で暮らす弟の学費まで あらゆるところにお金を回していて、 その結果、”少しでも自給の高いバイト”…それもちゃんと法律の範囲内で探したところ、 ”レンタルスーツ”のバイトにたどり着いたのだというー。 「ーーーで…でも、それで梨桜に何かあったらー…」 心底心配そうに呟く義治ー。 自分は梨桜の彼氏でもないし、兄弟でもないー。 梨桜の人生に口出しすることができないことぐらいは 当然理解しているー。 けれどー、それでも、このまま放っておく、 ということはできなかったー。 「ーー……普段の生活に、支障とかないのか?」 義治は、息を吸うと、話を少しだけ変えるー。 本当は”梨桜にそんなことしないでほしい”と言いたかったが、 だからと言って”金なら俺が出すから”と言えるほど、 義治は稼げるわけではないし、 自分にも生活がある以上、今は助けてあげたくても限界があるー。 それなのに”そんなことしないでほしい”とは言えなかったー。 「ーーー…うん。それは大丈夫ー。 毎週大学が休みの日だけ予約可能にしてあるから、 大学とか、他の予定がある日にわたしがレンタルされることはないよ」 梨桜はそう言うと、スマホを手に ”予約サイト”を見せて来たー。 流石に本名ではなく、仮の名前で表示されているものの、 確かに、梨桜だー。 毎週土曜日と日曜日を中心に、”時間区切り”で、 皮になった梨桜がレンタルできるようになっていて、 既にいくつか予約は埋まっている様子に見えるー。 「こうやって、予約が入った日は わたしが”皮”になって、その人に着られる感じー。 この前も、ほらー」 過ぎ去った日ではあるものの、まだ次の月に進んでいないため、 カレンダーが表示されていて、 確かに予約が入っていた痕跡が見受けられるー。 義治のバイト先に姿を現した梨桜は、 梨桜の説明通り”レンタル”されている最中だったのだろうー。 「い、いやー…でも絶対、変なことされてるだろ!? た、例えば、変な格好させられたりとかー… こ、この前だって梨桜が絶対しないような格好だったし!」 義治がそう叫ぶー。 がー、梨桜は「ーーーー着られてる間は、意識ないからー…」と、 少し寂しそうに笑うー。 「ーーで、でも、いつか大変なことになる気がするんだー!」 義治はそう叫ぶー。 いくら、ルールがあるとは言え、 それを守らせるシステムには限界があるはずだー。 このまま梨桜がこのバイトを続ければ、 いつか、梨桜を着ている人間が、 梨桜の人生を壊すようなことをするかもしれないー。 「ーーーーー……心配してくれてありがとう」 梨桜は複雑な表情を浮かべながらも、 「ーでも…お母さんを見捨てることはできないよ」 と、そんな言葉を続けたー 「な…何か方法がー… 俺も、できることがあれば何でも手伝うからー」 義治の言葉に、梨桜は優しく微笑むー。 「ーーーヨシくんみたいな幼馴染がいて、ホントによかったー」 とー。 けれど、それでもやっぱり”レンタルスーツ”のバイトを やめることはできない、と、梨桜はそれだけ呟くと、 「とりあえず、ヨシくんに今日はどうしても説明したいと思ったからー」と、 そう言葉を続けたー。 ”ヨシくんに、疑いの目で見られたままだと、辛いからー”と、 全てを打ち明けた理由を口にするー。 「ーー…それじゃー…今日はありがとう」 結局、義治の方も、明確な解決策を見いだせないまま、 そのまま梨桜との久しぶりの再会の時間を終えてしまったー。 がー、 義治は、会話の中から”いつもどの辺で皮になって、 どの辺で着られるのか”ということをそれとなく聞き出しておいたー。 聞けば ”レンタルスーツ”のセンターになっているところがあり、 そこで予約した人に”着られる”ことが多いのだと言うー。 後日ー、 どうしても、梨桜のことが心配になってしまった義治は その施設の周辺に向かうー。 ”今日”も梨桜は予約済みになっていたー。 やがてー、梨桜がその施設から出て来ると ニヤニヤしながら歩き出すー。 ”見た目”からは判断がつかないが、 あの表情は確実に”皮”…レンタルされている状態だと、 義治は確信するー。 梨桜が、見知らぬボロアパートに入っていくー。 少なくとも、梨桜の家ではないと思うー。 しばらく様子を見る義治ー ”なんか、ストーカーとか探偵になった気分で嫌だなぁ…” 義治は、こんなことしたくないけどー、と思いながらも どうしても梨桜のことが心配で、そのまま梨桜が入って行った アパートの近くで待機するー。 すると、梨桜が派手な化粧と大胆なミニスカート姿で出てきて、 街を歩き始めたー ”ーーーー” 義治は、複雑な感情を抱きながら、そんな梨桜の姿を 少し離れた場所から見つめるー まるで、胸元や足を見せ付けるかのような格好だー。 その後、”レンタル”された梨桜は クラブのような場所に入っていき、 その中で嬉しそうに長時間、踊ったり、男を誘惑したりして 楽しんでいたー 最終的に、”返却時間”になったのだろうー。 最初の建物に戻っていき、しばらくすると”いつもの梨桜”が 建物から出て来たー 「ーーーーーー」 グッ、と胸が締め付けられるような気持ちになって 義治は”どうにかして、なんとかしてあげられないか” 頭をフル回転させるー。 しかしー… 梨桜の母親の治療費を払い続けるなんてことは 残念ながら今の義治にはできないー。 まだ、自分も大学生だし、現実的ではないー。 「ーーーー!!」 悩んでいた義治は、ふとスマホの画面を見つめるー 「ー、そ…そうだー…」 梨桜が変なことをさせられるぐらいならー… と、義治は気づいた時には、自分自身が”梨桜”をレンタルするために ”予約”を入れていたー… 「ー俺がレンタルすれば、梨桜は変なこと、しなくて済むー…」 義治は、そう呟きながらスマホの画面を今一度見つめるのだったー。 ③へ続く ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ ②でした~!☆ レンタルスーツのアルバイト…! もしも、現実にこんなものがあったら、 皆様はそこで働いたり、身体を借りたりしますか~?☆ 私だったら… ……でも、何をされるか分からないので、 バイトをするのは、ちょっと考えちゃうかもですネ~笑 物語では、義治くんが幼馴染を レンタルすることに…☆! この決断が、どんな風になっていくのかは 明日の最終回のお楽しみデス~! |