レンタルスーツ③~暗闇~(完) 作:無名 ”レンタルスーツ”のバイトを続ける幼馴染。 幼馴染が、見知らぬ男たちに”レンタル”される様子に、 心配が膨らんだ彼は、自分自身が彼女をレンタルすることで、 彼女を守ろうとするー。 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 「ーーお疲れ様です~」 梨桜は、バイト先である”レンタルスーツ”の施設にやってくると、 「ーーあ、お疲れ様です」と、施設の職員の男が 優しく頭を下げるー。 この、”レンタルスーツ”は、この世界では 正式に認可を受けていて、ビジネスとして成立している。 その特殊性故に、あまり大々的には展開されておらず、 あくまでも”一部の人が知る”というだけの存在であるものの、 この”レンタルスーツ”運営会社については 特段、怪しい点はなく、悪事を行っているわけでもなかったー。 職場の人間に関しても、無理強いするような人間はおらず、 梨桜のように”大学の無い日だけ”というような、 自分のライフスタイルに合ったバイトも可能ー。 その上、”自分の身体を皮にする” ”自分の身体を誰かに貸す”というハイリスクな点は事実であることから、 時給も他のバイトに比べると、かなり高額で、 大学に通いながらバイトし、かつ自分の学費や母親の治療費、 実家で暮らす弟の学費まで稼がなくてはいけないー。 「ーーー…ふぅ」 梨桜が、控室に到着すると、 ”予約”の時間が近付いてくるー。 身体が小刻みに震えるー。 正直、梨桜も”怖い”ー。 いつも、皮にされる前、このまま意識が戻らないんじゃないか、と 思っているー。 自分が意識を失い、誰かに自分の身体を勝手に使われているー、 という状況は、決して気持ちの良いものではないー。 梨桜本人からしてみれば”あっという間”の出来事だから 確かに、”労力”という意味では楽ではあるけれど、 それでも、不安は尽きないー。 「ー大丈夫かい?」 施設の責任者の男が少し心配そうに言葉を口にするー。 「ーこのバイトは無理にやると、精神的な負担も大きいからねー。 無理しちゃダメだよ」 優しそうなおじさん、という感じの責任者の男がそう言うと、 梨桜は「ありがとうございますー。でも、大丈夫です」と、 そう言葉を口にしたー。 施設の責任者の男は頷くと、”皮”にするための注射器を打つための 女性職員がやってくるー。 レンタルされる側からは”誰”が、借主なのかは分からないようになっているー。 これも、精神的負担を削減するための、レンタルスーツ運営側の配慮だー。 もちろん、”知りたい”と本人が希望すれば、隠すことはないが、 梨桜は一度も、自分の身体を誰が借りているのかを、 確認したことはなかったー。 「ーーーそれじゃ、行きます」 職員の女性の言葉に、梨桜はすぅっ、と息を吸い込んでから 「はいーお願いします」と、そう言葉を口にしたー。 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 「ーーー…」 ”予約”した梨桜を着るためにやってきた 梨桜の幼馴染・義治は、”皮”になった梨桜を見て ショックを受けたー。 ペラペラになっている梨桜ー。 これを着れば、自分は梨桜になることが出来るー。 もちろん、ドキドキはするー。 でも、義治はドキドキするために梨桜を着ようとしているわけではないー。 「ーー俺が、梨桜を着てれば、梨桜は変なことをされないし、 傷つく心配もないー」 そんな想いで、義治は”梨桜”を予約していたー ペラペラになった梨桜の顔の部分を見つめる義治ー。 梨桜は、とても不安そうな表情を浮かべたまま皮になっているー。 「ーーー梨桜…」 義治は、悲しい気持ちをグッと堪えるー。 ”男子大学生”でしかない義治が、梨桜を助けようにも 限度があるー。 梨桜の母親、弟、梨桜の生活ー それを全て義治が支えることは不可能だー。 「くそっー」 自分が学生であることをこれほど憎んだことはないー。 そう思いながらも、梨桜の皮を着る義治ー。 梨桜の皮を着ると、自分が”梨桜”そのものになったー 「ーーー……す…すごいー」 思わず、鏡で”梨桜”を着た自分を見つめながら そんな言葉を漏らすー。 ドキドキしているのか、梨桜の顔が赤くなっていく。 そんな表情を見て、さらにドキドキしてしまう義治ー。 梨桜を自分がドキドキさせていると思うだけで さらにドキドキしてしまうー 「って…俺はこんなことするために梨桜を着たんじゃないー」 そう呟くと、”梨桜の声”で”俺”という言葉が聞こえて、 さらにドキドキが膨らんでしまうー。 ぶんぶんと首を振りながら、とりあえず”レンタルスーツ”の センターの外に出るー。 がー、センターの外に出た梨桜の姿を 何者かが、表情を歪めながら見つめていたー。 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 「ーーー…」 ”梨桜”の姿で、ショッピングモールや、 色々なところをウロウロするー。 「~~~~」 元々、”皮”になった時点で、梨桜が着ていたのが スカートだったために、 スカートのままウロウロすることに、ドキドキしてしまうー。 しかし、そんな状況に ”別に下心からレンタルスーツを利用したわけじゃないのに こんなにドキドキするなんてー”と、不安を感じてしまうー。 義治は、梨桜を守るために、梨桜を借りたー。 少しでも、梨桜が他の人に借りられる時間を減らすことができれば、 ”梨桜が何か危険な目に遭ったり、変な使われた方をする” 危険性は減るー。 幸い、レンタル料金はそこまで高額ではなく、 梨桜自身、土曜日と日曜日を中心にしかこのバイトをしていないため、 ”梨桜”をほぼ独占することができたー 「ー俺が梨桜を着ていれば、梨桜も安全だし…」 梨桜のことは助けてあげたいし、心配だー。 けれど、一介の大学生である義治にできることは ”これ”が限界だったー。 このバイトの稼ぎで、梨桜と、梨桜の実家の母・弟が助かるのであればー… 「ーーー…でも、俺でもこんなにドキドキするんだから、 変な奴が梨桜を着たら…」 そんな不安が強まるー。 そうこうしているうちに、時間が近付いてきたために「よし」と、 立ち上がると、そのままレンタルスーツの施設へと向かうー。 ”梨桜の知り合いに見られたらまずい” そう思いつつも、”家”に帰ることはできなかったー。 ”義治”の家に”梨桜”の姿で帰宅すれば 誰かに見られた場合、”彼女”と勘違いされてしまうかもしれないし、 それば梨桜に申し訳ないー。 そう思っての判断だー。 無事に梨桜の返却を終えると、 その日、義治はそのまま帰宅したー。 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ その後も、梨桜の皮を、ほぼ独占状態でレンタルし続けたー。 予約可能になる度に、梨桜のレンタル予約を入れるー。 お金は正直きつかったが、 バイトを増やしたり、趣味に使うお金を削って 何とか賄ったー。 これで、梨桜が助かるならー、と ただその一心だったー。 そんな日々が続いたある日ー、 義治は、再び梨桜と食事をすることになったー。 あれからも”レンタルしている”ことは告げずに、 LINEなどでやり取りをする関係が続いていて、 その流れで梨桜と会うことになったのだー。 「ーー治療ができていない?」 義治は首を傾げるー。 「ーうん…十分なお金、送ってるつもりだったんだけどー… お母さん、治療をあまり受けられてないみたいでー」 梨桜の言葉に、義治は「ーーまだ、お金が足りないってことなのかー?」と、 そう言葉を口にするー。 「ーーーうーん…お金は足りてるはずなんだけど…」 梨桜は戸惑いながらそう言葉を口にするー。 梨桜の母は数年前から認知症の症状も出ているー。 それ故に、要領を得ない反応が多いらしく、 イマイチ梨桜にもハッキリとした状況が分からないらしいー。 「ーーそっか……」 義治が神妙な表情を浮かべると、 梨桜は「あ、ごめんね!こんな話をするために今日は来たんじゃないしー」と、 無理に笑顔を作るー。 梨桜は、決して義治にお金を求めているわけではないー。 遠回しに”助けて”と言っているわけでもなく、 ただ単に、幼馴染とのひと時を過ごしたいだけー。 それ以上、その話題には触れず、 心配する義治にも、”大丈夫大丈夫”の一点張りだったー。 そしてー それからも、梨桜を”レンタル”する日々は続いたー。 がー… ある日ーーー 「ーーー!」 いつも、”予約開始直後”に予約していた義治は表情を歪めるー ”先を”越されたのだー。 梨桜の予約開始を、義治以外にも待ち構えていた人物がいることになるー。 心配する義治ー。 やがてー、その日がやってきて、 義治は、レンタルスーツのセンターの周囲に足を運ぶー。 するとー、 義治以外の人間に”着られた”梨桜が外に出てきたー。 「ーーーー…」 ここ最近、”梨桜”のレンタル可能な日時全てを、 独占するような形で予約していた義治ー。 恐らく、今日、梨桜の予約をした人物は、 ”誰かが梨桜を独占している”ことに気付いて、 予約開始のタイミングに張り付き、義治より先に予約したのだろうー。 何となく、不安に感じて義治は 誰かに乗っ取られている梨桜を尾行するー。 すると、梨桜は、とある家に向かって歩いていきー、 そこに入っていくー 「ーーーーー…」 義治が、その家の方を見つめると、 そこはー、梨桜自身の家だったー。 ”ーーなんで、梨桜の家を知ってるんだー?” 義治は戸惑うー。 ”レンタルスーツ”を実際に自分も利用してみて 分かったことは、 ”皮”の本名は教えてもらえないことー、 それに、”皮”の住所や個人情報も教えてもらえないー。 それなのに、今、梨桜を乗っ取っている人間は 梨桜の家を知っているのか、梨桜の家の中に入って行ったー。 しかも、どうして梨桜の部屋の鍵をー? 「ーーー!」 戸惑っていると、梨桜の部屋から、 妖艶な格好をした梨桜が出て来たー 「ーーーあ?」 梨桜が表情を歪めるー。 が、すぐにー 「あぁ、お前かー…」 と、梨桜は笑みを浮かべたー。 どうやら、今日、梨桜を借りた人間は、 やはり、義治が梨桜を借り始める前に、梨桜を借りていた人間のようだー。 「ーーー最近、姉さんをずっとレンタルし続けてたのはお前だよなー? 俺のジャマをしやがってー」 梨桜がそう言ったー。 「ー姉さん!?」 義治が表情を歪めると、 梨桜は笑みを浮かべたー。 「ーーえへへへー そうー、俺は”黒井 梨花”の弟だよー。」 梨桜は笑みを浮かべながらそう言い放ったー ”実家で暮らす弟”ー、 確かにその存在は聞いているし、高校時代までに 何度か見かけたこともあるー。 「ーー”この前”も、邪魔してくれちゃってー」 梨桜が笑みを浮かべるー ”この前ー?” 義治が戸惑っていると、 梨桜は「焼肉屋のことだよ」と言い放ったー 「ーー!」 バイト中に”いつもと別人のような梨桜”がやってきた あの時も、中身は”梨桜の弟”だったのだー。 だからー、あの時 ”黒井 梨桜さんですよね?”と言った時に反応したのだー。 レンタルする際に本名は知らされないはずなのに、 ”梨桜を着ている男”は、梨桜の名前を出されて反応し、 足早に立ち去って行ったー。 それはー、中身が梨桜の弟で、その名前を知っていたからだー。 「ーーーーー…い、いつも君が梨桜を着てるのか?」 義治は戸惑いながらそう聞くと、 「へへーだって、姉さん、エロイじゃんー」と、 大胆に晒した太腿を触りながら笑うー。 「ーー…ーーーじ、自分の姉さんの身体で、遊んでるのかー…!?」 義治がそう言うと、梨桜は「そうだよ?悪い?」と、 笑みを浮かべるー。 「ま、これからは俺が予約を取るのを邪魔しないでよー。 姉さんの身体は俺のものなんだからー」 梨桜はそう言うと、「今日もこれから男と遊ぶんだー」と、 笑いながら立ち去ろうとするー 「ま、ま、待て!」 義治がそう叫ぶと、梨桜は笑みを浮かべながら振り返ったー。 「そうそうー、 姉さん、必死に母さんのために、レンタルスーツのバイトで 金稼いでるけどさー 姉さんが送ってくれてる金ー… 俺がレンタルスーツで姉さんを借りるために使ってるんだよね」 梨桜はニヤリと笑ったー。 ”「ーうん…十分なお金、送ってるつもりだったんだけどー… お母さん、治療をあまり受けられてないみたいでー」” 梨桜がそう言っていたことを思い出すー。 「ーーーー!!」 梨桜が送ったお金は、梨桜の願い通り、梨桜の母親の治療費と、 弟の学費などに充てられるー…ことはなく、 弟が”梨桜の皮をレンタルするため”に使われているのだー。 梨桜の母親は認知症の症状が出ていて、弟が上手く言いくるめて 自分のために金を利用しているー。 つまりー、 梨桜の送ったお金は、弟が姉である梨桜を着るために使われているー。 しかも、そのことを梨桜は知らないー。 「ーーお前…!自分の姉さんが送ってくれたお金で… そんなことをしてるのか!」 義治が、梨桜を指差すー。 梨桜は、自分の胸を触りながら 「ーあぁ、でも、これ以上邪魔をするなら、俺、全部姉さんに打ち明けるよ?」と、 笑みを浮かべるー。 「え?」 義治は困惑するー。 が、梨桜はニヤニヤしながら言葉を続けたー 「姉さん、俺のこと可愛がってるからさー 実家に送った金を俺が、姉さんをレンタルするために使ってて しかも、俺が姉さんの身体でエロイことをしてるなんて知ったら、 たぶんー、姉さん、精神的に持たないだろうなぁ… きっと、壊れちゃうよ?」 梨桜の悪魔のような笑みに呆然とする義治ー。 最近は会っていなかったとは言え、 梨桜の性格はよく知っているー。 ”自分を着ていたのが弟”というだけで、十分、梨桜はショックを受けるだろうー。 その上、家族のために必死にレンタルスーツのバイトで稼ぎ、 送っていたお金を、”弟が勝手に使い”梨桜をレンタルしていたー、何て聞いたら、 梨桜はーーー 壊れてしまうー。 「ーーーへへへー 黙ってりゃ、 姉さんは何も知らないままいられるし、 俺はこうしてこのまま姉さんでエロイことたくさんできるー」 そう言い放つと、梨桜は笑ったー 「ー大丈夫。俺も姉さんの身体で、犯罪を犯したりするつもりはないし ”レンタルスーツ”の規約は厳しいから、違反はできないー。 だから、”このまま”お前が余計なことしなけりゃ、大丈夫」 梨桜はそこまで言うと、そのまま立ち去っていくー。 「り…梨桜ー…」 呆然とする義治ー。 がー、梨桜に”真実”を告げることはできずー… やがて、義治は気まずくなって、そのまま再び 梨桜と連絡を取ることはなくなってしまったー。 結局、どうすることもできなかったー。 真実を伝えたところで、梨桜は強いショックを受け、 弟の思い通りにはできなくなっても、 その先ー、梨桜はさらに不幸になるだけー。 かと言って、義治に梨桜を支えるほどの金銭的な余裕はなく、 梨桜に真実を伝えたところで、梨桜を助けることはできないどころか、 さらに不幸になってしまうー、と、そんな風に思ってしまったー。 それにー…梨桜とは兄妹でも、姉弟でも、彼氏と彼女の関係ではないー。 ”してあげられること”にも、限界があったー。 「ーーーー」 久しぶりに、”レンタルスーツ”のサイトを見つめる義治ー。 あれから半年、 まだ梨桜はレンタルスーツのバイトをしているようだー。 「梨桜…」 寂しそうにそう呟く義治ー。 義治はー、 自分の頼りなさを思わず自虐的に笑うことしか できなかったー。 おわり ・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 最終回でした~!☆ 今回は真実には辿りついたものの、 救い出すことができないバッドエンドに…! 私の作品は、 最後までハッピーエンドに転ぶか、バッドエンドに転ぶか、 どっちになるかドキドキ(?)できるように、 ハッピーエンドの作品も、バッドエンドの作品も、 織り交ぜるようにしています~!☆ 毎日創作をしていることもあって、 いつもハッピーエンドだと、読む皆様も 大体予想ができるようになってきてしまう気がすることや、 お話のバリエーションを広げるため、 読むときに最後までドキドキを楽しめるようにするため、 そういう作風にしています~☆! これからも、掲載される作品が、どっちに転ぶか ドキドキしながら(?)楽しんでくださいネ~! 今回もありがとうございました~! 次に解体新書様にお話が載る時には 少し涼しくなっていると、私は嬉しいデス! |