世界初の人体量子テレポート①~未来の創造~
 作:無名


2XXX年ー

A地点からB地点へ人間を移動させるー。

ついに、人類は
量子テレポートを利用した、”人間の瞬間移動”に
手を染めようとしていたー。

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「ーーーこれは、人類の新たなる第1歩ですー」

”未来技術”を創造するー
フューチャー・フュージョン・カンパニー 通称”F.F.C”の
CEO・神津 創(こうづ はじめ)が、高らかに宣言するー

世界的な研究者でもあり、経営者でもある創は、
この日、”世界初”となる
人体を量子テレポートさせる技術をお披露目していたー。

「ーーーこの技術により、
 人間をA地点からB地点まで、一瞬にして移動させることができますー」

世界中のメディアを前にそう宣言する創ー。

創は、巧みな話術の持ち主でもあり、
現在、世界で注目される人物の一人であったー。

「ーー来週の金曜日の18時ー
 人類の進化の瞬間を、皆様は目撃することになるのですー」

”人類初の量子テレポート発表会”
テレポート・プレゼンテーションの日程を
発表する創ー。

創は笑みを浮かべながら、
メディアの質問に穏やかな口調で答えていくのだったー

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「ーーご苦労様でした」
側近の男が頭を下げるー。

「ーーあぁ」
創はうすら笑みを浮かべながら、
F.F.Cの本社内を歩くー。

「ーーメディアの反応はどうだ?」
その言葉に、
「上々でございます」と、頭を下げる側近ー

「そうかー。
 ついに、明日だー。
 明日ー
 俺は新たな一歩を踏み出すー」

神津 創CEOは、笑みを浮かべながらそう呟いたー。

創はーー
貧乏な両親の元に生まれたー。
小さいころから、苦労続きの日々ー。

だがー
創はそんな日々がきっかけで異様な執念を持つようになったー

”世界の頂に立ってやるー”

とー。

彼は、のし上がるために、常軌を逸脱した時間ー
勉強を続けたー。
全ての時間を勉強に費やしたー。

学校で習うような勉強だけではないー
経営学ー
そして、さらにその上ー
未来を創造する技術をー。

その結果ー
彼は起業に成功しー
今では経営者としては異例の若さで、
大企業フューチャー・フュージョン・カンパニー(通称F.F.C)を
率いるトップとなっていたのだー。

彼は、あらゆる分野で、
これまでの常識を打ち壊す新製品を発表しー
多数の企業を買収してきたー。

今では、世界中から注目を集める経営者であり、技術者だったー

そんな彼が今回発表したのが
人間を「瞬時に他の場所に移動させる」
テレポーテーション技術だったー。

”人類の歴史が変わる”
そう創が豪語するテレポーテーション技術には、
全世界が注目していたー

もしも本当に、瞬時に移動できる技術を確立することができればー
電車も、飛行機も、車も、何もかもー
移動手段が根底から覆されることになるー。

「ーー”例のモノ”の準備はできているか?」
創の言葉に、側近の男は、静かに頷いたー。

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そしてー
当日ー

人類初の量子テレポートを体験する5人の人間が集められたー

一般応募から選ばれた1名ー
要人から選ばれた1名ー
芸能界から選ばれた1名ー
海外から選ばれた2名ー

計5名だー。

「ーー姉さん…本当に大丈夫なのか?」
男子高校生の山原 洋太(やまはら ようた)が心配そうに呟くー

彼の姉ー
高校3年生の山原 美希(やまはら みき)はー
何百万という応募者から選ばれた”一般応募枠”の
テレポート体験者だったー。

「ーー大丈夫大丈夫!瞬間移動とかワクワクするし、
 それをいち早く体験できるなんて、夢みたい!」

明るい性格で、誰からも慕われる美希は、
人類初の量子テレポートに自分が参加できることを
とにかく喜んでいたー

「本当に大丈夫かなぁ…
 だってほら、ここから、海外の研究所に
 ワープするみたいだけどさ、
 ここで消えた姉さんと、向こうに出てきた姉さんが
 ”同じ姉さん”とは限らないだろ?」

洋太が不安そうに言うー。

よく言われる不安だー。

A地点で分解されて、B地点再構成されたその人間はー
”同じ人間なのか”という問題点ー。
これまではあくまでもSFじみた話でしか
なかったものの、実際にテレポートをするとなると
”そこ”が大きな問題となるー

確かに、身体の状態が全く同じでー
記憶も、人格も全て同じであればー
それは周囲から見れば、本人であることに違いはないー

しかしー
それは本当に”本人”なのかー

A地点で消え、B地点に移動した人間は
本当に”同一人物”なのかー。

Aで消えた人間は、本当はその場で死んでー
移動先のBで出現した人間は”まったく同じ外見・記憶・思考”を
持った”コピー”なだけではないかー

とー。

「ーー大丈夫ー。
 だってほら、あの会社の人も大丈夫って言ってるし、
 ちゃんとワープしてみせるからねー」

これからワープする姉さんは、
ワープ先でも本当に”姉さん”なのだろうかー。

姉さんは、今この瞬間、”死”に向かっているのではないだろうかー。

そんな風に、洋太は思わずにはいられなかったー。

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「ーーワォ」
1番手として、海外の大企業のCEOであるエリオット・ハミルトンが、
壇上に上がるー。

”テレポート”するためのカプセルの中に入るエリオットCEOー。

創は「では、エリオット社長ー。良い旅を」と笑みを浮かべると、
エリオットCEOは笑いながら手を振ったー。

カプセルの中に入ったエリオットCEOは、メディアたちにも手を振ったー

そしてー
カプセルが起動すると「ワァァァオ!?」という声と共に、
エリオットCEOが一瞬にして”粉々に”分解されたー

装置が起動するー

「ーーご覧ください」
F.F.CのCEOである創が、スクリーンを示すー。

「ーエリオット社長は今、わが社のニューヨーク支社にワープしましたー」
とー。

ニューヨーク支社とのライブ中継が表示されー
たった今、ニューヨーク支社側にある装置にー
量子が集結しー、
あっという間に、エリオットCEOの姿に変わったー

「一瞬でしたー。
 夢のようですね」

エリオットCEOが、ニューヨーク支社の方で、メディアに向かって
そう語っているー。

「ーー東京とニューヨーク。
 わずか数十秒での移動ですー」

創が高らかに宣言すると、
転送装置さえ設置すれば、
人類はどこにでも、瞬時に移動することができるようになるー、と
堂々と宣言したのだったー。

「ーーすごい…!」
目を輝かせる美希ー。
しかし、弟の洋太は不安そうだったー。

「姉さんー
 あっちに出てきたさっきの社長さん、
 本当にここにいた社長さんと同じ人なのかなー…?」

とー。

見た目も中身も同じでもー
さっきまでここにいた”エリオットCEO”は死んでー
コピーが生成されただけなのではないかー、と
そう思ってしまうー。

そうこうしているうちに、
2番目の芸能界の人気女優・涼子(りょうこ)の
テレポートが始まるー。

涼子は、”ロンドン支社”の方にワープして見せたー。

「ーーご覧の通り、転送装置さえあれば、世界各国のどこへでもー
 いや、いずれは宇宙にでも、好きなようにワープすることが
 可能になります。

 転送装置を使えば、人類は、宇宙の果てに向かうことだってできるー」

創の言葉に、拍手喝さいが起きるー。

3番手の”要人”代表である
佐久間(さくま)官房長官の順番がやってくるー。

佐久間官房長官の”転送”も問題なく終わったー

佐久間官房長官が、パリ支社からのライブ映像で
手を振っているー。

4番手として、世界的権威のDrキースの転送が行われるー。

「ーー姉さん…今からでも遅くないよー
 やっぱ、やめたほうがいいって」
洋太が言うー。

しかし、姉の美希は「ほら!もう4人も成功してるでしょ!」と
笑みを浮かべたー

4番手のDrキースが転送先のローマ支社から
手を振っているー。

「ーーーでは、最後ですー
 一般公募から選ばれた山原 美希さんを
 転送しますー。」

CEOの創が高らかに叫ぶー。

「ー我々が目指すのはー
 ”誰もが使える新技術”ですー。
 要人や金持ち、選ばれた人間だけが使える技術では意味がないー
 誰もが平等にテレポートを当たり前のように使うことができる時代ー。

 それこそ、私の目指す、フューチャー(未来)であり、
 私の願う、世界なのですー

 だからこそー
 この一般公募から選ばれた山原 美希さんの転送には
 大きな意味があるー。
 私は、そう思いますー」

創が演説を終えると、
美希がカプセルに案内されたー。

「ーー…姉さん…」
なおも不安そうにしている弟の洋太ー。

「ー大丈夫だってば。みんな成功してるでしょ」
美希の言葉に、
洋太は「ーーあれがここから転送されていった人たちとは限らないだろ?」と
4人が映っているモニターを指さしながら言うー。

「ーも~!何をいってるのよ」
美希が苦笑いしながら言うー。

「ー…ここで分解されて、向こうで再構成されるー。
 でも、それはお姉ちゃんであってお姉ちゃんでなかったとしたらー?」

その言葉に、美希は
「それ、漫画とかSFの映画とかの見過ぎじゃないの~?」と笑いながら
洋太の頭を撫でたー。

「わたしは大丈夫。それにせっかくの機会なんだし、
 こんな経験ができるなんて、すごいことだよ!」

美希の言葉に、洋太は「うん…」と呟くー。
まだ納得いかない、という様子であるものの、
従わざるを得ない、という感じだったー。

「ーー戻ってきたら、帰りにごはん食べにいこ~!」
美希はそう言うと、そのままCEOの創に案内されて
カプセルの中へと入って行ったー

カプセルの扉が閉じるー。

「ーーでは、ベルリン支社へと転送しますー。
 良い旅をー」

CEOの創がカプセルに入った美希に対して言うー。

「ーーはい」
美希が言うと、
創は「まぁ、一瞬ですがー」と苦笑いしてから、
「さぁ、今日最後の転送ですー」と、
メディアに向かって高らかに宣言したー。

美希は少しだけドキドキしながらー”転送”の時を迎えたー。

美希が、一瞬にして量子化されー
その場から消えるー

”姉さんー”
洋太はその様子に祈るような気持ちで
心の中で姉のことを思ったー。

そしてー

ベルリン支社からの映像が映し出されるー。

「ーーー本当に転送されちゃいました!すごい!」
美希がベルリン支社からのライブ映像に映し出されているー。

会場に沸き起こる拍手喝采ー。

しかし、どうしても洋太は拍手することが
できなかったー。

「ーーー」
創が側近の男に合図をすると、カプセルを調整してからー

「ーそれでは、5人を順番に、こちらに戻します」
と、CEOの創は宣言ー

海外の大企業のトップ、エリオットCEOー
人気女優の涼子ー
佐久間官房長官ー
世界的権威のDrキースー。
一般人枠の美希ー

それぞれがこちらに再び転送されて
戻ってきたー

拍手が沸き起こるー

「ーただいま!ほら、大丈夫だったでしょ!」
美希が笑うー。

「ーーうんー」
洋太は不安そうにうなずくー。

やがてー
創の演説の後に、
会場は解散となったーーー

「ーーーーー」
創は、会場から去っていく5人を見つめながら
静かに笑みを浮かべたー。

「ーーまずは、5人ーーー」
とー。

創が静かに笑みを浮かべながら
転送装置を見つめるー

転送装置の構造の”内側”には、小さな粘液状の
生命体が、不気味に蠢いていたー

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

「ー転送された瞬間、どんな感じだった?」
ファミレスでご飯を食べていた洋太が言うと、
美希が静かに微笑んだー

”転送された瞬間”を思い出すー

”どんな感じなんだろう?ドキドキするなぁ~”

装置が起動するー

”始まった!…ワクワクする…!”

その直後ー
ありえないぐらいの激しい激痛が全身に走りー
美希の意識は一瞬にして”千切れたー”

「ーーー…今まで感じたことのない素敵な感覚だったよ」
美希はそう呟きー
弟の洋太に分からないように、不気味な笑みを浮かべたー

②へ続く

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皆様おはこんにちばんは~(?)☆

今回のお話は、解体新書様では
とっても久しぶりの変身モノにしてみました~!
(変身モノ祭りの時以来なので、とっても久しぶりですネ~!)

「A地点」から「B地点」に人間がテレポートした場合、
「B地点」に出現するのは、本当に「A地点」からテレポートした
本人なのかどうか…
みたいな、お話から思いついた変身モノデス~!

こういったことを真剣に頭の中で考えてみると、
何だか頭の中がぐるぐるしてきて、
不思議な気分になっちゃいます~笑

実際にもしもテレポート体験が気軽にできるようになったら…
皆様はどうしますか~?

私はちょっぴり怖いので、遠慮しちゃうかもしれません~笑