世界初の人体量子テレポート②~真相~(完)
 作:無名


世界初の人体量子テレポートの
お披露目は終わったー

”一般枠”として参加した
高校生の美希ー。

しかし、弟の洋太は違和感を抱いていたー。

・・・・・・・・・・・・・・・

「ーーー私が世界を”創造”するー」

フューチャー・フュージョン・カンパニー
通称F.F.CのCEOである神津 創が呟くー。

「ーーこれは、私に課せられた使命ー」
貧困の家庭に生まれた彼は、あらゆる地獄を目にしてきたー。

そんな創は、この世界を変える必要があると考えていたー。

F.F.Cを創設したのもそのためー。
創が”創造”する世界まで、あと一歩ー。

大企業のCEOにまでのし上がり、
世界的に影響力を強めた創ー。

創はー
透明な培養カプセルのようなものが並ぶ部屋に入ってきて、
膨大な数のカプセルを見つめるー

そこには、粘液のような生命体が、恐ろしい数ー
蠢いていたー

創が開発した”人造生命体”ー。
人造生命体、通称”ZERO”は、特殊な装置を介して、”分解”した
人間の身体情報、記憶、意識、思考ー
全てを読み取り、その人間へと”変身”するー。

「ーーー」
”転送装置”は、人間をワープさせるための装置ではないー
転送装置に入った人間は、その装置内で”分解”されて量子化されるー。

そして、量子化された人間のあらゆる情報を瞬時に読み取り、
人造生命体・ZEROがその人間へと”変身”するー。

「A地点からB地点への転送」の真相はー

A地点の人間はその場で分解されて死亡ー
B地点にA地点で死んだ人間の全てを受け継ぎ、その姿に変身した人造生命体ZEROが
出現するー…

そうー
”テレポート”したように見えるだけなのだー

そしてー

”人造生命体・ZERO”には特殊なプログラムを施してあるー

それはー
”神津 創の命令を常に受け付ける”というプログラムだー。

このまま
”量子テレポーテーション技術”を世界中に拡散しー
いつしか、一般人がそれを使用するようになればー
人類は全て人造生命体ZEROが”変身”したモノに置き換わりー
その時ー
神津 創が世界を手中に収めるのだー。

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「ーーでも、姉さんになんともなくて本当によかったよ」

”テレポート”から1週間ー
弟の洋太は、安心した様子で呟くー

「ー洋太ってば、転送された姉さんは本当に姉さんなのか~?とか
 ずっと心配してたもんね~」

美希が笑うと

「も、もう揶揄わないでくれよ~」
と、洋太が顔を赤らめながら言うー。

「ーー学校でも結構みんなに色々聞かれたけど、
 ホント、一瞬だったし、今までにない感覚だったよー」

美希ー

いやー
”美希の姿に変身している”ソレはー
美希の姿・記憶・意思・思考 何もかもを受け継いでいるー

それはー
周囲から見れば”美希”なのかもしれないー

だがー

美希の姿をしたソレは思い出すー。

”美希”が激痛を感じて分解された瞬間の記憶をー。

「ーーー…」
美希の姿をしたソレは、自分の部屋に戻ると
突然震えてからー
不気味な笑みを浮かべたー

「ーどれ、この子の身体もチェックするとしようー」
創が”美希の姿をした人造生命体ZERO”に”ハッキング”したー。

人造生命体ZEROは
いつでも創が”意識をコントロール”できるほか、
”命令”もできるし”外部から身体にアクセス”して
身体ごと意のままに操ることもできるー

神津創が、10年以上費やして作り上げた究極の生命体なのだー

「ーー次世代の神になる人間としてー
 ”女”の感触も知っておかなくてはなー」

創にアクセスされて乗っ取られた美希はそう呟くと
自分の胸や、あちらこちらを触り始めたー。

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”わが社は、フューチャー・フュージョン・カンパニーの
 傘下に入ることを決めましたー”

世界的大企業のトップであるエリオットCEOがそう宣言したのは
翌日のことだったー

世界は、どよめいたー。

”エリオット・ショック”と言われるほどに
市場に大打撃を与えー、
混乱も起きたー

何故ならー
神津創がCEOを務めるフューチャー・フュージョン・カンパニーも
世界的な大企業ではあるものの、
規模としてはエリオットCEOが率いる会社の方が大きかったからだー

そのエリオットが、F.F.Cの傘下に入ると宣言したのだー

「ーーあれって、テレポートに参加してた人だよな」
洋太が言うと、美希は「そうだね…最初にテレポートした人だったね」と頷くー。

「ーーー”どうして?”」
洋太は心の中でそう思ったー

洋太も2つの会社は知っているー。
だがー、エリオットCEOの会社が、F.F.Cに下るというのは
違和感を感じざるを得なかったー。

そしてー
気になることが次々と起こったー。

テレポートに参加していた
人気女優の涼子は、F.F.CのCMに優先的に出演するようになりー
出演した番組でも、CEOの神津創を絶賛するようになったー。

佐久間官房長官は、F.F.Cのテレポート技術に感動した、と、
国会でテレポート技術の承認やF.F.Cに対する支援などを
提唱し始めたー。

世界的権威のDrキースは
神津創のことを”時代を創る寵児”と絶賛し、
国際的な発表会で、神津創の魅力を世界に発信したー

「ーーなにかが、おかしいーー」
”テレポートに参加していた人たち”が、
全てCEOの創に都合の良いように動いているー

そんな風に思わずにはいられなかったー。

そしてー
美希もそうー。

姉の美希が、突然大学進学をやめて、F.F.Cに就職したいと
言い始めたのだー

母と父も戸惑っていたものの、
”テレポートを体験して感動した”と美希は説明したー。

世間ではー
”テレポートはそれほどすごい技術だったのだろうー”と、
エリオットCEOや、女優の涼子が、F.F.Cに入れ込む理由を分析したー

もちろん、一部にテレポート技術を疑う人間はいたが、
そういう意見は”封殺”されたー。

「ーーーわたし、あの会社で働きたいの」
目をキラキラさせながら言う美希ー。

両親はついに、美希の願いを受け入れたー。

だがー
洋太は”やっぱりあれは姉さんじゃない…”と、
そう感じてー
あの日、テレポート技術のお披露目が行われた
会場に”忍び込んだ”ー

「ーーー何か、秘密があるはずだー」
テレポート装置の元にたどり着いた洋太ー。

しかしー

「ーーやはり、来ると思ってたよー
 そのために”あえて”警備を緩くしておいたー」

CEOの創が背後から姿を現したー

「ーーー!…
 姉さんの…姉さんの様子がおかしいんだ!
 お前…姉さんに何かしただろ!?」

洋太が叫ぶー。

洋太は”思い込むと突っ走るタイプ”で、
最初から転送装置を疑っていたことや、
姉の態度を見て、”神津創CEOが何かした”と思い込んでいたー

両親からも”思い込むと止まらない”性格を注意
されていたものの、
今回の場合はー
その性格が真相に一歩近づくプラスの要因になったと言えるー。

側近の男と共にやってきた創は、笑みを浮かべるとー

「ーーあの発表会の日から、君は喚いていたね」
と、言うと、
「既にあの日から、100人ほどテレポートを体験してもらったよ」と
笑みを浮かべるー

”一般人”を交えながら世界的に、そして国内に影響のある人間を
次々と”テレポート”体験に招待しー
そして、人造生物ZEROが変身したものと入れ替えているー。

本物は死に、いつでも命令できる偽物を世に放つー

姿も記憶も完璧なため、誰も、気づかないー。

「ーー君の姉さんはーー
 死んだー」

「ーー!?」

あまりに単刀直入な残酷な答えに、洋太は戦慄したー。

「ー見たまえ」
創が、モニターに”不気味な粘液のような小さな生物”を映し出すー。

「ーなんだ…これ…?」
唖然とする洋太にー
創は”人造生命体ZERO”のことを説明してみせたー

そしてーー
お披露目の日から置かれたままの転送装置の入口を開けると、
突然、一緒にいた側近の腕を掴みー
その中に放り込んだー

「え…!?!?こ、、神津様!」
叫ぶ側近ー。

突然のことに驚く側近を無視して
創が、洋太のほうを見つめるー

「やめて!!やめて!神津様!」
大声で叫ぶ側近ー

”事実を知る”
側近の狂ったような悲鳴に、洋太は唖然とするー

スイッチを押す創ー
側近が”粒子”となって消滅するー。

「このタイミングで、今の男は、死んだー」

「ーーーえ…」
震える洋太ー。

そしてー
創は、人造生命体ZEROを一匹、実際に手にして見せると、
それを装置の中に入れたー

するとー
たちまちZEROは、たった今死んだ”側近”の姿に変わりー
カプセルから出てきたー

「ーー神津様~…急に私を放り込むなんて、酷いじゃないですか」
笑いながら”偽物”の側近が出てきたー
本人は”何事もなかったかのように”振る舞っているも、
さっきまで創の横にいた側近は死んでいるー。

「君の姉さんは、ZEROが変身した姿だー。
 君の本物の姉さんは”粒”になって死んだんだよ」

この装置の中には”大量のZERO”が潜んでいるー。

「例えばここの装置で、君の姉さんを量子化して殺してー
 他の場所の装置で、ZEROを君の姉さんに変身させればー
 ”瞬間移動”したように見えるだろうー?」

そこまで言うと、創は微笑んだー

「ー私は新たな世界を創造するー
 君の姉さんは、死んだー。
 今、君の家にいるのは
 人造生命体ZEROが変身した姿だー

 このテレポート技術を拡散すればするほどー
 この私の影響力は、拡大していくー」

創の言葉に、洋太は「うああああああああああ!」と、
叫びながら創に飛び掛かるー

「ー何も、心配することはないー
 君の姉さんは偽物でありながら、本物でもあるー
 身体も、記憶も、考え方も、全て完全に”同じ”状態に
 人造生命体ZEROが変身しているのだからー。
 
 ただ唯一、ひとつだけ違うのは、
 私がいつでも指示を出せる状態にあるー、
 ということだけだー」

創が叫ぶー
なおも創に飛び掛かる洋太ー。

「この世界は、変えなくてはならないー
 根底からー。
 だが、そんなことができる人間はいないー

 ならば、私がやろうではないかー。
 優秀な頭脳と技術を持つ、この私がー
 新世界を”創造”しようではないかー」

創がそう言うと、カプセルを再び開き、
装置をいじりだすー。
側近の男がーー
”偽物”になった側近の男がそれをサポートするー。

「ーーーさぁ、君もテレポートを体験するといいー」
創が笑みを浮かべるー

だがー
その直後ーー

「ーー姉さんを、返せえええええええええええええ!!!!」
洋太がものすごい勢いで創に突進したー

「ーーー!?!?」
その衝撃で、創がカプセルの中に吹き飛ばされてしまうー

「ーーなっ!」
カプセルが自動的に閉じー、
起動を始めるー。

洋太を”テレポート”させるつもりで、
既に自動モードに切り替えていた創は表情を歪めるー

「き、、、貴様!」
鬼のような表情を浮かべる創ー。

創はすぐに側近の男のほうを見て叫んだー

「今すぐこの装置を停止しrーーーー」

言葉は、最後まで発することができなかったー
神津 創は、量子化されてー
バラバラになって、”即死”したー。

「ーーー姉さんーー」
洋太は、その場で泣き崩れたー。
姉さんは、いるけど、いないー。
たとえ全く同じ姿・振る舞い・記憶であったとしてもー
本物の姉さんはあの日ー
量子になって、”即死”したんだー

洋太は、そのまま泣き続けることしかできなかったー

・・・・・・・・・・・・・

ニューヨーク支社ー

「ーーーっっ…!」
表情を歪める創ー。

創がカプセルから出てくるー。

ニューヨーク支社の社員が驚くー。

「ーーく、、くそっ!あのガキ…!」
鬼のような表情で呟く創ー。

創は洋太をカプセルに放り込もうとしてー
事前に”行先”も設定していたー。

まさか、自分が”テレポート”してー
ここに来てしまうとはー

創は自分の手を見つめるー。
記憶も、意識もはっきりしているー

だがー
”自分は人造生命体ZEROが変身した偽物”であり、
”オリジナルの自分”は死んだー。

普通の人間にはそれは自覚できないが、
創の記憶を全て受け継いでいる自分には、それが分かるー。

「くそっ!くそっ!!くそっ!!!」
何度も壁を叩く創ー

そしてーー
人造生命体ZEROが変身している創はー
表情を歪めたー。

「ーーーククク…クク…
 そうだー
 世界は作り変えねばならぬー
 我らZEROが支配する世界にーーー」

”元々の創”からー
わずかに歪んだ考えにたどり着いた新しい創はー
不気味な笑みを浮かべたー

おわり

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最終回でした~!☆

書いた当時の私のあとがきでも、
「3話構成にすれば、もう少しゆっくり書けたかも」みたいなことが
書かれていましたが、
今回、解体新書様に掲載されるにあたってもう一度読み返してみた感じ、
もう1話あれば、もうしょっとのんびりとお姉ちゃんの変化を
描けたような気もしました~☆!

ただ、特殊なシチュエーションのお話なので、
これで良かったのかもしれません…☆!
(結局、当時と同じ答えにたどり着く私… 笑)

次に皆様にお会いするときには、
もっともっと、暑い季節になってそうですネ~!

今月もありがとうございました~~!☆

ゴールデンウィークに休みのある皆様は
たっぷり満喫してくださいネ~!