脱出不能の監獄②~命懸けの逃避行~
 作:無名


他人に憑依する力ー

それを持つがゆえに、
”悪夢の監獄”と呼ばれる脱出不能の監獄に
閉じ込められてしまった康雄ー。

しかし、彼は人生を諦めるつもりなどなかったー

・・・・・・・・・・・・・・・・・・

「ーーー……やっぱ…変な感じだなー」

監獄の一角”エデン”の使用人、明日香に憑依した康雄は
明日香の身体を見下ろしながら困惑の表情を浮かべるー。

小さい頃ー
他人に憑依できる力を持っていることを知った康雄はー

”この力は、人を傷つけちゃうから、使っちゃダメだ”と、
自分なりにそう考えて、
それ以降、ずっと使わずに来たー。

これからも使う気などなかったー

ほとんど、”誰にも”この能力のことは言っていなかったのにー、

それなのにー
その力のせいで、”悪夢の監獄”に連れて来られてー
こうして今、その悪夢の監獄から脱出するために
明日香に憑依しているー。

「ーー俺はこんなことしたくなかったんだ」
明日香の声でそう呟きながらも、もう、躊躇してられないー。

脱走に失敗すればー
恐らくは”犯罪者を閉じ込めている区画”である
”ナイトメア”に放り込まれるー

ナイトメアを直接見たことはないが、
”この世の地獄”とも言える場所のようでー、
相当恐ろしい場所らしいー

もう一つの”知られてはならない事実”に関係する人間を
幽閉しておく”ゼロ”という場所もあるようだが、
当然、そこのことも詳しくは知らないー。

「ーーー何してるの?」

他の囚人の使用人・メグが、明日香の異変に気付くー。

明日香は「ーちょ、ちょっとねー」と、笑みを浮かべながらもー
すぐにそのメグの手を握りー、強く”憑依”を念じるー

「ぁ…」
明日香が、うめき声をあげて、ふらっと、少し歩いたあと、
その場に倒れ込むー。

少し体格の良い女性・メグに憑依した康雄は、
すぐに、同じ”エデン”に閉じ込められている囚人・キースを救出するー。

キースの担当はこのメグであるため、
扉を開けるためには、明日香⇒メグに憑依する必要があったー

「本当に憑依できるんだなー
 サンキュー」

眼鏡の男・キースが笑いながら牢屋から出るー。

キースは”近くにいる人間の動き”を察知することができる能力者ー。

レーダーのような役割を果たすことができ、
脱走には欠かせない人間の一人だったー。

ここ”エデン”に閉じ込められている人間は、
康雄同様”特殊な能力を持っているだけ”で閉じ込められた人間たちで、
本来の意味での犯罪者ではないー。

本来の意味での犯罪者は、悪夢の監獄内の”ナイトメア”区画に幽閉されておりー、
表沙汰にできない”何か”に関係する人間は”ゼロ”区画、
そして能力者が”エデン”区画に幽閉されているー。

「ーーこんな能力のせいで、一生ここで暮らすなんて、ごめんだからなー」
キースの言葉に、メグは頷くと、
続けて、別の使用人である、蘭(らん)に憑依しー、
もう一人の協力者・麗奈を救出したー。

「あ、ありがとう…ございますー」
奥手な感じの麗奈ー。

そんな麗奈は
”相手をメロメロにして魅了ー、しもべにすることができる能力”を
持っているー。

本人は、そんな性格ではなく、寧ろ自分に自信のない性格なのだが、
相手にキスをすることで、相手を魅了して、
洗脳したようなー、そんな状態にすることができるのだー。

「ーーよしー、みんな揃ったなー」
使用人・蘭の身体でそう呟いた康雄は、
三人での”脱走”を開始したー。

エデン区画から外に出てー、
ナイトメア区画の側を抜けー、
そして、月に1回、この島を訪れる物資輸送船に乗り込み、
脱走するー。

そのためには、三人の能力が”鍵”だったー。

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

「所長!」
スーツ姿の男ー
康雄をこの島に連れて来た赤崎が、
ニールセン所長の部屋に飛び込んでくるー。

白い軍服姿のニールセン所長が、「何かね?」と、
顔を上げると、
「ー”エデン”で問題が起きましたー」と、
リモコンを操作して、ニールセン所長の背後のスクリーンに
監視カメラの映像を映し出したー

その映像にはー、
ちょうど、蘭に憑依していた康雄が、駆け付けた看守に”乗り換える”
瞬間の映像が映し出されていたー

蘭が白目を剥いてその場に倒れるー

「ーー能力者たちが、脱走をー」
赤崎がそう言うと、ニールセン所長は「ふむ」と笑みを浮かべながら呟いたー

「バカな奴らだー。
 そのまま”エデン”にいれば、
 ここで一生、平穏な生活を送れたものをー」

ニールセン所長はそう呟くと、
赤崎のほうに冷たい視線を向けたー

「ー処分したまえ」
とー。

「ーー…しかし、奴は憑依をー」
赤崎がそこまで言うと、
ニールセン所長は手をあげて、”続きは言わなくていい”と示したー。

「ー処分しなさいー。
 憑依された身体も、魅了された人間も、まとめてで構わないー。
 
 看守も、使用人も、代わりはいくらでもいるー
 いくらでもなー」

その言葉に、赤崎は一瞬躊躇するような表情を浮かべたもののー
「承知いたしました」と、頭を下げて、
そのままニールセン所長の部屋の外に向かって歩き出したー

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「こっちはダメだー
 看守がうろついているー」

キースが眼鏡をいじりながら、そう呟くー。

キースの”能力”で、近くにいる人間の動きを把握しながらー
康雄が”憑依”を利用し、麗奈が”魅了”を利用しー
脱出を目指していくー。

「ーーー…あ、あのー」
扉を見張っていた男に背後から声を掛けた麗奈が
有無を言わさず、男にキスをすると、
そのまま男は目にハートを浮かべるー。

「ーあの…扉を、開けて下さいー」
麗奈が恥ずかしそうに言うと、
「は…はいっ!」と、目にハートを浮かべた男が
嬉しそうに扉を開けるー。

「ーーあ…あとは…わたしたちを追う人たちの足止めもお願いしますー」
麗奈がそうお願いすると”魅了”された看守の男は
「は、はいっ!!」と、嬉しそうに叫んだー

「ーー…す、すごい能力だなー」
康雄が、そう感心すると、麗奈は恥ずかしそうにー
「こ、こんな力、わたしにはー」と、顔を赤らめるー。

「ー…ーーそれは、俺も同じさー」
康雄はそう呟くー。

”こんな力”無ければー
ここに幽閉されることもなかったー。

「ーー…最近は、特に増えてるらしいー」
歩きながらキースがそう呟くー。

「ーー…俺たちみたいな、能力者が、か?」
康雄が、先ほど憑依した看守の身体で歩きながら言うと、
「あぁ」と、キースは頷いたー。

「ー原因は分からないらしいけどー
 環境の変化とか、人間自体が進化の段階に差し掛かったとかー…」

キースはそこまで言うと「!」と、表情を歪めたー

「ー追手が来たー。結構な人数だー」

周囲の人間の動きを察知する能力で、
キースが安全なルートを示すー。

「この先に一人いるー」
キースがそう呟くと、康雄が看守の身体で
物陰からその先の様子を見つめるー。

その先にはー
康雄がここに連れて来られた初日に、
康雄を電撃で気絶させた無表情の女性看守が立っていたー

「ーー…」
キースが、麗奈のほうを見つめるー。

しかしー

「ご、ごめんなさいー…わ、わたしは女の人は魅了できないんですー」

どうやら、麗奈の能力は女性には使えないらしいー。

「じゃあ、俺の出番だなー」
康雄はそう言うと、看守の身体のまま、
無表情の女性看守の方に向かって姿を現したー

「ーーーご苦労様」
無表情の女性看守が、電流を流すための棒ー、
スタンバトンを持ちながら、そう呟くー

「ーーー…」
康雄は、その言葉に会釈しながらー
女性看守に近付くー

しかしー

「ーー!」
女性看守が、突然スタンバトンを振って、
康雄の憑依している身体に当てて来たー

「ぐああああああっ!」
悲鳴を上げる康雄ー。

「ーー能力者かー。
 既に”上”から報告が入っているー」

無表情の女性看守がそう呟くと、
康雄は悲鳴を上げながらー
”看守”の身体を捨てたー

「ー!」
無表情だった女性看守が驚くー。

康雄は「ー電気を浴びたのは、俺の身体じゃないからなー」
と。倒れ込んだ男の身体から飛び出しー、
そのまま女性看守の手を握りー、”憑依”を念じたー

「っー…」
ビクンと震えてー、
女性看守に憑依した康雄は、
「ーー…うわ…」と、女性看守の大きな胸に少し驚きながらも、
手にしているスタンバトンを見つめながらー
「これも使えそうだな」と、微笑んだー。

「ーすごいなぁ…二人とも」
隠れていたキースが麗奈と共に出てくると、
「ーっていうか、無表情の看守さんの身体で笑うとか、
 反則だろ?」と恥ずかしそうに指摘したー。

・・・・・・・・・・・・・・・・・・

「ーーう……」

憑依されていた使用人・明日香が目を覚ますー。

そこにー
スーツ姿の男・赤崎が銃を手にやってきたー

「ーー…212、198、155は?」
康雄、麗奈、キースの囚人番号をそれぞれ口にする赤崎ー。

康雄に憑依されて気を失っていた明日香、蘭、メグの
三人の使用人はそれぞれ困惑した表情を浮かべると、
「ー逃がしたのか?」と、赤崎が笑みを浮かべながら言うー。

明日香は言い訳もせずに
「申し訳ございません」と、頭を下げるー。

康雄に次々と憑依されてしまい、その結果、
三人の脱獄を許してしまったことを報告するー。

蘭とメグが、不安そうにその様子を見つめるー

「ーーーまぁ…それは仕方がないー。
 このエデン区画から出ることができても、
 この島から脱出することはできないー。

 決してー」

赤崎はそう言いながらも、

「しかし困ったなー
 今日は物資輸送の船が到着する日ー。
 奴ら、それに乗って逃げるつもりかー」

独り言をつぶやきながら、
全く違う方向に視線を送りつつー、
明日香に銃を放つ赤崎ー

明日香が倒れー、
蘭とメグが悲鳴を上げるー

「ーー憑依とサーチと魅了の能力者かー。
 厄介なーー」

銃声が響き、メグが倒れるー

「組み合わせだなー。
 まぁ…だがー
 この俺から逃げることはできないー。」

独り言をつぶやきながら、蘭も射殺した赤崎はー
倒れている三人を見て

「おっといけないー
 つい世間話の最中に殺しちまうんだよな」

と、笑いながらそのまま歩き出したー。

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

「ー緊急事態が起きたー。
 脱走した三人があっちにいるー」

康雄が憑依した無表情の女性看守・イネスは、
看守の中でも位が高いらしく、
他の看守たちを見かけては、違う方向に
その看守たちを移動させ、安全なルートを確保していたー。

「ーやるなぁ」
キースが眼鏡をいじりながら笑うー。

キースが”この先の道にいる人間”を探知しー、
康雄が、憑依したイネスの身体を使って、看守や見張りを遠ざけるー。

見つかった時には、麗奈がその相手にキスをして魅了して
やり過ごすー。

「ーーー…なぁなぁ、もう1回、その身体でほほ笑んでくれよー」
キースが笑いながら言うー。

「ーーま、またかよ」
康雄がイネスの身体でそう言いながら、にこっ、とすると、
「くぅ~!普段無表情な女が笑うのたまらん!」と、
キースは一人で笑みを浮かべたー。

「ーーー見つけたぞ!」
背後から男の声がするー。

だがー
咄嗟に麗奈がその男に背後から近づき、キスをしたことで
その男はあっさりと麗奈に魅了されたー

「ーーあ…あの……み、見逃してくださいー」
恥ずかしそうに言う麗奈ー。

「はっ…はい!」
魅了された男はそのまま立ち去っていくー。

”船がやってくる地点”まであと半分ほどー
三人は、それぞれの能力を使いつつ、順調に進みつつあったー。

「ーーー…しかしー
 奥手な麗奈ちゃんが、あんな能力を持ってるなんてー
 ギャップがたまらん」

キースが一人呟くー。

その横ではー
イネスに憑依していた康雄が
”同じ身体に長時間”留まることはできないためー
イネスから、ひとまず別の警備員の男に憑依するー。

「ーなんだぁ…今度は男か」
キースが笑うー。

「仕方ないだろ…男しか周りにいなかったんだしー

 っていうか、今は脱出するために!」

警備員の身体で康雄がそう叫んだその時だったー。

突然、キースが真顔になってーーー
その直後ー、キースの顔面が”破裂”したーーー

「ーーー逃げようと思わないことだー
 って、最初に言ったよなーーー?」

キースの頭を掴み、”破裂”させたスーツの男・赤崎が、
血のついた手をペロリと舐めながら、
驚く康雄と、麗奈のほうを見て、不気味な笑みを浮かべたー。

「ーー俺はこの島の警備最高責任者ーー!
 お前らみたいな脱獄を考えるバカな能力者や、凶悪犯を始末するために雇われた
 最強の能力者だー」

赤崎はそう宣言すると、
自分の”能力”を高らかに宣言したー

「”カメレオン”のように背景に溶け込む能力ー
 これにより、そこのバカな眼鏡のサーチ能力に察知されずー

 ”掴んだもの”を破裂させる能力ー
 これで、そこの眼鏡の頭をハジけさせてやったー!」

そこまで言うと、赤崎は康雄らのほうを見つめたー

「ー俺がいるこの島から脱出することなどー
 100パーセント不可能だー。
 諦めろー」

「ーーー…諦めるわけには…いかない!」
警備員の身体で、康雄はそう呟くと
スーツ姿の男・赤崎は静かに笑みを浮かべたー

③へ続く

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私の頭の中には
この物語の舞台となっている場所の光景も
結構細かく浮かんでいるのですが、
私には絵心がないので、残念ながらそれを
皆様に伝えることはできません~★笑

頭の中のイメージが、そのまま立体(?)化するような技術が
遠い未来に実現すれば、
すぐにこういうことも伝えられるようになるかもしれませんネ~!

物語は次回が最終回…★!
果たして無事にこの監獄から脱出することは
できるのかどうか、見届けて下さいネ~!

今日もありがとうございました~~!