脱出不能の監獄③~光への道~(完)
 作:無名


一度連れて来られたら二度と出ることはできないと
言われている”悪夢の監獄”ー

その島から、憑依能力を駆使して脱出を目指す男ー。

しかしーー…。

・・・・・・・・・・・・・・・・・

「ーーお前たちのような”特殊な能力”を持ってしまった
 人間を野放しにしておけば、どうなると思うー?」

スーツ姿の男ー
”悪夢の監獄”警備責任者の赤崎がそう言いながら
警備員に憑依している康雄の方に近付いてくるー。

「ーーー…お前の持つ”憑依”ー
 あっちの女が持つ”人を魅了する力”ー

 どちらも、お前たちが”その気になれば”いつもでも
 悪用することが出来て、社会の秩序は乱れるー」

何気ない会話をしながら、
康雄に向かって銃を撃ってくる赤崎ー

「おっと失礼ー。
 普通の会話をしながら、ついでに撃つのが癖でね」

笑いながら赤崎はそう言うと、

「ーーお前たちは、本当に”その能力”を一生、
 何にも使わないと、断言できるのかー?

 いいやー
 できないはずだー
 
 人間は、変わるー
 どんな正義面したやつだって、何かのきっかけで悪さを
 することはあるし、
 どんなに真面目な人間だって道を踏み外すこともあるー。

 お前たちみたいな”能力持ちはー”」

そう言いながら、赤崎が銃を康雄と麗奈に向かって放つー。

二人の足元に銃弾が命中し、
康雄も、麗奈も困惑の表情を浮かべるー。

「ーーーー”その気になればいつもで社会を破壊できる”

 もちろん”今”の時点では罪を犯していないのは
 俺も、所長も理解してるさー。
 
 だからこそ、お前たちは”エデン”区画に幽閉して
 自由はない代わりに、一生不自由のない生活を
 させてやろうとしてるんだー

 どうだー?
 今ならまだ間に合う。
 大人しく”自分の個室”に戻れー」

赤崎がそこまで言うと、警備員に憑依している康雄が
突然走り出したー

「ーー動くな!」
赤崎はそう叫びながら、近付いてきた警備員に憑依している康雄の
頭を掴むー

「ーそうそう、俺もお前たちと同じ”能力者”でねー。
 だから、変な能力を持って生まれた苦しみは、分かるー。

 けどなー
 ”社会の秩序”を維持するためには、お前たちのような能力者は
 ここに閉じ込めておかなくてはいけないー」

赤崎はそう言いながら笑うとー
「やめて!!」と叫ぶ麗奈を無視して、
警備員の身体の康雄の頭を、さっきキースにやったようにー
”破裂”させたー。

「いやあああああああ…!」
悲鳴を上げる麗奈ー

しかしー

「ーーー!」
驚きの表情を浮かべる赤崎ー。

”警備員”の頭が破裂させられる瞬間ー
康雄は警備員の身体から抜け出しー
赤崎の目の前で実体を取り戻したー

「ーーーお前に…お前に憑依してやる!」
康雄がそう叫びながら、不意を突かれた赤崎の手を掴むとー
そのまま、強く念じて、赤崎に憑依したー

「うっーー…」
赤崎がうめき声をあげてー
康雄に支配されるー

「ーーー…あ… あ…」

一緒に脱走を企てた康雄が死んだと思ったところからの
急展開に麗奈が呆然としていると、
赤崎に憑依した康雄が「ホント…男ばっかだな憑依対象…」と、苦笑いしながら
「一緒に逃げようー」と、
麗奈に手を差し伸べたー。

麗奈は、赤崎に憑依した康雄の手を握りしめると、
死んでしまったキースのほうを見つめて、
数秒の間、黙とうをささげると、そのまま麗奈と共に走り出したー。

「ーーーーーーーーーー!!!」

だがー
少し進んだ先には、大量の警備員たちが
待ち構えていたー

「ーーー……」
赤崎に憑依している康雄は、険しい表情を浮かべるー

この先には”物資輸送船”が着ているー。

それに乗り込み、この”悪夢の監獄”と呼ばれる島から
脱出するー。

しかし、既にニールセン所長が手配を終えていて、
大勢の警備員や、武装した兵士が船への道で
待ち構えていたー

「ど…どうするんですか…?」
麗奈の言葉に、
赤崎に憑依している康雄は少し考えてからー

「ーーー…俺を、信じてくれるならー
 一つだけ、方法があるかもしれないー」

と、静かに言葉を呟いたー

・・・・・・・・・・・・・・・・・・

「ーーーーー逃げられると思っているのかね?」

所長室では
白い軍服姿のニールセン所長が、不敵な笑みを浮かべながら
そう呟いていたー。

「ーー逃げようとしても、無駄だー…
 なぜならー」

ニールセン所長はそこまで呟いてから、

「ーまぁ…せっかくだし”希望”と”絶望”の祝宴を楽しませてあげようではないかー」
と、笑みを浮かべたー。

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

”帰りを待つ彼女のためにー”

康雄は、絶対にここから抜け出すことを誓っていたー。

だがー
康雄がどうして、ここに連行されたのかー。

それは、分からなかったー。

何故ならー生まれ持った”憑依”の力はーーー
”彼女”にしか話したことがなかったからだー…

そんなことはないはずー

そう、思いながらー
康雄は少しだけ”彼女に売られたのではないか”という不安を
感じつつも、その考えを消し飛ばし、
”今、なすべきこと”に集中するー

「ーありがとうー」

赤崎の身体を捨てて、一緒に脱走している麗奈に憑依した康雄ー。
麗奈の同意の上で、麗奈に憑依した康雄は、
麗奈の身体で船まで向かおうとしていたー。

”この大勢の警備を突破するにはー”

二人ではなく”ひとり”の方がいいー。

麗奈と康雄で行動するより、
麗奈に憑依した康雄で、一人で行動した方が
見つかる可能性は低くなるー。

そしてーーー

「ーーー…男とキスをすることになるなんてー」
麗奈に憑依した康雄は、そう呟きながらー
気絶している赤崎にキスをしたー

「ーーあ…」
赤崎はビクンと震えて目を覚ますー

「ーお願い…あの人たちの目をできるだけ、引きつけてー」

麗奈に憑依した康雄は
”麗奈の能力”を使い、さっきまで憑依していた赤崎を魅了し、
赤崎に”陽動役”をお願いしたー

麗奈の能力には逆らえずー
赤崎はすぐに銃を手に、警備員たちの方に突っ込んでいくー

「赤崎主任!?」

「ーーど、どういうー?」

銃声が響き渡るー。

「ーーー……彼女以外の女の人の身体で男にキスをするとかー…
 どういう展開だよー」

麗奈に憑依している康雄は、自虐的にそう呟くと、
”魅了”された赤崎が暴れている間に、
混乱に乗じて移動するー。

”もうすぐー”
”もうすぐだー”

ようやく、船までたどり着いた康雄ー。

そんなに大きな船ではないため、
乗員の数は限られているー。

麗奈の能力で、船にいた3人に素早くキスをしー、
その3人に”命令”して、さらに船の乗組員を支配下に置いていくー

やがてー
10人以上の男にキスをした麗奈は
「おえっ…」と呟きながら、
「ー!」と、表情を歪めるー

「何事!?」
物資輸送の船の船長は、女性だったー。

”麗奈の能力”では女性には効果を発揮しないー

「くそっ!」
そう叫んだ麗奈はーー
急にその場に倒れ込みー
麗奈から抜け出した康雄が、船長の女性の腕を掴みー
そのまま船長に憑依したー。

「ーーー…ぁ」
麗奈が目を覚ますー

ビクッとした麗奈に、女性船長の身体で
「俺だ!」と叫ぶと、
船長の身体のまま”麗奈の能力で魅了した船員たち”に
「すぐに船を出せ!」と、叫んだー。

船が”悪夢の監獄”と呼ばれる島から離れて行くー。

警備員たちが島で何かを叫んでいるー。

だが、もう遅いー。

「ーーーはぁ……脱走できた…」
女性船長の身体で安堵の溜息をつく康雄ー。
麗奈もほっとしたような表情を浮かべると、
船長に憑依した康雄は”魅了”の効果はどのぐらい続くのかを、
念のため麗奈に確認したー

もし、10人以上の船員が一斉に正気に戻ったら、
ただでは済まないー。

「ーーーー…大丈夫ですー。
 ……わたしが近くにいる限りは、正気に戻ったりしないみたいなのでー」

麗奈の言葉に、船長の身体のまま、康雄は”そっか”と、安心した表情を
浮かべたー。

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

「ーーーがっ……」

麗奈の能力で”魅了”され、
”麗奈のために”警備員たちと戦っていた
スーツ姿の男・赤崎がその場に膝をつくー。

自分が、能力で操られていることも自覚できないままー
赤崎は、最後の力を振り絞って警備員たちに
立ち向かおうとするー

しかしー

「ーーーーーー!」
赤崎の前に、”悪夢の監獄”の責任者である
ニールセン所長が姿を現したー

「ーーし…しょ…しょ…しょちょ…」
混乱しながら、声をあげようとする赤崎ー。

ニールセン所長は、穏やかな笑みを浮かべながら、
「エサだよ」と、呟くと、赤崎の口に銃を突っ込んで
そのまま射殺したー。

恐怖に震える周囲の警備員たちー。

「ーー…し…所長…!脱獄囚たちが、船で逃亡をー」
警備員の一人が叫ぶと、
ニールセン所長は微笑みながら頷いたー。

「ー逃亡ー?
 
 ククー
 一体、”どこ”へ逃げるつもりなのだろうかー」

康雄と麗奈の二人を島から逃がしてしまったにも関わらずー、
ニールセン所長は、余裕の笑みを浮かべていたー。

・・・・・・・・・・・・・・・・・

「ーーーーーーーーーー」
女船長に憑依している康雄が、険しい表情を浮かべたー。

「ーど…どうかしましたか…?」
麗奈が不安そうに言うと、
康雄は答えたー

「ーおかしい……」

「ーーえ?」
麗奈が不安そうにもう一度確認すると、
女船長の姿のまま、康雄は答えたー

「船が、進んでないー」
とー。

「ーふ、船の故障ですか?」
麗奈が震えながら言うー。

だがー
康雄はそうではないというー。

「いや、船は動いてるんだー
 けどーー
 ”この先”に進めないー

 まるで”見えない壁”があるかのようにー」

康雄はそう言いながら前方を見つめた。

”何もない海”

しかしー
この先に進んでいないー。

船のレーダーなどを確認すれば分かるー。

先程進路を変えて見たものの、やはり
別の方角でも”島からある程度の距離”に進むと、
先に進むことができなくなるー。

「ーー…ど、どうなってるんだー…」
女船長の身体のまま、呆然としている康雄を見て、
麗奈も、困惑の表情を浮かべることしかできなかったー。

・・・・・・・・・・・・・・・・・・

「放っておきたまえー。
 いずれ、彼らは嫌でも島に戻ってくるー。

 船の燃料には、限りがあるからなー」

ニールセン所長は現場の警備員たちにそう指示をすると、
笑みを浮かべながら所長室がある建物の方に戻っていくー。

そしてーー
それからしばらくの時が流れー

”船”は戻ってきたー

康雄と、麗奈が”どうすることもできず”
”船と共に沈むか”
”島に戻るか”の選択を強いられてー
島に戻ってきたのだー。

その様子を、モニターで見つめながら
ニールセン所長は笑うー

「言ったはずだー

 ここは、日本でなければ、アメリカでも、ヨーロッパでもないー。

 外界から完全に隔離されたー
 ”監獄”という世界なのだ

 ーーーと…」

最初に康雄に言った言葉を繰り返すニールセン所長ー。

ここは”君たちのいた世界とは異なる次元に存在する異空間”ー

そうー
絶対に逃げ出すことはできないー。

”悪夢の監獄”がある場所は
外界から隔離された異次元空間で、
ここにはこの島と、海しかないのだからー。

「ーー私も、君たちと同じ”超能力”を持って生まれた人間だがー
 仲良くできなくて、残念だよー」

”異空間に、閉鎖された世界を作ることができる”能力ー

この悪夢の監獄は、ニールセン所長の能力によって
生み出された異空間の中に存在するー

”出入り”のためのゲートも、ニールセン所長が自在に操ることができるためー、
物資輸送船のように”ニールセン所長が許可しない限り”
出入りすることすらできないのだー

「ーーまた、会ったね」

島に戻ってきた康雄と麗奈を見つめながら
ニールセン所長は笑みを浮かべるー

「せっかく”エデン”区画でせめて充実した人生をー
 と思っていたのにー

 君たちは今日からー
 ”ナイトメア”区画行きだーー。

 凶悪犯たちが幽閉されている、暗く、牢屋ばかりの地下世界でー
 一生を過ごすが良いー」

その言葉に、
康雄は歯ぎしりをしながら
「くそっ…くそっ…!」と、呟くことしかできなかったー

おわり

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

脱出成功…とはいかず、
まさかの脱出失敗エンドでした~!☆

私は毎日のように作品を執筆しているので(解体新書様への掲載は月1回デス!)
毎回ハッピーエンドよりも、
ハッピーエンドとバッドエンドを織り交ぜて
”どっちになるか分からないドキドキ”も
皆様に楽しんでもらえるようにしています~!笑

このお話は…島自体がまさかの…で、脱出に失敗となってしまいました…★!

”ナイトメア”と呼ばれる地獄のような区画に幽閉されることになってしまったので、
もしも、いつの日かまた脱出を目指すようなことがあったとしても、
難易度大幅UP…!になっちゃいそうですネ~…!

ここまでお読み下さりありがとうございました~!