脱出不能の監獄①~悪夢の監獄~
 作:無名


一度そこに足を踏み入れたら、
2度と外に出ることはできないー。

そう噂され、恐れられている”悪夢の監獄”と呼ばれる刑務所ー。

”憑依”を駆使して、そこからの脱走を目指す男の物語ー。

・・・・・・・・・・・・・・・・・

「ーーー今日から、ここが貴様の家だー」

スーツ姿の一見紳士風の男が、
ヘリコプターから降り立つと、
笑みを浮かべながら、周囲を見渡したー。

海に囲まれた謎の島ー
通称”悪夢の監獄”

島がまるごと刑務所になっており
”犯罪者”たちを収監している場所だー。

ここに連れて来られる犯罪者たちは
”普通の犯罪者”たちではないー

”凶悪犯罪者”
”表沙汰にすることのできない事件の犯罪者”

そしてー
”世の中から消さなくてはならない存在”

そう言った人間たちが、この悪夢の監獄と呼ばれる島に
連れて来られるー。

「ーーーーーーー…」
たった今、ヘリコプターで連れて来られた男は、
表情を歪めるー。

一緒にヘリコプターに乗ってきたスーツ姿の男・
赤崎(あかざき)が「逃げようなどとは思わないことだ」と、呟くー。

ここはーー
”どこの国にも属さぬ”刑務所ー。

日本だけではなく、
世界各国の”世の中に解き放つことができない犯罪者を
秘密裏にこの場所に幽閉しているー

いやーーーー…
幽閉されているのは、犯罪者だけでないー」

「ーー”悪夢の監獄”へようこそ」
奥から、整った顔立ちのー
白い軍服のようなものを着た男がやって来るー。

「ーーーニールセン所長」
ヘリコプターに乗ってきた赤崎がそう呟きながら
頭を下げると、
”悪夢の監獄”の主であるニールセン所長が、
手で”そう畏まらなくてもいい”というような合図をし、
連れて来られた青年ー

岡山 康雄(おかやま やすお)のほうを見つめたー。

「ーー君が、岡山康雄くんかー」
ニールセン所長が、うすら笑みを浮かべながら呟くー。

「ーーー俺を、どうするつもりですか?」
康雄がそう呟くと、ニールセン所長は静かに言葉を続けたー

「ーこの”悪夢の監獄”は、世界各国から連れて来られた
 凶悪犯罪者ー
 表に出すことのできない事件の関係者ー
 そういった人間を幽閉している場所だー。

 私を含め、世界各国から優れたエリートが集められ、
 この”監獄”の管理を任されているー

 ここは、日本でなければ、アメリカでも、ヨーロッパでもないー。

 分かるかね?
 ここは、外界から完全に隔離されたー
 ”監獄”という世界なのだ」

ニールセン所長の言葉に、康雄はすぐに”反論”したー。

「ーちょ、ちょっと待って下さい!
 俺は、俺は何もしてない!」

そうー
康雄は、犯罪者でもなければ
何か大きな事件に関わったわけでもないー。

大学からの帰り道、突然、赤崎という男に襲撃されて
そのままここに連れて来られたのだー

康雄からすれば”意味が分からない”とでも
言えば良いのだろうかー。

「ーーそう、君は何もしていない」
ニールセン所長はそれだけ言うと、
康雄の背後に立っている赤崎のほうを見つめてから、
言葉を続けたー。

「君は、”存在が犯罪”なのだー」

ニールセン所長の言葉に、康雄は
「ふ…ふざけるな!」」と叫ぶー。

「ーーー…君も、分かっているだろうー?
 自分の”力”をー」

ニールセン所長の言葉に、康雄は表情を歪めるー。

そう、その言葉には心当たりがあったのだー。

康雄はー
短時間だが、他人に憑依することができる力を持っているー。

最初に気付いたのは、小学生の頃だったー。

相手の身体を掴みながら、念じることで
”その相手に憑依”することができるのだー。

長時間、憑依をしていると、自分への負担が大きすぎるのか、
相手の身体からはじき出されてしまい、
一度は失神してしまったこともあり、
使い勝手の悪い”憑依”ではあるものの、
彼は、生まれつき”他人に憑依できる力”を持っていたのだー。

「ーーその力を、野放しにしておくことはできないー
 君は”危険”だー

 だから、君はこの”悪夢の監獄”に連れて来られたのだー」

ニールセン所長の言葉に、康雄は「でも」と、反論するー

「俺は一度も憑依を悪用したことはないし、
 これからも、他の人に憑依をせずに生きていくつもりです!」

と、声を上げたー

「ーー残念だがー
 ”口”だけでは何とでも言えるー。
 人間は”心変わり”する生き物だー。

 君のその、恐ろしい力から人々を守るためには、
 君を”幽閉”しておかなくてはいけないー

 安心したまえー。
 君はここから永遠に出ることはできないが
 永遠の平穏を約束しようー。

 食事も、娯楽も、女もー
 何だって用意してやるー。」

ニールセン所長の言葉に、康雄は「ふ…ふざけるな!」と、
今一度声を上げるー。

「俺は憑依を悪用しない!命を懸けてもいい!
 誰にも言わないし、絶対に使わない!
 だからここからー」

康雄が言うと、ニールセン所長は笑みを浮かべたー

「ー君は”犯罪者”だー。
 君の存在そのものが、なー」

そう言うと、康雄と共にヘリに乗ってきた
赤崎に向かって、
「赤崎くんー連れて行きなさい」と、
ニールセン所長は穏やかな笑みを浮かべながら呟いたー

「ふざけるな!おいっ!ふざけるな!!おいっ!」

もがく康雄ー。

背後にいた赤崎は「大人しくしろ!」と叫ぶー。

近くにいた無表情の女性看守に、電撃棒のようなものを
突きつけられると、康雄は悲鳴を上げて
ぐったりと意識を失ったー

・・・・・・・・・

・・・・・・・・・・・・・

・・・・・・・・・・・・・・・・・

「ーーーー!!!!」
康雄が目を覚ますとー。、

そこは
狭い”個室”の中だったー

「ーーお目覚めですか?」
背後から声がして、振り返ると、
そこには優しい雰囲気の女性が立っていたー。

「手荒な真似をして申し訳ありませんー
 わたしは、あなたの担当の明日香(あすか)と申しますー」

康雄とあまり変わらないぐらいの年齢の女ー。
明日香と名乗ったその女は
「ここが、岡山さんの部屋になります」と、
部屋の外から語り掛けて来るー

「ーーふ…ふざけるな…!」
康雄がなおも明日香に対して怒りの声を上げるー。

”存在が犯罪”などと言われて
何もしていないのに幽閉されたのだから当然だー

「ー申し訳ありませんー。
 ですが、”特殊な力に目覚めてしまった人間”は
 世界の秩序を守るために、こうしなくてはならないのですー。

 ここ、”悪夢の監獄”には、
 先ほど所長が説明したように、
 ”凶悪犯罪者”と”世間に表にできない事件の関係者”ー
 そして、あなたたちのような”力に目覚めた者”が
 幽閉されていますー。

 もちろん、あなたたちは”本当の意味での犯罪者”では
 ありませんー
 世界の秩序のために、こうして幽閉させていただきますが
 精一杯、わたしたちもあなたが不自由なく生活できるように
 させていただきますのでー
 何なりとお申し付けくださいー」

明日香はそう言うと、
康雄が幽閉されたのは”悪夢の監獄”の中の”エデン”と呼ばれる場所で、
康雄のように”本当の意味での犯罪はしていないが、特殊な力に目覚めた者”が
幽閉されている区画なのだというー。

そして、明日香をはじめとする”監獄のメイド”たちが、
ここに幽閉されている人間一人ひとりに配属されるのだと言うー。

「ーーここに閉じ込められてるだけで不自由だよー。

 家族はどうなる?
 大学はどうなる?
 バイトは?」

康雄がうんざりした様子で呟くと、
明日香は「残念ですがー」を、首を横に振ったー

「ふざけやがってー」
不貞腐れる康雄ー。

明日香は申し訳なさそうに頭を下げながら
「ー御用がございましたらいつでもお申し付けくださいー」と、
部屋についたボタンを示して、そのまま立ち去って行ったー

”ふざけるなー”
康雄は、心の中で何度も何度もそう呟くー。

康雄にはー
同じ大学に通う彼女もいるー

今日の午前中ー
ついさっきー、と言ってもいいー。

”来月、康雄の誕生日だったよね~?
 とっておきのプレゼント用意してるから
 楽しみにしててね”

なんて、言われたぐらいだー。

”ー当時、予定空けといてね?絶対だよ!約束っ!”

彼女と、そんな約束をしたー

「ーーー…こんなところにずっといるわけにはいかないー」
康雄はそう呟くと、
その日からー
”悪夢の監獄”で普通に暮らすフリをしながらー、

”悪夢の監獄”のことを徹底的に調べ始めたー

…とは言っても、本来、犯罪者ではない康雄たちのいる
”エデン”と呼ばれる区画から外に出ることはほとんどできず、
毎日毎日、”個室”での生活を強いられたー

個室だし、確かに生活には困らないー。

純粋に”特殊な能力を持つ人間”を隔離するだけの
目的なのだろうー。

食事も部屋に運ばれてくるー。

部屋から出ることができる時間が、
運動の時間など、ごく一部の時間だけでー、
それ以外は外に出ることも許されないー。

”本当に、こんなところから脱出できるのかー?”

そうは思いつつもー
康雄は、世話役の明日香から、”警戒されないレベル”に
少しずつ話を聞きだしながらー
”悪夢の監獄”からの脱出方法を探っていくー。

ここは”エデン”と呼ばれる区画でー
凶悪犯が閉じ込められている場所が”ナイトメア”と呼ばれる区画ー
ここは、映画で見るような牢屋が大量にある恐ろしい区画で、
その名の通り”ナイトメア”と呼ぶにふさわしいー。

もう一つ、”表沙汰にできない事件の関係者”を幽閉しておく区画は、
”ゼロ”と呼ばれているー。

その人間自体を、存在しないものとして扱うー
そんな意味が込められているのだとかー。

そして、この島には月に1回ほど、1か月分の物資を詰め込んだ
船がやって来るらしいー…
と、いうことまでは分かったー。

様々な情報をー
数か月かけながら集めた康雄は、ついに”決意”するー。

”脱走”をー。

「ーー”憑依”を使おうー」

この力は使わないと決めていたー
悪用しないと決めていたー

でもー
だからと言って、何もしていないのに
こんな監獄で過ごすのかー?

それは、絶対にできないー。

そしてーー
個室の外に出ることのできる”わずかな時間”を使って、
同じく”エデン”に閉じ込められている別の囚人2人にも
協力を取り付けることができたー。

”3人での脱走劇”だー。

まず、康雄は、食事を運んでくる明日香に憑依して、
自分が部屋から脱出するー。

そして、協力してくれる囚人、キースと麗奈(れいな)の二人を、
それぞれの世話役の人間に憑依して解放ー、
共に脱出を目指すー。

ちょうど、今日ー
”月1回の船”がやって来るー。

この”悪夢の監獄”から抜け出すためには、
その船を利用するー。

最終的には船の船長に憑依し、
そのまま船で島から脱出ー
元の暮らしへと戻るつもりだー。

「ーー…俺は何もしてないんだー…
 こんなところにずっと閉じ込められるなんてー
 おかしいー」

康雄は、改めて心の中でそう呟くとー
食事を運んできた明日香の前で、
自分の胸のあたりを押さえながら”苦しむ演技”をしたー

この日のために、1か月ほど前から
”この辺りが痛くなることがある”と、
謎の痛みに苦しむ演技をしてきたー。

その方がー、
明日香が心配してくれると、そう思ったからだー。

案の定ー

「大丈夫ですかー?」
明日香は心配そうに、部屋の中に入ってきたー。

”今だー”

康雄は、明日香の腕を掴みー
強く念じることでー

「ーーーうっ…」
ビクンと震える明日香ー。

明日香の身体に、憑依したー。

同じ身体に憑依できるのは、短時間ー。
康雄の能力には制約が多いがー
自分の身体ごと、霊体になって、相手に吸い込まれるタイプの憑依のためー
”乗っ取った身体”で移動すれば、憑依から抜け出した時には
その場所で自分の身体に戻ることができるー

「ーー……ごめんなー」
明日香の身体で呟く康雄ー。

「ー俺は、こんなところで人生を終えるつもりはないんだ」
明日香になった康雄は、開かれた個室の扉から外に出てー
”計画通り”に、脱走を始めようとしていたー。

②へ続く

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解体新書様では今年初めての掲載なので、
あけましておめでとうございます~!☆★!
今年も、色々なお話を皆様にお届けしていきますので、
少しでも楽しんでいただければ嬉しいデス…!

今年最初のお話は、
新年……とは、何も関係のない
ちょっぴり海外の映画にありそうな(?)感じの
憑依モノになります~!

憑依能力を駆使して、脱出不能と言われる
”監獄”からの脱出を目指していくお話…!
今回は脱出開始までが中心でしたが、
このあとどうなっていくのか、
ぜひ次回以降も楽しんでくださいネ~!