俺の妻はおっさんだった②~悪夢の新婚生活~
 作:無名


婚姻届を提出した日ー
彼女は、豹変したー。

自分の中身がおっさんであることを明かし、
彼に”幸せな新婚生活”か”養育費を払い続ける生活”を要求するー…!

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

「--嘘じゃねぇよ。
 お前の妻は”おっさん”なんだよー」

「今、見せてやるー」

妻になったばかりの茜は、邪悪な笑みを浮かべると
「うっ…」と、震えてから、
その場に横たわったー

そしてー
茜の身体から出てきたのは、
まるでランプの精霊がランプから出てくるかのようなー
そんな”煙”とも”霊体”とも見える謎の物体だったー。

それが、後部座席の方に移動するとー
”実体化”したー

「ーーひっ…!?」
思わず変な声を出してしまう祐樹ー。

茜の中から、さっき茜がスマホで見せてきた
小太りで禿げ頭のおじさんが出てきたのだー。

「ーーーへへへへ…これで信じる気になったか?」
おじさんが笑うー。

「ーーう、、う…うわあああああああああああ!」
思わず悲鳴を上げてしまう祐樹ー。

しかも、茜の中から出て来て実体化したおじさんは、
服も身に着けていなかったー。

「ーへへへ そんな顔すんなよ。
 俺だって自分の身体、嫌いだし、
 服は、ほら、ずっと霊体になってたわけだし、
 なくても仕方ねぇだろ?」

おじさんは笑うー。

「ーどうせすぐその女の中に戻るし、
 俺はもう、細江ー、いや、お前と結婚して
 折下 茜か?ー
 ま、どっちでもいいかー。

 俺は茜なんだからさー
 細かいことは気にすんな」

おじさんの言葉にー
祐樹は、必死に停車した車のハンドルの方に顔を向けながら
考えるー

”なんのドッキリなんだ、これはー?”

現実逃避ー。
いや、そうでもしなければ、祐樹の精神は持たなかったー。

あり得ない、この光景にー

「ど、ど、どういうマジックなんだ!?」
祐樹が叫ぶー。

茜と、このおじさんが事前に打ち合わせをしていればー
茜の中からおじさんが出てくる風ーに、見せかけることは
恐らくできるのだろうー

いやーできるはずだ。
できる。できるに決まってるー。

現実逃避を続ける祐樹ー

「ーはははっ!祐樹~!そんなことできるわけないでしょ!」
おじさんが、茜に憑依している間の癖なのか、
女言葉で笑うー

裸体の小太りなおじさんの女言葉ー。
祐樹は”なんだこの誰も得しない状態はー”と、思いながらも、
涙目になりながら、「いや、でも、憑依なんて、ありえないー」と呟くー

そうこうしているうちにー

「ーーーぅ…」
助手席で気絶していた茜が目を覚ますー

「ーーーーぁ…」
茜は、まるで寝起きかのように、運転席にいる祐樹の方を見つめるー

「ーーあ、、茜!!茜!よかった…!」
祐樹が茜に触れながら、茜が意識を取り戻したことに
安堵の表情を浮かべるとー

「ーーえ……だ、、、誰…?」
と、茜は、戸惑った表情で呟いたー

「ーーー!!!」
祐樹が絶望の表情を浮かべるー。

「ーーぇ…わたし…え…?だ、、誰…??誰ですか…!?」
茜が困惑の表情で叫ぶー。

「ーー春休みで、わたし…友達の家から帰ろうとしていて…それで…
 あれ…?」

茜の言葉にー
祐樹が「あ、、茜…俺だよ…ほら、冗談はやめてくれよ」と呟くー

”今までの茜”は、”全部憑依されている茜”だったー
そんな現実を、そう簡単に受け入れることができるはずもないー。

「ーーあ、、茜!」
祐樹が叫ぶと、茜は「ひっ…」と、怯えた表情で祐樹を見つめるー

茜はまさか、自分がおよそ5年間も憑依されていて、
しかも、知らぬうちに、茜からしてみれば”知らない人”と
結婚させられているーなんて、夢にも思わないだろうー。

「ーーへへへ だから言っただろ?」
後部座席にいるおじさんが笑うー

「ーう、うるさい!黙ってろ!」
祐樹が声を荒げるー。

茜がビクッと、怯えた様子を見せるー

祐樹は”どうすればいいんだ”と、困惑しているとー
後部座席にいるおじさんが笑いながら口を開いたー。

「ーーへへへへ 兄貴、この女を拉致して、どうするつもりですかい?」
とー。

「ーは?」
祐樹が表情を歪めるー

このおっさんはいったい何を言ってるんだー?
とー。

「ーーーら、、拉致…わ、、わたしを…ど、どうするつもりなんですかー…!?」

まだ、自分が”この春から女子大生”だと思い込んでいる茜は、
そう叫ぶー。

「え…ちがっ…」
祐樹が困惑していると、後部座席の裸体のおじさんはさらに続けるー。

「ーーこの女を眠らせて捕まえて、アジトに連れ帰ろうだなんて、さすが兄貴!」
おじさんは”わざと”そう呟いているー。

「ーーーた、、助けて…やめて…!」
茜は、祐樹のほうを見ながら怯えた表情で呟くー

おじさんの適当な発言により、
5年ぶりに正気を取り戻した茜は、
”この春から女子大生の自分が、二人組の男に拉致されて連れ去られそうになっている状況”
だと、勘違いしてしまうー

「ーち、違う!違うんだ!聞いてくれ!」
祐樹の言葉に、茜は悲鳴を上げるー。

「ーーははははは」
笑うおじさんー。

「ーー違うんだ!茜!落ち着いて!」
祐樹が茜の手に触れると、茜は「触らないで!」と叫ぶー。

「ーー俺は、俺は、夫の、祐樹でー」
祐樹が必死に現状を説明しようとするー。

だが、逆効果だったー

憑依されていた茜は”祐樹”のことなど、
そもそも知らないのだー。
知らない男にいきなり”夫”を名乗られたりしたら、
それはもはや”恐怖”でしかないー

「ーーお、、夫…?な、、何を言ってるの…?」
茜は泣きながら言うー。

「だ、、だから、そのー」
祐樹が戸惑うー。

茜は泣きながら、車の扉を開けて、車から飛び出すー

「ま、待って!」
祐樹が叫ぶー。

「ーーさぁ、どうする?」
後部座席のおじさんが笑うー。

「このままじゃお前は、あの子に通報されちまうー。
 連れ去りの一味としてな」

おじさんの言葉に、祐樹は「お前…ふざけんな…!」と
怒りの形相で呟くー

「おいおいー
 お前が愛して、結婚した女の中身は”俺”だったんだぜー。
 つまり、お前が知ってる茜は俺だ。
 お前は俺を愛してるんだー

 見ただろ?本当の細江 茜は、お前のことすらしらないー
 っていうか、今も自分を”これから女子大生”だと思ってるー」

そこまで言うと、おじさんは、
「まぁいい」と呟き、車から離れていく茜を見つめるー

「確か、この少し先に交番があったなー?
 どうする?あの子を止めるには、俺がもう一度あの子に憑依するしかねぇ」

おじさんがニヤニヤしながら言うー

「ー犯罪者になりたいのか?なぁ?おい?
 あの子が”いつの間にか5年以上経過していた絶望”を味わうのを
 見たいのか? あ? ほら、お願いしろよ。
 ”もう一度、茜に憑依してください”ってな」

おじさんの言葉に、祐樹は戸惑うー。

「そ、そんなことー」
祐樹がそう言うと、「んだよ、つまんねぇやつだな」と、おじさんは舌打ちしー
そのまま再び光のような姿になってー消えたー。

しばらくすると、茜が笑いながら戻ってくるー

「ーーふふふ ごめんね祐樹~
 これから”わたしたち”の楽しい新婚生活ーはじめようね?」

笑いながらも、半分、脅すような口調ー。
逃げていた茜に、再びおじさんが憑依したのだろうー。

「ーそれとも、離婚しちゃうー?
 わたしに、養育費払い続けることになるけど…ネ?」

耳元で囁く茜ー。

「ーー…く…ぅ…」
祐樹は、”茜から出ていけ”とも言えない現状に
激しい苦しみを覚えるー。

”茜から出ていけ”
それはー
祐樹にとって”茜”を失うことを意味するー。

茜が正気に戻れば、祐樹のことなど、
そもそも茜は知らないのだからー。

しかもー
さっき、この男が、ふざけた芝居をしたせいで、
茜本人の意識は、祐樹を連れ去り犯だと”誤認”してしまっているー

本当の茜と、絆で結ばれる可能性は、ほぼ0だー

「ーー祐樹がおとなしく”わたし”に快適な生活をさせてくれればー
 祐樹にも夢を見せてあげるからー ふふふ」

茜の言葉に、祐樹は震えるー

どんなに茜が綺麗でもー
どんなに茜が可愛くてもー
中身は”あいつ”なのだー。

「ーーまぁ、他の男連れ込んだり、エッチしたりはするけど、
 それは我慢してね。
 祐樹にもいっぱいヤラせてあげるからー」

茜の言葉にー
祐樹は、茜から男を追い出すこともー
茜と離婚することもできずー
そのまま、茜と暮らさざるを得なかったー…

・・・・・・・・・・・・・・・・・・

「ーーーあ、お金ちょうだい!友達と遊園地行くから!」

地獄のような日々が始まったー

茜と結婚してから1週間ー。

茜の”やりたい放題”ー。
祐樹はまるで”しもべ”のように扱われ、
祐樹が想像していた”茜との幸せな新婚生活”は
そこにはなかったー。

「ーーお、お金ってー」

「ー残業すればいいじゃん」
茜が淡々と言うー。

「ーーわたしが気持ちよく友達と遊ぶお金ぐらい、出せるでしょ?
 女同士の遊園地とか、ゾクゾクしちゃうー。
 どさくさに紛れてエッチなこととかもできるしね」

茜はそれだけ言うと、祐樹に顔を近づけて呟くー

「ーーいいから金出せよ。
 妻を笑顔にしろよ。 な?おい?」

優しい茜の面影など、今の茜には全くと言っていいほど、
存在しないー。
いやー、大学生時代に祐樹が出会った茜は、既に本当の茜ではなかったのだー

祐樹が、今まで見てきた茜は”幻想”だったのだー
そんな人間、存在しないのだー。

「ーーわ、わ、わかったー」
茜が遊園地に行って遊ぶためのお金を払う祐樹ー。

「ーーあ、そうそう、家事もちゃんとやっておけよ?
 妻に気持ちよく生活してもらいたいだろ?」

茜は、働くこともせず、家のことも何もせずー
まるで”女王”のように振舞っていたー

「ーー俺に逆らうなよ?
 わたしが”妊娠”してることを忘れるなよ?
 逃げるなら逃げてもいいー
 だが、その時は、養育費を永遠に払い続ける人生が待ってるんだからな?

 大人しくわたしに気持よく生活させてくれれば、
 ちゃんと身体でご褒美は払ってやるからよ。

 な?」

茜の言葉に、祐樹は「く、、、狂ってる…!」と呟くー。

この”おっさん”は狂ってるー。
祐樹はそう思わずにはいられなかったー。

恐らく、このおっさんにとって、見ず知らずの人間であろう
茜の身体を平然と乗っ取り、
5年以上も茜として生きー、
自分自身が快適な生活を楽しむために、好きでもないはずの祐樹と
長年かけて結婚までたどり着きー
しかも、妊娠までしてーー

「ーお、、お前は…他人の身体で…出産までするつもりなのかー…?」
祐樹が震えながら言うと、
茜は「そ」と、笑うー。

「ーすっげぇ辛いだろうけどさー…
 最悪、耐えられなくなったらこの女の身体から抜ければいいだけだし、
 妊娠しちまえば、お前はもう逃げられねぇだろ?」

茜が笑みを浮かべるー

「ーお前は、この女ー…いいや、わたしの”下僕”として
 一生過ごすんだー。」

そして、茜はさらに恐ろしい言葉を口にしたー

「ー”出産”は、何回することになるかなぁ…」
茜の言葉に、祐樹は「何を言っている…?」と不安そうに呟くー

「ー”乗り換え先の入れ物”も欲しいだろ?
 今の俺の入れ物であるこの女だって、
 そのうちババアになるー。

 だからー
 俺は”娘”を出産したいのさー。
 へへ…
 俺の”乗り換え先”の娘をなー。」

「ーーー…っ」
祐樹は、あまりにもおかしな考えに、恐怖を感じるー

「ーこの女が若いうちに娘を出産して、
 この女がババアになったら、わたしは、自分で産んだ娘に憑依して、乗り換えるー
 
 クククー
 もちろん、お前は娘になったわたしに永遠に貢ぎ続ける運命だけどな…?
 ふへへへへへ

 あ、そうそうー 
 この女からこの女が出産した娘に乗り換える前に、
 ちゃんとこの女は処分するから、その点は心配するなー」

あまりの残酷な考え方にー
祐樹は唖然として、言葉まで失ってしまったー

「ーーあ、今日は銀座でディナー食べてくるから。金」
茜が手を出すー

祐樹は「お、、俺の月収…いくらだと思ってるんだ!
そんな贅沢三昧できるほどー」と叫ぶー

「ーー…”夫に暴力振るわれた”って泣き叫びながら
 祐樹の会社に行っちゃおうかな~~~~????」

茜がニヤニヤと呟くー

「ーーくっ…ぅ…」

「ーーお前にもいつでも憑依できることを忘れるなー。
 お前の身体に憑依して、この女を殴ったあとに、
 この女の身体に俺が戻ればー
 ”夫に暴力を振るわれた妻”の完成だー。

 だろ?

 分かったらとっとと出せや。金」

茜の言葉に、祐樹は、無理やり財布から金を出すと、
それを茜に手渡したー

「ー新婚生活、幸せだねっ!祐樹♡ ふふ」

茜はそう笑うと、そのまま家の外へと出かけて行ったー

一人残された祐樹は、震えながらー
”俺…どうすれば…?”と、
この絶望的な状況から抜け出す方法を、考えるのだったー。

③へ続く

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幸せの新婚生活になるはずが、
地獄のような新婚生活に…★

いつも、物語を書くにあたって、
憑依を悪用するお話の時は、
どのように憑依を悪用するか、
色々考えながら、物語を作っていきますが、
考えていると、結構恐ろしい使い方が
色々浮かんできちゃいます~笑

でも、そんなダークな使い方を頭の中で考えて
形にしていくのも、創作する上での一つのお楽しみなのデス…。

今回のお話では、悪い方法の憑依ですが
逆に、良い方向に使う憑依を考えるのも、
また違った楽しみがあるので、
憑依でも、入れ替わりでも、
”何を目的にその力を使うのか”を考えるのは、
今までも、これからも、ちょっとしたお楽しみですネ~

物語は次回で最終回デス!
どんな結末を迎えるのか、楽しみにしていて下さいネ~!