俺の妻はおっさんだった③~地獄からの解放~(完)
 作:無名


幸せな新婚生活ー

…とは、真逆の地獄のような新婚生活ー。

”出会ったあの時”から、
妻の茜は”おっさん”に憑依されていたー。

そんな、現実を彼はまだ受け入れられずにいたー

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

「ー明日、いよいよ祐樹の奥さんになれるんだね!ふふふ」

茜のことを思い出すー。
祐樹の目から涙がこぼれるー。

何て、残酷な現実なんだー、と。

”憑依”なんてものが、現実にあるとは信じられないー。
だが、祐樹は、目の前で”茜から男が出てくる光景”を
見せつけられたー。

例え、信じられないような現実であったとしても、
あのような光景を見せつけられては、
信じるほかないー。

”あ、わたし、細江 茜ですー”

大学の学園祭で初めて知り合った時のことを思い出すー。

あの時からー
既に”憑依”されていたなんてー。

”両親は、行方不明でー”
茜と話したときのことを思い出すー。

”高校卒業直後に両親が失踪して、今は親戚の支援も得ながら一人で頑張っている”

そんな茜に、祐樹は同情し、
茜のために、茜の両親のことを、必死に調べていたー。

”いつか、お父さんとお母さんも、見つかるよー”
そんな風に、茜に対して祐樹はいつも言っていたー。

なのにー

「ー俺がこの女に憑依する前に、邪魔だからさ~
 この女の両親にも順番に憑依して、
 人里離れた山奥に向かって、自殺させたんだよ。

 あの場所じゃ~
 まぁ、まず見つからねぇだろうな へへへへ」

バカだったー。
「ー俺は…遊ばれていただけなんだなー」
祐樹は、悲しそうに表情を歪めるー

必死になって、茜と共に、祐樹は”茜の両親”を
大学在学中に探していたー

だが、裏では茜に笑われていたと思うと、
心が折れそうなほどに辛い気持ちになるー

そして、何よりもー

「ーははは わかる!わかるよ!大好きな”妻”が、
 おっさんに憑依されているなんて、現実!
 認めたくないもんなぁ~!
 でもさ、これは現実なんだよ

 本物の”細江 茜”はお前のことなんざ、
 そもそも知らないー
 だってこの女は、高校卒業と共に、俺に乗っ取られちまったんだから!

何よりも辛いのはーーー

”本当の細江 茜”は、祐樹のことなど、
そもそも知らないという現実ー。

祐樹が茜と知り合ったのは”大学時代”だー。
つまり、茜が乗っ取られた後のことー。

”本当の茜”とは、祐樹は一度も話したことがなく、
本当の茜も、祐樹のことをまったく知らないー。

「ーーぇ…わたし…え…?だ、、誰…??誰ですか…!?」

婚姻届を提出したあの日ー、
あの男が一時的に茜から抜けた際に、
”本当の茜”が祐樹に言い放った言葉は、
何よりも、辛かったー

”あなた誰ー?”

「ーーー茜…」
祐樹は涙を流すー。

”婚姻届を提出したあの時”に、茜が憑依されたのであれば、
茜に憑依しているおっさんをなんとかして追い出し、
茜を救い出せば、その先に幸せが待っているー。

しかしー

”元々茜が憑依されていた”というこの状況はーー
仮におっさんを追い出し、茜を助け出してもー
その先に待つのは”無”だー。
正気を取り戻した茜は、祐樹のことなど、知らないー。
その状況から、結婚に至ることは、ないー。
最悪の場合、この前の婚姻届を出した日のやり取りから、
”本当の茜”には、”わたしを拉致した男の一味”と思われている
かもしれないー。

”助けたその先”にゴールすらないー。

祐樹は、涙を流すことしかできなかったー。

”元の茜”に戻ったら、
何も、残らないのだからー。

”茜を助けることができるなら、それでいいー”と
思えない自分が、腹立たしいー

祐樹がそんな風に思っているとー、
お腹が大きくなった茜が、家に帰宅してきたー

「ーただいま~~!」
茜が言うと、祐樹は「お、おかえり…」と呟くー

「ーふふふ、男の子かな~?女の子かな~
 女の子だったら、わたしの”乗り換え先”になるから
 最高なんだけどなぁ~」

茜はそう言いながら微笑むー。

茜に憑依しているおっさんが、茜の身体で出産しようとしている目的はー

”祐樹から養育費を脅し取る理由付け”をするためー

そしてー

”茜の身体が老いた時に、”次の身体”を用意するためー”

「ーーー祐樹は、妻のわたしと、娘のために
 死ぬまで永遠に頑張るんだからね!ふふ」

茜が笑いながら自分の部屋へと戻っていくー。

祐樹は、歯ぎしりをしながら、茜の後ろ姿を見つめるー。

”どうすることもできないー”
祐樹は、色々な対策を考えたー。

だがー。
この状況、どうすることもできないー。
何かできるなら、教えてほしいー。
そんな風に思うことしかできなかったー。

”憑依”なんてことを、そもそも世間は信じてくれないー。
もし、茜に憑依した男が、茜の身体と立場をフルに悪用すれば、
恐らく世間から悪者にされるのは祐樹のほうだー。

しかもー
男は他人に憑依する力を持っているー。

それはつまりー
祐樹自身も、いつでも憑依される危険性があるのだー

”このまま突然姿を消す”ことも考えたー

だがー
男は言うのだー

”わたしを捨てて逃げたら、祐樹の両親、急に自殺しちゃうかもよ?”

脅しー。
”俺の前から逃げたら、お前の両親に憑依して自殺させるぞ”

と、そういう意味に祐樹には思えたー。

祐樹は逃げられないー。
この、蜘蛛の巣のような地獄からー。

「ーーあ、そうだ!」
部屋から茜が出てくるー。

「ー金!お前の親から借りればなんとかなるだろ?
 来週また必要だから、用意しとけ」

茜が言うと、祐樹は「う、、うん…」と呟くー

もはや抵抗する気力もなかったー

「ーーふふふ そんな顔しないでよ~!
 妻の笑顔、見たいでしょ?」

茜の言葉に、祐樹は、ひきつった笑顔を浮かべるー。

もしもー
もしも、この世界に神様がいるのならー

どうかー
どうか、一つだけお願いを叶えて欲しいー。

とにかくー
”とにかく、この地獄から解放してほしいー”

追い詰められに
追い詰められた祐樹はー
翌日、ついに部屋で自殺を図ってしまったー。

だがー

「ーーあれ?もしかして、死のうとしてるー?」
部屋に入ってきた茜がニヤニヤしながら笑うー。

「ーーー…俺は…!俺はーーー!」
祐樹の言葉に、茜はクスッと笑ったー

「ー息子が死んで、悲しくなっちゃったご両親も、
 あとを追うかもね?
 友達も後を追っちゃうかも!」

茜が微笑むー。

「ーーーう…ぅぅぅぅ」
首を吊ろうとしていた祐樹が呻きだすー。

「ーーーお前は、逃げられないんだよー
 ほら、もっと妻を笑顔にしろよ?な?」
茜の言葉に、祐樹は「なんで…なんでこんな目に遭わないといけないんだー」と、
想いをぶちまけるー。

茜は「う~~~~ん」と、少しだけ考えてから微笑んだー

「ー祐樹が”たまたま”、真面目そうで、お金持ってそうでー
 単純そうなお人よしに見えたからー かな?

 別に誰でも良かったのー。

 わたし…ううん、この女も”たまたま”憑依する相手を
 探してる時に見つけただけだし!」

”たまたま”
このおっさんにとってー
身体も、人生も奪われた茜も、
そのターゲットに選ばれた祐樹も

”誰でもよかったけど、たまたま選ばれた”程度の存在ー

祐樹は茜を睨みつけるー。

茜は笑みを浮かべながら
「出産したら、ちゃんとヤラせてあげるからよ
 それまで我慢しろ」と、祐樹に対して言い放ったー。

部屋から出ていく茜ー

「あ、そうそう、生まれたのが男の子だったらー
 また、わたしとセックス三昧だからね」

ニヤニヤしながら言う茜に対して、祐樹は、表情を歪めることしかできなかったー

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

そしてー
茜はいよいよ出産間近になっていたー

ニヤニヤしながら茜は言うー

「最初は、きつかったら途中でこの女の身体から出ようと思ってたけどー
 おっさんが出産を経験できるなんて、普通じゃありえない経験だからなー。
 きつくても我慢することにするぜー。

 自分が女の身体で出産を経験してるなんてー
 ゾクゾクするだろぉ?へへ」

その言葉に、祐樹は「ーーそ、そっか」と、塩対応のような
返事をしたーー

祐樹は、完全に精神的に参ってしまっていたー

もうー
家族の安全とか、友人の安全とか、
そんなもの全部無視して楽になりたいー
そう、思い始めていたー。

そう思ってしまうほどに、祐樹は追い詰められていたー。
自分のことはおろか、
自分の大切な人たちがこの男に憑依されてしまうかもしれないー
と、いうことも考えられないほどに、祐樹は追い詰められていたのだー。

この世に、神様なんて、いないー。
祐樹は、そんな風に思うー。

もしも、もしも、そういう存在がいるのならー
どうして、自分がこんな仕打ちを受けなくてはいけないのだとー。

聞いてみたいぐらいだったー。

自分は、これから先もずっとー
茜にー
いや、茜に憑依している男に、こき使われてー
そのままみじめに死んでいくことになるのだろうー。

「--俺の人生ー何なんだろうなー」
机の上に飾られている祐樹と茜の”楽しかったころ”の写真を見つめるー。

けれどー
”その写真”の思い出さえも、偽物だー。

だってー
”この頃の茜”も、”男に憑依されている茜”なのだからー。

祐樹は、本当の茜のことを、何も、知らないー。

やがてー
茜は出産を間近にして、入院したー。

その間に、祐樹は逃げ出そうと何度も思ったー。

だがー
茜は言ったー

”俺は、お前のこと毎日見てるからな”
とー。

そうー
男は、いつでもその気になれば、霊体になって
こっちに来ることができるのだー。

茜が入院していてもー
その気になれば、茜を眠らせて、こちらに来れるのだー。

「くそっーー…」

祐樹の絶望はー
これから先も、永遠に続くと思われたー。

けれどー
”闇”は唐突に晴れたーーー…

茜が、出産時に急変しー
そのまま死亡したのだー。

茜本人には、申し訳ないー…と、思いつつもー
祐樹の心には、希望の光が見え始めていたー。

「最初は、きつかったら途中でこの女の身体から出ようと思ってたけどー
 おっさんが出産を経験できるなんて、普通じゃありえない経験だからなー。
 きつくても我慢することにするぜー。

 自分が女の身体で出産を経験してるなんてー
 ゾクゾクするだろぉ?へへ」

その言葉を思い出す祐樹ー。

「ーー天罰が下ったんだー」
そう呟く祐樹ー。

茜は、娘を出産して、死んだー。

寂しいー…
そんな気持よりも、今の祐樹には”嬉しい”
”解放された”
という気持ちの方が、はるかに強かったー

そしてー

「----」
祐樹は、目から涙を流しながら、生まれてきた娘・希美(のぞみ)のことを
見つめるのだったー

どうして、涙を流しているのだろうー。

娘と出会えたからー?
茜が死んでしまったからー?
あの男に脅される地獄のような日々から解放されたからー?

それは、祐樹自身にも分からなかったー。

けれどー

「--俺…この子を、立派に育て上げるからー」
祐樹は、静かにそう呟くと、娘の希美のほうを見て、微笑んだー。

本当の茜とは”他人同士”でしかないけどー…
でも、この子をしっかりと育てることこそがー
茜に対してもー、きっと、何か意味のあることに
なるはずだからー。

・・・・・・・・・・・・・・・・・・

”あぶねぇ あぶねぇ”

男は、笑みを浮かべていたー

”出産って、マジで命懸けになることもあるんだなー”

男にとって、茜の身体が急変して、
死んでしまったのは想定外だったー。

まさか、死ぬとは思ってなかったー
かなりきつかったが、”これも男の俺じゃ経験できなかった快感”と、
耐えていたところー
突然、全身から力が抜けて、死んでしまったのだー。

しかしー

”身体が死んでも、中身は死なないなんて…憑依は最強だぜ”
男は笑みを浮かべるー

そうー
茜の身体が死んでも、男は、茜の身体から追い出されただけで、
死ななかったのだー

”今度はー”
男が、笑みを浮かべるー

”今度は、どんな絶望した顔を見せてくれるのかな?”

まだ”赤ん坊”の希美が、赤ん坊に不釣り合いな笑みを浮かべるー

”俺の娘はおっさんだったー”
こいつが、そんな風に思う日が楽しみだぜー

娘・希美に憑依した男は、
祐樹のほうを見つめながら、”しばらくは赤ん坊ライフを楽しむか”と
笑みを浮かべたー

おわり

・・・・・・・・・・・・・・・

地獄のような生活も、
憑依していた男の突然の誤算によって
終わりを迎える…
と、思いきや、最後はまた不穏な感じに…

結局、妻になった茜は助かりませんでしたし、
そもそも彼は”本当の茜”と1回も話したこともないですし、
とことん、不運な目に遭ってしまっていましたネ~…!

唯一、憑依された茜が本性を現すまでの時間は、
それなりに楽しい時間だったと思うので、
そこだけが救いかも…デス…!

この先は
”俺の娘がおっさんだった”になってしまいますが、
それは皆様の想像の中で、色々膨らませてみて下さいネ~!笑

お読み下さりありがとうございました~!

次回は(恐らく)11月の後半だと思うので、
すっかり寒くなっていそうですネ~!
体調管理に気を付けてお過ごし下さい★!