俺の妻はおっさんだった①~告白~
 作:無名


大学時代に出会った彼女と、
ついに結婚することになった彼ー。

しかし、婚姻届を提出した直後ー
彼女の態度は、豹変したー。

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

折下 祐樹(おりした ゆうき)は、
大学時代に出会った彼女・細江 茜(ほそえ あかね)と
結婚することが決まっていたー。

既に、茜のお腹の中には新しい命も宿っているー。

元々”大学卒業後に結婚しようね”と話をしておりー、
大学を卒業して、1年が経過した今ー
ようやく、婚姻届を提出して結婚…というところまで
話が進んでいたー

子作りに関しても無計画で進めていたわけではなく、
お互いの就職が決まり、結婚も二人の間では”確定”ということに
なったタイミングで、始めたことだー。
入籍のタイミングは結果的に”子供ができてから”には
なってしまったものの、決して”子供ができたから結婚する”
と、いうことではないー。
二人の間で結婚が確定し、就職も決め、将来設計をしてから
子供も作ったのだー

茜はとても穏やかな性格の持ち主で、
”悲劇のヒロイン”みたいな感じの、
守ってあげたくなるようなタイプだー。

その過去もかなり特殊で、
高校卒業直後に、両親が失踪してしまって、
それからは親戚の支援も得ながら
なんとか一人で頑張って、大学にも通っている、という子だったー。

両親の行方については、未だに分かっていないー。

そんな茜と、大学に入学して最初の学園祭の時に知り合い、
あっという間に親しくなり、付き合い始めたー。

あれから数年ー
まさか、こんな風に結婚までたどり着くことができるとは、
夢にも思っていなかったー。

「ーーーわ~~!なんかドキドキする~」
茜が嬉しそうに微笑むー。

”婚姻届”
そこに、祐樹と茜の名前が並んでいるー

「ー明日、いよいよ祐樹の奥さんになれるんだね!ふふふ」
茜が嬉しそうに微笑むー。

出会った当時、どことなく”影”がある感じだった茜も、
今やとても明るくなったー…気がする。

影があったのは、両親が消息不明、という境遇故だろうー。

「ーー俺も緊張するなぁ…」
祐樹はそう言いながら、茜のほうを見て笑うー。

”婚姻届”

所詮は、紙切れー
などと言われることも、世間ではある時代ー。

しかし、祐樹と茜にとっては”幸せ”の扉を開く
大事な大事な紙切れであるのも事実だったー。

「ーー将来、子供が出来たらさ~」
ご機嫌な祐樹は、茜との将来を嬉しそうに空想しながら話すー

茜も楽しそうに「子供の名前は何にする~?」などと、
少し気の早い話を始めているー

”婚姻届”は祐樹と茜にとって
”幸せのスタート”ー

しかしー

祐樹はまだ知らないー。

”祐樹の見ている幸せ”と
”茜の見ている幸せ”
それは、同じ”幸せ”であっても”別の意味での幸せ”であることにー。

・・・・・・・・・・・・・・・・

「ーーうん、うん、今日、うん、今日、提出するよ」

翌日ー
祐樹は、両親とスマホで話していたー。

祐樹の家は、金持ちで、祐樹自身も、
祖父が残した資産を少し受け継いでいるー。

もちろん、祐樹は両親に寄生したり、
祖父の資産に頼り切るようなこともなく、
必死に勉強して、現在は、市の職員として働いているー。

”定年までにリストラされずに働き切る”
それも、難しくなってしまったこの時代において、
自分自身で大きな問題を起こさなければ将来が約束されている
仕事のひとつー…とも言える仕事の一つだー。

そんな”安定した職業”につけてー、
可愛い彼女である茜と結婚を間近に迎えているー。

祐樹の人生は、順調だったー。
そう、ここまではー。

「ーーー挙式はう~ん、まだ分かんないケド、
 ほら、茜があまりそういうの得意じゃないからさ

 うん、うん、わかったー。じゃ」

祐樹は、そう言うと、親との連絡を終えて、
茜と共に婚姻届を提出するために、
役所に行く準備をするー

茜は嬉しそうに、祐樹が茜にプロポーズした際の
婚約指輪を見つめているー。

「ーーーふふふふ」
茜の嬉しそうな笑みー。
茜は、珍しくここ数日は特にハイテンションになっているー

茜が”結婚”を喜んでくれていることをー
ひしひしと感じるー。

祐樹は、そんな風に思いながら、
「じゃ、そろそろ出発しようかー」と、
婚姻届を提出するため、役所まで車を走らせ始めたー

それがー
”幸せ”の入口であり、”地獄”の入口であるとも知らずにー。

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

役所に入りー
婚姻届を提出する祐樹ー。

緊張する祐樹と、
ニコニコしている茜ー。

「ーー」
職員が婚姻届を確認しー
それがー
無事に受理されたー。

「おめでとうございますー」
職員の言葉に、”結婚”したことを実感した祐樹は
「ありがとうございます!」と嬉しそうに頭を下げながら
茜のほうを見つめるー

茜も、とても嬉しそうに
その事実を噛みしめている様子だったー。

「ーーはぁ~~~茜が”妻”なんて、はぁ~~~」
帰りの車を運転しながら、嬉しそうに何度も何度も
そう呟く祐樹ー

「ーやっぱ紙1枚提出するだけでも、気分が違うなぁ~」
ご機嫌な祐樹がそんな風に呟いていると、
助手席に座っていた茜が、突然クスクスと笑い出したー。

「ーーはぁ~~~~長かったぁ~~~~」
茜の言葉に、車を運転しながら、祐樹は首をかしげるー

「ーこれで、やっと…”遊び放題”な日々を送れるー」
茜が低い声で呟くとー、
続けて、”恐ろしい言葉”を口にしたー。

「実はさー、”俺”男なんだよー」
とー。

「ーーは!?」
祐樹は、思わず車のハンドルから手を離してしまいそうなぐらいの
衝撃を感じるー。

「ーーえ、、な、何言ってー?」
祐樹は思わず、茜とエッチなことをした時のことなどを
思い出してしまうー

茜が男ー
いや?それはないはずー。

茜にはついてなかったしー
と、変なことを考えてしまうー

いや、そもそも二人で産婦人科に足を運んだ時に
妊娠していたはずー。

さすがに、茜が本当は男だったとしてー
どんなに女性的な見た目であっても、
妊娠はできないはずだー。

「ーあぁ、悪い悪い、”身体”は正真正銘女性だけどさー
 中身は”男”なんだよー」

茜は、いつもとはまるで違う口調で、そう呟くと、
祐樹のほうを静かに見つめるー。

「ーーえ…え…っと、何、ん?」
祐樹は運転しながら困惑の表情を浮かべるー

「ーーあ、、あぁ…え~っと、心は男…とか、そういうことかなー?」
今まで付き合ってきて、そんな素振りは見たことがなかったが、
もしも、女として生まれたけど、自分を男だと思っているー
と、言うのであれば、それはそれで、祐樹は受け入れるつもりだー

「ー心配すんなよ。茜は茜だしー、もしそうだとしても、
 俺は茜が好きなことには変わりなーーー

「ーーちげぇよ」
茜は、祐樹の言葉を遮ったー。

「ーーえ」
祐樹はさらに困惑するー

「ーお前、なんか勘違いしてるだろ?
 ”俺”の言ってることはそういうことじゃねぇ。
 身体は”細江 茜”だけど、
 俺は男だって言ってるんだ」

茜の言葉は、少なくとも祐樹にとって、完全に”意味不明”だったー。
何を言ってるのか、全然理解できないー。

「ーえ……なに…?え??に、二重人格…とか?」
祐樹は、そう言いながらも、
どこかで”結婚したからって、急にそんなドッキリみたいなことしなくても”と
心の中で笑っていたー。

祐樹は、茜のドッキリだと思って付き合ってあげているのだー。

「ーーこの女さー、お前と出会う前ー
 高校を卒業した直後に、俺が乗っ取ったんだー。

 ”憑依”してなー」

茜が笑いながら言うー。

「だから、身体は細江 茜だけど、中身は全くの別人ってわけだー。
 それにお前はこの数年間、ずっと気づかないでさぁ~…
 ついに”結婚”しちまったー

 お前の結婚相手はさ、ほらー」

茜はそう言うと、スマホを取り出して、
”小太りで禿げ頭のおっさん”の写真を見せつけてきたー。

「ーーお前の妻は”おっさん”なんだよー。へへ」
茜のイヤらしい笑みー

「ーい、いやいやいやいやいやいやいや」
祐樹は思わず笑ってしまったー

「ーさすがに設定に無理がありすぎるだろ!
 しかも今日、別にエイプリルフールでもないし!」

ツッコミを入れる祐樹ー。
茜の言ってることを”冗談”としか受け止めていないー

「ーーーくくく、そうかそうか」
助手席にいる茜はクククク、と笑いながら続けるー。

「お前はもう”婚姻届”を出しちまったんだー。
 もう、引き返せないー」

茜の言葉に、
祐樹の表情からだんだんと笑顔が消えていくー。

”冗談”だとは思っているー
けれど、茜はこんな、あまり笑えない冗談を
ずっと続けるような子だっただろうかー?

と、いう不安が、徐々に強まっていってしまうー。

「ーーあ、、茜…そ、、そろそろさー…」
祐樹が不安そうに言うと、
茜は「”高校卒業後”にこの女の両親が行方不明になったって言っただろ?」
と、笑うー

「ーー!」
祐樹が運転しながら表情を曇らせるー。

確かに、茜はそう言っていたし、
実際に両親は”行方不明”のようだったー

「ーあれさ…”俺”がやったんだよね~」
茜は邪悪な笑みを浮かべているー。

「ーう、、嘘だ…!あ、、茜!
 そ、それ冗談になってないぞ!」

祐樹は焦りの感情をにじませながら叫ぶー。

「ー冗談じゃねぇよ」
茜は笑うー。

「ー俺がこの女に憑依する前に、邪魔だからさ~
 この女の両親にも順番に憑依して、
 人里離れた山奥に向かって、自殺させたんだよ。

 あの場所じゃ~
 まぁ、まず見つからねぇだろうな へへへへ」

茜の汚らしい笑みー。

「ーそ、そ、そんなー」
祐樹の言葉に、茜は自分のお腹を触りながら微笑んだー

「ーこの女のお腹にはー
 ”わたしたち”の子供がいるーふふふふ」

茜は低い声で呟くー

「お前は、もう、逃げられないー
 ”わたし”がおっさんに憑依されていることを知りながら
 永遠にわたしのために金を稼ぎ続けるかー

 それともわたしと離婚して、永遠にわたしに
 養育費を払い続けるかー
 選ばせてあげるー…クククー

 そのためにず~っと、ずっと、我慢してきたんだー。

 働かずに、女ライフを楽しみ続けるためにな…くくくくー」

茜は、そのために、大学生活を犠牲にし、
この5年間ー、祐樹と付き合い続けてきたー。

憑依薬を手に入れるまでも、この男は10年待ったー。
5年待つぐらい、どうということはないー。

「ーー婚姻届を提出したお前は、もう、逃げられないー」

茜の言葉に、祐樹は「や、やめろよ、もう!」と、叫ぶー。

「あ、、あまりにも悪質な冗談だぞ!」
とー。

しかしー
それでも茜は、笑みを浮かべたー

「ーははは わかる!わかるよ!大好きな”妻”が、
 おっさんに憑依されているなんて、現実!
 認めたくないもんなぁ~!
 でもさ、これは現実なんだよ

 本物の”細江 茜”はお前のことなんざ、
 そもそも知らないー
 だってこの女は、高校卒業と共に、俺に乗っ取られちまったんだから!

 はははははっ!」

茜が笑うー
祐樹は、唖然としながら、車を車道の脇に止めるー。

「ーー嘘だ!」
とー。

「--嘘じゃねぇよ。
 お前の妻は”おっさん”なんだよー」

それだけ言うとー

「今、見せてやるー」と、
茜は笑みを浮かべながら、うめき声をあげて気絶するー。

そしてー
茜の中から、煙のようなー
霊魂のようなものが出て来てー
それがー”実体”と化したー…

②へ続く

・・・・・・・・・・・・・・・・・

皆様こんにちは~!

最近は急に冷えて来て、
いよいよ冬が近づいてきている感じがしますネ~!

いつも言っている(?)ような気がしますが
私は暑いのが苦手なので、
これからは活性化する季節デス…!

今回のお話は、結婚という幸せの絶頂から、
”妻”が、憑依されていたという事実が
明かされる、恐怖の物語デス~!

幸せから絶望への転落…!
考えただけで恐ろしいですネ~!

いきなり、ダークなスタートですが、
この後どうなるのかは、
また次回を楽しみにしていて下さい~★!