12月32日①~歪んだ世界~
 作:無名


彼はー
何故か年越しすることができなかったー。

2022年大晦日。
年明けして2023年1月1日に進むはずだった彼は、
何故か2022年12月32日に進んでしまったー…

・・・・・・・・・・・・・・・・・

2022年12月31日ー。
大晦日ー。

男子大学生の雪代 洋輔(ゆきしろ ようすけ)は、
雪が降り注ぐ夜の街を歩いていたー。

「ーーあ!洋輔!」
彼女の楓(かえで)が、洋輔の姿を見つけると
嬉しそうに手を振って来るー。

「ーーお待たせ」
洋輔が穏やかな笑みを浮かべながら楓と合流するとー
二人で年越しの瞬間を迎えー、初日の出を見るために、
初日の出が見えるスポットへと車で移動し始めたー。

車の中で雑談をする二人ー
洋輔と楓は、通う大学は違うものの、
幼馴染同士で、昔から親しい間柄だー。

付き合い始めたのは最近だがー
幼馴染であるせいか、付き合い始めたばかりのカップルー、と、
言うよりかは、今でも幼馴染の延長線上のような、
そんな間柄でもあったー。

「ついたよ」
洋輔がそう言いながら、車を止めて降りると、
年越しをこの場で迎えて初日の出を見ようとする他の人の姿も
ぽつぽつと目に入ったー。

そんなに有名なスポットではないものの、
”地元の人間が知る”密かな人気スポットで、
最近はここに来る人も多いー。

「ーー去年より、人が増えたかな?」
楓が言うと、洋輔は「SNSとかで拡散されるから、だんだんここを
知ってる人も増えて来てるんだろうなぁ」と、周囲を見渡しながら
呟くー。

そうこうしているうちに、年越しまであと5分ー。

2022年は終わり、
2023年が始まるー

彼女の楓と今年の思い出を語りながら、
最後の5分をのんびり過ごすとー、
いよいよ2023年まであと10秒というタイミングになったー。

家族連れの子供が嬉しそうにカウントダウンをしているー。

10、9、8,7,6,5ー

だんだんと近づいてくる2023年ー。

年越しの瞬間ー
何だかんだで、迎えてみるとあっさりなこの瞬間ー

毎年一回の”新しい1年”が始まるこの瞬間ー

洋輔は、
”昔から、年越しの瞬間ってなんか不思議な感覚だよなー”と
思いながら目を閉じるー

”地球”からすれば西暦など、何の関係もないのだろうー
人間が勝手に決め、人間が勝手に騒ぎ、特別視しているー
きっと、それだけのことだー

でも、意味のないことを楽しむからこそ、
人間の世界はーー

「ーーー」
そう思いながら、ふと周囲が静まり返ったことに気付き、
洋輔は目を開くー。

いつもなら”あけましておめでとう~~!”とか
声が飛び交うはずなのにー。

「!?」
そう思いながら、洋輔が目を見開くとー、
周囲にいたはずの他の利用客が一切、いなくなっていたー

「え?」
困惑しながら周囲を見渡すと、
そこにはー、彼女の楓の姿もなかったー。

「え?楓ー!?」
そう叫ぶ洋輔ー

しかし、洋輔は更なる異変に気付いたー

「ーー!?!?!?な、…」

それもそのはずー。
自分の口から出た”声”が、自分のものではなかったのだー。

自分のー、今まで飽きるほど聞いた”洋輔”の声ではなくー、
どう考えても”女”の声が自分の口から出ていたからだー

「えっ?えっ…!?なんだこれ…?は???」
そう呟きながら、自分の身体を見下ろすと、そこには
あるはずのない胸の膨らみが見えたー

「な…!?!?なんだこれ!?」
そう言うしかなかったー。

何が起きているのか全く理解できないー。
何か、超常現象のようなものに巻き込まれてしまったのだろうかー。

そう思いながら、
洋輔は周囲を見渡すー

「楓!」
彼女の楓の名前を呼ぶー。
しかし、楓から返事は返って来ないー。

「誰か!誰かいませんか!」
そう叫ぶ洋輔ー。
自分の声が可愛い…なんてことを気にする間もなく、
何が起きたのか分からず、
”誰もいなくなった”初日の出スポットで、
困惑の表情を浮かべるー。

少し山道のようになっているこの場所で、
一人ぼっちになってしまった洋輔は、
慌ててスマホを手にしたー。

楓に連絡して、楓の無事を確認しようー。
そう思ったー

だがーー
スマホの表示を見て、洋輔は困惑の表情を浮かべたー

”12月32日”ー。

「ーーーは?」
洋輔は表情を歪めるー。

”2022年12月32日 0:03”

そう表示されているー。

「じゅうにがつ、さんじゅうににち…?」

首を傾げる洋輔ー。
意味が分からないー。
いや、意味の分からないことだらけだが、
また、意味の分からないことが増えた。

年越ししたら
2023年1月1日のはずだー

スマホの表示は
2023年1月1日 0:03でなければならないはずー。

「なんだよ…12月32日ってー」
表情を歪めながら、自分の綺麗な手で
スマホを握りしめる洋輔ー

スマホまでバグってしまったのかー。
いや、バグっているのは俺の頭か?

そんな風に思いながら、とにかく楓に電話をする洋輔ー

しかしー
”この電話は、現在使われておりません”
というアナウンスが流れるー

「いや…いや…!使われてるだろ!?おいっ!」
スマホに向かって叫ぶー。

仕方ないー、と思いながら
友人の、稲造(いなぞう)に電話を掛ける洋輔ー

がー
”この電話は、現在使われておりません”

のアナウンスー。

「ーーふっ…ふざけるな!」
洋輔はそう叫ぶと、
実家にも電話を掛けてみたー。

しかしー…
実家の電話も使われていないー

「くそっ!何なんだ!?」
洋輔はそう呟くと、山道から降りて、近くの街に戻ろうと考えるー

ひとまず、車に乗って、
街に戻り、状況を確認ー。
楓と連絡がつかなければ交番で相談してー…

自分が女になってしまった理由はよく分からないが、
こんな場所に一人でいても仕方がないー。

”目をつぶってたの、10秒ぐらいだよなー?
 その間にみんなが姿を消すなんてー”

洋輔はふと、「ん?これってもしかしてドッキリか?」と呟くー。

「ーーか、楓!わかったぞ!みんなで隠れてるんだろ?」
洋輔が近くの脇道の木に向かって叫ぶー

「ーーははは…そうかそうかドッキリかー
 っていうか、この身体は?いったいどうやって俺を女にしたんだ?」

長くなった髪を触りながらそう呟くー

「お~~~い!楓~~~!」
「お~~~い!他の皆さん~~!」

洋輔が笑いながらそう叫ぶー

だがー
ついに返事はなくー

「ーーーー!!!!!」

近くでガサッと音がしたー

ビクッとする洋輔ー

そして、洋輔が振り返るとー、
そこにはーー

色白の幽霊のような女性がいたー。

「ーひっ!?」
洋輔が悲鳴のような声を上げると、
「あ…あのっ…!」と、その女性が不安そうに呟いたー

「ーーー……ど、どうなってるんですか?」
とー

そんな言葉にー
洋輔は”いや、俺が聞きたいよ”と、思いながらも
「お、俺にも何が何だかー」と答えたー

「お、俺ー?」
色白の女性がそう呟くと、
「じゃ、じゃあまさかー…僕と同じ?」と、
表情を歪めたー。

「ぼ、僕ー…
 あ、ま、まさかあなたもーー
 その…男?」

と、洋輔が言うと、
色白の女性は「あ…は、はいー数分前まで」と
答えたー。

・・・・・・・・・・・・・・・・・・

街に向かおうと駐車場の方に向かう二人ー

色白の女性の名は佐伯 昭(さえき あきら)ー。
年越しの瞬間にトイレに行っていたところ、
急に女体化して、周囲に誰もいなくて戸惑ったのだと言うー。

「ーーー僕のスマホにも12月32日ってー」
昭がそう言うと、洋輔は「何なんだろうなー…これ」と、
戸惑いながら言葉を口にするー。

「さぁ…」
昭はそう呟くと、
「それにしてもー…僕たち、可愛いですよね?」と
苦笑いするー

「ーー緊張感のないやつだなー」
そんな風に呆れながら
駐車場までたどり着くと、洋輔は
表情を歪めたー

「って…なんじゃこりゃ!?」
洋輔が叫ぶー

洋輔の乗って来た車がなぜか”馬車”になっているー

「おいおいおいおいおいおい!?」
洋輔が可愛い声で叫ぶと、
「ーーえぇっ!?馬車がマイカーなんですか?」と
色白の昭がそう叫ぶー

「ちがーう!そんなわけないだろ!」
洋輔が叫び返すと、
「う、馬なんて乗れないぞ?」と、
困惑の表情を歪めるー

「ーー…!」

さらにー
洋輔は月が赤く光っていることに気付くー

「な、なんだあの月ー…」
呆然とする洋輔ー。

その隣にいる昭が「なんだか綺麗ですねー」と、微笑むー。

洋輔は、不覚にも、そんな昭のことを
可愛いと思ってしまったー

この昭という人物が、元々男だったことを洋輔は知らないー。
初対面が女体化した状態だったため、
元男と言われてもイマイチ、ピンと来ないのだー。

もっともー
それは向こうからしても、同じことなのかもしれないがー。

「ーー…なんかヤバい感じだなー」
洋輔が困惑しながら表情を歪めるー

「え?ヤバいって、何がです?」
昭の言葉に、
「のんきなやつだな…」と、洋輔が困惑の表情を浮かべるー

「急に人が消えてー
 急に俺たちが女になってー
 スマホに12月32日と表示されてて、
 車が馬車になってて、
 月が赤いー…

 絶対おかしいだろ?」

洋輔がそう言うと、昭は「えぇ…まぁ」と、頷くー

イマイチ緊張感のない男だー。

そう思いながらも、「とりあえずー、初日の出どころじゃないし、
街の方にいったん戻ってみようー…」と、洋輔が提案すると、
昭は「はい」と、頷いたー

山を下りて、街へー。
車が馬車になってしまったため、使うことが出来ずー、
しかも、慣れない女体の状態で、山を下りたため、
結構時間がかかってしまったー。

山を下りる間にも、他の人間や車とすれ違うこともなくー、
山を下りてー
それなりに賑わっていたはずの街にも、
人の気配がなく、ひっそりとしているー。

いやーー
それどころではないー。

植物のツタのようなものに包まれてー
まるで、人類滅亡後何百年も経過しているようなー
そんな世界にすら見えたー

「ー絶対…ヤバいだろこれ…」
洋輔は、この街の状況を見て確信したー

「俺たち、何かヤバい世界に迷い込んだんじゃないか?」
洋輔が可愛い顔に険しい表情を浮かべながら言うと、
自分の胸を揉みながら「あぁ~こんな揉み心地だったなんて~びっくりです」と
満面の笑みを浮かべている昭ー。

まるで、幽霊のような雰囲気の可愛らしい女性が
目の前で自分から嬉しそうに胸を揉んでいるような、
そんな光景に見えてしまうー

「おいおいおいおいおいおいー
 この状況で妙に冷静だな」

洋輔は”実はこいつの仕業なんじゃー”と、一瞬表情を歪めると、
背後から「おや」と、重低音の老人の声が聞こえて来たー

「ー!?」
洋輔が振り返ると、昭の方もビクッとして慌てて胸を揉むのを止め、
老人のほうを見つめたー。

かなり高齢に見える老人ー
だが、その眼光は鋭いー

「ーーーおやおやおやー
 ”12月32日”に迷い込んでしまったようじゃなー」

その言葉に、洋輔は表情を歪めるー

「12月32日…?いや、あなたはー…?」
洋輔がそう言うと、

「ーー女子…と、いうことは、お前さんたちは男じゃったんじゃな?」
と、そう老人が呟くー。

「ー儂は、12月32日に長年居座っているものじゃー」
老人の言葉に、洋輔と昭はさらに困惑しながら、
「ーこ、ここは一体何なんです?教えてください!」と、洋輔が答えたー。

すると、老人は「安心するんじゃー」と、頷いたー。

「ー”バグ”」ー
老人が静かにそう呟くー。

「バグ?」
洋輔が聞き返すと、老人は少し間を置いてから答えたー。

「ー”ゲーム”にあるじゃろ?
 あれと同じじゃー。

 12月32日は”現実世界のバグ”ー
 毎年数名、年明けの瞬間にこの”バグ”に引きずり込まれるー。

 だからー、色々な場所がおかしくなってるじゃろ?
 この街もそうー。
 お前さんたちの性別もそうー。
 あの赤い月もそうー。

 いつもの世界が”バグ”ったことで出来た時空の狭間に存在する世界ー
 それが、12月32日じゃー」

老人のその言葉に、洋輔は「…じ、じゃあー…俺たちー…」と、
自分が元の世界に戻れないのかと困惑するー

しかし、老人は満面の笑みを浮かべたー

「言ったはずじゃー。
 ”安心するんじゃ”とー。

 バグはすぐに修正されるー
 案ずることは、ないー」

とー。

②へ続く

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

解体新書様をご覧の皆様
こんばんはデス~!

今回は”新年を迎えるはずが”なぜか
新年を迎えることができずに
”12月32日”に進んでしまった…という
とんでもない設定の物語デス~笑

書いている私も、頭がおかしくなってしまいそうな
そんな不思議な世界観…☆笑
(…既におかしい??? そ、そんなことはないのデス…笑)

この物語の主人公たちが、
無事に”1月1日”に戻ることができるのかどうか、
見届けて下さいネ~!

ちなみに、この作品は2022年~2023年のタイミングに
書いた作品で、少し季節外れですが、
最近はとっても暑いので、寒い季節のことを思い出しながら
楽しんでいただければ、と思います~笑