”見える”男①~中身が見える~
 作:無名


「俺には何故か見えるんだー
 身体の中身ー…
 ”憑依している人間の姿”がー」

そんな、”見える男”の物語ー

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

「ーーーー…またかよ」

男子大学生の里野 魁人(さとの かいと)は、
ため息をつきながら、そう呟いたー

”お母さんの背中に知らないおじさんがいる”

小さい頃、そう思ったー。

最初は何を意味しているのか分からずー
「お母さんの背中に何かいる?」と、
驚いて、思わずそう言葉を口にしたー

だが、母親は少し気まずそうな様子で、
誤魔化すようなことを言うだけで
それが何かは教えてくれなかったし
「わたしには、何も見えないケド?」などと言っていたー

その後ー”姉”の背中にもおじさんの幽霊のようなものが
見えるようになり、
まだ小さかった魁人はその意味が分からず、困惑したー。

しかし、やはり姉も「ーそんなことないよ~!」と笑うだけでー
父親に聞いても「ー幽霊みたいなものがついてる?」と
首を傾げるだけだったー。

そしてー
”母”と”姉”にだけ幽霊のようなものが背後に見える理由も
よく分からなかったー。

やがてー
幼稚園に入り、”同じクラスの中にも何人か、母や姉と同じ状態”の子ー、
つまり”背中に幽霊のようなものが見える”子がいることに気付いたー。

だがー、やはりその子たちに指摘しても、
「気のせいでしょ!」と言われたり中には怒り出すような子もいて、
その理由は分からずじまいー。

幼稚園の仲間や、先生に聞いても
”そんなものは見えない”と言われるばかりで、
この頃、魁人は”僕にしか幽霊みたいなものは見えないんだ…”と、
困惑の表情を浮かべたー。

その後ー
小学校ー、中学校と進んでいくにつれてー
”背後に幽霊が見える同級生”が増えたー。

何故だか、特に女子に多いことに魁人は気づくー

”俺にしか見えない幽霊ー
 これは、いったい何なんだー?”

相変わらず母親と姉にも”幽霊”が見えるしー
父親には見えない状況もそのままー

しかしー
ある日、魁人は高校生になって”あること”に気付くー

入学してすぐ、座席が隣だったこともあり、
一人の女子生徒と親しくなったー

その子の名前は麻美(まみ)ー。
とても真面目で優しい子だったー。

お互いに周囲には知らない子が多い状況で、
色々相談したりするような場面も多くー
1学期が終わるころには、結構仲良くなっていたー、
と、そう思うー。

だがー
2学期になって、その子はまるで別人のように
”豹変”したー。

黒かった髪は茶色になりー
制服の着こなしもだらしない感じになりー
何より派手になったー

言動も、何もかも別人のようで、
最初、魁人は”悪い彼氏でもできたのかな?”と思うほどだったー

だがー
最大の異変はそこまではなかったー

麻美の背後に”見えた”のだー。
小太りのおじさんの幽霊のようなものがー。

”1学期の時、この子には幽霊は見えなかったはずー”と、
考える魁人ー。

確かに、中学時代や小学生時代にも
”途中から”幽霊のようなものが背後に見えだした子もいるー。

だがー
麻美のように”幽霊が見えはじめたタイミングで豹変した子”を
見るのは初めてだったー

”どういうことなんだー?
 幽霊に取り憑かれているー…、なんてことはないよなー”

そんなことを思いながらも、当時の魁人は
意を決して二人きりになったタイミングでー

”試しに”聞いてみたのだー

「ーーーーー誰なんだ?」
とー。

もちろん”幽霊に取り憑かれている”などと
本気で思っていたわけではないー。

麻美が1学期の頃とガラリと変わってしまったことを
皮肉る意味でも、そう呟いたー

「1学期の時とは、まるで別人だしー
 同じ人間とは思えないー」

とー。

すると、麻美は表情を歪めながらも、笑みを浮かべたー

「ーー背後に見える幽霊は何なんだ!?」
魁人は、麻美の”背後霊”のような感じで見えている
おじさんを指さすー。

今までのように、麻美に”見えないけど?”と言われたり
”何のこと?”と言われると、そう思ったー

けれどー

麻美は言ったー

「なぁんだ…バレちゃったのかぁ」
とー。

「ー!?」
魁人は表情を歪めるー

「ー麻美ちゃんはね、ぐへへへ…もう、僕のものなんだー
 僕好みにアレンジされた麻美ちゃん、すごいだろ?」

麻美の言葉に、魁人は「え…な、何を言ってー?」と、
逆に驚いてしまうー。

麻美はニヤッと笑うー

「ーー”憑依薬”を使って
 麻美ちゃんに憑依したんだよー
 へへへー」

ペラペラと”憑依薬”について喋り出す麻美ー。

この世界には、”憑依薬”なるものが
裏社会を中心に出回っていて
結構な人数がそれを購入、使っている、とー。

「でもーーーお前ー”僕”が見えるのか?」

背後にいるおじさんは何だ?と言われた麻美は、
不思議そうにそう呟くー

魁人は震えながらも、”麻美の背後に見えるおじさんの幽霊みたいなもの”の
容姿の特徴を伝えると、
麻美は笑ったー

「ーえへへ…それは僕の姿だなー」
とー。

魁人は、その時初めて知ったー。

”背後に幽霊が見える人間は、
 他人に憑依されている”

と、言うことをー。

もちろん、その時点では半信半疑だったー

けれどー
自宅で”小さい頃から背後に幽霊が見える姉”を
しつこく問い詰めたところ、姉が認めたのだー。

「ーーた、確かにわたしは、”この子”に憑依したけどー
 それはこの子が5歳の時のことだしー…
 ーー魁人のことは本当の弟だと思ってるからー…
 お願い、見逃してー」

既に大学生だった姉は、そう申し訳なさそうに言うー。

”姉さんは5歳の時から憑依されていたー”

つまり魁人は、本当の姉とはほとんど話していないことになるー。

しかし、魁人はそれ以上は問い詰めなかったー
5歳の時から憑依されていた姉ー。
今頃正気に戻すことも難しいだろうしー
少なくとも”今”は、魁人を傷つけるつもりなどなくー
本当に弟として愛情を注いでくれていることは理解できたー

これ以上、問い詰めれば姉との関係に亀裂が入り、
厄介なことになるかもしれない、と考えてー
「ー俺の心の中にしまっておくよー」と、だけ魁人は言い放ち
それ以降は”普通”に姉と弟としての関係を続けているー。

そして今ー
魁人は大学生になったー。

高校時代の”麻美”に憑依したおじさんのおかげで、
魁人は”背後に幽霊のようなものが見えている人間は
憑依されている人間”なのだと、確信を持っていたー。

麻美と姉以外にも何人か”認めた”人間がいるー

背後に幽霊のようなものが見える人間は憑依されているー。

そう考えれば
”幽霊のようなものが憑いている人・憑いていない人”がいる理由も、
”ある日突然それが背後に出てくる人”がいる理由も、
”妙に女子の方が多めだった”理由も、
”幽霊がおじさん系が比較的多い”理由も
何となく納得できたー

「ーにしてもあのおっさんー…おしゃべりだったんだろうなー」

姉も含め、何人かの”憑依した人間”と会話したが
あそこまでペラペラと色々喋ったのは
高校時代の隣の座席の女子・麻美に憑依したあのおじさんだけだったー

あのおじさんのおかげで、”憑依”について
詳しく知れたー、と言ってもいいー。

結局、麻美のことは助けてあげられず、
2年生になったころには麻美は学校にほぼ来なくなり
そのまま退学になってしまい、今はどうしているのかは知らないが、
魁人は”他人に憑依している人間の霊体”が、
何故自分にだけ見えるのか、と困惑しながら日常生活を送っていたー

そして今ー、
学園祭の打ち合わせのため、一緒に作業をすることになった子の背後に
おじさんが見えることに”またかよ”と呟いたのだったー

「ーーーどうしたの?」
その女子が微笑むー

「あ、いやー、なんでもないよー」
魁人はそう答えるー

”俺は正義のヒーローじゃない”

だから、魁人は
”憑依されている人間”が分かっても、
積極的に救おうとすることは、あまりしなかったー

確かに”他人の身体を奪う”なんて許されないことだろうし、
自分ではそれをするつもりはないー

けど、だからと言って、”憑依された人”を助けようとは
あまり、思わなかったー。

どうすれば良いのかも分からないしー、
無難に付き合っていれば、大半の相手の場合、
それほど悪いことはしてこないー。

”憑依された人間が見えるけど、別に救わないー”

そんな生活を、魁人は送り続けていたー。

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「ーーーーそういやさ、”憑依薬”ってどこで手に入るんだー?」

魁人が久しぶりに会った姉とそんな会話を交わすー

今では社会人になって、すっかり大人の女性、という感じになった
姉が「え~?魁人も憑依したいの?」と、苦笑いするー

「いや、そうじゃなくてさー…
 普通に生きてたら、憑依薬の話なんて全然聞かないし、
 俺だって”見えなかったら”気づいてないまま
 生きてると思うしー」

その言葉に、姉は「確かにそうかもねー」と、笑うー。

”姉が憑依されている”そんなことを知った魁人ー。
けれど、物心ついていたころから、姉が憑依されていた以上、
”憑依されている姉”こそ魁人にとって姉さんであり、
憑依される前の姉は、魁人にとっては”ほぼ知らない人”も同然ー。

姉に憑依したおじさんが”誰”なのかは知らないし、
聞くこともしなかったー。

そうやって、魁人は”見える男”として
割り切って生きているー。

姉も今では、魁人が割り切ってくれていることに感謝しながら
そのまま”姉”として生きていたー。

「ーーわたしはー
 ネットの”裏オークション”ってところで入手したけどー…
 入手ルートは人によって異なるんじゃないかなー」

姉の言葉に、魁人は「ふ~ん」と呟くー。

「ー憑依薬撲滅!とかしちゃうわけ?」
姉が苦笑いしながら言うと、魁人は「まさか」と首を横に振るー。

「俺一人が動いたところで、何かできるわけじゃないし、
 別に何もしないよー

 姉さんに対してだって、何もする気はないし」

魁人がそう言うと、
姉は「魁人が弟でよかった」と、笑うー。

「ーでもさー」
姉は、ふと呟くー

「ーー魁人に大切な人が出来たとしてー
 その人が、”憑依”されちゃったりしたら、どうー?」

姉の言葉に、魁人は少しだけ考えるー

確かに、母親と姉は物心ついたころから憑依されているからー、
”姉さんを返せ!”とか、そんな風にはならなかったー

だが、例えばー
彼女が出来たとして、
知り合った時点では”憑依されていなかった”としても、
ある日急に背後に”おじさん”が見えたりするようになったらー…?

今までは
”気づいた時点では既に憑依されていた大切な人”と、
”そこまで親しくなる前に憑依された人”ーー
”そもそも別に親しくない人”
ぐらいしか、魁人は遭遇していないー。

「ーう~ん…それは、この先そういうことがないと
 分からないんじゃないかな」

魁人が苦笑いしながらそう言うと、
姉は「そっかー」と、頷くー

「ーーーーっていうか、ちょっといじわるな質問だなぁ」
魁人はそれだけ言うと、
「ーー俺がもし”憑依なんて許せない”って言いだしたら、姉さんはどうする?」
と、少しいじわるな質問を返してみたー

「ーーーーふふー
 何十年も”お姉ちゃん”やってるとー
 もう、気持ちは本当のお姉ちゃんだしー

 わたしは、何があっても、
 魁人がどんな選択をしても、魁人の味方」

姉の言葉に、魁人は「姉さんが姉さんで本当に良かったよー」と、
少し微笑みながらそのまま歩き出したー

・・・・・・・・・・・・・・・・・

それから半年ー
魁人には、同じ大学に通う彼女が出来たー

さらにそれから1年の月日が流れー
魁人は彼女の麻由里(まゆり)と楽しい日々を過ごしていたー

だがー
ある日ーーー

それまで、麻由里の”背後”に見えなかった”それ”が
見えるようになったー

「ーーーー!」

魁人にはいつものように”見えて”しまったー
麻由里が憑依されてしまったことを示すー
”麻由里の憑依した人間の霊体の姿”がー…

②へ続く

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皆様こんにちは~!
(こんばんは…???)

最近は春を感じる日も多くなりましたネ~!
私は目がかゆい日々を送っています~!

花粉症…は、そこまで酷いわけではないのですが
くしゃみが出たり、目がかゆくなったりは
毎年あるので、辛い季節デス…!

今回のお話は”憑依されている人間”を見ると
その人間に憑依している人が背後霊のように見える…
という力を持った男の人のお話デス~!

”見えてしまう故に”
苦しみながら生きている…そんな感じですネ~!

世の中には知らない方がいいこともある…
そんなテーマから生まれた作品でした~!

次回も楽しみにしていて下さいネ~!