それでも僕は君と共にいたい①~悪の幹部に憑依された彼女~
 作:無名


大切な彼女が、
悪の組織の幹部に憑依されてしまった…!

憑依された彼女を前に、彼氏が下した決断は、
悪の組織側も予想していないものだったー。

悪の組織”ジード”-。
数年前に異次元から出現した存在で、
南極に突如として観測された、時空の裂け目から
この世界へとやってきたー。

世間の混乱を防ぐため、
ジードの存在は最重要機密とされ、
秘密裏に戦いがこの数年間、続けられてきたー。

しかしながら”ジード”の組織力は、圧倒的で、
人類は”ジード”を駆逐することが出来ずにいたー。

「---くそっ…」

そんな、悪の組織・ジードの幹部、ガオスは表情を歪めていたー。
”ジードの悪魔”と呼ばれる残虐な存在として恐れられている彼は、
人類側の”対ジード組織”との戦闘で、不覚を取り、負傷していたー。

「--チッ…俺の身体はもう持たない-…」
毒入りの銃弾を受けて、身体を蝕まれているガオスー。

ガオスの元々の強靭な生命力でなんとかまだ生きているものの、
この肉体が崩壊するのは時間の問題だったー。

”仕方がない”
ガオスは笑みを浮かべるー。

”禁忌の闇魔術を使うしかない”
彼は、そう考えて悪魔のような笑みを浮かべたー

禁忌の闇魔術ー。

それはーー
”憑依”-

他人の身体を乗っ取る、悪魔の秘術ー。

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

異次元から出現した悪の組織・ジードの
存在を知るものは、一般の人間にはいないー

「--ははは、でもよかった、おばあちゃんにも認めて貰えて」

男子大学生の谷原 健司(たにはら けんじ)が車を運転しながら笑うー。

「-おばあちゃん、また健司に会いたいって言ってたよ」
彼女で、女子大生の澤田 唯花(さわだ ゆいか)が、ほほ笑みながら言うー。
心や優しい性格の、穏やかな雰囲気を持つ女性だー。

「--あぁ、また農作業の手伝いもしたいし、顔を出すよー」

仲良し大学生カップルの健司と唯花は、
今日、かねてから健司に会いたがっていた唯花の祖母に
会いに行ったのだったー。

唯花の祖母は、孫の彼氏である健司と会うことが出来て
とても嬉しそうだったし、健司のことを気に入った様子だったー。

一方の健司も、唯花の祖母にかねてから挨拶をしたい、と
言っていて、今日、ようやくお互いが顔を合わせることが出来たのだったー

田舎の山道を走る車ー。
車好きの父から”俺は新しいのを買うから”と、譲り受けた車を
走らせながら、健司は、唯花と楽しそうに雑談をしているー。

健司と唯花は、大学を卒業して、お互い仕事に慣れたら、
結婚することを約束しているほどの間柄だったー。

しかしー

「-----!!!」
健司が、突然急ブレーキを踏んだー。

いきなりのブレーキに、ベルトを身に着けていた唯花も、
身体を大きく揺さぶられるー。

「ど、どうしたの!?」
唯花が心配そうに言うと、
健司は、「なんだあいつ…!」と呟いたー。

健司の車の進行方向にー
”悪魔”と称するにふさわしい、人型の何かが
立っていたのだー

「なにあれ…?」
唯花も戸惑うー。

「---」
田舎の山道で、ここ以外に道はないー。
道を塞ぐようにして仁王立ちしている人型の”何か”を
今一度見つめると、健司は「ちょっと待ってて」と、
シートベルトを外して、唯花にそう声をかけたー。

「--だ、大丈夫なの?」
唯花が心配そうに言うー。

暗くてよく見えないが
進行方向に立っている”人型の何か”は、
まともじゃない気がするー

「---大丈夫さ」
健司はそう言うと、
人型の何かに近づいていくー。

”熊じゃないよな…”
そんな風に思いながら、近づくとー

それはーー
紛れもなく”人間の形をした、人間以外の何か”だったー

「---…!」
健司は表情を歪めるー

目の前に立っているのは、悪の組織ジードの幹部・ガオスだったー。

しかし、一般人である健司は、
悪の組織ジードのことなど知らないし、
そんなものが存在するなど、夢にも思っていないー

「あ、、あの」
健司が声をかけるー。

この時点でもまだ、健司は、
目の前にいる”異様な人物”が、
異次元から来た”悪魔”とも言える存在だとは
夢にも思っていなかったー

着ぐるみを着た人間か何かだと、
そう思っていたのだー。

「---…」
ガオスは、身体から緑色の体液のようなものを流しているー。

顔や、身体のパーツは人間のものと酷似しているがー
人間とは大きく異なる部分も多い”異次元の存在”

「--け、、怪我をされてるんですか?」
健司が言うと、
突然、ガオスが笑みを浮かべて、健司の身体を掴んだ

「--健康そうな人間ー。
 貴様こそ、我が”新しい身体”にふさわしいー」

ガオスが笑みを浮かべたー。
ガオスは、”毒に冒されてまもなく死ぬ運命”を回避すべく、
”禁忌の憑依術で乗っ取る新しい身体”をこの地で
探していたのだー。

「---か、、身体…なにを…!?」
片手で持ちあげられて苦しそうにする健司ー。

「--貴様がそれを知る必要はないー。
 貴様は今から、俺の身体になるのだー」

ガオスの言葉に、
健司は「な、、なんだと…?」と苦しそうに呟いたー

その光景をーー
車の助手席から見ていた唯花は、慌ててシートベルトを外して
走り出したー

少し距離があるため、
”ハッキリ”とは見えなかったが
”人型の何かに、健司が持ちあげられている”ことは分かったー

必死に走る唯花ー

「くくくくくー」
ガオスは片手で掴んだ健司の方に向かって、
目を赤く光らせ始めたー。

”禁忌の魔術”

”他人の身体に憑依し、その身も心も完全に支配する”
その術を発動したのだーー

だがーー

「--やめて~~~~~!!!!!」
唯花が、健司を掴んだガオスに突進したー。

「--ー!?」

「-ぐあっ!」

ガオスの身体が吹き飛ばされて、
健司も悲鳴を上げて、吹き飛ばされるー。

「--はぁっ…はぁっ」
ガオスを突き飛ばした唯花が、荒い息をしながら、
「大丈夫ー?」と、健司の方を見つめたー

健司は、道路にうつ伏せになりながらも顔を上げてー
「だ、、だいじょうーーー」と、言いかけたー

しかしー

「--!!!」
背後からガオスが唯花の頭を掴んだー。

「ゆ、、唯花!」
叫ぶ健司ー。

「--きゃあああああああああああ!」
悲鳴を上げる唯花ー

「--小娘が…」
怒りの形相のガオスー。

「---な、、な、、な、、何なんですか…あなたは…」
泣きながら唯花はガオスの方を見つめるー

すると、ガオスは唯花の顔をじっと凝視して、
無気味な笑みを浮かべたー

「うつくしいー」
とー。

「---!?」

ガオスが、先ほどと同じように目を赤く光らせるー

「--貴様こそ、我が新しい身体にふさわしいー」

「--ひっ」
悲鳴を上げる唯花ー

「や、、、やめろおおおおおおおおおおおお!!!」
叫ぶ健司ー

そしてー
ガオスの身体が光のしずくのようになってー
それが、唯花の身体に吸い込まれたー

「あ、、ぅぅ…あ、、、!」
ビクンビクンと身体を震わせると、その場に崩れ落ちるようにして倒れる唯花ー

ガオスの姿は、既にないー。

健司は”とてもイヤな予感”を感じながらも、
痛む身体を押さえながら立ち上がるー。

「--ゆ、、唯花…」
倒れたままの唯花に近づくー。

「--唯花…!しっかり、、しっかりしろ!」
気を失っている唯花に呼びかける健司ー。

しかしー

唯花が突然目を開いたー

そしてーー

「---くくくくくく」
ゆらりと笑いながら立ち上がる唯花ー

「ゆ、、唯花…?」
健司は震えながら唯花の名前を呼ぶー。

「--唯花?この女の名前か」
唯花が邪悪な笑みを浮かべながらー
いつもより低い声で呟いたー

「ゆ、、、ゆいか…お、、、おい…どうしたんだよ」
健司が言うー。

直前のガオスの発言から、
イヤな予感しかしないー。

「---くくくく この身体は、俺が頂いた」
唯花の声で、唯花を乗っ取ったガオスは、高らかに宣言したー

「そ、、そ、、そんな…お、、おい」
健司は唯花の方を見つめながら
唯花の肩に手を触れたー

「唯花…う、、嘘だよな…?冗談だよな?」
健司が、”信じられない”という表情を浮かべながら
唯花に語り掛けるー。

だがー
それが”嘘”ではない、と身をもって知ることになるー。

唯花の手から電撃のようなものが走り、
健司は乱暴に投げ飛ばされたー

「気安く触れるな!小僧!」
唯花はそう叫ぶと、投げ飛ばれた健司の方に歩いてくるー。

まるで、”モデル”のように歩きながら
健司に近づいてくると、唯花は健司の足を乱暴に踏みつけたー。

「--最初は貴様の身体を使おうと思っていたがー
 気が変わったー
 
 貴様は、いらない」

唯花がクスッと笑うとー
健司を何度も何度も踏みつけてー
その手に、再び電撃を纏わせたー。

「死ね」
彼氏に対して冷徹な表情と言葉を投げかける唯花ー。

「--ゆ、、唯花…!嘘だろ…!?」
叫ぶ健司ー。

健司の頭の中でー
これまでの唯花との思い出が、
駆け巡るようにして、再生されたー

”これが、走馬灯ってやつかー?”
健司は、ガオスに乗っ取られた唯花から
攻撃を受けて死ぬまで、あと数十秒ー
いや、数秒しかないかもしれないタイミングで、
そんな風に思ったー

死の瞬間とは、こんなにも時間の流れがゆっくりに
なるのだろうかー。

そんな風に思いながら、健司は
”なんとか唯花を助ける方法はないか”
”なんとか唯花と一緒にいる方法はないか”
”なんとか死を回避する方法はないか”
この3つを同時に頭の中で計算した。

火事場のクソ力とかなんとかいうやつかー。

これまでの人生で一番頭をフル回転させた気がするー

そしてー
その末に、
死の瞬間に、自分でもよく分からないままー
出した答えはー
ガオスに乗っ取られた唯花にすら、理解できない言葉だったー

「---あ?」
電撃を放ち、健司を殺そうとしていた唯花が首を傾げるー。

「---俺を…!唯花の仲間にしてくれ!」
とー。

「-----ァ?」
唯花の手から電撃が消えるー。

「---くく…くくくくく…はははははははははははっ!」
唯花が笑いだしたー。

いつもの唯花の笑い方ではなく、
明らかに”別人”が中身であることが分かるような笑い方ー。

「---……人間。貴様、今の状況を理解しているのか?」
唯花が凶悪な笑みを浮かべながら言うー。

「-俺は、貴様らが”ジード”と呼ぶ、異次元からやってきた存在だ。
 そして、貴様の女の身体は、今、俺が完全に支配したー。
 いや、身体だけでない。心もだー。

 その俺の仲間になるということはー
 貴様は、”ジード”に入るということなのだぞ?」

唯花の言葉に、健司は
「わ、、わかってる!」と叫んだー。

「---それでもーー」
健司は、乗っ取られて、別人のように悪い笑みを浮かべている唯花を見つめるー

「それでも、、それでも、僕は君と共にいたい!!
 たとえ…たとえ、悪の組織に入ってでも!」
健司が土下座をしながら叫ぶー

「--く、、くくくくく…
 おかしな人間だー。
 いいだろうー。
 ならばついてこいー」

唯花はそう言うと、口笛を吹いて、何かを呼んだー。

紫色の馬のような化け物が現れるー。

「---乗るがいい」
唯花の言葉に、健司はゴクリと唾を飲み込みながら頷くー。

”唯花ー”
健司は、乗っ取られた唯花を見つめながら頷くとー
そのまま馬の魔物に乗りー
唯花と共に”ジード”の本拠地へと向かったー

②へ続く

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

あっという間に冬本番が近づいてきましたネ~!
皆様こんにちは(?)デス!

今回は、悪の組織の幹部に彼女が憑依されてしまい、
それでも彼女の側にいることを選んだ
彼氏の物語デス…!

ちょっとしたRPGゲームとか、ヒーロー番組風(?)な
ファンタジー的な世界観が舞台になっていますが、
私自身があまりヒーロー番組を見ないので、
私の想像で描いています~笑

次回は悪の組織の本拠地を舞台に
色々なことが起きていくので、
ぜひ楽しんで下さい~☆!