きみはきっと俺を許さない②~裏切り~
 作:無名


信じていた彼氏に突然裏切られたー

何も分からぬまま身体を入れ替えられてしまった彼女。

身体を奪い、失踪した彼氏の行方を、彼女は探すー…。

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”佐奈美へ”

通泰の部屋に残された置手紙ー
通泰(佐奈美)は、パニックになりそうになりながら、
その手紙を広げるー

「ど、、どういうことなの!?」
通泰(佐奈美)が佐奈美の口調で、声を出す。
その声には、焦りの色が伺えるー

”佐奈美へー

 俺はきみの身体を奪って姿を消す
 きみはきっと、俺を許さないだろう 
 けれど、どうか分かってほしいー
 君のことが大好きだからこそ、俺はこうするんだ”

手紙を見つめながら、通泰(佐奈美)は、
震えるー

「---……そんな…」
通泰(佐奈美)の目から涙がこぼれるー

「---わたしの身体が目的だったの…?」

彼氏の突然の裏切りー
通泰のことを心から信じて、
心から大好きだった
佐奈美にとっては衝撃的であり、絶望的だったー

手紙はさらに続くー

”俺のことは忘れてくれ
 俺のことは探さないでくれ

 入れ替わりのことは、誰にも喋らないでくれ。
 それがー
 きみを裏切った俺の最後の願いー

 どうせ、誰も信じやしないー
 頭のいい君ならわかるだろう?
 君がこの手紙を誰かに見せて  
 入れ替わっちゃった!って喚いたところでー、
 誰も信じやしないー

 君は”頭がおかしくなった”と思われてしまうー

 だから、そんなことはしないでくれ
  
 ……もっと色々書きたいけど、
 君がもう目を覚ましそうだからー
 
 こんな、焦って書いた文章で悪いけど…
 これで終わりだー。

 きみはきっと俺を許さないー
 でも、それでいいー。

 さよなら”

通泰からの手紙ー
入れ替わったあと、通泰になった佐奈美が
目を覚ます前に書いたのだろうー

動揺しているのか、その字は乱れていたー

「---いや…意味わかんないよ!」
通泰(佐奈美)は手紙を叩きつけて
家から飛び出したー

まだー
まだ、そんなに遠くへは行ってないはずー。

”通泰の身体、すっごく早く走れるなぁ”
男の身体の運動能力に驚きながらも、
通泰(佐奈美)は町を走るー

通泰が何を考えているのかわからないー

最初から身体目的だったならー
それでも…それでも、たとえそうだとしても
本人の口から、そう聞きたいー
何か理由があるならー
何か理由があるならー
それを聞きたいー

「-------」
近くの路地裏から佐奈美(通泰)が、
街中を走る通泰(佐奈美)を見つめていたー

「---この身体は…俺が貰うよ」
佐奈美(通泰)は悲しそうな表情でそう呟いたー

”余命宣告”

”誰だって、死にたくない”

佐奈美(通泰)は、”さよなら”と、心の中で
呟いて、そのまま姿を消したー

「---通泰!」
通泰(佐奈美)が大声で叫ぶ。

「通泰!どこなの!?通泰!?!?」
通泰(佐奈美)の目には涙が浮かんでいるー

男子大学生が、涙を浮かべながら
大声で誰かの名前を叫んでいるー

周囲の通行人たちが何事か、と驚いた様子を見せるー

「---通泰!!!!!!」
通泰(佐奈美)が、路上で泣き崩れてしまうー

どうしてー?
どうして、こんな…

「--大丈夫ですか?」
「何かあったんですか?」
通行人たちが、通泰(佐奈美)に心配そうに声を掛けるー

「い、、いえ…」

夕日を見つめながら通泰(佐奈美)は、涙を拭くー。

「---通泰!」

その声は届かないー
もうー
彼には、届かないー

彼はもう、佐奈美と話す気は”まったくない”のだからー

夜になってもー
佐奈美になった通泰は見つからなかったー

「ーーーおやおや」
背後から老婆が姿を現すー。

通泰に”入れ替わり薬”を授けた老婆だー。

「--あんたの彼氏ー
 やっぱり誘惑に負けたねぇ」
笑う老婆ー

「---…あ、、あなたは…?」
通泰(佐奈美)が戸惑いながら言うー

老婆はほほ笑んだー。

「----あんたの彼氏ー
 2週間前に”余命宣告”を病院で受けたんだよー」

「--”余命宣告”!?」
通泰(佐奈美)が驚くー

「そうさー
 それで、わたしは、あんたの彼氏に
 言ったんだー

 ”彼女と身体を入れ替えればー
  あんたはまだ生きられる”ってね」

老婆の言葉に、
通泰(佐奈美)は震えるー

「--あんたの彼氏、迷ってたみたいだけど、
 結局、人間なんて、自分が可愛いのさー。
 現にこうして、あんたの彼氏は、私が挙げた
 入れ替わり薬を使って、こうしてあんたと身体を入れ替えたー」

通泰(佐奈美)は、いろいろなことが
突然起きすぎて、言葉を失っていたー

最近、通泰が暗かったのはー
”余命宣告”を受けていたからー

確かに、通泰は小さいころから持病があると言っていたー
”たいしたことはないよ”ばかりで、何かはあまり説明してくれなかったけれど、
時々、辛そうだったー

2週間前の病院ー
確かに、通泰は2週間前、病院に行っているー
通泰が持病の定期的な検査に行っていたし、
LINEでどうだったか確認しているから、間違いない。

そして、通泰の様子がおかしくなったのもそのころからだー

「---…どうして…どうして、わたしに教えてくれなかったんだろう…」
通泰(佐奈美)は悲しそうに呟くー

余命宣告を受けたならー
死にたくなくて、わたしの身体が欲しかったならー
一人で悩まないでー
打ち明けてほしかったー。

どうしてもわたしの身体が欲しかったのならー…
言ってくれればーーー

「-----」
夕日に照らされた通泰(佐奈美)が目から涙をこぼすと、
老婆は笑ったー

「あんたは…裏切られたんだよ。可哀そうに」
老婆が、通泰(佐奈美)の肩を叩く。

「---…・…」
通泰(佐奈美)は目から涙をこぼしながら
老婆の方を見たー

「--大好きな彼氏に裏切られてー
 大好きな彼氏に身体を奪われてー
 しかも、余命半年の身体を押し付けられたー

 酷いもんだねぇ」
老婆の言葉に、通泰(佐奈美)は、
泣きながら答えたー

「---あなたは、一体…誰なんですか!?」
とー。

老婆はほほ笑むー

「--さぁねぇ」

「------」
通泰(佐奈美)は、老婆が”答える気はない”と判断して、
そのまま走りだすー

「どこに行くんだい?」
老婆が笑いながら言うー

「---決まってるでしょ」
通泰(佐奈美)が、振り返り、老婆の方を見つめるー

「--通泰のところよ!」
通泰(佐奈美)はそう叫ぶと、涙を拭いて走り出したー

通泰がどこにいるのかは分からないー
でもー
やっぱり、通泰にもう一度会いたいー
入れ替わりのことも含めてー
余命宣告のことも含めてー
全部、本人の口から聞きたいー

「---あんたを裏切った彼氏に、
 もう一度会いたいっていうのかい?」
バカにしたような笑みを浮かべる老婆に対してー
通泰(佐奈美)は頷いたー

「----…馬鹿な娘だ」
老婆は呟くー

だが、通泰(佐奈美)はもう走り出していたー

佐奈美の身体を奪って姿を消した通泰を
見つけ出すためにー

一人残された老婆は、夕日を見つめるー

「これは、復讐ー」

そう、これは復讐ー
”娘”の復讐ー

高校時代、”娘”は、佐奈美と同級生だったー
プライドが高く、お嬢様育ちで負けず嫌いの”娘”は
誰よりも努力して、誰よりも真面目に振舞ってー
何でも手に入れてきたー

だがー
高校時代ー
”負けた”

佐奈美にー

生徒会会長を争う選挙で、負けたー

老婆の”娘”はプライドを砕かれー
それから、おかしくなってしまったー
小さいころから、全てを手に入れて
何もかも勝ってきた”娘”にとって、
敗北が受け入れられなかったー

”娘”はそれから、精神的に病んでしまい、
最後には高校を退学、
今も、引きこもりのような生活を続けているー

その娘の母である老婆はー
”娘”を壊した佐奈美に復讐しようとしていたー

そして、復讐のチャンスをようやく見つけたー

彼氏の通泰が病院で余命宣告を受けたー

その彼氏に入れ替わり薬を渡しー
佐奈美を裏切らせるー

”最高の復讐”の舞台は整ったー

大好きな彼氏に裏切られた上でー
佐奈美は失意のうちに、余命宣告を受けた身体を
押し付けられて、死ぬー

「--逆恨みなのは、分かってるさ」
老婆は呟くー

「でもーーー”我が子”ってのは、一番かわいいもんだろうー?」
老婆は、複雑そうに夕日を見つめながら、そう呟いたー

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

通泰(佐奈美)は、
佐奈美の身体を奪って姿を消した通泰を探していたー

「もう…どこにいるの?」
当然、LINEを送っても返事はくれないし、
当然、電話をしても出てくれないー

「-----」
通泰(佐奈美)は、不安と裏切られた悲しみ、
通泰に対して怒りのような感情をも漢字ながら
途方に暮れていたー

やがてー
何の手掛かりも得られないまま、数週間が経過したー

「------」
通泰(佐奈美)は、通泰として大学に通い始めていたー

色々考えた結果ー
”余命宣告”を受けている身体とは言え、
案外調子がいいし、動くうちは、
通泰として過ごしながら、姿を消した佐奈美(通泰)の手掛かりを
探すー、というのが一番良いと判断したのだー

”男子大学生”として振舞うのは、
結構難しかったー
通泰のことは、いろいろ知っているつもりだったけれど、
いざ、通泰として振舞ってみると、いろいろ分からない部分もあったし、
トイレひとつ取ってみても、かなりの違和感があるー

それでもなんとか、通泰として振舞いながらー
通泰(佐奈美)は、通泰の行方を捜していたー

大学でも何か手掛かりがあるかもしれないし、
もしかしたら急に佐奈美の身体で大学にやってくるかもしれないー

そんな、”わずかな希望”も抱きながらー

けれどー
そんなわずかな希望も薄れていくー

「----」
ある日、通泰(佐奈美)は、
通泰には家族がいないことに気付くー

既に、両親は亡くなっていてー
妹も、病気で亡くしていたー。

「---通泰…」
通泰(佐奈美)は悲しそうに呟くー

付き合い始めて色々なことを話したり、
一緒に遊んだり、たくさんの思い出を作ってきたー

でも、何故だか”家族の話”になると通泰は何も教えてくれなかったー
それはー
”家族がいないから”だったんだー。
と、通泰(佐奈美)は今更ながらに想うー

「あっ!」
通泰(佐奈美)はあることを思い出したー

そう言えばー
通泰がいつも通っていた病院にはー
”通泰の叔父さん”がいたー。
通泰の担当医となって、いつも通泰のことを診察してくれていたし、
通泰の彼女、ということで、佐奈美にもいろいろ、親切にしてくれたり
ちょっとした特別扱いをしてくれたちもしていたー。

「そういえば…病院も行かなくちゃ…」
通泰(佐奈美)は呟くー

通泰になってから”持病”の薬も飲み続けていたが
それももうすぐなくなるー
大体、月1回程度のペースで通泰は定期的に診察や検査を受けていたし、
ちょうどいい機会だー。

”叔父さんに聞いてみれば、何か分かるかもしれない”

もしかしたら”入れ替わり”のことも知っているかもしれないし、
通泰の身体の余命宣告についても、詳しく聞くことができるかもしれないー

そしてーー…
通泰の居場所を知っている可能性だってあるー。

「--そうだ…!叔父さん、何か知ってるかも…?」
通泰(佐奈美)は、”微かな希望”を抱きながら、
部屋に飾られている、通泰と佐奈美が写っている写真を見つめたー

③へ続く

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

第2話でした~!☆

今回も、いつも通り、解体新書様に掲載されるにあたって
私自身も、この作品を①から読み直してみましたが、

”余命宣告”を受けて、
入れ替わりや憑依で助かる道がある状況…に、
もしも直面してしまったらと考えると、
難しいですネ~!

綺麗なことを言うのは簡単ですケド、
もしそういう状況に陥った時に、
どういう選択をしてしまうのか……

考えれば考えるほど、頭の中がプシュ~っと…。

普通に生活できている今の現状で
「他人の身体を奪ってまで生きるなんて!」と言えたとしても、
もしも自分がその立場になってしまったら
同じことが言えるのかどうか…は、実際になってみないと
答えは見つからないですネ~…!

なんて、考えを巡らせつつ、今日はここまでデス~!

お読み下さりありがとうございました~!
次回が最終回ですよ~!