きみはきっと俺を許さない①~余命~
 作:無名


幸せな大学生カップルー

将来は結婚も考えていたふたりー。

だが、ある日、突然、彼は彼女の身体を奪ったー…

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男子大学生の田宮 通泰(たみや みちやす)は、
病院を訪れていたー

「-----本当ですか?」
通泰が表情を歪める。

「ええ。本当です」
担当医は、無情にも、そう答えたー。

「-----ー」
通泰は、言葉を失うー。

「---……」
しばらくの沈黙のあと、通泰は口を開いたー

「--……叔父さん…
 まだ、誰にも言わないでおいて貰えますか」
通泰がやっとの思いで絞り出したその言葉-
担当医である、通泰の叔父さんは、複雑そうな表情で頷いたー

通泰には、小さいころから持病があったー。
その持病の薬を貰い、病院を出る通泰ー

通泰はため息をつくー

”もってあと、半年ですー”

無情な宣告ー
通泰は、震えたー。

通泰が考えるべきことは、この日、変わったー

”これから”ではなく
”残された時間をどう過ごすか”

と、いうことにー。

誰だって、死にたくはないー
通泰もそうだー。

「----………俺は」

悲しそうにそう呟くと、
ふと、スマホが光っていることに気付くー

LINEが届いていたー

”通泰~!どうだった~?”
同じ大学に通う彼女の冬川 佐奈美(ふゆかわ さなみ)ー
いつも元気で明るく、真面目に頑張っている子だー。

知り合ったのは、大学に入ってからだが、
意気投合して、
通泰が初めて”運命の人”と感じたのが
佐奈美だったー。

高校時代には生徒会長も務めたことが
あったのだとか。
小さいころから、真面目にコツコツと努力するタイプで、
性格もとても優しいー。

”--問題なかったよ”

嘘をついたー。
通泰は、彼女に、嘘をついたー

問題はあったー。
それどころかー
余命まで宣告されたのだー

もう、きみといられる時間は、あとわずかしかないー

そうは分かっていながらも、
通泰は、それを伝えることはできなかったー

「--ーー!」
通泰が振り返るー

だが、そこには誰もいなかったー

”気のせいか”
確かに人の気配がした気がするんだがー

そんな風に思いながら
通泰は立ち去って行ったー

「-----」
通泰が感じた気配は気のせいなどではなかったー
怪しげな風貌の老婆が、通泰を見つめていたのだー

老婆は姿を再び現わすと、不気味な笑みを浮かべたー

・・・・・・・・・・・・・・・・

「---」
翌日ー

通泰は、彼女の佐奈美の家に遊びに来ていたー
お互いに、一人暮らしで、よくお互いの家を行き来しているー

「ーーじゃあ、今日はそろそろ帰るよ」
通泰が、持病の薬を飲みながら咳き込むー

「--大丈夫?最近なんだか調子悪そうだけど?」
佐奈美が心配そうに尋ねると、
通泰は、表情を少しだけ歪めて
すぐに笑みを浮かべたー

「はは、大丈夫大丈夫!こんなの小さいころからだし、
 全く問題ないさ」

通泰の言葉に、佐奈美は「でもよかった~」と呟くー

”よかった”のは、検査の結果だー
”なんともなかった”という言葉を聞いて、佐奈美は
心底安心していたー。

「---あぁ」
通泰は、表情を暗くするー

”なんともなかった”のは、嘘だー
本当はーー

”持ってあと半年ー”

親戚のおじさんでもある担当医の言葉が
身に染みったー

「---あ、そうだ!これ見て~!」
佐奈美が嬉しそうに何かを見せて来る。

「今年のクリスマス!ここ行ってみようよ~!」
スマホの画面を見せてくる佐奈美ー
通泰はその画面を見つめるー

今年は、大規模なイルミネーションイベントが
行われるようだー
綺麗なもの、可愛い物ーそういうのが大好きな佐奈美は
毎年イルミネーション見に行きたがるー

付き合って1か月で迎えた最初のクリスマスもー
去年のクリスマスもそうだったー。

今年もー

いやーーー

今年のクリスマスは”もう、ないー”

「---ははは……って、まだ4月だけど!気が早すぎ!」
通泰がそう言うと、佐奈美は「半年なんてあっという間だよ~!」と笑いながら答えたー

半年ー

”持って、あと半年ー”

4月の半年後は、純粋に考えれば10月だー。

12月まで、持たないー

「-----…いきたいな~!いきたいな~!」
佐奈美が駄々をこねているー
いつも穏やかで優しい性格なのだが、
彼氏である通泰の前でだけは、子供っぽい一面を見せるー

通泰は考え抜いた結果ー
頷いたー

「---あぁ、約束するよー」
とー

”果たすことが出来ない約束”を
してしまったー。

通泰は、心を痛めながら、佐奈美の家を出て
自分の家へ向かうー

その時だったー

「----ーーそこのお兄さん」

「--!?」
通泰が振り返ると、そこには、老婆がいたー

「--俺…ですか?」
通泰が警戒しながら、自分を指さすと、老婆は頷いたー

「---そう。あんただ。
 あんた………もうすぐ死ぬんだろう?」

老婆が言うー

通泰は表情を歪めるー

「---わたしには分かる」
老婆の質問に、通泰は返事をせずに、
「俺に何の用ですか?」と、冷静に答えたー

「--ふふふ、いやなに、あんたを助けてあげようと思ってね」
老婆がにっこりとほほ笑んだー。

「---…助ける?」
首を傾げる通泰ー。

老婆は不気味な笑みを浮かべながら呟くー

「--余命半年のあんたが、
 もし、、もしも、これから何十年も生きることのできるチャンスがあるとしたらー?」

老婆の言葉に、通泰は”驚く”

”このおばあさん…何を言って・・・?”

「---…あるんだよ」
老婆は笑みを浮かべながら怪しげな光を取り出したー

”入れ替わりって知ってるかい?”

老婆の言葉は、通泰の想像を絶するものだったー

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

翌日ー

大学の食堂で、カレーライスを食べながら、通泰は
考え事をしていたー

「--ねぇ…?通泰?」
一緒に昼休みを過ごしている彼女の佐奈美が、
首を傾げるー。

通泰は”昨日”のことを思い出すー

”入れ替わり”
老婆は言ったー

彼女の身体を奪えば、あんたはこれから先もずっと生きていくことができるー

とー。

通泰が聞き返すと、老婆は答えたのだー

”あんたの彼女と、身体を入れ替える方法がある”
とー。

「---通泰!!」
佐奈美の言葉に、ようやく我に返った通泰は
「あ、ごめん」と呟くー

「ごめんじゃなくて!朝からずっと考え事してるけど、
 大丈夫!?」
と、佐奈美が心配そうに聞いてきたー

大丈夫ー
大丈夫だけど、大丈夫じゃない

そんな風に思いながらも、通泰は「大丈夫だよ」と答えるー

佐奈美が、「ならいいけど~!」と、ほほ笑む。

この笑顔をもうすぐ見ることができなくなるー
どんなに、
どんなに愛していても
”死んでしまったら”それで終わりだー。

通泰は考えるー

”彼女の身体を奪えば、あんたはこの先も生きていけるよ”

老婆の言葉ー。

どうするべきかー
通泰は、揺らいでいたー

老婆は
”通泰と佐奈美の身体を入れ替えることができる”

そう、言ったのだー

身体を入れ替えればー
確かに、この先も生きることが出来るー

大学を終えると、
通泰は再び老婆と会っていたー。

「--俺を助けようとする目的はなんだ?」
通泰が問いかける。

老婆は頷くー
”わたしゃ、悪い人間じゃないよ”
とー。

「-ーーまぁ、信じるも信じないも、あんた次第さ」
老婆の言葉に、
通泰は、表情を少し険しくしながらも続けたー

「--その薬を飲めば、俺と佐奈美が入れ替わるってことだな」

「あぁ、そうさ」
老婆は笑ったー

「---」
入れ替われば、助かるー

「ーージュースにでも混ぜれば、簡単さ」
老婆は入れ替わり薬の使い方に関して、アドバイスをするー

老婆が言うには入れ替わることのできる組み合わせは
”相手のことをお互いに想っている”組み合わせに限る、とのことだったー
そうしないと、入れ替わりの際に身体が魂に対して拒絶反応を起こしてしまい、
入れ替わりに失敗する可能性がある、とー。

だから、通泰が助かるためには、佐奈美と入れ替わって、
通泰が佐奈美に、佐奈美が通泰にー
という状態を作り出すしかないー

”余命宣告”を受けても、
身体が入れ替われば、
余命宣告から、逃れることができるー

余命宣告を受けたのは
”魂”ではなく、”身体”のほうなのだからー

「---わかった。信じる」
通泰が言うと、
老婆は笑みを浮かべるー

「--いくらだ?」
入れ替わり薬の値段を聞く通泰。

だがー
老婆は首を振ったー

「--わたしの目的にも通じることだからねぇ。
 お代はいらないよー」
とー。

「-----」
通泰はさらに表情を険しくするー

正直
”超”怪しいー。

なんだこのばあさんは?という感じだ。

だがー
それでも通泰はそれに縋ったー。
これがあれば、”死”の運命を変えることができるー

”どうせ死ぬなら”
そんな思いが、通泰にはあったのかもしれないー

いかにも怪しい老婆から
入れ替わり薬を手にした通泰は、
決意したー

・・・・・・・・・・・・・・・

通泰は、考え込んでいたー
ここ数日、ずっと険しい表情ー

佐奈美も、そんな通泰のことを心配していたー

何かー
何か抱え込んでいる様子は、
佐奈美にもよく伝わってくるー

だが、通泰が何を抱え込んでいるのかー。

それは、分からなかったー

「ねぇ、大丈夫…?」
佐奈美の言葉に、通泰は少しだけ笑顔を浮かべて
「大丈夫だよ…」と呟いたー

通泰は、迷っていたー

”入れ替わり薬”を使うべきか、否かー。

「---……」

だがー
佐奈美の笑顔を見てー
通泰は、決断したー

「明日…」
通泰が口を開く。

「え?」
佐奈美が不思議そうな表情を浮かべる。

「明日、俺の家に来れるかな…?
 大事な話があるんだ」

通泰の言葉に、
佐奈美は”え…?”と、不安に思いながらも
「う、、うん…いいよ」
と、頷いたー

何かに悩んでいる様子からの
”明日、大事な話がある”

これは、ただ事ではない、と覚悟しながらー

・・・・・・・・・・・・・・・・・

翌日ー

通泰の家にやってきた佐奈美ー

”もしかしたらー
 別れを告げられるのかもしれないー”

”もしかしたらー
 プロポーズ…?”

良い方向と悪い方向に
色々考えを巡らせながら、
部屋の中に入るー

通泰は、飲み物を用意するー

「----------」

「ーージュースにでも混ぜれば、簡単さ」

老婆の言葉を思い出すー

通泰は、悲しそうに目を瞑ると、
深呼吸して、医師から余命宣告を告げられた時のことを思い出すー。

”きみはきっと俺を許さないー”

でも、それでもー

通泰は、ジュースに”入れ替わり薬”を混ぜたー

そしてー

「----はい、どうぞ」
通泰がジュースを差し出すー

まずは自分が飲むー。
佐奈美は”入れ替わり薬”が入っていることも知らずー
それを飲むー

ぐらっ

「-!?」
佐奈美が、今まで感じたことのないような
”違和感”を感じるー

これまでに感じたことのないような、
異様な感じのめまいー。

「---え…」
佐奈美が、驚いて通泰の方を見ると、
通泰は、笑みを浮かべていたー

・・・・・・・・・・・・・

・・・・・・・・・・・・・・・・・

「う…」
しばらくして、通泰が目を覚ましたー

通泰の部屋ー
そこに、佐奈美の姿がないー

通泰は驚きながら
「あれ!?通泰!?」と叫びー
驚きの表情を浮かべたー

”今…通泰の声が!?”

青ざめた表情で、洗面台の前に向かう通泰ー

そこにはー
当然、通泰の姿がー

だがー
通泰本人は、口に手を当てて、心底驚いていたー

何故ならー

中身が”入れ替わって”いたからー

「---わ、、わたしが…通泰に!?」
通泰(佐奈美)が、口に手を当てながら驚くー

慌てて部屋に戻ると、
そこには、置手紙が置かれていたー

”佐奈美へ”

そう書かれた手紙を見て、通泰(佐奈美)は、
震えることしかできなかったー

②へ続く

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

TS解体新書をご覧の皆様、
おはにちばんわデス…!
(どの時間帯にも対応…☆笑)

前回、解体新書様に作品を掲載させて頂いてから
もう1か月…!
いつも思いますが早いですネ~!

今回のお話は、入れ替わりモノになります~!

前回掲載したお話は、とってもダークなお話でしたが
今回は…!

…今日の①は、入れ替わる部分までが中心で、
まだどのような結末になるかは、お話できませんが
どのようになるのか、次回も楽しみにしていて下さいネ~!

最近も、とても暑い日々が続いているので、
皆様も熱中症に気を付けて下さい!

私は暑いのが苦手なので、
先月も暑いと言っていた気がしますが、
たぶん、来月も同じように、まだまだ暑い暑い言ってると思います~笑