浦島憑依②~困惑~
 作:無名


ある日の下校中に憑依された少女ー。

30年間憑依され続けた彼女からしてみれば
”一瞬”にして、30年間、時間が飛んだような感覚になり、
困惑することしかできなかったー。

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「なにこれ…?」
砂浜で、玉手箱のようなものを開いた
杏菜は混乱していたー。

”お前の身体は、30年間使わせてもらった”

そう、書かれた紙と、写真が
何枚も入っていたのだー。

写真はー
高校時代から、今の40代後半にいたるまでの写真だったー。

「--わたしの身体を30年間…使った?」
震える杏菜ー

意味が分からないー。

そこには”杏菜に30年間憑依していた男”からの
メッセージが入っていたのだー。

あの日、下校中だった杏菜に”憑依薬”を使って
憑依したことー

それから、30年間の間、欲望に満ちた日々を送ったことー

そして、30年間の間の写真が、何枚か、玉手箱の中に入っていたのだー

楽しそうな高校時代ー
メイドカフェで働いている杏菜の写真ー
大学生になった杏菜の写真ー

大学生になった杏菜は、髪を染めてまるで別人のようなー
いかにも男とヤりまくってそうな雰囲気の女になってしまっていたー。

夜の仕事で働き始めた杏菜の写真ー

男と同居して、毎日エッチを繰り返している杏菜の写真ー

30代の杏菜の写真ー

今に至るまでの写真の数々に、杏菜は頭を抱えたー。

”お前の身体、すっげぇ感じやすくてさ、超お気に入りだったんだけど、
 さすがにババアになってきたし、もう限界だと思ってさ。”

玉手箱の底の方に、そう書かれたメモが置かれていたー。

”30年間乗っ取られた気分はどうだ?
 俺には分かんねぇけど、
 すっげぇ長い間夢でも見てたのか、
 それでも一瞬だったのかー
 いつか、会うことがあれば聞かせてくれよな

 じゃ、俺は”次の身体”適当に探すから
 じゃあな。

 一応、そのボディは昨日、お風呂でちゃんと洗っておいたぜ
 感謝しな”

メモは、それで終わっていたー。

杏菜は、砂浜で膝を折るー。

タイムスリップしたわけでもー
別世界に飛ばされたわけでもなくー

自分は”30年間憑依されて乗っ取られていた”

そんな現実を知り、杏菜は愕然としたー。

杏菜はー
”ついさっきまで”優姫と一緒に下校していたー。

杏菜本人からすれば、そんな感覚だー。

”30年間”寝ていたのであれば
夢を見るだろうし
”長い時間の経過”をなんとなく体感できたかもしれないー。

だが、”憑依”により、杏菜本人の意識は完全に眠った状態で、
30年間夢を見ることもなく、何も感じることもなかったー。
”死んでいる”も同然だった-

そのため、杏菜本人からすると
”下校中に突然場面が切り替わって、30年後の知らない場所”に
いたも同然の感覚なのだー

”寝ていた”感じではなく
”パッ”と、場面が切り替わったー
そんな感じだー

「--…うそ…うそ…うそ…」
砂浜で涙を流す杏菜ー。

”30年間も憑依されていた”

そうなれば、
杏菜は、もう”元に戻ることは”できないことを意味しているー

タイムスリップなら、なんとかして元の時代に
戻れたかもしれないし、
異世界転生みたいな感じだったのであれば、
これもまた、元に戻れたかもしれないー

だが、自分が30年間乗っ取られ続けたのだとすればー
もう、”過ぎた時間”は元に戻せないー

自分は40代後半の中年女性として生きていくしかー
ないー、ということになるー

「--ううぅぅぅ…なんで、、どうして…わたし、、わたし…」

30年も経過してしまったとなればー
両親はどうしているのだろうかー。
親友の優姫には、さっき電話が通じたから、健在ではあるのだろうけれどー、
杏菜は激しく憎まれている様子だったー

「30年間、わたし、何してたの…?」
杏菜は泣きながらそう呟くと、
背後から声を掛けられたー

「あの…」
その声に、杏菜が振り返ると、
そこには、可愛らしい女性がいたー
高校生か大学生ぐらいだろうかー。

どことなく30年前の親友・優姫に似ているようなー
そんな、気もしたー。

「----あ、いえ、一人で泣かれていたので…
 どうしたのかな、と…」
その女性は戸惑いながら、
「あ、怪しい者じゃないので、安心してください」と、
手を急に光らせて、何かを表示させたー。

近くの大学の学生証ー
首藤 紗里(すとう さり)と、書かれているー。

「--それ…」
杏菜が、光る手を指さすと、
紗里は一瞬戸惑いながら、「電子学生証です」と、
手の光を消したー。

30年も経過したのだから、技術も発展したー
そういうことだとうかー。

「--何か、あったんですか?」
紗里が心配そうに言うー。
杏菜は戸惑った挙句ー

”何も分からない状況で、このままいるわけにはいかない”
と、玉手箱に入っていたものを見せながら、
紗里に説明することにしたー。

”初対面の人にいきなり話す内容”ではないことは
当然分かっているけれど、
今の杏菜は
いきなり知らない時代に飛ばされて
頼れる人も0、自分がどんな人生を生きて来たのかも分からないという
終わりのような状況だったー。

そのためー
これ以上失うものはない、と判断して
紗里に説明したのだったー。

”声を掛けてきてくれる人”が現れたのは、
杏菜にとって幸運だったと言えるかもしれないー

「---……これ、本当なんですか?」
紗里が、戸惑いながら言うー。

近くのファミレスに移動した杏菜と紗里は、
”杏菜の現状”について話し合っていたー。

杏菜は周囲を見渡すー
30年前もよくあったファミレスのチェーン店。
ここは、30年前と変わらないー

”先週”優姫とファミレスにいった日のことを思い出すー。

実際は30年以上経過しているのだが、
杏菜からすれば”先週”でしかないー。

「--うん…本当なの」
杏菜は言うー。

「--」
紗里は戸惑うー

「あ、ごめんなさい…
 あの…見た目はこうでも、、わたし…
 まだ高校生の気分なので…

 さっき話した通り、わたしからすれば
 いきなり30年飛んだ感じで…」

杏菜は、紗里にそう言い放ったー。

”自分の態度が失礼でないかどうか”心配しての言葉だったー

”外見”は40代後半だがー
”杏菜”は、高校生の時のままー

「---あ、いえ、それは構いませんけど……」
玉手箱の中身を見つめながら、紗里は戸惑いながら
言葉を口にするー。

「--この”憑依してた”って男の人は、誰なんですか?」
紗里の言葉に、杏菜は「わからない」と首を振るー

「わたしもさっきの海沿いで目を覚ましたばかりで、何も…」
杏菜は涙目で言うと、
紗里は、「な、泣かないでください」と、戸惑いながら答えたー。

紗里は、杏菜の話を親身になって聞いてくれたー。
その上で、”良ければわたしの家に来ませんか?”と、
紗里が提案したー。

紗里は、一人暮らしで、ちょうど寂しかったし、
しばらくの間、わたしの家に泊ってもいいですよ、と
提案してくれたのだったー

「------」
杏菜は、そんな紗里の方を見つめるー

”見ず知らずの人にこんな親切にしてくれるなんて…”と、
警戒心を少し出しながらも、微笑む紗里の方を見て、
杏菜は、戸惑いながらも、頷いたー。

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その日から、紗里と杏菜の”共同生活”が始まったー。
紗里の家は”ごく普通”という感じで、
生活スタイルも普通の女子大生のように思えるー

30年後のテクノロジーに驚きながら、杏菜は目を輝かせるー。

けれどー
同時に、自分が”もうそんな年齢じゃない”ことを自覚して、
落ち込むー。

好きだったアイドルグループは既に解散していたー
楽しみにしていた映画は、既にとっくに”過去の作品”になっていたー。
将来、結婚したいと思っていた杏菜は、既に適齢期を過ぎていて
”生涯独身率”に加算される一歩手前の年齢になっていたー

色々な事実が、重いー。

杏菜は、両親や自分に憑依した人間の行方を捜しー
紗里も、暇な時間には、杏菜をサポートしてくれていたー。

だがー
数日後ー

”それ”は起きたー。

紗里の家に、一つの宅配便が届いたのだー。

宛先は、紗里宛てだったがー
”村井様”と、杏菜の名前も下に書かれていたー。

「--これって…」
杏菜が不安そうな表情を浮かべるー。

紗里も不安そうだー。

どうしてー
”紗里の家に杏菜がいる”ことを知っている人物がいるのだろうかー。

「--だ、大学の親友に、村井さんのこと、お話したんです。
 あ、もちろん、親戚繋がりってことにしてありますー

 その子が送って来たのかも…」

紗里はそう言いながらも、とても不安そうだったー

当たり前だー。
”杏菜のように、憑依される”可能性だってあるからだー。

「--……念の為、下がってて」
杏菜がそう言うと、紗里は頷くー。

何が出て来るか分からないー。

そう思いながらー。
送られてきた荷物を開封するとー、

そこにはー

杏菜の両親のー
”葬式”の写真が入っていたー。

”お前の両親は、とっくに死んでるー”

そう、書かれたメモと一緒にー

「そ、、そんな…」
杏菜は困惑するー。

突然の、両親の死ー。
いや、実際は突然じゃなかったのかもしれないー

だが、杏菜からすれば本人の感覚的に”1秒”の間に
30年が一気に経過してー
その間に、両親が死んでしまった、などと言われても、
それを受け入れられるはずもなかったー

杏菜は力なくその場に崩れ落ち、
泣き出してしまうー。

身体は40代後半かもしれないー
でも、杏菜の気持ちは、まだ女子高生のままなのだー

「--お父さん…お母さん…」
杏菜がボタボタと涙を流すのを見て、
紗里は複雑そうな表情を浮かべて、
その場に立ち尽くしたー。

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

あの日ー
”俺”はこの女に憑依したー。

杏菜に憑依していた男は、笑みを浮かべるー。

村井 杏菜ー
どうして”彼女”だったのかー。
そこに、理由はないー。

私怨はないしー
村井杏菜でなければいけない理由もなかったー

ただー
”可愛い子”がそこにいたー

それだけのことだー

”誰でも”よかったー。
可愛い女子高生であれば、誰でもー。

美味しそうなパンを食べるのに、理由なんてないー
”おいしい”から食べるだけだー。
美味しければ、どのパンだっていいー。

それと、同じだー
可愛ければ、誰でも、よかったー。

あの日ー

「--ねぇ、そういえば、杏菜、来週なんだけどさ」
親友の優姫と話していた杏菜にー

”俺”は憑依したー

「あぅっ…!」
この女は、とても可愛い声を出したー

それだけでゾクッとしたー

「え?杏菜…大丈夫?」
親友の優姫が”俺”になった杏菜にそう聞いたー

「--え、、あ、うん、大丈夫、大丈夫ー」
俺が”杏菜”として初めて言葉を口にしたのはその時だったー

”俺の口”からこんな声が出ているー
その事実に、鳥肌が立つほど興奮したー

いいやー
実際に杏菜の身体は鳥肌を立たせていたー。

その日からー
俺は、村井杏菜になったのだー

”村井杏菜の身体”は、
”俺”との付き合いの方が長いー。

何せ、この女本人は、高校生の時までー
俺は”30年”この身体をしゃぶりつくしたのだからー。

「--何で…!?なんで!?」
親友の優姫を”裏切った日”の時のことを思い出すー。

「--なんでって?わたしのほうが魅力的だからでしょ♡ ふふ」
優姫の”彼氏”を、杏菜の身体を使って誘惑してー
奪い取ったー。

親友を裏切る悪女になるのは、本当に楽しかったしー
興奮したー。

高校卒業後は、実家を飛び出して、一人になって、
エロ三昧の日々を過ごしたー

喘ぐ杏菜は最高だったー。
若さを武器に、男遊びを繰り返したー。

「---」
杏菜に憑依していた男は、杏菜として過ごした30年間を振り返り、
笑みを浮かべたー。

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それからも、挑発的なメッセージが
杏菜に憑依していた男から届き続けたー。

乗っ取られていた杏菜の”空白の30年間”の間に
起きた出来事を記したものやー
中には、杏菜を揶揄うようなものー
そして、杏菜を匿っている紗里にも危害を加える、というようなことまで書かれていたー。

そんな状況が続きー
杏菜は決断したー。

「--短い間だったけど、ありがとう」
杏菜が頭を下げるー

「え?」
戸惑う紗里ー。

杏菜は”これ以上あなたに迷惑をかけることは出来ないから…”
と、悲しそうに呟いてから、意を決して呟いたー。

「-わたし、こいつを絶対許さないー」

”匿名”で紗里の家に荷物を送ってきている人物ー。

この男が、杏菜に憑依していた男であることは
間違いないー。

杏菜は決意するー。

「--わたしを馬鹿にして、面白がってるつもりなんだろうけど…
 そうはいかないから…!」

自分に憑依していたこの男をー
一瞬にして杏菜の30年を奪ったこの男を、絶対に許さないー、

とー。

③へ続く

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第2話でした~!☆

今回もいつも通り、解体新書様に掲載されるにあたって、
作品を読み返してみましたが

いきなり30年も失って、
色々なものが奪われて、壊されていて…
もう、どう足掻いても、元通りになることはない…

…という作中の状況は、本当に恐ろしいですネ~…!

最終回では、どのようなことが起きるのか、
30年という長すぎる時間を奪われてしまった彼女には
どんな未来が待ち受けているのか、ぜひ見届けてみてください~!

今日もありがとうございました!!