後輩が皮にされた②~不穏~
 作:無名


演劇部の後輩が、”皮”にされて乗っ取られたー
下校中にそんな場面を確かに目撃してしまった彼ー。

しかし、その翌日ー
”後輩”の行動は一見すると普通で…!?

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「--沼澤さん、昨日、何かあった?」
修平は、後輩の姫奈に対して
直接、そう問いただしたー。

「---え」
姫奈は一瞬驚いたような顔を浮かべると、

「--ふふっ」
と、笑ったー

修平はゴクリと唾を飲み込むー

昨日の下校中に見た光景を、修平は
何度も頭の中で思い出すー。

姫奈が、悲鳴をあげていて、
男が、姫奈をまるで”着ぐるみ”のように、着込んで
姫奈を乗っ取ったー

そんな、光景を、だー。

「--ー夜にくしゃみが妙にたくさん出たぐらい…ですかね?」
姫奈が頬に指を当てながらそう、返事をしたー

「--へ?」
修平は戸惑うー

「---そのぐらいですね~」
姫奈の笑顔ー

修平は、戸惑いながらも、
姫奈の「急にどうしたんですか?」の言葉に戸惑うー

「え??あ、、いや、、ほら、
 なんか元気無さそうに見えたから!
 僕の気のせいならいいんだ」

修平が慌てた様子で言うと、
部長の莉菜子が、”じゃあ、台本の修正も踏まえた、シーン6の練習をー”と
今日の練習について説明し始めたー。

「--ーー」
練習中も、姫奈の様子に異変はないー。
修平は、姫奈のほうをじーっと見つめていたが、
特に、何も異変がないのだー。

それでもー
”昨日の光景は僕の幻覚だった”と
無理やり自分を納得させるのは、かなり厳しいのも事実だったー

確かに、自分の目と耳で、
姫奈が謎の男に皮のような状態にされた挙句に
その男が皮になった姫奈を着こみ、
乗っ取る場面をこの目で確かに目撃したのだからー。

「---…へへへ どうしたんすか?沼澤さんばかり見つめて」

「ギクゥ!」

修平に話しかけてきたのは、後輩の満田ー

「--ま、ま、満田くん!僕は別に」
修平が慌てた様子で言うと、
満田は笑みを浮かべながら
「いいすよ、別に」と、呟いたー

「俺、先輩と沼澤さんのこと応援してますから」
と、つけ加える満田ー。

「--あ、、いや、、そういうわけじゃなくて…」
修平は確かに、姫奈のことをいい子だとは思っているがー
それが恋愛感情なのかは分からないし、
少なくともそういう目で見たことはあまりなかったかもしれないー

好きか嫌いかの2択なら好き、ではあるものの、
姫奈自身と特別深い関係、というわけではないー

「---ちょ、、トイレ!」
修平は、恥ずかしさのあまり、満田から逃げ出しがてら
演劇部の部室から飛び出し、トイレに向かったー

「はぁ~~…変なことを考えるな、僕」
修平はそう言いながら廊下を歩くー

既に、日は沈み、薄暗くなった校舎ー。

「---沼澤さん本人が、何もないって言ってるんだから
 それでいいじゃないか」

修平は、そう呟きながら
深呼吸をするー

あまりにショッキングな光景だったからか、
どうして昨日見た光景を忘れることができないー

けれどもー
昨日の夜にやり取りしたLINEも、今日、学校での姫奈の振る舞いにも
何もおかしなところはないー。

修平が勝手にそう思い込んでいるだけではなく、
後輩の満田も、そう言っているのだー。

だからーーー

「--!?!?」
突然、修平は、グイッと背後から引っ張られてー
そして、何が起きたのか分からないまま
近くの壁に叩きつけられたー

「---これ以上、余計なこと探るんじゃねぇぞ」

「--ひっ!?!?!?」
修平を引っ張り、壁に叩きつけて壁ドンしたのはー
後輩の姫奈だったー

「---ぬ、、ぬま、、ぬ、、、ぬまざ、、」
あまりの恐怖に言葉を失ってしまう修平ー

修平を壁ドンした状態で、姫奈が
狂気的な目で修平を見つめるー

「--ーいいか?これは”警告”だー
 ”普通”にしてろー
 余計なことを知ろうとするな。

 --そうすりゃ”俺”も黙っててやる」

姫奈の姿ー
姫奈の声ー

だがー
行動や表情が、まるで、別人ー

「ぬ、、、沼澤さん、、も、、もしかして、、昨日…」
修平が震えながらそう言い放とうとすると、
突然、姫奈がにこっと、笑ったー

「--ふふ、驚きました?」

「---え、、、え…」
唖然とする修平。
何が起きているのか分からないー

「-わたしの”演技”
 どうでしたか~?」

姫奈の言葉に
修平は「え…演技…?」と震えながら呟くー。

「--ふふ、そうですよ~!
 驚きましたか?」

姫奈の笑みー

修平は「お、、お、、驚くに決まってるじゃないか!」と、
少し顔を赤らめながら叫んだー

「-ふふ♪やった!
 先輩を騙せるぐらいには
 わたしも演技が上手になったってことですね!」

姫奈は嬉しそうにポン!と手を叩くと、
そのまま「あ、わたしもお手洗いに行こうと思って部室から出て来たんです」と、
笑いながら説明したー

「--そ、、そっか、、、え、、演技かぁ…」
修平は放心状態でそう呟くとー
言葉を続けたー

「--沼澤さんが、”誰かに乗っ取られて”
 僕を脅しに来たのかと思ったよ」

修平はー
”探る意味”でも、そう呟いたー

「---ふふっ、そんなことあるわけないじゃないですか~」
姫奈は「先輩ってば~!」と言いながら、
「あ、トイレの邪魔してごめんなさい」と、女子トイレの方に
向かって立ち去って行こうとするー。

「----”普通”が一番ですよ」
姫奈は立ち止まると、そう呟いたー

「え…?」
修平が戸惑うー

だが、姫奈は振り返ることなく、
女子トイレの扉を開いて、
そのまま中へと入っていったー

・・・・・・・・・・・・・・・・・

部室に戻る修平ー

姫奈も少ししてから戻って来たー

なんだか、少し顔が赤くなっているような気がしたしー
髪が少し乱れているような気がしたがー
特に突っ込まなかったー

「---」
姫奈の方を再び見つめる修平ー

”さっきの”はーーー

あの”警告”はーーー

「---」
本当に”演技”なのだろうかー、
と修平は思ってしまうー。

あの時の姫奈の表情は、本気で恐怖を感じるものだったー
けれどー
今日1日の振る舞いは、一見普通に見えるし、
少なくとも、昨日、修平が目撃したように
”男”が姫奈を乗っ取っているのならー
ここまで本人として振舞うことはできないはずだー

「--先輩!」
姫奈の声がしたー

「-!」

「--わたしたちのシーンの順番ですよ!」
姫奈が頬を膨らませながら言うー

「あ、、あぁ、、」
修平は、そう返事をすると、
”今はとにかく文化祭の練習だ”と
自分で自分に言い聞かせたー

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

その日の練習が終わったー

部長の莉菜子が修平を呼び止めるー。

「--ねぇ、今日、なんだか顔色悪かったけど、大丈夫?」
莉菜子の言葉に、
修平は「ま、、まぁ、、、」と返事をするー

莉菜子も修平と同じ2年生であるために、
よく話をする間柄だー。

「---」
修平は迷った挙句ー
莉菜子に尋ねるー

「---…沼澤さんの様子に、おかしなところはなかった?」
とー。

「--え?なんで?」
不思議そうにする莉菜子ー

莉菜子は”口が堅い”タイプの女子で、
お姉さん的存在の信頼できる子だー。

修平とは中学も一緒だったため、その性格はよく知っているー。

だがーー
それでも、”あまり変な話”をするのは良くないー

「あ、いやー、なんとなく…」
修平が言うー

莉菜子は不思議そうに首を傾げながら
「特に何も…?
 まぁ~今日はトイレが多かったかな~ ぐらい?」
と、答えたー

”トイレが近い”
そんな日は誰にだってあるだろうー

「ーーそっか。いや、ならいいんだ」
修平はため息をつきながら部室の外に出て、
そのまま帰路についたー。

さっきのあれはーー
”本当の警告”なのかー?
それとも”演技”なのかー?

どうしても、気になってしまうー

もしー
もしも、
姫奈があの時見た光景の通り
”何か”に乗っ取られているのだとしたらー

「---あ」

「---あ」

修平が下校しているとー
近くの自販機で、コーヒーを飲んでいる姫奈と目があったー

「---あ…え???あ、、、先輩!」
姫奈がコーヒーの缶をチラチラ見ながら
慌ててそれをゴミ箱に捨てるー

「-え??いや、べ、別に、コーヒー飲んでてもいいけど!?」
修平が慌てて言うと、
姫奈は「あ、は、はい、そうですよね」と苦笑いしたー

先に帰ったはずの姫奈と偶然鉢合わせになった
修平は、姫奈と共に帰路を歩くー

「---それにしても、沼澤さんがコーヒー飲むってイメージなかったなぁ~」
修平が”探る”意味でも言うー

「--ふふ、そうですよね。
 でも、わたし、好きなので、こう、、こっそりと」
姫奈が笑うー

「--別に何が好きでもいいと思うよ。お酒以外は」

「--お酒は確かに、わたしたちの年齢じゃ、アウトですもんね~」
笑う姫奈は、”やはり”いつも通りに見えるー

「---」
修平は、姫奈の方を見ながら思うー

”もしー
 沼澤さんが誰かに乗っ取られているならー
 僕が探っていることにも感づかれているかもしれないー”

「--ーいいか?これは”警告”だー
 ”普通”にしてろー
 余計なことを知ろうとするな。
 --そうすりゃ”俺”も黙っててやる」

姫奈のさっきの言葉を思い出すー

”普通に”

「--ー料理って”少し中身が違う”と、
 すぐに分かりますよね」

「--え?」
修平が姫奈の方を見ると、
姫奈が歩きながら微笑んだー

「ーー例えばレストランの料理で、
 コストを削減するために、材料を変えたりすれば
 見た目は同じでも、いつもその料理を食べている人は
 気が付くと思うんです。

 ”今までの中身”ではなく
 ”違う中身”に変わったーって。」

「--え??うん、、まぁ」
修平は、姫奈の話の意図が分からず、戸惑うー。

「--でも」
と、姫奈がクスッと笑ったー

「--もしーーー
 ”中身が変わっても”
 ”同じ味”を出せるとしたらー?

 今まで料理に使っていた素材とは全く違う素材が
 中に入っているのに、
 ”同じ味”を出せるとしたらー?」

姫奈が低い声で呟くー

「--え…あ、、
 だ、、誰も気づかないー」

修平がそう答えると
姫奈はにこっと笑ってー

「そうです!さすが先輩!」
と、微笑んだー

「--お料理の”中身”が変わっても、
 ”前と同じ味”が出るなら、
 周囲からは”中身が変わった”ことは分からないんですー

 誰かが”指摘”しない限りー ね。

 でも、誰かが指摘しちゃうと
 中身が変わったことに周囲が気づいてしまうー。

 お店も、お客さんも、
 互いに嫌な気持ちをすることになるー

 ねー?

 ”中身”が変わっても、”味”が同じならー
 ”指摘”さえ、しなければ、誰も気づかないんですよ。

 みんなが幸せに過ごせるー」

姫奈がそう呟くとー
にっこりと笑ったー

「--余計な指摘って、罪ですよね。
 知らなければ幸せなことが、この世界にはたくさんあるー
 
 そう思いませんか?先輩」

修平は、姫奈の意図をようやく理解したー

”こいつ…”

姫奈を乗っ取った男は、おそらく
”姫奈の記憶”を受け継いでいるー
だから、姫奈そのものとして振舞うことが出来るー

そして、この男は、
目的は分からないが、姫奈として
”普通に生活すること”を望んでいるー

その上で、修平が姫奈に違和感を抱いていることに
気づいているー

だからー
遠回しに警告しているのだー

”お前が余計なことをしなければ
 みんな幸せに過ごせる”

とー。

「ーーー先輩。
 余計な指摘は罪

 で・す・よ・ね?」

脅すような口調に聞こえたー

「---あ、、、、うん…沼澤さんの言う通りー」
修平は、引きつった笑顔でそう言うと、
駅の前に到着したー

姫奈はいつも通学にバスを使っていて、
ここでお別れだー。

「--じゃあ、先輩、また明日!
 急に難しい話して、ごめんなさい!」

微笑む姫奈ー

手を振る姫奈に修平は手を振りー
姫奈はちょうどやってきていたバスの中に姿を消したー

だが、修平の震えは、いつまでも止まらなかったー

いつまでもー

③へ続く

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

第2話でした~!
引き続き、不穏な雰囲気が続いていますネ…!

今回、解体新書様に掲載されるにあたり、
私もいつも通り、読み返してみましたが、
もしも私が修平くんの立場だったら
”皮”にされる場面を
目撃してしまっても、
そんなことまさか現実で起きるとは思いませんし、
やっぱりなかなか…
こうなっちゃうかもしれませんネ…

乗っ取られた子が、”ふつう”に振る舞ってくると
それはそれでとっても厄介デス…!

いよいよ次回が最終回!
どんな結末を迎えるのか、楽しみにしていてください~!

今日もご覧くださりありがとうございました!