大名と町娘②~生活の変化~
 作:無名


入れ替わってしまった大名と町娘。

生活環境の変化に戸惑いながら
ふたりが選ぶ道は…?

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「----」

夜ー

小夜になってしまった雪之丞は、
家を飛び出し、
夜道を走っていたー

「--儂がこのような小娘に」
小夜(雪之丞)が不快そうにつぶやくー

口から出るのは、可愛い娘の声ー

目が覚めて、小夜になっていることに気づいた雪之丞は、
”小夜のフリ”をして、夜まで過ごしたー

そして夜、
佐吉が立ち去り、父親を寝かしつけたタイミングで、
宿場を飛び出したー。

「---儂は帯刀 雪之丞ぞ」
小夜の声で威圧するように言っても、全く威圧感がないー

「--まずは急ぎ城に戻らねば」
小夜(雪之丞)は不安を覚えていたー

自分が小夜になっていて、
雪之丞…つまり、自分の身体があの場所になかったということは
この小夜という小娘が、自分になっている可能性が高い。

佐吉とかいう”反逆者”に聞いたところ、
雪之丞は倒れて、家来たちが慌てて城に連れ帰ったー
とのことだったー

と、なればー

「--ええい!鬱陶しい!」
小夜(雪之丞)が自分の髪や着物に腹を立てて
髪をイライラした様子で触るーー

「--あの宿場の者どもは全員死罪だ」
小夜(雪之丞)は鬼のような形相でそう呟いたー

もうすぐ、雪之丞の城が見えて来るー

どう、説明するべきだろうか。
”入れ替わってしまった”などと言っても、
斬り捨てられてしまう可能性があるー。

自分になった小夜が、どのようなふるまいを
しているかもわからないー

「--ここは、慎重にーー」

「--へへ」

ーー!?!?

小夜(雪之丞)が振り返ると、
そこにはガラの悪い男がいたー

いかにも、ゴロツキという感じの男だー。

「--いい女じゃねぇか」
男が近寄って来るー

小夜(雪之丞)は「!」と瞬時に
自分が盗賊や山賊の類に絡まれたことを察するー。

「---」
小夜(雪之丞)は咄嗟に男の反対側に向かってー
歩き出すー

つまり、何も会話をせずに逃げ出し始めたー

だがー
茂みから、別の男が二人ほど出てきて、
小夜(雪之丞)は盗賊に囲まれてしまったー

「へへへ、今夜は最高だぜ」
盗賊頭の男が言う。

「---く、、、く…」
刀に手を掛けるポーズをとる小夜(雪之丞)-

だがー
小夜が刀を持っているはずなどないー

「--!?」
小夜(雪之丞)は舌打ちするー

「はははははははははっ!」
盗賊たち3人が笑うー

「--なんだぁそれは?
 武士サマの真似事か~??」
盗賊の一人が揶揄う様にして言う。

「---、、く」
小夜(雪之丞)は表情を歪めた。

そして、堂々とした様子で叫ぶー

「儂は、帯刀 雪之丞であるぞ!」
とー

盗賊3人が顔を見合わせたー

数秒後にーー
盗賊たちは大笑いし始めたー

「ぐははははははははは!
 お嬢ちゃん、もっとましな嘘をつくんだな」

「へへへへ、俺たちと遊ぼうぜぇ」

盗賊たちが、小夜(雪之丞)の身体に手を振れるー

胸を触りー
髪を触りー
着物を脱がせようとしてくる盗賊たちー

「やめよ!無礼であるぞ!!貴様ら!」
小夜(雪之丞)が叫ぶー

雪之丞本人の身体であれば
このような者ども、すぐに”力”でねじ伏せることもできるし
そもそも雪之丞のような立場の高い人間を
こういう盗賊どもは襲ってこないだろうー

「--ごろつきどもが!」
小夜(雪之丞)は、飛び跳ねると、
盗賊の一人に蹴りを食らわせるー

町娘とは思えない反撃に盗賊たちが殺気をみなぎらせるー。

「--儂が相手ぞ!」
小夜(雪之丞)が叫び、
蹴りを食らわせたり、軽い身のこなしで、
小夜の身体を操りー
盗賊たちを蹴散らしていくー

しかしー

「---!」
小夜の身体はー
思った以上に非力だったー

足を振り上げた際に転倒して、
そのまま立ち上がれなくなってしまうー

「へへへ、気の強い女だぜ」
盗賊頭が近づいてくるー。

他の盗賊たちが小夜(雪之丞)に群がって
胸を触りー
足を触りー
キスをしてー
体中のあちこちを触り始めるー

「や、、やめろ!!!やめろ!!!あぁぁぁうぁ♡」
必死にもがく小夜(雪之丞)-

いつしか、小夜(雪之丞)の叫びはー
”たすけて”という命乞いのものに変わっていたー

「--やめろ!」
声が響いたー

盗賊たちが振り返るー

そこにはー
小夜と同じ町で暮らす佐吉の姿があったー

「ーー小夜さんに手を出すな!」
そう言うと、佐吉は盗賊たちと戦いを始めるー

ボロボロになりながらも、盗賊を撃退した佐吉はーー
乱れた格好のまま、震えてうずくまっている小夜(雪之丞)の
ほうに駆け寄ったー

「小夜さん!大丈夫ですか?」
佐吉が顔面から血を流しながら言うー

「--、、、、、う、、うるさいわ!寄るでない!」
小夜(雪之丞)は咄嗟にそう叫ぶー

夜中に宿場から飛び出した小夜を
佐吉は心配して追いかけてきていたのだー。

小夜(雪之丞)は、そんな佐吉の優しさに戸惑うと共に、
自分が盗賊に襲われたぐらいでこんな風になってしまうことに
強くショックを受けていたー

「--小夜さん、源左衛門さんも心配してるから、
 早く、帰ろう」
佐吉が小夜(雪之丞)に手を差し伸べるー

小夜(雪之丞)は考え抜いた末に、佐吉の手を掴んだー

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

小夜と雪之丞が入れ替わってから数日が経過した

「--よくやった」
雪之丞(小夜)は、”雪之丞”としての
振る舞いを続けているー

「--ははっ」
家臣が頭を下げるー

雪之丞になった小夜は、
自分が雪之丞になったことを”チャンス”ととらえたー。

”これでお父様をー佐吉さんをーみんなの
 生活が少しでもよくなればー”

雪之丞になった小夜は、
身体や生活に不慣れな状況ながらも、
雪之丞としての振る舞いを続け、
”改革”を進めようとしていたー。

独占していた薬も昨日、解放したー

「どうかお父様…ご無事でいてください」

夜ー
城から月を見上げる雪之丞(小夜)-。

”少しでも、みんなの暮らしが良くなればー”
小夜はそんな風に考えていたー

”自分の身体は死んだ”
小夜は、家臣の磯部の報告から、そう思っていたー

もしも、自分と同じように、雪之丞が小夜の身体になっているのであれば
あの殿様が黙っているはずがないし、
自分は斬られたから、仮に入れ替わっていたとしても、
小夜になった雪之丞は既に死んでいるということなのだろう。

「------わたし……頑張ります」
雪之丞(小夜)は、夜空を見上げながら呟くー。

そしてー
その日から、雪之丞になった小夜の改革はさらに進むー

民のためー
みんなのためー

雪之丞の”独裁”スタイルを一気に改革し、
”民のことを第1に考える”スタイルに変貌させたー。

「--殿…」

ある日、家臣の磯部が呟いたー

「最近の殿は、まるで”別人”のようでございますな」
とー。

「--さ、、左様か」
雪之丞(小夜)は戸惑うー

”ばれたら殺される”

そう、思っているからだー。

「-----………鋼管刀(こうかんとう)」
磯部が呟くー。

「?」
雪之丞(小夜)が振り返ると、
「あの日、殿様が町娘を斬った刀ー」
と、磯部は呟いた。

雪之丞は名刀や妖刀の類が好きで、集めていたー。

あの日ー
入れ替わった日に小夜を斬った刀はー
その日、初めて帯刀していた、「鋼管刀」というものだったー。

「--その刀がどうかしまし、、、したのか?」
雪之丞(小夜)が聞くと、
磯部は少し考えたあとに、「いえ…」と首を振った。

「--実はーーー
 あの日、殿がお斬りになられた娘が、生きていることがわかりました」
磯部が言うー

「えっ」
雪之丞(小夜)が思わず声をあげるー

「---そ、、それで、今は、どうしているのだ?」
雪之丞としての振る舞いを忘れないように、慎重に言葉を選ぶー

「はっ」
磯部は頭を下げながら「普通に宿場で暮らしているようでございます」と答えたー

「--え」
雪之丞(小夜)は戸惑うー

自分は、雪之丞になったー
でも、小夜は小夜として暮らしているー?

どういうことー?

雪之丞の性格から、雪之丞が小夜になったのなら
そのまま黙っているはずがない、と小夜は考えていた

もし、雪之丞が小夜の身体になったのに
何も言ってこない理由としてはいくつか考えられるー。

ひとつは
「雪之丞としての記憶を失っていること」

ふたつめは
「動けるような状態ではない怪我を負っていること」

3つめは
「町娘という身分ではこの城にたどり着けないこと」

そのぐらいだろうか。

「普通に暮らしている…?」
雪之丞(小夜)が呟くと、

「--えぇ。そのようでございます。
 殿がお斬りになられたのにも関わらず、
 ごく普通の、暮らしているようでございます」
磯部は、そう答えたー。

そうなると、1つめか3つめの理由で
小夜になった雪之丞は何も言ってこないのだろうかー。

それともーーー

「--失礼いたします」
磯部が、雪之丞(小夜)に報告を終えると、
頭を下げて廊下に出るー

妖刀・鋼管刀ー

”斬った相手と身体を入れ変える力を持つ刀だ。

まさに”妖刀”と呼ぶにふさわしいー。

磯部は、雪之丞の異変に気付き、
徹底的に色々なことを調べ尽くした結果ー
あの日、町娘を斬り捨てた刀により
”入れ替わり”が起きているであろうことを突き止めたー

小夜が斬られたのに回復したのも
妖刀・鋼管刀の力によるものだー。

だがーーー
磯部はあえてそれを黙っていたー。

磯部も、雪之丞の暴君ぶりを苦々しく思っていたのだー

いやー半分以上の家臣はそうだー。
下級の役人や武士は、町人に威張り散らして喜んでいるが、
雪之丞の近くにいるような磯部ら家臣は、
雪之丞を苦々しく思っていたー

だが、今は違う。
雪之丞になった小夜は、”苦しい暮らし”を知っているからこそー
民を想う路線で色々と指示をしているー

”小夜という小娘が殿を演じていてくれたほうがいい”
磯部はそう判断したのだ。

そして、それを支えていこう、ともー。

「---殿がなぜ、あの町娘として生活しているのかは分からぬが」
磯部はそう呟いたー

雪之丞が、小夜として生活を続けている理由が分からぬー。
近いうちに、確かめてみる必要があるー

磯部は、そう考えていたー

一方ー
雪之丞(小夜)は、城の最上階から外に出て、
外を見つめていたー

見晴らしの良い景色ー
こんな壮観ともいえる景色を見たのははじめてだー。

雪之丞になってからは、
自分がひとつ命令をするだけで、世の中が変わっていくー

より良い方向に、世の中がー。

「---気持ちいいー」
外から流れ込んでくる風が気持ちいのかー

それともー
己の権力が気持ちいいのかー

「---」
それよりー、と小夜は思う。

”小夜の身体になった雪之丞”が普通に生活している、という
磯部の言葉が引っ掛かった小夜は、
近いうちに宿場に行き、”自分の身体”の様子を確認するつもりだったー

今すぐに元に戻るわけにはいかないー
せっかく、雪之丞としての権力を手にしたのだから、
なんとか、みんなの暮らしを少しでも良くしたいー

でもー
父の源左衛門や、佐吉さんのことは気になる、と
雪之丞(小夜)は、自分の住んでいた宿場を見に行く決意を固めたー

・・・・・・・・・

・・・・・・・・・・・・・

雪が降っているーーー

「----!」
宿場にお忍びでやってきた雪之丞(小夜)は瞳を震わせたー。

小夜(雪之丞)が嬉しそうに佐吉と抱き合っているー。

嬉しそうにー
源左衛門と話しているー

嬉しそうにーーーー
みんなとーーー

「-----------」
雪之丞(小夜)はその光景を見ただけで、
宿場から立ち去ったー

小夜の中には、
激しい嫉妬のような、言葉には言い表せぬ感情が
渦巻き始めていたー

③へ続く


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コメント

入れ替わったことによって
立場が変わり、お互いの気持ちにも変化が…!

今回も、いつも通り、
解体新書様に掲載されるにあたって、
「大名と町娘」も読み返してみました!

前回のコメントでも書いた通り、
私の中で結構印象に残っていた作品なので、
大体展開は覚えていましたが、
時が経てば経つほど、私自身の作品でも、
何だか「読者気分」になれるのは
不思議な感覚ですネ…!

何十年もしてから読めば、
完全に読者気分になれたりするかもしれません(笑)

…お話が逸れましたが次回が最終回になります~!☆
ぜひお楽しみください~!