「どきどき表裏不同《Ver.2》」 (この作品を怪人福助氏に捧ぐ) |
5.スーツのヒミツ!? 作:貴人福助 日本語訳:よしおか、夏目彩香 |
わたしは店の外に出ると近くのコーヒーショップに入った。 こんな気持ちでコーヒーショップに行きたくは無かったのに…… もっと素敵な姿で優雅にコーヒーを飲みたかった。 でも、とにかくどこかへ入って気持ちを落ちつける必要があった。 わたしは窓際の席に座って、店員が持ってきたキャラメル・マキアートを一口飲んだ。 普段ならこんなコーヒーはほとんど頼まない。 だけど、今のわたしの姿にクリームをホイップしたマキアートくらいは頼んでもおかしくないんじゃないかなと思っただけだ。 私は慎重にコーヒーを手に持って、また一口くちにした。 そしてわざと小指を立てて、ポーズをとりながら飲んだ。 前から女装をしていたときには、そんな風にコーヒーカップを持っていた。 そのおかげで、女装をやめた後もしばらくそのようにコーヒーカップを持って飲んだので周りの女性たちから変な目で見られたことがあった。 しかし、今は? 全然そんなことはないだろう。 ふと窓の外の風景を見てると、窓にぼんやりと今の私の姿が写っていることに気づいた。 私は視線を静かにガラスに映った自分の姿に合わせて、その姿をチェックした。 両手でコーヒーカップを握っている姿がかなり可愛く見えたけど、少しだけ不満があった。 どうすればもっと素敵に見えるのか悩んで肩を少し動かしてみた。 うーん...少しは可愛く見えるかな。 いろいろやっているうちに、両肘をテーブルに付いてみた うん、これだ。 満足のいくポーズが取れた。 私はそのポーズで窓の外に見える街並みを眺めるながら、じっくりと考えてみた。 そうするうちに、スーツで見た目は完璧な女性の姿に変身できたけど、体重だけは元のままということに気づいた。 いくら外見が女の子のように変身出来てたとしても、体重までは変わらないのだ。 だから、さっきの店員が私を起こすこともできずに苦労していた。 よく考えてみると、変身スーツでも隠すことのできない問題点はまだまだあるようだった。 体重以外にはどんなことがあるのだろう? 私は再びマキアートを一口くちにしながら考えた。 もしこのスーツに傷がついたらどうなるのだろう? しっかりと固定されている状態で、おそらく小さな傷でも、それが瞬く間に大きく裂けていき、その中に隠れている人があらわになってしまう可能性が大きかった。 身体にピッタリと張り付いている状態であれば大丈夫だろうけど、果たして今、私はかぶっているスーツは、小さなキズができても何ら問題がないのだろうか? それを今ここで確認することはできない。 だけど、もし…… もしもの話だけど、 知らないうちにキズが出て、それが少しずつ広がっていったなら、或いは…… 今、あそこ道を通り過ぎる人々の前で、例えばあそこの帽子をかぶった美しいお嬢さんが突然風船のようにバーンと炸裂してしまったらどうなるだろう??? 非常に堅い力で引き締めているスーツだから、もし炸裂したとしたら本当にすごいだろう。 そしてその中から全裸の40代の中年の男が現れたとしたら??? 考えただけでもゾッとする。 傷だけではない。 ひょっとしてこのスーツのスキンを溶かしてしまう薬とかはないのだろうか? ひょっとして日常の中でよく使われている薬の中に、このスーツのスキンを溶かしてしまう成分があるものもあるかもしれない。 例えば女性たちが爪のマニキュアの除光液によく使うアセトンのようなもの。 それを何も考えずに爪のマニキュアを取るために使ったら? 今の私の爪は、見た目は本物の爪のように硬く見えているけど、実際はフェイクスキンで覆われているのだ。 爪の部分が溶け始めたら、それは危険なんだろうか? そのほかにも、私が思いもよらないような危険があるかもしれない。 どうしても、もう一度家に帰って、このスーツのことを隅々まで調べる必要があるようだ。 私は、不安でもう買い物を続けることができなくなった。 そんな時、携帯電話が点滅した。 携帯電話は持って来ていたが、出るのが面倒なので、あらかじめ無音に設定していた。 私は携帯電話を手に取ると、待受画面に表示された名前を見た。 しかし、画面の名前を見ると電話を受けるしかなかった。 画面に浮かんだ名前は他でもないキム・スンヨンだったからだ。 まさに昨日、このスーツの入ったバッグを私に押し付けていった女性だった。 「こんにちは」 「あ、つながったわね。どうです?そのスーツを着てみて?」 子どものような可愛らしい声だ。 聞いだけで体が溶けてしまいそうだ。 昨日ちょっとタクシーの中で話をした時にも、魅惑されたけど、携帯を通して聞くとさらに魅力がアップされていた。 「やっぱり、いいんですね」 「フッ~~~」 「どうしたんですか? 何か気になることがありますか?」 この女の正体は女性ではないだろう。 しかし、聞こえてくる笑い声は人のココロを溶かしてしまうような愛嬌があった。 だけど、私は、気楽に構えていられなかった。 「ククク、さっきの靴屋では、本当におかしかったわ」 「え?あの時、近くにいた?」 「そうね、いたのかしら?いなかったのかしらね?」 そういうと、彼女は再び笑って誤魔化した。 携帯からの彼女の声が大きくなったように思え、私は急いで携帯のボリュームを下げた。 そして、笑っていた彼女が言った。 「お客さま、大丈夫ですか?」 急に変わった彼女の声は他でもない、さっき私を起こすのに苦労していたあの女性店員の声だった。 「え?まさか……あの時の、あの店員って?」 またしばらく笑っていた女性が答えた。 「あら?今、私はその店員さんの声だけを真似のだとは思わないの?」 「とにかくあの場にいたんでしょう!」 「ピンポ~~ン!」 「ひょっとすると今、私の近くにいるのかしら?」 「そうね...それは今話すことはできないの...自分の力で探してみてね。 今、私の方から、あなたの前に現れたら賞金はもらえないのよ。 賞金は10億ウォンなのに、欲しくないの? でも、一つ教えてあげると、あなたが今日外出してから、私ともう何度も会ってるのよ」 少し驚いたが、それは、十分ありえることだ。 今はまだあのスーツで変身した人と、実際の女性とを見分けることができない。 「ところで、たとえば、私があなたを見つけたとしても、あなたが最後まで認めなかったらどうしようもないでしょう?」 「それは、私が否定できない確かな証拠を示せば良いのじゃないのかしら?そうでしょう。 ところで、すでに少し感づいているんでしょう」 そう言うと再び彼女は、魅惑的に笑った。 私は彼女と連絡がついたついでにさっき思ったことを確認してみたくなった。 「ねえ、少し聞きたいことがあるんだけど。 いくつかの疑問があって、着用しているこのスーツに、少しキズが付いたらどうなるの? ひょっとして傷口が裂けていって、風船のように炸裂してしまわない?」 「ああ、すごいわね。もうそこまで考えられていましたか。さすがだわ。 でも、その前に一つ忠告をすると...電話でそんなに大きな声でスーツ云々と騒いでいると。周りの人々から注目を集めますよ」 その言葉に驚いて、周りに座っている他の客や店員たちが慌てて顔を背けた。 それを聞いて、私は窓際に体を向けて小声で言った。 「本当のようですね」 「フフフ、そう急に声を小さくしなくてもいいですよ。 まあ他の人が聞いても何の事を言っているのかわからないから。 さて、お答えすると、半分は当たっているし、半分間違っているわ。 昔のスーツではそんなこともあったの。初期のモデルだけどね。 幸い、今のモデルでは、そんな欠点は解消されてるわ。 だから外で急にバーンと炸裂してしまうことはないわ」 「それじゃ、溶けてしまうことはないの?」 「当然、硫酸や塩酸などの液体では、溶けることもあるわよ。もしかしてアセトンのようなモノで溶けるんじゃないかと心配しているの? そんなことはないから心配しなくていいのよ。日常生活で使われているモノなら、十分対応できるようになってるの」 段々彼女を見つけることは容易じゃない気がしてきた。 簡単に考えていては、見つけることなどできないだろう。 「ひょっとして、ウィッグの毛を抜いて見たのかしら?」 「はい」 「なら話が早いわね。そこまで理解しているのなら説明しやすいわ。かつらやスーツも培養した生体のタンパク質成分が含まれているの。 つまり本当の人の身体と構成成分が似ている細胞で出来ているってわけ」 「今、培養って?」 「そうよ。培養技術を利用して作ったものなの。それを一つ作るのに沢山のお金とかなり長い時間がかかるの。 だから無茶な調べ方をして壊さないでね。 アフターサービスはできないからね。 じゃあ、わたしは、もう少しショッピングを楽しみたいので。じゃあね~~~~」 「もしもし、もしもし」 急に電話が切れてしまった。 (続く) |
toshi9より: 貴人福助さんからいただいた第5話です。 今回も、いただいた作品を①機械翻訳②よしおかさんが意訳③夏目彩香さんが最終確認という流れで翻訳作業を進めております。 よしおかさん、夏目彩香さん、ありがとうございました。 貴人福助さんの原作第5話のテイストを、日本語訳で楽しんでもらえたら幸いです。 |