「どきどき表裏不同《Ver.2》」 (この作品を怪人福助氏に捧ぐ) |
6.女の子はピンク 作:貴人福助 日本語訳:よしおか、夏目彩香 |
ひょっとすると、今この周りにいる女性の誰かがそうではないだろうか(本当の正体は男だとは思うのだが)と周囲をじろじろと見ていた。 そこのイケメン男性と一緒に座っているカップルの女性かもしれない? さっきから、私の方を気にしているようなそぶりが、少し怪しい。 それとも壁側のテーブルに座る、結構きれいなふたりの女性のうちのどちらかなのか? 私の事など全く気にしていないように見えるが、それはすべて演技なのかもしれない。 もしかして、この喫茶店のアルバイト? とてもきれいだしスタイルが良くて、あの女性が変身したように見える。 しかし、彼女たちのうちの誰かがそうであるかもしれないし、そうでもない場合だってある。 大事なことは、私は正体を見破る能力を持っていないということだった。 何よりもいきなり近付いて、ちょっと確認してみるなどということはできない。 ではどうやって確認するか? ひとまず体重を測ることができるなら確認することは易しいかもしれないが、もしその人の実際の体重が本当の女のように軽い場合には意味のない方法だ。 もし、実際の体重が60キロ以下であれば、少し体重が重いだけで、本物の女性といってもおかしくないだろう。 一番良い方法は爪のような部分を素早く刃物で切って、その部分を調べれば良いのだ。 フェイクスキンだから本物の爪とは違って、その下からは別の皮があらわれるだろう。 まあ、ゆっくり考えてみよう。 別のいいアイデアを思い付くかもしれないし、良いチャンスができるかも知れないのだ。 さて、ショッピングを続けようと思った。 さっきの電話では、ボディスーツの耐久力は思っていたよりもいいと言っていたのだから、あまり心配する必要はないだろう。 荷物をまとめると、飲み終わったコーヒーカップを持って、ウェイトレスのところへと歩いて行った。 ただテーブルに置いて行ってもいいけど、何故か、ウェイトレスの顔と表情を調べたいと思った。 「ごちそうさま」とたわいのない声をかけながら、その女性の首や髪の生え際を注意深くチェックした。 でも、おかしな部分はなに一つもなかった。 まあ今日初めて被った私のウィッグも、不自然さがないのだから、あの女なら絶対に感づかれないようにしているだろう。 さて、次には何を買いに行こうかしら? そんなことを考えながら周囲の女性たちを見ていると、みんな、可愛いサイドバッグを脇に抱えて通っていた。 私もあんな可愛いバッグを一つくらいは脇の間に挟んで歩けば、さらに女性らしく見えるだろうと思った。 そう思うと、まっ先にバック専門店に立ち寄った。 入って実際に選ぼうとしたら、全部素敵に見えて、どんなのがいいかわからなくなってしまった。 最近の流行がどんなものなのかも知らない。 それでも店員に聞くのはなんだかおかしく思われそうだ。 それで腕組みをして、しばらくの間あれこれ見て回っていたら、店主のおばさんがドタドタ歩いてきて、声をかけてきた。 「どんなバッグをお探しですか?どんなのがお好みかしら?」 私はいいチャンスだと思って、そのおばさんに話しかけた。 「ここのはみんな素敵ですね。 ところでこの頃、流行っているのはどんなのですか?」 「この頃はこういう原色ハンドバッグが人気ですよ。 これなんかどうですか?」 そう言いながら店主のおばさんが渡してくれたのは、真っ赤なハンドバッグだった。 最近はこんなのが本当に流行なのかなと思って静かに考えてみると、こんなハンドバッグを持って歩く女性たちを少し前に見たような気がした。 しかし、私にはまだこのバッグは、ちょっとキツイかも。 いや、今の私の姿には、この程度がお似合いなのかな? 真紅のハンドバッグはインパクトが強いけど、私の美貌もそれ以上のインパクトがあるのではないかと思った。 でも、まだ今の自分の姿が頭の中で正確にイメージできないでいた。 だから、店の隅にあるスタンドに近付いてハンドバッグを持っている私の姿を映して、確認してみた。 やっぱりこのボディスーツの美貌は、この程度のハンドバッグのインパクトには負けることがなかった。 長いストレートヘアーと赤いバッグは絶妙なハーモニーをかもし出していた。 似合っているかも? しかし、それでもキツイのは事実だった。 そこで今度は、同じデザインのピンクのハンドバッグを試してみた。 やはり女性はなんといってもピンクという思いがあった。 ピンクのハンドバッグを持ってみると、さっきとは全く違うキャピキャピとした可愛らしい感じがあふれていた。 ふふ? 今の私はピンクが似合う女性になったのね? そして、白や黒のハンドバッグも試してみたけど、ピンクほど気に入らなかった。 結局、私はそのお店でピンクのハンドバッグや財布を買って、その店を出た。 なんだか今日はピンクで統一したい気分になった。 キャピキャピの可愛らしいピンクで自分の体をコーディネートしたい欲望が湧いてきた。 次は何を買おうかしら? 私は腕組みをしてショウィンドウに飾られた商品を見回してみた。 腕組みをした腕に感じるやわらかい胸の感触がとても良かった。 手でむにゅむにゅと触ってみたい誘惑にかられた。 でも、すれ違う人々が変に思うかもと思って、腕組みをしていることだけで満足した。 腕組みをしているので、私の胸が腕の上でさらに膨らんだ。 私は商品を見ながら、時々、私の胸の感触も楽しみながら、ショッピングを続けた。 ハイテンションになった私は、次々と店に入って商品を見て回った。 ただピンクのハンドバッグを持っただけなのに、私の心には本当の女性の気持ちがふくれあがった。 そして声や話し方もいつの間にか愛嬌を振りまく女のように変わっていて、私自身も驚愕してしまうほどだった。 実際に話し方がそんなふうに変わったのは、単にピンクのハンドバッグのためだけではなかった。 お店に入って商品を選びながら、私の周辺で女性がおしゃべりしているのを注意深く聞いて、気に入った口調やアクセントを使う女性がいる場合はそれを覚えておき、次のお店に入ったときに同じように普通に使ってみた。 しかし、それは思ったほど簡単なことではなかった。最初はぎこちなくて、すぐに元の口調に戻した。 しかし、色々なお店に出入りして、使っているうちに、自然に愛嬌のある女性の声が出るようになった。 そんな愛らしい口調やとニュアンスが自然と私の口から出てくるのを聞いて、私はだんだんと股間がキュッとなった。 そして股間がキュッとなるにつれて、ますます私の声は、魅惑的な感じが加わっていった。 それはまるで意識があるまま幽体離脱して、自分の声を横で聞いているような感じだった。 そういえば今の私の姿は本当の自分の姿ではないのだから、そのような違和感を感じるのは当然のことなのかもしれない。 でも、私が一番真似たい声は、このスーツを渡してくれた、あの女性の声だった。 本当に男の心を溶かすようなコケティッシュな声をコピーしたかったが、それは本当に難しかった。 そして、そんな声と言葉使いができる女性には出会っていなかった。 頭の中ではあの女のしゃべり方がはっきりと浮かぶのだが、実際に口にしてみると、変なアクセントになってしまう。 だから、それは諦めるしかなかった。 しかし、今この程度でも、かなり魅力的な声になっているので自信が沸いてきた。 誰か誘惑してみようかな? 歩き疲れて来た頃、魅力的で素敵な服がいっぱい置いてあるブティックを見つけた。 女らしいシルエットを強調した露出した服がたくさんあった。 今の私のスタイルならば、こんな女性らしい服がぴったりだ。 まず、スーツを一着選んだ。 胸元が開き、その形を強調し、体にピッタリとフィットするのを選んだ。 ピッタリすぎてちょっと動きにくい感じがした。 こんなスタイルの服を着こなすことができる女性は、韓国でもそんなにいないだろう。 ましてや、このボディスーツを着てこんな服を着ることが出来る人はほとんどいないだろう。 しかし、今の私はこのようなスリムな服を何の問題もなく着ることができる女性になったのだ。 後で、退勤時間に合わせて、この服を着て、会社から退社する女のようなフリをして、人混みの中を歩いてみようと思った。 その時は、間違いなく私の後ろから、私の魅力に惹かれた男たちが電車のように列を作り、よだれを流しながら付いてくるだろう。 私が腰をフリながら、モンローウォークで通りを歩いていれば、そこに居合わせる男たちもつられてくるかも知れない。 ヒールを履いて、腰をフリフリ歩いている自身の姿を想像するだけで、身体が熱くなってきた。 すぐにヒールを履いて歩く練習をしなくちゃ。 その服の他にも、何着か選んだ。 その中には普通のデザインのブラウスもあった。 もちろんスカートはタイトなものだけを選んだ。 デザインは特別なものはなかった。 ただ、丈の長さが短いか、長いかの差があるだけだった。 こんなスカートをはいて、太ももを露わにして歩いてみたいと思った。 それから、今すぐに着るスリムなフィットしたコットンワンピースを選んだ。 このワンピースは、丈の長さがかなり長くて、ほとんどふくらはぎまであった。 だから、初めに見た時は、ちょっとおばさん向きではないかと思ったけど、体にフィットして全身のスタイルをそのまま露わにさせるところが気に入った。 そして、こんな服を着ている若い子たちも実際に多かった。 何よりもタイトながらも動きやすかった。 私は買い物袋をいっぱい手に持って店の外に出た。 もう足がかなり痛くなってたけど、気持ちは逸っていた。 そろそろ家に帰らなければと思い、タクシーを拾って家に向かった。 タクシーの中で、ちょっと彼女のマネをしてみた。 昨日の女が私にしたのと同じように、前の席に頭を軽く出してタクシー運転手と話をした。 やっぱりすぐに反応してきた。 こっそりタクシー運転手の下半身を見たらアレが勢い良く立っていた。 50代を越えた老人のアレを元気にするほど、私は魅力的なのかと思い、私はそれが自分に向けられているとはいえ驚いた。 この姿と声さえあれば、どんな男たちでもメロメロにできそうだ。 そういえば私が見ても本当に無性にムラムラしてくる程美しいことは確かだし…… 家に着き、タクシーからタクシー運転手と一緒に買い物袋を運び終えるとすぐに携帯のベルが鳴った。 誰からだろうと、携帯の着信者名を見ると、やはりあの女性だった。 「こんにちは。今日の買い物、楽しかった?」 相変わらず色気がプンプンと漂う声だ。 いつかこの声をぜひコピーして、出してみたい気持ちだった。 「はい、おかげ様でとっても楽しかったです」 一日中、この声を使ったおかげで、今はある程度、艷やかな女性の声が出せるようになっていた。 さらに、リズミカルに感情を込めて話せるようになった。 私が思うに格段の進歩だ。 「あらら、お姉さん、声が変わりましたね。最初はただ地味で面白くなかったけど、今は、少しは本当の女性とお話しているみたいだわ。まだしばらく無理かと思ったけど。キャハハハハ 」 「そうですか?実はちょっと冷や汗ものでした」 「まあでも、今日は楽しんでくれたようだから私も嬉しいわ。 さて、今日どの場所でお会いしたか、少しはわかりましたか? 」 「そんな、あまりにも完璧なのに、私が見破る方法はあるのですか? ただ推測すると、あの靴コーナーの女性店員の中の一人じゃないかなと」 「あ、そうよ。よく見ていたわね。それから? 」 「それから?」 「別のところでも会ったのだけど、わからないかな?」 私は、しばらくこの女の言葉が、何を意味するのか、じっくりと考えてみた。 あの時は靴コーナーの女性店員の姿だったけど、私が店を出た後、また他の姿に変身して私をずっと見守っていたと言うことなのか? 「わかりません」 「あのコーヒーショップにもいたんだけど、それには気付かなかった?」 やっぱりあのコーヒーショップにも、あの女は来ていたのだ。 そうかもしれないとは思ったが、ついに誰が女の変身した姿なのかは、全く気付くことができなかった。 「あそこのコーヒーショップで制服を着て、ノートパソコンを見ながら熱心にタイピングしていた女子学生を覚えている?」 「あ……思い出した」 「あの時の、その女子学生がまさしく私だったのよ」 「まさか……」 「まあ、嘘を言っても仕方ないでしょう。 そして、その他にも数回、私と会っているのよ。 ただすれ違ったり、お店の中でも会ってるし...」 「じゃあ、そのたびに違う姿だったということですか?」 「ええ、そうよ。毎回違う顔で会ってたの。バレないように気をつけながらね...キャハハハハ」 「どうやったらそんなことができるんです?」 「それは時間が経てば自然に分かることよ。 でも、今日の行動はぎこちなくて、おかしかったわ。 だから、少しアドバイスをしようと思って電話したのよ」 「それは靴コーナーで倒れた時の事ですか?」 「それは本当におかしな場面だったわ、今日は一日中、アナタの動きがとてもぎこちなくて、見守っている私としてはイライラしてたのよ」 「そんなにひどかったんですか?私は全然気づきませんでした……」 「まあ、それはお姉さんがだんだんと理解していかないといけない問題なのだけど、いくつか例を挙げるなら、あんな風に腕組みをして歩く女性がどこにいるの? そして立っている時も、いくらロングパンツを履いてても、あんな風に足をぱっと広げて、仁王立ちしている女性はいないわよ。 あんな姿勢をしているからお店のおばさんも変な目で見てたわ」 「そんなにおかしかったのですか」 「次からは周りの女性たちの行動を注意深く見ることね。 人によって差があるにはしても、共通した行動というのはあるの。 そんなものが集まって、女らしい仕草を感じるのだろうし、それがなければ、いくら外見が女性になっても、結局、変な感じを与えてしまうのよ。 でも、今日、コーヒーを飲んでいる姿は本当に可愛かったわよ。 案外よかったわ?あれは合格……キャハハハハ」 「ありがとうございます」 「それでは楽しんでくださいね。グッナ~~イ」 「あ、ちょっと待って...」 私の返事もまともに聞かずに、また切れてしまった。 聞きたいことがいくつかあったのだが、携帯は切れてしまった。 着信履歴の残っていた電話番号に電話をしてみたが繋がらなかった。 昼間には数回電話をかけてきたが、私からの電話は受けないことにしているようだった。 あの女の言葉通りなら、あの女は私より完璧な変装ができるだけでなく、頻繁に姿を変える能力を持っているようだ。 どうやって、あの女性を探し出せばいいのだろう? 疲れる一日だった。 しかし、今まで頭の中の空想でしかできなかった事を実際に体験することができた一日だった。 本当の女になって、一日中ショッピングしながら過ごした時間は本当に楽しかった。 そして、それは、今後もずっと続くだろう。 もうこれくらいにしてこのボディスーツを脱ごうかと考えたが、スーツを着たままで寝ることにした。 だから、スーツを着たままシャワーを浴びた。 少し肌がムズムズしないかと心配したけど、生身の体を洗ったかのように全身がすっきりした。 女性の体でシャワーを浴びるのは、ちょっと恥ずかしいけれど、それよりも美しい体を持った喜びの方が大きかった。 今日新しく買って来た下着を身に付けて、新しいパジャマを着た。 本物の女性は寝るときには、ブラを外し寝ると聞いたけど、私はそのままでベッドの上に横たわった。 シーツの中で私は新しくできたおっぱいと女性の秘部を指で弄びながら眠った。 非常に面白いおもちゃをプレゼントされた気分だった。 ただし、実際の女性のような快感を感じることは出来ないけど、触った感触は少しの違いもなく、本物の女性よりもはるかにやわらかく気持ちよかった。 これはまさに私の思い取りに遊ぶことのできる人形のようだった。 |
toshi9より: 貴人福助さんからいただいた第6話です。 今回も、いただいた作品を①機械翻訳②よしおかさんが意訳③夏目彩香さんが最終確認という流れで翻訳作業を進めております。 よしおかさん、夏目彩香さん、ありがとうございました。 貴人福助さんの原作のテイストを、日本語訳で楽しんでもらえたら幸いです。 さて、今回で貴人福助さんからいただいた第一期の全6話を掲載し終えました。さてこれからお話はどう続くのか。私自身、この作品の続きをいただけることを心待ちにしています。 |