探偵助手見習い秋津洲広海の冒険
作:toshi9


【第3話】

その夜、広海は仕事を終えると割り与えられた寝室に入った。狭いながらも住み込みのメイド一人一人にあてがわれている個室だ。
部屋に案内した不知火と別れて中に入り、ようやく一日の緊張が解ける。

「長かったようなあっという間だったような一日だったな。でも僕の初仕事なんだ。しっかりやらないと」

ほぉっとひと息ついて吉岡に初日は特に異変なしと報告メールを送ろうとした広海だが、本当に屋敷内に異常がないのかどうにも胸騒ぎがする。

「もう一度だけ見て回ってからでも遅くはないよな」

そう思った広海はそっと部屋を抜け出すと、一人で屋敷内を探索した。暗がりの中、一部屋一部屋中を見て回る。暗く静まり返った部屋は不気味であったが、一通り見回り終えて今度こそほっとした気分になった広海は、ようやく今夜は異常なしという報告メールを吉岡に送った。実際、屋敷内に昼間と特に変わったところは見られず、怪しげな人間とも遭遇しない。怪人やその手下が徘徊している兆候はどこにも無かった。だがメールの送信を終えて自分の寝室に戻ろうとした時、異変が起きた。

「あれ? あそこにいるのは」
暗がりで顔はよくわからないものの、廊下の向こうからメイド姿の女性のシルエットがこちらに向かってくる。
(この時間に僕以外のメイド? もう誰も働いていないと思うけど)
シルエットの主は、近づくにつれて夕立薫子だとわかった。
「夕立さん、どうしてこんな時間に?」
「秋津洲さん、こんな時間まで見廻り? 熱心なのね」
「え? ええ、明後日まで油断できないので」
「そう、お役目ご苦労様」
「え、は、はい」
「もう見廻りは終わったんでしょう、一緒に戻りましょうか」
「そ、そうですね」

薫子に促されて、広海は寝室に向かった。
だが並んで歩く薫子に、広海は妙な違和感を感じていた。
(あれ? 夕立さんって『今日は疲れたっぽい』って言って真っ先に自分の部屋に入らなかったっけ。どうして今頃メイド服のままでこんな所を。それに何だか…そうだ、しゃべり方!)
やたらとぽいぽいと語尾につけ、はっきりしないしゃべり方だった昼の薫子と今横を歩く薫子ではしゃべり方が全く違う。それに気がついて慌てて薫子から離れようとした広海だったが、薫子が先に声をかける。
「秋津洲さん!」
「え? なに?」
その瞬間、鼻と口をハンカチで覆われる、途端に鼻腔に広がるつんとした匂い。それを感じると同時に、広海は意識を失っていった。

「しまった、睡眠薬…」
「お前は吉岡の仲間か。しかも男とはな。うまく変装しているが私の目はごまかせん。ふふふ、私の変装術を甘く見るなよ、小僧」
「な、なに、お前……まさか……」
「貴様に変装の神髄を見せてやる。その身を持って知る事だな、はははは」

薫子の姿で笑う男の声を遠くに聞きながら、広海は気を失った。


「……ふふふ、これでいい。私からのちょっとしたプレゼントもつけておいたよ。目覚めるのが楽しみだ」


遠くで男とも女ともわからない声がする。広海は身体に何かを着せられたような、被せらたような全身を締め付けられる感覚を感じていたが、体が動かせない。眼を開けることもできなかった。


「う、う〜ん」


広海が目を覚ますとそこはベッドの中だった。
見上げるといつもと違う見知らぬ天井、いやそれはあてがわれた寝室のベッドの中だった。
「あれ? いつ戻って来たんだっけ……」
そう思いながら体を起こした広海は、妙な事に気がついた。
広海はネグリジェを着ていたのだ。そしてその下にはレースをあしらった高級そうなブラジャーとショーツを履いている。
ブラジャーは盛大に盛り上がっていた。

「え? これ、僕?」

広海があわてて起き上がると、胸にずしりと重みを感じる。そしてその胸を覆い支えるブラジャーの生地の感触。胸に手を当てると、そこにはぷにゅっとした感覚が。
「え? なに? なにがどうなって!?
何が起きているのか理解できない広海だった。

「目が覚めた?」
「ええ? えっと、谷風さん?」
ベッドの横に谷風紗良が座っていた。
「あの、どうしてここに?」
「ドアの前で倒れていたんで、寝巻に着替えさせてベッドに寝かせたんだけど、余計だったかな」
「あ、いえ、そんなことは……」

紗良の態度には男だとばれた様子はなかった。少しほっとした広海だが、冷静になるとそれどころではなかった。ばれるのなにも、今の自分の姿は女の子そのものなのだから。

「ねえ、シャワーに行かない? 今ならまだお湯が出るよ」
「え?シャワーって、僕はいいですよ」
「だめだめ、秋津洲さん廊下で寝転がっていたんだから。メイドは毎日綺麗にしておかなきゃ」
そう言われながら、広海は紗良に強引にシャワールームに引っ張っていかれた。

「さあ、入って入って」

シャワールームに入ると、先に服を脱いで裸になった紗良にばんざいさせられ、着ているネグリジェを強引に脱がされる。ブラジャーもショーツも剥ぎ取られると、広海は改めて自分の身体がすっかり女の子のものに変わっている事に愕然とさせられた。

鏡に映った彼の胸は高く盛り上がり、黒く翳る股間はすっきりとして何もなかった。それは紛れもなく女性の身体だった。顔にあどけなさを残していながら、その顔とは裏腹の見事なプロポーションをした少女、それが今の広海だった。
鏡に近づいてまじまじと自分の体を見つめてしまう広海。だが彼も探偵の卵だ。自分の体にあるものを発見する。

「あれ? これは」

鏡に映った自分の姿をよく観察すると、首にぐるりと細いラインができていた。そしてその上下で肌の色が微妙に違う。

「あの時、変装の神髄って聞こえたような……まさか」

改めてよく見ると、ラインの上下で肌の質が全く違う。ラインから下は白くきめ細かいが、ラインの上はそれよりやや粗く浅黒かった。

「首の上下で肌の質が違うって、いつの間にこんなもの……待てよ、気絶している時にそう言えば……」

おぼろげながらも何かを被せられたり着せられたりした感覚がよみがえる。
そしてすっきりしている股間の内側に、何となくあるべき自分のモノの感覚がしっかり感じられる。

「緋朗の仕業なのか。僕をこんな姿にしてどうしようと……くそう、取れない。これって、どうやって脱ぐんだ」

首にうっすらと浮かんだラインをつまんでも叩いても、首から下にかぶせられた白い肌は剥がれようとしなかった。しかも作り物の肌のはずなのに、無理に引っ張ると痛い。

「無駄だよ、それの脱ぎ方を知っているのは私だけさ」
「え?」
裸のまま体をバスタオルで隠そうともしない紗良が、さっきまでとは全く違う表情で立っている。
「うわっ、ちょ、ちょっと」
慌てて目を逸らそうとする広海。
「恥ずかしいのかい? この体も作り物だがな」
「お前、まさか怪人緋朗、だってさっきまで夕立さんに化けていたんじゃ」
「ふふふ、私にとってはたやすい事だ。まあ、それを脱ぎたかったら、大人しくしているんだよ。ね、ひろみちゃん」
谷風の口調に戻して、怪人が笑う。
「いつから屋敷に潜入しているんだ、答えろ!」
だが、怪人は笑ったまま広海の問いには答えない。
「おや、そんな口きいていいのかな、そんな子にはこの谷風がお仕置きしてあげないといけないね」
そう言って、怪人はスッと広海に近づくと股間に手を伸ばす。
「な、なにを、ひっ」
平たくのっぺりとなってしまった利紀の下腹を撫で、そして胸にも手を伸ばす。
「ちょ、ちょっとやめて、あ、ああ」

艶めかしい手つきで乳首と股間の奥を愛撫されると、そこから奇妙な快感が湧き上がる。繰り返されるごとに、その快感は広海の体全体を覆っていった。そしてのっぺりした下腹を内側から押し上げるように、もっこりとした膨らみができていた。しかも、その膨らみはみるみる太く長くなっていく。

「おや、元気だね。さあ、もっと気持ちよくなるんだよ。ほらほら」
広海の脇に回り込んで皮膚の膨らみに手をあてがい、何度も撫で、さらにはぎゅっと握ると、偽の紗良はそれを前後にしごき始める。皮膚は柔軟に伸び、今や股間には広海のペニスの輪郭がくっきりと浮き出ていた。

「ほら、そのままイクんだよ」
「や、やだ、こんな、やめて、ああ、ああああ」

我慢しようにもどうにもならない快感が股間に集中していく。

「だめ、出る、あああ」

快感が全身を覆っていく。そして下半身全てが硬直したかのような快感の高まりの後、広海はぶわっとペニスの先端から精液が吐き出される開放感を感じた。それと同時に下腹部の膨らみは収縮を始め、そして元通りののっぺりした下腹に戻っていた。いや、少し違う。股間に縦に穿った溝の中から、たらたらと白い液体が流れ落ちていた。

「おやおや、たくさん出しちゃったね。これで君のペニスはその皮に癒着した。いや、ペニスだけじゃない、すぐに全身が癒着するんだ。もう簡単には脱げないな。あ、心配しないでも尿道もしっかりつながったから排泄の心配はいらないよ。もうしゃがんでしかできないだろうけどね。くっくっくっ。そうそう、漏れてきたソレはシャワーでよ〜く洗っておいたほうがいいよ。下着をごわごわに汚したらみんなが変な勘違いするだろうから」
「く、くそう、どうしてこんなことを」
「首を突っ込んだ君が悪いのさ、それにそんなかわいい顔していると、ついね。それじゃ、おやすみ。早くシャワー浴びて寝ないと明日も早いよ。その体ならもうみんなに男だとばれないだろうから、明日から安心して働くんだよ。ふふふ、じゃあねひ・ろ・み・ちゃん」

紗良の姿をした怪人は、そう言い残すとシャワールームを出て行った。
シャワールームに残された広海は、鏡に映った自分の姿を見ながら茫然と立ち尽くすしかなかった。


(続く)