町中の路地裏にその店はあった。それは古ぼけた雑貨屋、名前を「天宝堂」と言う。そこでは決して売り出される筈の無い品物が、時折売りに出されることがあるらしい。 僕のレオーネ(前編) 作:toshi9 僕は山野祐介、小学6年生さ。動物が大好きで学校のうさぎの世話係も自分から進んで引き受けたんだ。動物の世話は大変だけれど、僕にはちっとも苦にならない。それどころか学校で彼らと毎日会うのが楽しみだった。でも最近うさぎたちの様子がどうもおかしい。以前は僕が餌をやりに来ると喜んで近寄ってきたんだけれども、どうも何かに怯えているようなんだ。どうしたんだろうと思っていたら、ある日5羽いたうさぎが全て殺されていた。 何てひどいことをするんだ!僕は犯人が許せなかった。でも誰が犯人なのか、何が目的なのかさっぱりわからない。先生達は懸命に犯人を捜したらしいんだけれども、どうしても何処の誰がやったのかわからなかったらしい。僕はくやしかった。いつかこんなことをした犯人を捕まえてやるんだと心に誓った。 ところで、学校の動物飼育の責任者は担任の向井先生なんだ。先生も今回の事件には随分悩んでるみたいだ。 放課後、裏庭の花壇の一角にうさぎのお墓を作って弔っていると、向井先生がやってきた。 「おい、山野。それはうさぎのお墓かい」 「はい、みんな昨日まで元気だったのに、こんなことになるなんて・・僕犯人が許せません。先生何とか犯人を捕まえられないんでしょうか」 「そうだな、俺も許せないよ。でも目撃者もいないみたいだし、犯人を見つけるのは難しそうなんだよなぁ」 「そうなんですか。何だかくやしいなぁ」 僕は、そのまま先生と話し込んでしまった。僕も先生も動物好きということもあって、先生とは話が合うんだ。結局帰り道が同じということもあって、その日は一緒に帰ることにした。 「あ〜あ、これからどうしよう」 「そうだな、犯人はともかく、代わりのうさぎか他の動物を早く探さなくちゃな」 「先生、そんな殺されたうさぎたちに悪いです。しばらくあのうさぎ小屋は空けておきましょうよ」 「そうか、それもそうだなぁ」 話し込みながら歩いていると、ふとおかしな看板が目に入った。 『カメレオン入荷、人の言葉を理解します。ペットに最適。ご興味のある方はお気軽にお入りください。 天宝堂』 「へぇ、カメレオンとは珍しいな。でもここって雑貨屋だと思っていたけれど、動物も売ってるんだ」 「はい、私どもに扱えない品物はございませんよ」 向井先生が呟いていると、突然後から声を掛けられた。僕達の後ろにはいつの間にか、色眼鏡をかけた男の人が手を後ろ手に組んで立っていた。 「お客様方、カメレオンにご興味がありそうですね。是非息子さんにいかがですか」 「息子じゃないよ。うちの生徒だ。俺はまだそんな年じゃない」 「おや、そうでしたか。それは失礼いたしました。それでは先生と生徒さんというわけで。随分仲がおよろしそうだったので、てっきり親子なのかと思ってしまいました」 「そうかい。まあちょっと見てみようか」 「ええ、先生、僕も興味があるよ」 カメレオンなんて写真でした見たことが無い。本物っててどんななんだろう。先生と二人して暖簾をくぐって店の中に入ると、その店の中には色々な品物が混ぜこぜに置かれていた。これで本当に動物なんか売ってるのかな。 でも奥のほうに歩いていくと、そこには確かにカメレオンが入れられた籠が置かれていた。カメレオン・・・もっと気持ち悪い動物かと思っていたけれど、意外に愛嬌がある。 「先生、こいつ学校で飼育できませんか」 「カメレオンねぇ、珍しい動物だし学校の予算じゃまず無理だろう」 「如何ですか、そのカメレオン。昨日入荷したばかりでまだ眠っていますが、特技もできますし、他ではなかなか手に入らないですよ。お支払額も勉強いたしますんで」 「特技ってなんですか」 「それは買われてからのお楽しみということで、お代はこれ位で如何でございますか」 店のおじさんが電卓を叩いて見せてくれた額はびっくりする位安かった。 「ええ?カメレオンでしょう。そんなに安いんですか」 「はい、いつまでも店には置いとけませんので。この際気に入られたお客様に是非お求めになって頂きたいと」 「その値段なら学校に稟議を出さなくても買えるなぁ。うーん、どうしよう」 「先生買おうよ」 「山野、お前面倒みるか」 「うん、絶対に面倒みるよ」 「そうか、よし買った!」 「ありがとうございます。今日お持ち帰りになられますか」 「いや、明日にしようか」 「先生。今日は僕が持って帰るよ。明日学校に持っていくから」 「わかったよ。じゃあ山野、頼むぞ」 「お決まりですね、まいどありがとうございます」 僕は先生と別れると、家にカメレオンの入った籠を持って帰った。 「おかえりなさい、きゃ、なにそれ」 「カメレオンだよ。お母さん、知らないの」 「まあ、どうしたの、そんな珍しい動物」 「学校帰りに向井先生と一緒に見つけたんだ。学校で飼育しようって買ったから、明日学校に持って行くよ。でも、今日は僕の部屋に置いていていい」 「今日だけなのね。何か気持ち悪いから、必ず明日学校に持っていくのよ」 「うん」 カメレオンは店からずっと眠り続けている。家に持って帰ってもちっとも目を覚まさなかった。いつ目を覚ますのかとじっと見続けていたものの、そのうちに何時の間にかうとうとと僕自身も眠り込んでいた。 それは夢の中だろうか、しきりに祐介を呼ぶ声がする。 「きみ、きみ」 「だれ、僕を呼ぶのは」 「こっち、こっち」 声は僕の頭の中に直接響いているみたいで、何処から聞こえてくるのかよくわからない。一体こっちってどっちなんだ。 きょろきょろと辺りを見渡すと、籠の中からカメレオンがじっとこっちを見ている。 「え、まさか」 「そうよ、私が呼んだの。きみの名前は」 「僕は山野祐介」 「そうか、祐介くんね。私の名前はレオーネ、よろしくね」 「きみはお話ができるのかい」 「ええ。私、以前は人間だったの。でもいたずらがたたって、ある時こんな格好にされちゃって」 「ふーん、元には戻れないの」 「戻れなくはないんだけれど・・・」 っと、そこではっと目が覚めてしまった。 はて、今のは夢だったんだろうか。でもカメレオンがまだこっちをじっと見て、こくっと頷くような仕草をした。違うこれって現実だ。 「レオーネ、僕たち友達になろうね」 翌日僕はレオーネの入った籠を持って学校に行った。 「先生持って来ました」 「おお、山野すまなかったな」 「いいえ、じゃあこのカメレオン僕が面倒見ていいんですよね」 「ああ、頼むぞ。でもうさぎがあんなことになったばかりだし、気をつけないといけないぞ」 「うん、わかってます」 それから僕は毎日毎日朝も昼休みも授業が終わってからもレオーネの所に駆けて行った。昼間の彼女は眠そうにしているけれど、そのうちに傍らで一緒に眠ると話ができることもわかった。 「祐介くん、今日は何が聞きたいの」 「レオーネってどうしてカメレオンの姿になったの」 「ふふ、わたしって人間の時、何でも欲しがり屋だったの。ある時お仕えしていた女神様の着ていた服が欲しくなっちゃったの。こっそり部屋に忍び込んでそれを着て遊んでいたら見つかっちゃって、そんなに他人のものが欲しければ、それに相応しい姿になるんだなって・・気が付いたらこの姿にされていて」 「そうなんだ。で、前に元に戻れなくもないって言っていたけれど」 「うーん、その話はまたいつかね」 どうやらレオーネは昔(相当昔らしいんだけれど、レオーネの言っている時代が何時頃なのか僕にはよくわからない)女神様に仕えていた人間だったらしい。でもその女神様の怒りに触れてカメレオンの姿にされたらしいんだ。それからずっと、ペットとして色々な神様に飼われていたらしい。それが何故かあの店で売られることになったらしいんだ。 「祐介くん、私君に会えて良かった」 「え?」 「他の人はみんな私のことを気味悪がって、でも君はそんなことちっともないんだね」 「当たり前じゃないか。僕はレオーネのことが大好きだよ」 「ふふ、ありがとう。私も好きだよ」 それから数日はレオーネとの楽しい日々が続いた。うさぎの事件については結局それからも新しい情報は出てこなかった。でもある日の朝、僕がいつものようにレオーネの籠を置いている部屋に行ってみると、大変なことが起きていたんだ。 (続く) |