パターン1 集団入れ替わり
ケースその1



第1話

アンナ・ジョンソンさん(仮名) 17歳、白人 アメリカ人、女性 
吉田 広樹さん(仮名)      7歳、モンゴロイド 日本人、男性
ニーナ・フィリスさん(仮名)   27歳、白人 イギリス人、女性

(記録者注)皆さんに紹介する際に、登場人物の補足をさせて頂くことにした。

「アンナ」
肉体:アンナ・ジョンソン(仮名) 17歳、白人 金髪 アメリカ人、女性
精神:吉田 慶介(仮名)     31歳、モンゴロイド 黒髪 日本人、男性

「広樹」
肉体:吉田 広樹(仮名)     7歳、モンゴロイド 黒髪 日本人、男性
精神:吉田 里香(仮名)    29歳、モンゴロイド 黒髪 日本人、女性

「ニーナ」
肉体:ニーナ・フィリス(仮名) 27歳、白人 青髪 イギリス人、女性
精神:吉田 広樹(仮名)    7歳、モンゴロイド 黒髪 日本人、男性

「里香」
肉体:吉田 里香(仮名)   29歳、モンゴロイド 黒髪 日本人、女性
精神:匿名希望         25歳、モンゴロイド 黒髪 日本人、男性

鍵括弧なしの人物・・・山田(仮名)氏、○○市役所職員、モンゴロイド、黒髪、日本人、男性。このケースにおける、いわゆる事件に直接の関係がない「聞き手」である。

なお、各回想内においては、基本的にその回想を行っている人物が話をしている。
以上、人物についての補足である。

それでは、証言記録をご覧いただきたい。




私、○○市役所の山田(仮名)と申します。
本日は、某日に発生しました集団入れ替わりの際、あなた方がどのような体験をなさったのか、その件について、お聞かせ願うためにご足労いただきました。
どうぞ、よろしくお願いします。
アンナ「吉田 慶介(仮名)です。こちらこそ、よろしくお願いします」
あなたたちが現象に巻き込まれた時の様子を、お聞かせ願えますか?
アンナ「はい、私たちはその時、グアムに家族旅行に行った帰りだったんです。
空港のバス乗り場で帰りのバスを待っていると、突然辺りがものすごい光に包まれました」
ニーナ「うん。ぼくね、その時、家に帰って、早く録画したアニメみたいなあって、思ってたんだ。そしたらいきなりね、光がこう、ピカ〜ッ!ってなってね、すっごくまぶしかったんだよ!」
広樹「広樹ちゃん。もう少し静かにしなきゃダメでしょう?」
ニーナ「ママ、ごめんなさい・・・」
どうぞお気になさらずに。
広樹「ありがとうございます。この子、自分が大人の女性の体だって自覚が薄くて・・・」
と、おっしゃると?
アンナ「いえね、たとえば、旅行に行く前に使っていた三輪車やいすに飛び乗ったり、おもちゃで遊ぶときに力の加減がわからなかったりして壊すことがしょっちゅうです」
ほかには何か?
広樹「お化粧や下着を着るのが時々おろそかになるのはまあ仕方ないとしても、人前で突然服を脱ぎだしたりとか、時々立ったままトイレをして、大変なことになる事があります」
ニーナ「あ〜っ!!ママ、トイレのことは言わないでって言ったのに〜!」
広樹「この間はデパートでやっちゃったじゃないの!あの時は本当に大変だったんだから!」
あ、あの、すみませんが、話を戻させていただきます。
広樹「あ、いえ、こちらこそ、本当に申し訳ありません」
あの日、あの空港で起こった事について、お話願います。
アンナ「あの時、私は空港のすぐ外にあるバス乗り場でバスを待っていたんです。そうしたら突然、あたりが強烈な光に包まれたんです。まぶしい、と思い、とっさに「どこかに逃げなければ」と思ったのですが、全身の感覚が消失してしまったんです。体を全く動かすことができなくなりました」
感覚が焼失した、と。
それでは、真っ暗闇のように感じたんですか?
「いいえ、光に包まれていると知覚はしていましたが、眼球を動かすこともまぶたを閉じることもできませんでした。そもそも、目が開いていたかも定かではありません」
広樹「その時、私は息子と手をつないで、空港の中でバスを待ってました。
息子は『早く家に帰りたい』とだだをこねていて、あれが起こったのはそれをなだめている最中でした」
そして、光に包まれた?
広樹「そうです。とっさに息子を抱きしめてかばおうとしたのですが、握りしめていた手の感触もなくなり、体も動かせなくなったんです」
アンナ「それで、光が無くなって、気が付いたら私は、ターミナル内のソファーに座って、ココアの入った紙コップを手に持っていたんです。空港のバス乗り場でバスの時刻を調べていたのに」
ワープしたように感じた、という事ですね?
「はい。それで、どうして自分はこんなところにいるのかと思って辺りを見回すと、視界の中に自分の体が入ってきました」
自分の肉体の変化にお気づきになられたということですね?
「そうです。男性とは太さも長さもまるで違う四肢、脇のあたりまで伸びた長い髪、胸には大きな乳房がくっついているし、服もカジュアルな女物になっていて、雑誌やドラマに出てくるようなスカートをはいていました」
それで?
「そりゃあもう、びっくりしましたよ!誰かに眠り薬をかがされて女装させられたのか、
とも一瞬思いましたが、そもそもカップを持っている手も私のものとはまるで違っていましたし、乳房をむにゅむにゅと触ると、触られている感覚がしっかりと通ってるんですから!!」
その時、あなたの周囲の状況は?
「周りの人たちもみんな、体をさわったり鏡を見つめたりして、パニック状態になっていました」
できる範囲で詳しく、お聞かせ願いますか?

以下、アンナ・ジョンソンさんの証言に基づきます。
自分が辺りを見回した時、完全にパニック状態でした。
自分の体がどうなっているのかを確かめようと、トイレや狭い空間に駆け込む人たちはまだいい方ですよ。
そこいらで大人の黒人女性だの白人の幼い少年だのが全裸になって自分の体のいたるところを弄って確かめていたり、スキンヘッドの大男やご年配の女性が甲高い声を上げて半狂乱になっていたり、それはもう酷いものでした。
空港の職員も入れ替わってるもんだから、かわいらしいドレスを着た白人の少女だの、ヘッドフォンとメガネのひょろっとしたモンゴロイドの少年が『お客様、どうぞ落ち着いてください』って言いながら駆け回ってましたね。
飛行機に繋がるターミナルの通路からも人が逆流してきました。
何人か捕まえて話を聞こうとするんですが、動揺なさっていたり、アジア人の外見なのにわけのわからない言語を話し始めたり(もっともこれは入れ替わり現象の有無にかかわらず起こりうることではあるのですが)で、まるで要領を得ないんです。
何とかそのうちの一人・・・外見は白人のスチュワーデスなんですけど、その人を捕まえて話を聞いてみると、接続されている飛行機の中でみんな服を脱ぎだし、自分の体を晒し始めたもんだから、慌てて逃げ出してきたそうです。
それで、とにもかくにも家族が心配で、二人のいた所に急いで向かっていたのですが、そのうちに、この女性の名前や家についてとか、高校での成績とか、ボーイフレンドの顔とかがわかるようになっていくんですよ。
ホントにニュースの通りなんだって、一瞬感心してしまったのを覚えています。
他の人たちも、そんな感じでしたね。自分の体の名前とか、年齢とかをぶつぶつつぶやき始めました。
その内、周囲の人々が動揺しながら話している英語も理解できるようになってきて、少しだけ気分が落ち着きました。
不思議なものですね。
ただ、ほんと、離着陸している飛行機に光の効力が及ばなかったらしいっていうのが、不幸中の幸いですね。

回想おわり

ありがとうございます。

(第2話に続く)

(記録者:どせいさん)