ゆすら荘のペットな彼女【2】(全4回)
 作・JuJu


 佑太はふたたび美由紀の別荘に来ていた。
 美由紀の部屋の、ガラスのテーブルに佑太は正座をしていた。目の前には美由紀が座っている。
 佑太は美由紀に向かって、神様から受け取ったひょうたんを差し出しだした。首につるしてあった紙片は、玄関に入る前にあらかじめはずしてある。
「これを飲んでください。飲んでくれたら、ぼくは美由紀さんのことをあきらめます」
 美由紀はほほえみをたやさなかったが、その瞳はあきらかに怪訝(けげん)そうな色をうかべていた。
「なあに、これ?」
「お酒です」
「ふ〜ん……」
 なるほどね、と美由紀は思った。自分を振った腹いせに、酒を飲ませて、酔ったところを見はからっていやらしいイタズラでもするつもりなのだろう。いかにも子供が考えそうなことだ。あるいは意外にも大人で、酔いつぶれた所に既存事実でも作って、むりやりにでも恋人に仕立て上げるつもりか。
 ただ美由紀には、佑太を傷つけてしまった罪悪感が心の中にしこりとして残っていた。まさか、ショックで家を飛び出すとまではおもっていなかったのだ。あの時の佑太が本当に心を痛めていたことは彼女にも伝わった。それがこの酒を飲むことによって許されると言うのならば、つきあってあげても良いかなと考えていた。さらに美由紀は酒に自信があった。つまり、酔わせて何かいたずらでもしてやろうという考えは、酒が強いものにとって挑戦状を叩き付けられたようなものだった。美由紀にも意地があった。こんな子供に、この程度の酒が飲めないのかとなめられるのはしゃくだった。
「わかったわ。そのかわり、飲んだらあたしのことはあきらめるのよ? 約束だからね?」
 美由紀は立ち上がると、キッチンから透明なグラスを持って来た。
 ふたたびテーブルに座った美由紀は、佑太からひょうたんを受け取る。
 美由紀がひょうたんの栓を引き抜くと鼻腔にかぐわしい成熟した果実酒の香りがひろがる。その心地よい香りは彼女の警戒心までもとかした。
 それでも美由紀はグラスについで中身を確かめることにした。
 透明なグラスに酒がそそがれる。淡い桜色の酒が、溶けるように透明なグラスを色づけてゆく。
 美由紀はグラスを口に近づけた。口の直前でいったん手をとめたものの、すぐにグラスのふちを口につけた。そこで美由紀の自制心はとぎれた。口当たりの良い上品な甘さが口内に拡がり、芳醇(ほうじゅん)な香りが鼻に抜ける。思った通り果実酒の一種のようだが、これほどの酒があったのかと驚くほど、今までに飲んだどの酒とも違っていた。
 おそるおそる口を付けた美由紀だったが、いったんのどを通ってしまうと、グラスを大きく傾け、ついには最後の一滴まで一気に飲み干してしまった。
「意外とおいしかったわよ」
 美由紀はいった。
「さあ、わたしはちゃんとお酒を飲んだんだから、佑太くんもわたしのことはあきらめて、これからはお友達として――」
 と、そこまで言いかけたところで、美由紀が口を開けたまま硬直した。
「――あ……ああ……」
 美由紀は小さなうめき声をあげた。その瞳は焦点がさだまらず、とまどうように宙を追っている。
 やがて、瞳が色っぽく潤(うる)みはじめる。頬が見る間に紅潮していった。
 美由紀は両の手のひらでほてった自分のほおを包むと、小さく開けた口から色っぽいため息をもらした。
「美由紀さん?」
「お……お酒のせいかしら……。体が熱いの……」
 美由紀はそうつぶやくと、佑太の目の前でシャツのボタンを一つ一つはずしはじめた。
 美由紀はうつろな目で佑太を見つめながら、痴態をさらしていた。
 美由紀は胸元を開くとシャツを脱ぎ、上半身ブラジャーの姿になった。
 佑太は恥ずかしさに我慢ができず、美由紀に背を向けた。自分の顔が熱くなっているのを感じ、強く目をつむった。
 背後で布が床に落ちた音がした。下半身に身につけている、肌に張り付くような細いジーンズも脱ぎすてた音だろうと佑太は思った。
 その音に、佑太の心は大きく動かされた。彼の心の中で見てはいけないと良心が訴えていたが、美由紀の裸が見たいという思いの方がまさり、佑太はおそるおそる振り向いた。
 佑太の目に映ったのは、ブラジャーとショーツだけになっている美由紀の姿だった。
 佑太の激しく鼓動する心臓の音を聞きながら、品定めするように凝視した。彼女の体は佑太の期待を裏切らなかった。いや、期待以上と言っていい。お揃いの桃色でそろえたブラジャーとショーツに包まれた彼女の体は、きめ細かい肌が白く透き通り、大きな胸と細い腰の対比が、みごとなまでのプロポーションを見せていた。
 だが、美由紀の痴態はそれだけではとどまらなかった。美由紀は背中に腕をまわすと、ホックをはずしてブラジャーを脱ぐ。さらに両手をショーツにはわすと、ゆっくりとおろした。
 美由紀は、佑太の目の前で、完全に裸になっていた。
「美由紀さん……」
「ん……?」
 おもわず声をかけた佑太にたいし、美由紀ははっきりとしない返事をするだけだった。
 酒に酔った美由紀の意識はもうろうとしていた。
(いまならば、美由紀さんを、ぼくのおもいどおりにできる)
 と、佑太は思った。
 佑太はひょうたんの首にぶら下がっていた紙片を思い出していた。筆文字で書かれていた言葉《飲ませた相手を、自分の物にできる》とは、こういうことだったのかと納得をした。なるほど、いまの状態の美由紀さんならば、体のどこをさわっても拒絶はしないだろう。

 しかし、美由紀の変化はそれだけにとどまらなかった。
 こんどは美由紀の体から《厚み》がなくなってきたのだ。風船から空気が抜けてゆくように、彼女の体が平たくなってゆく。
「え? ええっ!?」
 佑太は叫んだ。
 現実離れした異様な光景に、小学生の佑太はぼうぜんと、美由紀の肉体の変化を見ているしかなかった。
 そしてついに、美由紀の体は、紙のように薄くなってしまった。

 あまりの衝撃に、佑太はしばらくしばらく動けずにいた。
 やがておそるおそる、美由紀だった物に近づく。
 美由紀が床に脱ぎ捨てた服に重なって、美由紀が横たわっていた。
 佑太は腰をかがめて美由紀だった物をつかんだ。
 皮だけになってしまった美由紀の姿がそこにあった。
(人間が、皮だけになるなんて……)
 佑太は目の前で起こったことが信じられなかった。そこで佑太は、皮になった美由紀を調べはじめた。
 調べているときに、佑太はつい強く引っ張ってしまい、そこに切れ目が入った。皮をやぶいてしまったことに気がつき、あわてて手を離すと、やぶけたところはふさがり、切れ目がわからないほど元どおりにもどった。
 佑太が何度か切れ目を入れて確かめたところ、皮はゆっくりひっぱればかなり伸びるものの、急激にひっぱられると簡単に裂けるらしい。そしてこの皮は、体のどこにでも切れ目が入れられるし、ひっぱったところを離すと、切れ目はふさがって元通りに戻るらしいことがわかった。
 佑太はお腹の部分を割いて、自分の手を美由紀の皮の中に入れた。美由紀の表面の肌も触り心地がよかったが、皮の裏面もすべすべとして気持ちがよかった。
 その感触を知ってしまった彼は、今度は自分の体を皮の中に入れたくなった。全身で美由紀の肌を感じたくなったのだ。
 服を脱いで全裸になった佑太は、美由紀の皮の背中の部分を両手でつかむと、勢いよく左右に引っ張った。美由紀の背中は縦に引き裂かれて、中に入れるようになった。
(美由紀さんの中に入るんだ)
 奇妙な興奮が彼を襲った。
 佑太は右足を上げると、美由紀の皮の中に入れた。真っ平らだった美由紀の足が、ストッキングのようにもぐりこんでゆく佑太の足の形に合わせてふくらんでゆく。
 さらに左足も皮の中に入れた。
 美由紀の皮をつかみなおして腰まで引き上げると、今度は美由紀の皮を頭からすっぽりとかぶった。
 全身が美由紀の皮の中に入った。まるで美由紀に包まれているような気分になり、佑太の心は昂揚(こうよう)した。
(いまぼくは、美由紀さんの中にいるんだ。全身で美由紀さんに包まれているんだ)
 美由紀と佑太では体の大きさが違いすぎするために、美由紀の皮はぶかぶかだった。もしも、はたから見る者がいれば、それはものすごくこっけいな姿だったろうが、佑太は満足していた。

 その時、美由紀の皮に異変が起こった。
 ぶかぶかだった美由紀の皮が縮みはじめ、皮膚に張りついてきたのだ。
 それだけではない、視点がみるみる間に高くなる。急に胸に重みを感じたと思うと、その重みが急激に大きくなった。
 思わず胸を触ると、やわらかい弾力があった。あわてて胸を見ると、女性のように胸がふくらんでいた。
「え? えええ!?」
 おもわず上げた声も、女性の声になっていた。それは美由紀の声だった。
 あわてた佑太が姿見まで歩いていくと、そこには美由紀が映っていた。
 ぶかぶかの皮を着た佑太の姿でもなく、皮だけの美由紀の姿でもなく、皮にされる前のスタイルの良い美由紀が立っていたのだ。
「ぼくが美由紀さんになっている!?」
 そうおもった瞬間、佑太の頭の中に美由紀の記憶や知識が入ってきた。
 佑太はとまどったが、この機会にどうしても知っておきたいことがあった。それは自分の告白を、美由紀がどう思っていたのかということだった。
 佑太は美由紀の記憶を探り、告白の時のことを思い出させた。
「やっぱり美由紀さんは、ぼくのことなんてまったく恋愛の対象とさえおもっていなかったんだ」
 わかっていたことだが、こうして美由紀の目線で直視させられると、胸がひどく痛んだ。

    *

 しばらく試したところ、どうやら自分のことを美由紀だと思うと、彼女の記憶や知識が自然と頭に浮かぶらしい。忘れていたことを思い出す感覚で、彼女の記憶や知識が頭に入ってくるのだ。また、自分のことを美由紀だと心の底から強く思えば強く思うほど、彼女の記憶や知識がより多くはっきりと頭の中に浮かぶこともわかった。

    *

 佑太は、ふたたび姿見を見た。
 そこには恥ずかしそうに顔を赤らめた、裸の美由紀の姿があった。
 佑太は姿見に自分の体を向けた。手を上げれば、鏡の中の美由紀も同じように手を上げる。笑えば、鏡の中の美由紀も同じように笑う。
 そして、ひょうたんの首につるされた紙に書かれていた言葉《飲ませた相手を、自分の物にできる》というのは、本当はこのことを言っていたのかと納得した。
 裸の美由紀を、自分の思い通りに動かせる。
 そう思うと、佑太の股間のあたりが熱くなるのを感じた。と思うと、股間が勝手に裂けて、佑太のチン○が飛び出した。
(そうか、外からあんなに簡単に裂けるんだから、中からだってすぐに裂けるんだ)
 鏡に映った、自分のチ○ポを生やした美由紀の姿を見て、佑太は急に興奮が冷めるのを感じていた。あこがれの女性である美由紀が、チン○を生やしている姿など見たくはなかった。
 佑太は腹を両手でつかんで左右に引っ張って裂いて、美由紀の皮を脱いだ。
 裂かれた箇所がふさがっていく、床に捨てられた美由紀の皮を見ながら佑太はいった。
「違うんだ。おいなりさま。ぼくが望んだのはこんなんじゃない。
 ぼくは美由紀さんになりたいんじゃなくて、美由紀さんと恋人のあいだがらになりたかったんだ……」
 佑太はクローゼットの中に美由紀の皮をしまい込むと、重い足取りでふたたびゆすらのいるほこらへと向かった。

【3】へ