縁結びの神様なんて大嫌い!!

   作・JuJu


◆ 11

 それから一週間が経ち、学園祭の一週間前となった。

 昼休みの食堂には、いつものように美加と明、そしてヤキソバが加わりC組学園祭実行メンバーがそろっていた。

 そこへイタ子姫が肩を落としながらテーブルに向かってきた。美加たちもこう毎日お昼休みに顔を合わせていると、やはりイタ子姫に情が移ってしまう。

「なんだか元気がないな」

 明が心配そうに訊ねる。

「ええ。ちょっと……」

 イタ子姫が答える。

「学園祭でイタリアンの模擬店ができなかったことがそこまで残念だったか? だったらクラスを超えて、イタ子も俺たちのクラスにまざって一緒にラーメン屋をやるか? イタ子が望むのならスパゲッティくらいならメニューに加えてもいいぞ」

「はぁ? どうしてわたくしがラーメン屋などをやらなければなりませんの? それにお情けで出店できても嬉しくありませんわ!」

 消沈していたイタ子姫だったが、提案を聞いて怒鳴った。

「なんや? 学園祭でスパゲッティが出せずに落ち込んでいたんじゃないん? じゃあ、実家の店の売り上げがかんばしくないとか?」

 ヤキソバが訊ねる。

「逆ですわ。売れすぎて売れすぎて、事業拡大を考えておりますの。ですが県内ではボーノ・シゲトウの支店が飽和してきました。他県に進出するのも容易ではなく。そこでパパはイタリアン以外の別な料理ジャンルの出店を考えているのですが……。

 わたくしが頭を痛めているのは、その売れすぎている点ですの。どうやら新規事業の参入を阻むつもりらしく、品の悪いヤツラが閉店後の深夜にやってきては、誰もいないお店に嫌がらせをしていきますの」

「なるほどなー。たとえばイタ子姫みたいな大きな店が、個人店である美加のラーメン屋のそばに出来るってことになったら、それは脅威になるで。ウチだって親友の美加のために、イタ子の店に嫌がらせのひとつもしたくなるわ」

 とヤキソバが納得するように言う。

「冗談じゃありませんわ! わたくしたちはやましいことは一切してしません。正々堂々、値段と味で勝負していますわ。お手頃の価格で笑顔になるほどおいしいお料理、それこそイタリアンの基本思想ですわ。

 嫌がらせをして来るお店など、なにかと付加価値を付けて値段を吊り上げているようなお店に違いありません。それはぼったくりというやつですわ。

 ――まあ、私設警備隊を配備したので、もう心配はないとは思うのですが……」

「私設警備隊とは、ごっついなー」

「ただの警備員のことでしょ」

 美加が言う。

「なるほど。用心棒かー」

「それはそうと、みなさんはいつもどおり学園祭の準備の話をなさっていたのでしょう? どうぞ学園祭の話を続けてくださいませ」


    ◇


 学園祭三日前になった。

 体育館に美加と明、そしてヤキソバとイタ子姫が来ていた。

「全員そろっているな。それじゃくじ引きに向かうか」

 体育館には大勢の生徒でごった返している。各クラスの学園祭実行委員と野次馬が集まってにぎやかだ。

 今日はここで生徒会主催の〈学園祭で使える教室の割り当て〉のくじ引きをするのだ。

「ヤキソバはいいとして、どうしてA組のイタ子まで一緒についてきているのよ」

 美加があきれたように言う。

「かまいませんでしょう? どうせわたくしのA組は教室でのパネル展示ですのでくじ引きは参加いたしませんし。それにわたくしも当日はC組の模擬店のお手伝いをするつもりなのですから」

 やがて生徒会会長が開始の声をあげた。

「最初は、体育館を使いたい人」

 それを聞いて、早くも運動部の部長らしい人たちがつぎつぎに前に歩み出た。

 ひとりが長テーブルの上に用意してあるボール紙でできた一抱えほどある箱の箱の穴に手を入れて、中からゴムボールを取り出す。ボールにはマジックインキで4の数字が書かれていた。

 集まった生徒たちが、次々と箱からボールを掴んでいく。

 やがて結果発表になった。

「ボールの数字が当選番号です。4番、体育館Aコート」

 生徒会役員が言う。

「よっしゃ! 体育館をとったゼ」と、先ほどの、いかにも運動部のキャプテンらしい男子生徒がガッツポーズを取った。

「8番。体育館Bコート」

「やったな!」

 スポーツ女子がうなづく。部員らしいとりまきが歓声を上げる。

 こうしてくじ引きが進むたびに、それぞれが喜んだり残念がったりした。

 やがて美加が申請をしていた、家庭科調理室の番がやってきた。三年C組の学園祭実行委員長である美加の出番だ。

「わたしはくじ運がないから、自信がないなぁ」

「だったら俺がひいてもいいか?」

 明が言う。

「明さんでええんやない?」

 ヤキソバの言葉を聞いて、明が前に出る。

 気合いを入れてクジ箱に手を突っ込む。あまりに気合いを入れすぎて、箱が壊れてしまうのではないかと生徒会役員があせる。

「これだ!」

 箱から腕を出した明の手には、ゴムボールが握られている。ボールに書かれた数字は「7」番。

「ラッキー・セブンや! さい先ええで。家庭科調理室が使えるとええな!」

「最悪、化学室でもいいわ。あそこならガスと水道が使えるから」

「美加……。仮にもお客に出す食品を扱うのに化学室はないだろう」

「わ……わかっているわよ! ちょっと言ってみただけよ」

「とは言えたしかにラーメン店ですから、厨房代わりに使える教室がないと、かなりつらいことになりますわね」

「ウチは贅沢は言わん。どこでもいいから、仕込みができる教室ならどこでもええわ」

 すぐに当選発表が始まる。

 生徒会長が言った。

「家庭科調理実習室は、二組の合同で使ってもらいます。

 まず一組目……、2番」

「あー。取られたー」

 ヤキソバががっかりとする。

「あせらないで。もう一回チャンスはあるわよ」

「二組目、5番。以上で確定します」

「やっぱり、だめやったやん!」

 ヤキソバの言葉に、くじを引いた責任もある明があせった表情をする。

「くじ運は強いつもりだったんだがな」

 この後、当たらなかった者には敗者復活戦として、あまった空き教室を使える抽選がある。それでも空き教室では水道やガスの設備はないし、万一敗者復活戦でもどの教室も当てられなかった場合、C組の教室の隅を仕切ってそこを調理場にしなければならない。さらにガス台などの設置も必要だ。ラーメンの模擬店の開催は、多難な物になるだろう。

 四人が消沈していると、生徒会長が言った。

「なお、今年の家庭科調理室は応募者多数につき、特別に家庭科調理室準備室も開放することにしました」

「準備室が使えるんか!?」

 ヤキソバが驚き叫ぶ。

「家庭科調理準備室……7番」

「よし、7番!!」

 小さく頷く美加。

「やったー!」

 思わす両手をあげて喜びの声を上げる明。

 そんな明に、ヤキソバが「そんなにはしゃぐと周囲から明さんじゃないってばれるで?」と耳打ちする。

「あっ……」

 明が美加を見ると、いくら当たったからと言って俺がそんな風に浮かれてはしゃぐかよ、と言った風に首を横に振っていた。

「とにかく準備室とはいえ、家庭科室を借りられることになってよかったなー。

 これなら準備室でラーメンを調理して、C組の教室を食堂としてお客に出すことができるわけや」

「そうは言っても、調理したラーメンを準備室から教室まで運ぶのはちょっと大変そうですわね」

「それでも教室のすみで調理するよりははるかにましよ」

「まったくそのとおりだ。一時はどうなるかとハラハラしたが、これで一安心だな」

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