縁結びの神様なんて大嫌い!! 作・JuJu ◆ 10 翌日になり、ついに学校が始まった。 美加が予想していたとおり、明は問題なく明の演技をこなしていた。一方の美加の方もぎこちなさは残るものの、どうにか女のふりすることができていた。美加を演じることに自信がなかった彼女だが、実際に登校してみて、この分ならばクラスメイトに悟られずに済みそうだと確信した。もっとも男女ふたりが入れ替わっているなんて誰も想像もしないだろうし、よほどの失態をしなければ多少おかしな所があっても、ちょっと体調が悪いのだろうなと思われるだけで済むだろう。 ◇ 休み時間になり、美加の机にヤキソバがやってきた。 「美加、おトイレに行くで〜」 「ト、トイレ? そんなのひとりで行きなさいよ。というか誘いに来ないでよ……」 美加は顔を赤くしてそっぽを向く。 「女子は一緒にトイレに行くものや。ささ、連れションとしゃれこむで!」 そういうとヤキソバは、強引に美加を立ち上がらせると背中を押した。 それから小声で美加だけに聞こえるように言う。 (明さん、女子トイレにも慣れておかないとな) 「わかったわかった。一緒にトイレに行くから、そう押さないでよ」 美加とヤキソバは並んで、学校のトイレの前に歩いていった。 美加はいつもの習慣で、その足は自然と男子トイレに向かう。 「ちょっと美加! そっちは違う!!」 そのことに気が付いたヤキソバが、あわてて美加の手を引っ張った。 「あっ!!」 女の体で男子トイレに行きそうになったことに気が付き、美加もこれ以上ないほど顔を赤くした。 ◇ 午後の授業は体育だった。 美加はヤキソバと一緒に女子更衣室の前まで来たものの、そこで立ちすくんでしまう。 「どうしたんや美加。早く着替えんと授業が始まってしまうよ?」 ヤキソバが美加の手を引くが、美加の足はとどまったままだ。 ヤキソバは美加の耳元でささやく。 「明さん、そんなところに立ち止まっていると余計変に思われるで」 「わかっている」 美加はどうにか勇気を奮い立たせ、おそるおそる女子更衣室に入った。 美加の前には体育着に着替える女子高校生たちの姿があった。いつも見ているクラスメイトの女の子が、平然と服を脱いで下着姿になっているのだ。美加はあわてて目をそらす。 「ここが美加のロッカーやで。ウチのはその隣や」 美加はヤキソバに連れられてロッカーの前に立った。 その後、ヤキソバは美加の目の前で、躊躇(ちゅうちょ)することもなく笑顔で学生服ブラウスのボタンをはずし始める。制服を脱ぎ、上下とも下着姿になってしまった。 「あわわ……。おいおい!! 俺は男なんだぞ? いくら俺の正体をばらさないためだとしてもやりすぎだ」 周囲にばれないように、美加は小声で話した。 「今は女の子同士なんやからかまわないやん。それに裸じゃあるまいし。別に下着ぐらいならいくら見てもええよ」 と平然としている。声も美加のように小声ではなく、普通の大きさだ。 「そんなことより、どうやこの下着。昨日みんなでショッピングモールに行った時に買ったのをさっそく着けてみたんや。似おうてるか?」 ヤキソバは美加の前で、下着姿を見せつけるように色っぽいポーズを取った。着やせすると言うヤキソバは、こうして下着になると確かにDカップの大きな胸が目立つ。美加の視線はつい、ヤキソバの巨乳に向かってしまう。 「ウチの胸が気になるんか? なんなら触ってもええんやで?」 ヤキソバは見せつけるように胸を反らして乳房を強調させた。Dカップの胸が美加に迫る。 美加は思わずつばを飲み込んだ。いけないと思いつつも男の心には逆らえない。その腕がゆっくりとヤキソバに伸びかける。 その時だった、とつぜん背後から声を掛けられた。 「美加さんどうなさいましたの? 早く着替えませんと、次の授業がはじまってしまいますわよ?」 「うわっ!?」 美加は驚いて声のした方に振り向く。そこにはヤキソバの胸を見ている美加を不思議がる下着姿のイタ子がいた。 「イタ子? どうしてここに?」 その答えをヤキソバが言った。 「今日の女子体育の授業はA組との合同やん。美加は忘れっぽいなぁ?」 「そ、そうだったのか……」 そう言いつつ、美加の視線は今度はイタ子の胸に向かっていた。胸は美加よりも小さいが、リボンをあしらった可愛らしいブラジャーがよく似合っていた。肌が白くて文字通り人形のような美しさがあった。そんな女の子が目の前で、平然と下着姿で両腕を腰に当てて立っている。イタ子姫の下着は女性下着にうとい美加にも高級品だとわかるものだった。昨日ショッピングモールで見たのとは質が違った。 ヤキソバとイタ子。ふたりの下着姿の女の子に前に挟まれて、どぎまぎする美加。 そんな美加にヤキソバが小声で言う。 「明さん。あんまり女の子の下着ばかり見ていると変に思われるで?」 「あ……ああ。わかっている」 それから美加はぎこちない慣れない手つきで、どうにか体操着に着替えた。 そんな美加を、ヤキソバは苦笑しながらあたたかく見守っていた。 ◇ こんな感じで二週間が過ぎた。 ヤキソバのフォローもあり、どうにか無事に二週間が無事に過ごすことができた。 この日も、いつものように美加と明はふたりで学校を帰っていた。 「俺の両親に入れ替わったことはばれていないだろうな」 美加は明に尋ねた。小声で男の地を出している。 「大丈夫。ばれていないはずよ」 明も小声で答える。 「まあ美加ならば器用にやってのけるだろうと思っていたけれどな」 「明の方こそ、ばれていないでしょうね?」 「正直、美加の演技に自信はない。だが幸(さいわ)いなことに、美加の母親とは店が忙しくてほとんど話す時間が無いからな、ほとんど顔を合わせていないのでばれていないと思う。助かるよ。あまり話すとボロが出てごまかしきれないからな」 「よかったー。わたしが手伝えないせいでお母さんには苦労をかけているのは申し訳ないけれど、わたしたちが入れ替わっているなんて知ったら大変なことになっちゃうからね」 ◇ その次の日。 いつものように美加と明、そしてヤキソバが学生食堂で昼食を取っていると、イタ子姫がやってきた。 「聞いてくださいまし!」 食堂にも慣れたようで、自然にカウンターから持ってきたイタリアン・スパゲッティを丸テーブルに載せると美加たちに訴える。 「我がA組の学園祭のクラスの出し物が、パネル展示になってしまいましたの! 絶対にフレンチの模擬店になると確信しておりましたのに」 「ああ、やっぱり」 「やっぱりねー」 「そりゃそうなるわなぁ」 それを聞いた明と美加、そしてヤキソバは口をそろえて言った。 「A組の学友のみなさまは学園祭の出し物に対して情熱がわかないようで、教室に粗雑なパネルを展示することで適当にごまかすことになりましたの」 イタ子姫は涙も流していないのに、ハンカチを取りだすと涙を拭くふりをする。 「学園祭の準備にやる気がないのは、どの三年のクラスも同じなんやねぇ」 とヤキソバ。 「イタ子のクラスは進学組だからなおさらかも知れないわね」 イタ子が所属するA組は進学系のクラスだ。俺たちのいる進学就職混合のC組とは違い、クラスメイトの全員が大学を目指している。それならば受験に忙しく、クラスの出し物など構っていられないのは理解できる、と美加は思った。 「そういうイタ子は学園祭にかまけている余裕があるのか? おまえも進学するんだろう?」 明が問う。 「経営学を学ぶために大学に進学するつもりですの。でも庶民の方々と違い、わたくしには家庭教師がついておりますから。学園祭の準備をする程度の余裕はありますわ」 「ああ、そう」 このブルジョアめ、と渋い表情をした明とは違い、ヤキソバはさも心底感心したようだった。 「はえー。家庭教師とはすごいなー。さすがはイタ子姫や!」 「ううん。このメンバーの中で一番凄いのは、ろくに勉強しているように見えないのに成績優秀なヤキソバの方よ」 美加がいった。 「そのとおりだな」明が話を引き継ぐ。「ぼーっとしているくせに、成績はめっぽういいんだよな。塾に通ったりしているわけでもないし。それどころか参考書に触ったことさえなさそうだし」 「勉強は大嫌いや。せやから家(うち)で予習復習せんでもええように、授業を真剣に受けて精一杯学んでいるんや」 「授業だけで優秀な成績を収めるんだからすごいといっているんだよ」 「そんなもんやろか? それに勉強なら明さんもけっこう優秀やろ」 「明は家で予習復習をけっこうやっているもんね」 明の替わりに美加が答える。 そこに、イタ子が割ってはいる。 「みなさま、話がずれておりますわ! わたくしが申している、イタリアンの模擬店の提案が却下された話をお忘れになって?」 「忘れたというか、そもそも他のクラスのことだから興味ないし」 美加が言った。 「そんなひどい。学園祭を舞台に、ラーメンとイタリアンのライバル対決するはずでしたのに」 「せやで。ラーメン・ヤキソバ同盟軍とイタリアン帝国の、命運を掛けた決戦が繰り広げられるはずやったんやで」 「だからそんな対決最初っからないって」 明が突っ込む。 「でもイタリアンの模擬店がやれなかったのは残念ですわ……。本当に」 イタ子姫が寂しそうに言った。 ◆ 11へ |