縁結びの神様なんて大嫌い!! 作・JuJu ◆ 2 その日の放課後。 学園祭実行委員の美加と明は、学園からの帰り道を肩を並べて歩いていた。学園祭について話し合っている。 美加は家のラーメン屋の手伝いがあり、放課後の教室に残って話し合いをする時間の余裕がなかった。そのため明はわざわざ遠回りをして美加に付き合って、帰り道を利用して学園祭の打ち合わせをしていたのだ。 やがて歩いているうちに、駅前が見えてきた。 美加はいつの間にか会話をやめ、駅前にある大きなレストラン〈ボーノ・シゲトウ〉を歩きながら見つめている。イタリア料理のレストランで、特に麺であるパスタに力を入れているらしいと美加は聞き及んでいる。 「やはりラーメン屋の娘としては、ライバルとして気になるのか?」 美加がイタリア料理店を注視していることに気が付いた明が訊ねる。 「同じ飲食店だとついね。でもライバルというのとは違うかな。どちらも麺とはいえ中華のラーメンとイタリアンのパスタは別物だし。だから偵察に行ったこともないし。なにより相手は駅前一等地に構える大きな店。県内に支店がいくつもあるしね。一方わたしん家(ち)は駅前商店街からも外れた住宅街の一角にあるこじんまりとした住居を兼ねた個人のお店。これじゃライバルにもならないわ」 美加は自嘲するように言った。 やがてさきほど美加が言っていた駅前の商店街に入る。多くの店がシャッターを下ろしており、かつてあった活気はまったく感じられなかった。美加は自分の店が商店街から外れていると言っているが、疫病が流行った後の様なさびれた雰囲気の商店街からはずれているからこそ、いまでもそれなりに営業が続けられているのではないかと明は思った。 そんな商店街を歩きながら明が訊ねる。 「それで肝心のラーメンはどこで買う? 駅前のスーパーマーケットで買えば安いが、店同士の付き合いがあるなら、この商店街で買っても良いが?」 「わたしのお店は商店街からはずれた住宅街だから、商店街とのしがらみはないわ。だからそのことは気にしなくていいけど……。 それに材料はわたしの店から持ち出すつもりなんだけれど。そうすれば実費ですむから、お店から買うよりずっと安くすませられるわよ」 「どうしておまえの店に、ラーメンが置いてあるんだよ?」 「え? わたしの家はラーメン屋だから置いてあるのは当然でしょ?」 「なんでラーメン屋に、インスタントのラーメンが大量にあるのかと聞いているんだ。おまえの店はインスタントラーメンも出すのか?」 「バカ言わないでよ。わたしの店はちゃんと生麺を茹でてだしているわよ。明こそ、どかこらインスタントなんて話が出て来たのよ?」 「いやだから、学園祭の模擬店で出す〈インスタントラーメン〉のことだよ」 「なぜ〈インスタントラーメン〉なんて出さなきゃならないのよ! お客さんに失礼でしょ! 学園祭で出すのは〈生麺〉に決まっているじゃない。調理しないのならば、なんでわたしを使ってラーメン店にしようとおもったのよ?」 「学園祭でラーメンを出すならインスタントしかありえないだろう。美加には接客とか会計とかを期待していたんだよ。 おまえ本気で生麺を出すつもりなのか? 考えても見ろ、俺たちだけで店を回すんだぞ。ほかの生徒は戦力にならない。もしかしたら当日くらいはさすがにみんな手伝ってくれるかもしれないが、それだってあてにならない。 生麺から作っていたのでは調理が大変だ。やることはそれだけじゃない。接客や配膳もある。会計もある。皿洗いだってしなければならない。どう見ても圧倒的な労働力不足だ。 だからこそのインスタントラーメンなんだ。しかも袋麺ではなくカップ麺なら調理はお湯を準備するだけですむ。皿洗いもいらない。これなら俺と美加、あとヤキソバが加わればなんとかなるだろう」 「冗談じゃないわよ! ラーメンは生麺から茹でてこそ。インスタントラーメンなんて邪道だわ」 「しかしだなぁ……」 「絶対に生麺から茹でる! そこは譲れないわ!!」 「どうしてもか?」 「どうしてもよ!」 「しかたがない……。学園祭まで後一カ月もないのに、このままじゃ意見は平行線をたどることは目に見えている。それに学園祭実行委員の委員長はおまえだからな。わかった、おまえの提案を飲もう……。だが苦労することになるぞ? いいんだな」 「うん。わたしにだってラーメン屋の娘の誇りがあるんだから! どんなに大変だろうと、こればっかりは譲れない」 美加はきっぱりと言い放った。 ◆ 3へ |