縁結びの神様なんて大嫌い!!

   作・JuJu


◆ 3

 次の日、昼休みの学校の食堂。

 四人掛けの丸テーブルに明と美加が向かい合って座っていた。明の前にはキツネうどんが、美加の前には持参の弁当が置いてある。

「今日も食堂で買ったんだ? お金がもったいないから、わたしが自分の分と一緒にお弁当を作ってあげるっていつも言っているのに」

「恥ずかしくて女から手作り弁当なんて受け取れるか」

「店で余った材料をおかずに流用しているだけだから、別に気にしなくてもいいのに」

「そんなことより学園祭の模擬店の打ち合わせだ。あと一カ月もないんだぞ」

「そのことなんだけれど、スープはお母さんから店で使っている物を使っていいって許可が出たよ」

 と、そこにヤキソバがやって来きた。立ったまま丸テーブルに身を乗り出しながら言った。

「おー! 学園祭委員らしいことやっておるなー」

「ヤキソバ、おまえも学園祭の準備手伝ってくれないか。クラスの他のやつらは手伝うつもりがないから、とにかく人手不足なんだ。唯一やる気があるおまえが加わってくれるとありがたい」

「最初からそのつもりやで。ヤキソバの会会長としては本当は焼きそばパン屋がしたかったんやけど、同じ中華そば繋がりのよしみや。それに他ならぬ美加のピンチや。ウチと美加は親友やしな!

 と言ってもウチはラーメンのことはよく知らへんから、難しいことはふたりに任せるで」

 そう言いながら、売店から買ってきた焼きそばパンと牛乳をテーブルに置くと丸テーブルに座る。

「やっぱり今日も焼きそばパンなのね」

「当然や。ウチは焼きそばパンの会会長やからな! 焼きそばパンこそ至高の食べ物。パンと焼きそばの炭水化物と炭水化物が織りなす、味の競演」

 ヤキソバはそう言いつつ、焼きそばパンをくるんでいるラップフイルムをはがすと鼻に近づける。

「ん〜、いつも変わらぬこの芳醇な香り! やっぱり焼きそばパンは至高の料理やわぁ!」

 そう言って、大きな口を開けて焼きそばパンにかじりつこうとした――

 その時である。いきなり高笑いが割り込んできた。

「おーっほほほ! 焼きそばパンが至高の料理とは、片腹痛いとはこのことですわ!

 至高の美食と言えば、そう! それはもうイタリアンしかありませんわ!」

 ヤキソバは大口を開けてパンを食べようとしていた状態で手を止めて、声のした方を横目で見る。

 明と美加も笑い声に気づいてそちらを向くと、色白の肌で銀髪縦ロールの髪型をした、つり目の女の子がいた。

「……あいつは何者だ。おまえ知っているか?」

 明が美加に問う。

「たしか三年A組の、駅前のイタリアンレストラン〈ボーノ・シゲトウ〉のひとり娘よ。三年になってから転校してきたらしいけど……。明知らなかったの? あんなに目立つ子なのに」

 美加はすこし苦い表情で答える。

「ああ。あの駅前のでかいレストランか?」

 明の問いに、美加の代わりに銀髪縦ロールが答える。

「その通り! 県下に三十店舗あるイタリア料理のレストラン〈ボーノ・シゲトウ〉! 儲かって儲かって仕方ないので、こんど事業拡大して、さらに新しいお店を出そうと鋭意検討中ですの!

 ぜひお店に食べに来て下さいませ」

 最後に店の宣伝まで始めるあたり、さすがは飲食店の娘だと明は思った。

 いつの間にか焼きそばパンをむさぼっていたヤキソバも、食べかけのパンを手に会話に加わる。口の回りにソースがついていた。

「なんやイタ子姫も食堂に来たんか! ならばそこに座って一緒に食べへんか?」

「ごきげんようヤキソバさん。――ってそのイタ子姫って呼び名はやめてくださいといつも言っておりますでしょ!」

「だって銀髪に染めて縦ロールに巻いてるなんて、姫と呼ぶしかないやん? そんなの漫画とかアニメだけだとおもっていたわ……」

「大きなお世話ですわ! それにこれは染めているんじゃなくて地毛です。お婆さまがイタリアの人でしたの」

 あの髪の色は本物だったんだと美加は驚きつつ、ヤキソバに小声で語りかける。

「いつの間にあの子と知り合いになったのよ?」

「ん〜。わりと前からやで? なんか面白そうな子がおるなあと思って声をかけたのかきっかけや。それにお人形さんみたいで可愛いやん」

 美加とヤキソバがこそこそと小声で話し合っていると、銀髪縦ロールが言った。

「そうでした! 今日はこのような話をしに来たわけではありませんわ!!

 聞きましたわよ? 学園祭の出し物、C組はラーメン屋ですって? それであなたが実行委員長とか」

 銀髪縦ロールにねめつけるような鋭い視線を受けて、美加は思わず、わずかに身を引きながら答える。

「そ、そうだけど……。わたしに何か用?」

「来(きた)る学園祭で、我がA組はイタリアン・パスタの飲食店をすることになりましたの! ですから競合相手にご挨拶にまいりましたのよ」

「待てよ。A組はまだ学園祭で何をするか検討中だと聞いてるが?」

「明、A組のことを知っているの?」

「学園祭実行委員だからな。この程度の情報は把握している」

「このわたくしが提案するんですもの。もうパスタに決定したも同然ですわ!」

「あ、やっぱり明の言うとおり、本当はまだ決まっていないんだ」

「ですからイタリアン・パスタに決まるに決まっていますの! 学園祭の出し物はイタリアンの完勝が決まっていますけれど。一応はご挨拶に」

「なにがイタリアンの完勝や。ラーメン・焼きそばパン同盟が勝つに決まっているやろが、このイタ子姫め!」

「いや、C組は焼きそばパンは売らないから。ラーメンだけだから」

 美加が突っ込む。

「ヤキソバは冷めると不味(まず)いやろ?

 ところがあら不思議。パンに挟んで焼きそばパンにすれば冷めててもおいしいんや! つまり大量に作り置きが出来る! これが学園祭での勝利の鍵! これでC組の完勝は保証されたようなもんやね」

「すでにラーメンって決まっているから」

 ヤキソバの暴走を、美加が再び訂正する。

「それはそうと、イタコ姫ってなんだ?」明がヤキソバに問う。「あれか? 恐山にいると言う、口寄せをするお婆さんのことか?」

「ちゃうちゃう。イタリア料理店の娘だから〈イタ子〉や。それにさっき言ったとおり姫みたいだから、合わせてイタ子姫。どうや? ウチが名づけたんやで?」

「ぷぷぷ。イタ子姫! なにそれ、ダサいあだ名……! でもピッタリ」

 美加が思わず吹き出す。

「やめてくださいまし! せめてイタリアンの語尾を取って〈アン〉とか、言いようがあるでしょう?

 そもそもわたくしには重藤(しげとう)という由緒正しい家名が……」

「なら名前で読べはいいんか? な、小梅(こうめ)」

 ヤキソバが調子に乗っていう。

「小梅? 銀髪で白人っぽさの入った顔立ちで、なんて純和風な名前」

 美加が言う。

「せやで。彼女は繁藤小梅っていうんや」

「小梅はイメージに合わないからやめてくださいとあれほど……」

「せやから、わざとイタ子姫って呼んでるんやで〜」

「もう、勝手にして下さいまし!」

「でもウチは、小梅って良い名前だとおもうけどなー」

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