「恋と魔法の夏休み」
 作・JuJu

 第12話

 俺は夏花の家の更衣室にいた。となりには浴室がある。
 裸にバスタオルを巻いた俺の首筋を、一条の汗が流れ落ちていくのを感じた。
「遠慮しないで入っていいのよ」
 体にバスタオルを巻き付けた夏花が、浴室から笑顔で俺を手まねいている。
「そうだよ、はやく入ろうよ」
「あ、こら、押すな!」
 ユイはすばやく俺の背後に回ると、両腕で背中を押した。彼女に押し込まれる形で、俺はついに禁断の聖地、夏花宅の浴室に足を踏み入れてしまった。
「うっわ〜、ひろいお風呂だねえ。三人ではいってもまだ余裕があるよ?」
「うん。我が家自慢のお風呂よ」
「これならば、お家のお風呂に入りたくもなるよねえ。ねえヒロミ? ねえったら?」
「あ? ああ」
 ユイが何かを言っていたが、俺は夏花と風呂に入れたことで頭の中がいっぱいになっていた。
 俺の生返事が気に入らなかったのか、ユイは俺を捨てて今度は夏花にまとわりついた。
「ねえねえヒロミ。夏花のスタイルってすごい魅力があるよねぇ」
「んあ? そうだな」
「夏花から目をそらしてたんじゃ、言葉に重みがないよ。ほら、ちゃんと夏花の体を見ながら感想を言ってよ」
「わかったわかった」
 俺は仕方なく視線をあげた。
 ユイは夏花の背中を押して、彼女を俺のそばに寄せて来た。
「ほら、夏花も。女同士なんだから、こんなもの取っちゃって」
 そういうと、ユイは手を伸ばして、夏花を包んでいたバスタオルをはずしてしまった。
「きゃっ!」
「おわっ!」
 夏花の一糸まとわぬ姿を、こんな間近で見てしまった。
「ヒロミ、顔が真っ赤!」
 俺の味方なのか、それともからかっているだけなのか。ユイは悩殺された俺を指さして、満足そうに笑っていた。
「そうだ! ねえねえ、三人で体を洗いっこしようよ」
 ユイが言った。
「なに!?」
 提案を聞いてあせる俺に対し、夏花もうれしそうに賛成をした。
「それ、いいわね!」

 俺の目の前には、裸で背中を見せている夏花がいた。
「それじゃ、お願いします」
「お、おう」
 俺は泡立てたスポンジで、夏花の背中をなでた。
 夏花の肌を傷つけないように気をつけながら、ひたすら、彼女の背中をこすった。
 夏花の背中を洗った後、お湯をかけて泡を流した。
 こんどは半回転して、夏花に背中を洗ってもらう。
「ヒロミちゃんの肌ってすっごく綺麗ねー。まるで赤ちゃんの肌のよう」
 あこがれの女(ひと)と一緒に風呂にはいることは、男ならば誰でもあこがれるだろう。それが今、現実として俺に起きている。
 夏花と一緒にお風呂に入って、夏花の体を洗って、今度は夏花が裸で俺の背中を洗ってくれている。
 夢のようだ。
「どうしたの? もしかしてのぼせちゃったの?」
 ぼうぜんとしている俺を気にして、夏花が体を寄せてきたらしい。肩を越して、夏花が顔をのぞかせる。横を向くと、夏花の顔が間近にあった。
 目の前には夏花の顔。そして、背中には、夏花の胸が密着している。
(て、天国だ……。もう死んでもいい……)
 意識が薄れていく。
「ヒロミさん!? どうしたの?」
「大変だよ、鼻血流してる!!」
 遠くで、そんな会話が響いた。
 俺は幸せな気持ちに包まれたまま、気を失った。


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