「恋と魔法の夏休み」
 作・JuJu

 第11話

 水着に着替えた俺と夏花そしてユイは、南国リゾートを模したプールを歩いていた。
 男どもの視線が夏花に注がれているのを感じる。そのことに、優越感を感じた。
(おまえたちが、遠くから盗み見るしかない夏花の水着姿を、俺はこんな間近で見られるのだ。うらやましいだろう。それに俺は同性だから、おまえたちのようにこそこそと盗み見しなくてもいいんだ。
 それだけじゃない!
 おまえたちが、そのいやらしい脳で妄想している夏花の水着の下に隠された裸を、俺はついさっき、この目で見てきたのだ)
 そんな思いに浸っていると、夏花が手をつないできた。
「ねぇ、あっちで泳ぎましょう」
 ユイが同意する。
「うん。夏花の言うとおり、なんだかこのあたり嫌らしい視線が多いし」
「いや、視線は俺や夏花に向けてで、おまえには向かっていないだろう」
「うるさいわね。
 ――あ、あそこに行こう。あそこは女の人ばっかりいるよ。紛れ込んじゃおう」
 ユイが指さしたその場所に、太いロープで仕切られたプールがあった。女性向けプールと書かれた看板が立っている。広いプールには男は一人もおらず女だらけで、名称こそ女性向けと書かれていたが、実際は女性専用プールと言ったところだった。
 女性プールに入ると、そこはまさに水着姿の女たちに囲まれる世界だった。その上となりには夏花もいる。どうだ、うらやましいだろうと、俺は思わず横目で眺めている男たちに胸中で自慢した。
 だが。そんなさなか、ふと、むなしさに襲われた。今夏花が向けている笑顔も、つないでいる手も、女の姿のヒロミに向けられたものだ。俺に向けられたものではない。俺は夏花をだましている。それは、ここの女たちを盗み見している男たちよりも、卑怯な行為に違いなかった。そして、夏花の隣にいるというこの場所も、夏花とつないだこの手も、今日の夕方には幻となってしまうのだ。
 できることならば、こんなかりそめの姿ではなく、本当の俺の姿で夏花とプールに来たかった。
 周りにいる女なんていらない。
 ただ一人だけでいい。

「ヒロミ。なに、難しい顔をしてんの?」
「ん、ユイ?」
「今日は精一杯楽しまなくっちゃ。そうでしょう?」
「そうだな。その通りだ」
 明日にはすべて消えてしまう幻だとしても、今日は精一杯楽しもう。


      ★〜★〜★


「あ〜。さすがに泳ぎ疲れたな」
「それじゃ、今日はこのくらいにして、もう帰りましょうか」
「ヒロミったら、はしゃぎすぎ。夏花にいいところを見せようとしていることがばればれだよ」
「ちがうって。だいたいこの体でいくらいいところを見せても……、いや。なんでもない。ただオレは夏花と一緒に来られてうれしかったからさ」
「本当? それならうれしいな。
 そうだ! ねぇふたりとも、これから私の家にこない?」
「ええっ!?」
 俺は驚いて夏花を見た。
「ヒロミさんはもうすぐ自分の国に帰るんでしょう? だったら、もうすこし一緒にいたいな。
 私、プールから帰ったらいつもすぐにお風呂に入るの。泳ぐのは好きだけど、消毒液の臭いがいやなの。もちろんプールにもシャワーはあるけど。自分の家のお風呂の方が落ちつくし。
 だから、一緒にわたしの家のお風呂に入らない?」
「えっ? ええっ!? 夏花と一緒にお風呂にっ!?」
「それ、いいね! ヒロミも異論はないわよね? よし決まり! じゃあ、三人でお風呂に入ろう!」
「おっ、おいユイっ! 俺が風呂に一緒に入ったらまずいだろう」
「なんで?」
「なにでって……。おまえ、そんな不思議そうな顔をつくりやがって。わかっているくせに」
「ねえ、一緒にお風呂にはいりましょうよ。お願い」
「う……。な、夏花が、いいって言うのなら……」


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