「恋と魔法の夏休み」 作・JuJu 第10話 楽しい時はつぎつぎと過ぎてゆき、俺が女になってから一週間が経った。 今日でユイの魔法は消え、やっと男の体に戻れるらしい。となれば彼女の役目も終わる。 朝。俺は自分の部屋でいすに座りながらユイをながめていた。今日でお別れだというのに、彼女は別れを惜しむようなそぶりもなく、いつも通りベッドにうつぶせに寝ころびながら、俺の漫画をむさぼるように読んでいた。朝食を食べたばかりなのに、ドーナッツなんかかじっている。 ユイは俺の願いを叶えるためにここに来た。俺の願いは夏花と仲良くなることだった。なるほど、それはかなえられた。ユイもそのことは自負していて、ことあるごとに自分の仕事ぶりを恩着せがましく語ってくる。が、しかし、現実には夏花となかよくなれたのは女の姿のヒロミだ。本物の俺じゃない。ユイが来る前も来た後も、俺と夏花の仲はわずかにさえ近づいてはいない。 そのことをユイに問いつめると、『女の子になっていた時の経験を生かして、夏花と仲良くすればいいんじゃない?』と素っ気ない返事が帰ってきただけだった。 (夏花と仲良く出来れば、とっくにしている) 俺は目を閉じた。 (このまま、すべては一週間の夢に終わってしまうのだろうか) 「まあまあ、そんなに落ち込んでないで」 目を開けると、漫画を読んでいたはずのユイが俺の前に立っていた。 「今日はいいお話をもってきたわよ?」 ユイはおおげさに腕を広げて言った。 「ジャーン! 実は今日、夏花にプールに行く約束を取りつけておいたのです!!」 「プール? ああ、それで昨日どこかに出かけていたのか」 「今日は最後の日だからね。あたしからのプレゼントよ。 広海も知っているでしょう? 今年オープンしたばかりのリゾート型高級プール。 そこに夏花と行くことになっているの。 うふふ。夏花の着替えを見るチャンスよ?」 「だから、俺はそんなつもりは……」 「ごまかさなくてもいいのに」 「だがまて、俺、女物の水着を持っていないぞ? 買いに行くにも、もうこづかいが……。どうせ、ユイのプール代だって――」 「とうぜん広海のおごりよ」 「はあ。高級を謳(うた)うだけあって高そうだものな。マジでもう、こづかいがないよ」 「うふふ。そんなことだろうと思って」 そういうと、ユイは部屋の片隅に隠しておいた水着を取り出すと、俺の目の前に水着を差し出した。それは確かに、女物のワンピースの水着だった。 「それ、どうしたんだ?」 「借りて来ました。夏花から」 「盗んできたのか!?」 「そんなことしたって、あんたが着ていけば、あたしが拝借したってばれちゃうじゃない。 ちゃんと了解をとってきたわよ。 お古だけどね。だって、今夏花が着ている水着じゃ、サイズが合わないし」 「そうか。本人の了承を得ているのならば……。 ――ってまて、それじゃ、俺が夏花の水着を着るのか? 着ても良いのか」 「いいんじゃない。夏花がいいっていっているんだし」 「そ、そうか? そうだよな。こずかいもないし、ほかに女物の水着を手に入れる方法もないしな。いいんだよな、夏花が良いって言っているんだから」 ★〜★〜★ 俺とユイは、プールの女子更衣室の前に立っていた。 「やっ、やっぱりこういうのはまずいんじゃないのか? ここは公衆の場だぞ。夏花だけではなく、つまり、全く関係のない女たちの裸まで見てしまうことになるんだぞ。それって、すごくまずくはないか?」 「ここまで来ておいて、いまさらなに怖じ気づいているのよ。 だいたい女の子が女子更衣室に入るのは当然じゃない。むしろその姿で男子更衣室に入る方がまずいって」 「それはそうだが」 「今日は最後の日なんだから。たっぷりたのしまなくっちゃねっ!」 そういうと、ユイは躊躇(ちゅうちょ)して足を踏み出せない俺の背中を両手で押した。 ユイに押されて、俺はおそるおそる更衣室に入った。 「あ。なにをしていたの?」 中では、すでに下着姿になった夏花が俺たちを待っていた。目の前で平然と下着姿になっている夏花を見た俺は動揺した。いや夏花だけではない、ここでは多くの女性が着替えをしていた。 そこにユイが耳打ちする。 『(女の子が女の子の裸を見てあわてるなんて、変身していることがばれちゃうわよ)』 『(うっ。わ、わかった)』 俺はなまつばを飲み込むと、できるだけ自然に振る舞った。 (うう……。俺の目の前で、夏花が着替えているよ……) 見ちゃいけないと思っているのに、目が勝手に夏花の着替えを盗み見てしまう。 こうして俺は、どうにか水着に着替えた。 (第11話へ) |