「恋と魔法の夏休み」
 作・JuJu

 第7話

「それじゃ、まずは服を買いに行こうか」
 ユイに言われて、俺は自分の着ている服を見た。そういわれれば、肉体は女の子に変身したものの、服装は男の時のまま変わっていない。
「このままじゃだめか?」
「べつにだめじゃないけど、男物だし、女の子になったから体が小さくなっていて、ぶかぶかでだらしないじゃない?
 夏花と仲良くなりたいんでしょ? だったら服装にも気を使わないと」
「それはそうだが。……まあ、夏花と仲良くなるためならば安いものか」
 こうして俺は、ユイとともに服を買いに行くことになった。


      ★〜★〜★


「ねえどうしたの、早く服を買いに行きましょうよ」
 玄関で立ち往生している俺に、ユイが言った。
「なんというか、女の体で外にでるのって、けっこう勇気がいるというか」
「まずは、その体になれることから始めなきゃらならないか。
 まあそのためにも、道行く人に見られるのがいい訓練になるわよ。
 それに夏花に会いたいんでしょ? 外にでられないと夏花にすら会えないわよ」
「あ、ああ、わかった。すべては夏花と仲良くなるためだものな」
 俺は勇気を振り絞って、玄関のドアノブをひねった。
「あ、やばいっ」
「どうしたの?」
 玄関を出たところで、夏花が歩いてくるのが目に入った。
「夏花がいる」
 ユイはひたいに手のひらをかざし、背伸びをして道をながめた。
「あ。ほんとうだ」
 玄関に戻ろうとする俺の服の裾を、ユイがひっぱって止めた。
「大丈夫よ! その姿ならば広海だなんて判らないって」
「それはそうかもしれないけれど、やっぱ、はずかしいし」
「だから、その恥ずかしさを克服するためにも、外にでたんでしょう?」
 そんな押し問答をしているあいだに、夏花が声をかけてきた。
「あら、あなた」
「はひ? な、なにか?」
 女の体になって甲高くなった声を、さらに裏返しながら俺は応えた。
「ここは、広海の家だけど。どうしてあなたが入ろうとしているの?」
「え? それは、あの……」
「それにその服。広海が着ている服と、全部同じだけど? 靴まで!!」
「そ、それはっ」
 まさか、俺が本当のことを言ったところで信じるはずもない。かと言って、ごまかす言葉も思いつかない。
 完全にオーバーヒートしてしまった俺を助けるように、ユイは前に出ると落ち着いた物腰で応えた。
「広海のお知り合いの方ですか? ご紹介が遅れました。この方はヒロミ、私はお嬢様のお付きのメイドのユイと申します」
 俺はあわててユイの耳元に顔を近づけると、ささやいた。
『(ヒロミってばらしてどうするんだよ。どうして偽名を使わないんだ。それじゃ、俺が広海だって言っているようなものじゃないか。それに、なんでおまえがメイドなんだよ)』
『(大丈夫。同じ名前でも、容姿が全然違えば案外ばれないわよ。それにメイドならば、あたしがいつもそばにいてもおかしくないでしょ?
 いいから。ここはあたしに任せて!)』
 ユイは夏花に言った。
「なぜ私たちが広海のお宅から出てきたのかといいますと、実は私たちは、広海と一週間の交換留学中なのです」
『(おいおいおい、その場しのぎとはいえ、無理があるんじゃないか?)』
『(さっきからうるさいわねぇっ。あたしだって必死なのよ。夏花に正体がばれたくなかったら、あたしに合わせることねっ!)』
『(うっ、わかった。合わせる)』
 俺は夏花を見た。
「そ、そうなんですのよ。おほほほ。あたくし、とある国から日本に来日して来ましたですのぉ〜」
「そこまで役作りしなくても……」
「そ、そうだな」

 俺とユイは、不安そうな目で夏花の反応を見ていた。果たして、結果はいかに。
「疑ったりしてごめんなさい」
 と夏花は頭を下げた。
「あ、いや、そんな。
 き、気にしなくてもいいから、夏花」
 その言葉を聞いて、顔を上げる夏花。
「え? どうして私の名前を知っているの?」
「あっ……」
「ばか」
 ユイはあきれた視線を俺にぶつけると、すぐにとりつくろった。
「かくしていてごめんなさい。実は広海から夏花さんのことは聞いていたんです。
 この国のことでわからないことがあったら、夏花さんに聞くようにって」
「そうなんだ。広海が……。私のことを……」
 それを聞いて、夏花は満足げな表情をした。
 同時にユイもしたり顔で俺を見た。
「と言うわけで、ここで一週間ほどお世話になります。
 ――それで、私たちは、この国の服を買いに行くつもりだったんだけど」
「あら奇遇ね。じつはあたしも新しい服を見に行こうとしていたところなの。
 一緒に行く?」
「本当? 行く行く」
 よほど馬が合うのだろうか。初対面なのに、夏花とユイはいきなり意気投合していた。まあ、このあと夏花と買い物にいけるのならば願ってもいない展開だが。


      ★〜★〜★


 俺と夏花とユイの三人は、並んで大通りを歩いていた。
「……」
 自分のほおに血が集まっているのを感じる。おそらく俺の顔は首までまっ赤だろう。
「なあユイ……。なんだかさっきから、男の視線が気になるんだが……」
 そういうと、夏花が俺の胸を凝視した。
(夏花の視線が俺の胸に?
 まさか、もしかして、魔法で変身した偽物の胸だと気が付いたとか?)
「初対面でこんなことを言うのもぶしつけだと思って我慢してきたけど、でもやっぱり言わせて。
 ヒロミさんってブラつけていないでしょう。
 それは、この国じゃまずいの。
 男の視線が痛いのも当然よ。こんな美少女がブラをつけずに街をあるいているんだから」
「しかも、こんな恥ずかしげな表情をしているんだからね。これはたまらないわよね」
「決めた! 服を買う前に、まずは下着を買いに行きましょう」
「え? いや、女物の下着って。それを俺がつけるわけだろう? それは、ちょっと」
「いやがってもだめよ。同じ女として、こればっかりは見逃すわけには行かないわ。それに広海からもあなた達のことは任されているみたいだし。
 さあ、買いに行くわよ!!」
「ちょ、ちょっと!!」
「わあ、おもしろそう!! 行こう行こう!!」
「ユイまで!?」
 夏花って、お節介というか、生真面目なところがあるからな。こうなると、止まらないんだよな。
 こうして俺は、強引に女物の下着を買いに向かわされた。


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