「恋と魔法の夏休み」
 作・JuJu

 第4話

 俺たちは懸命に子猫を飼ってくれる人を捜した。だが結局見つからずじまいだった。
 公園で子猫を囲んで、全員でため息を吐く。
「飼ってくれる人、見つからなかったね」
 夏花がいった。
「よしっ! こうなったら俺たちで飼おう!」
 俺は立ち上がると叫んだ。
「えっ、でも広海の家はママがペット嫌いだって……」
 結衣がいった。
「だから、俺たちで飼うんだよ」
「?」

 一時間後、三人は神社に集まった。
「私、ミルクもってきた」
「あたしは、いらない毛布もらってきたよ」
「俺は段ボール箱だ。
 よし。ここならば人は住んでいないし。あとは給食の残りとかあげてさ。俺たちでこの猫を飼うんだ」
 三人は、夕日を浴びた子猫を見ていた。
「私たちのにゃんこだね」
 夏花が言った。

 だがつぎの日、俺たちが集まって神社に行ってみると、子猫はいなかった。
「どこいっちゃったんだろう?」
「飼い主が見つかったのかな?」
「そうだといいね」
「親猫が迎えに来たのかも知れない」
「きっとそうだよ。だって、いないんだもの」
「生きているといいね」
「絶対に生きているさ。どこかで」


      ★〜★〜★


「ねえったら!? ちょっと、どうしたのよ広海? 大丈夫なの!? 返事しなさいよっ!!」
 ふいに声をかけられ、俺は我に返った。
 そこは、コンビニの帰り道の神社のふもとで、目の前にはいつ現れたのか結衣が心配そうな顔で立っていた。
「なんだ結衣か」
「なんだはないでしょ。広海がこの暑い中ぼーって立っているから、日射病にでもかかったのかと思って心配してたんだから」
「むかしここの神社で、子猫を飼おうとしたよな。そのことを思い出していたんだ」
「子猫……?
 あっ、ああ! 思い出したわ! そういえばそんなこともあったわね。言われるまで、すっかりわすれていたわよ」
「あの日からくらべれば、俺たちは成長したよな」
「そりゃそーよ。あれから何年たったとおもっているのよ。あったりまえじゃない」
 俺は結衣の顔や体を、値踏みするように見つめた。
「なになに? あたしのことが気になるの?
 どう? 成長したあたしのナイスバディは?」
 俺が何を考えているのかすぐに感づいた結衣は、色っぽくポーズを取った。
「評価は、並……の上ってところだな」
「な! どうしてよ! あんただって、大したこと無いじゃない!!」
「そうだ。俺たちはどこにでもいるような高校生に成長した」
「え? うそうそ! あんたは、あたしの目ではそんなに悪くないと思うけど」
「結衣も悪くはないが、並のちょっと上程度の顔とスタイルになった」
「むっ。人がほめているのに、評価は変わらないのね」
「だがそれにくらべて、夏花はどんどん美人でグラマーになった」
「ま。夏花が相手じゃ、このあたしも敵わないわ。たしかに女のあたしからみても美人でスタイルもいいとおもう」
「そこが問題なんだよ。結衣くらいならば、俺もこうして気軽につきあえる。
 だが、夏花みたくなられると、そばに居づらいというか」
「そのことなんだけど。広海って、もうずっと夏花のことを避けているよね。夏花もあんな性格だから、気をつかって広海に話しかけないようになっちゃったし。
 二人の問題だから見て見ぬ振りを続けてきたけど、さすがにもう限界。
 ねえ、このままでいいの? あんた夏花のことが好きなんでしょ?」
「結衣に、俺が夏花のことが好きだって言ったことがあったか?」
「つきあいも長いからね。そのくらいお見通しっだって。
 告白してみなさいよ。男は度胸っていうじゃない。当たって砕けろってやつよ!」
「玉砕しろと言うのか?」
「失恋なんて、誰でも通る道でしょ? 振られたら、あたしがあなたの彼女になってあげるからさ。
 それにあたしの見たてたところ、夏花だって――」
 俺は結衣の言葉を遮って、自嘲気味に笑った。
「それができるなら、こんなに苦労はしてないさ。俺だってなんども告白しようとした。だけど、振られたらと思うと、どうにも駄目なんだ。やっぱ、俺なんかじゃ、夏花には釣り合わないんじゃないかってな。
 悪いな、これ以上太陽にさらされていると、本当に日射病になりそうだ。俺は家に帰る。じゃあな」
 そういうと、俺は結衣に背を向けて歩きだした。


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