「檻〜ORI〜」 終章・心の檻(二)
作:JuJu



「それと、ここから出してあげる」
 男は持って来た二つのカバンのうち、片方をわたしに手渡してきた。カバンを開けると、そこには裸にされる前にわたしが着ていた服が入っていた。靴やバッグまで、すべて揃っている。
「返してくれるの? 着てもいいの?」
 男は頷いた。
「裸じゃ、お家に帰れないでしょう?」
 わたしは、男の気が変わらない内にと思い、急いで服に手をかけた。
「わたしは調教をするのが好きなの。肉体を思いのままに造り上げていく、その過程が大好きなの。
 だから、調教の完成が分かった以上、もうあなたの体に興味はないわ」
 男の話を聞いて、わたしの胸に希望が宿った。
(なんだ、そういう事か。男にとって、わたしはもう用済みなんだ。これでもとの体に戻れる。家にだって帰れる)
 そう思いながら、服を着た。
 服を着終わると、男が言った。
「さっき皮をあげるって言ったけど……。
 でも、タダ……って訳にはいかないわ」
「えっ?」
 男はもう片方のカバンを差しだしてきた。
「開けてみて」
 言われるままに、渡されたカバンを開ける。中には一枚の写真と、液体の入った二本のビンがあった。
「写真が入っているでしょう?」
 慌ててカバンから写真を取り出す。そこには清楚なお嬢様風の女性が写っていた。
「裏を見て」
 写真を裏返した。女性の住所らしい物が活字で刻みつけられている。
「交換条件よ」
 男は目を細くして、鋭い瞳でわたしを見た。
「その写真の人物の皮を取って、ここに持って来ること。そうしたら、わたしが着ているこの皮と、交換して上げる」
「!」
「カバンの中に、ビンがあるでしょう?」
 わたしはカバンから、大小のビンを取り出した。
「大きい方に入っているのが皮を作るゼリー。小さい方は睡眠薬。
 ゼリーの使い方は話したわね。全身に塗ってしばらく待てば、皮の複製が取れるわ」
 ビンを見つめた。震える手の中で、ゼリーが揺れている。
(これが、例の皮の作れるゼリー……)
「そしてそっちは嗅がせるだけで効く、特殊な睡眠薬よ。間違っても自分まで嗅ぐようなヘマはしないようにね。
 皮を取る方法はあなたに任せるわ、自分で考えなさい。ただし、絶対に皮の複製を取った事を誰にも知られては駄目よ」
 それを聞いて「裏切られた」と言う思いが込み上げてきた。元に戻れると思ったのに、家にも帰れると思ったのに。
「どうして……。どうしてあなたは、わたしにこんな酷いことをするの? こんな体にして、わたしにどんな恨みがあるの?」
「恨み? 別に恨みなんて無いわ。単純に、あなたの体がわたしの好みだっただけの事よ」
「だったら、もうわたしに用はないでしょ? もう家に帰して!
 どうしてわたしに、皮まで取ってこさせようとするの?」
「それはね――」
 わたしの問いに、男の口調が自慢げになった。
「すべて、わたしの考えた計画のためよ」
「計画?」
「あなたの皮を取る時は大変だった。女の部屋に忍び込み、薬品で眠らせた後に裸にしたなんて事が、誰かに見られていたらと思うと不安で堪らなかった。それでも、不安にうち勝ち、大胆な行動に移せたのはどうしてだとおもう?」
「そんな事知らないわよ」
「この計画の為よ。
 ――わたしの考えた計画はこう。
 最初に、一人の女の皮を取って来る。そして、その皮を着て調教を楽しむ。
 取ってきた皮に飽きたら、皮の主をこの部屋に連れてきて、皮を着せて脱げないようにしてしまう。
 後は、元の体に戻す代償として、皮の主に新しい皮を取りに行かせる。
 ちょうど、今のあなたのようにね」
 男は話を続けた。
「次の人にも、その次の人にも、同じ事をする。これを繰り返すことによって、わたしは危険をおかすことなく、好みの新しい体を、永久に手に入れられるってわけ。
 あなたの体は素敵だった。まさに、わたしの計画の第一号にふさわしかったわ。でも、あなたの体はあきちゃったの。だから、新しい皮を取ってきて頂戴」
「そんな事出来るわけ無いじゃない!」
「強制はしないわ。これはあくまで取引。どうするかはあなた次第。拒否するのならばそれでもいいわ。その時はわたしが新しい皮を取りに行くまでの事。危険だけど仕方ないわ。
 そのかわり新しい皮を持ってこなければ、あなたは生涯、その調教された体を背負っていくことになる。
 それが嫌ならば、条件に従う事ね。
 さあ、どうするの? 皮を取ってくる? それともそのまま調教された体のままで一生をいる?」



(つづく)