「檻〜ORI〜」 終章・心の檻(一)
作:JuJu



 目を開くと、そこは真っ白な部屋だった。ありとあらゆる物が真っ白な世界。そこにわたしは、寝転がっている。
 どうしてこんな部屋で、裸で寝ていたのか分からなかった。その時、激しい快感の疼きを感じた。その甘くしびれる感覚に、わたしはすべてを思い出した。
 わたしは変質者の男に眠られて、この部屋に閉じこめられていたのだ。そして、調教を施した皮を着せられ、わたしは調教された体になってしまった。
 記憶と共に、男の顔が脳裏に浮かぶ。
(あの男!)
 わたしは慌てて、体を起こして部屋を見渡した。
 だが男は居なかった。
 男が居ない事に安心すると同時に、もう元の体には戻れないと言う絶望と、再び白い部屋に閉じこめられている不安感が襲ってきた。あの男は、わたしをここに閉じこめて、これからどうしようと言うのだろうか?
 その時、扉が開く音がした。男が戻って来たのだ。
 部屋に入って来たのは、もう一人のわたしだった。二つのカバンを持っている。
 もう正体は分かっているので驚きはしなかったが、目の前に裸の自分が立っているというのは、やはり不思議な気分だ。
「お目覚めかしら?」
 わたしの皮を着た男は、いかにも女性らしく話しかけて来た。
「いいかげん、わたしのふりをするのはやめなさいよ」
「別に良いじゃない。今はあなたなんだから。
 そんな事よりも、良い話をしてあげる。
 わたしの着ているこの皮は、あなたの皮を初めて着たとき、皮の上からゼリーを塗って、もう一枚あなたの皮を作っておいたの」
「たしかに、わたしは皮を一枚しか作っていないと思っていた。だから、あなたが再びわたしの姿でここに入って来た時は、ちょっと驚いたわ。
 でも、それがどうしたって言うの? またレズみたいな事をする気?」
「わからない? この皮は調教前に取ったのよ。つまりこの皮は調教される前のあなたの体なの」
「! それじゃ……」
「ええ。この皮を着れば、あなたは調教前の体に戻れる。そしてそれが、唯一の元の体に戻る方法。他に方法はないわ」
 わたしになりすました男は、上目づかいで、いたずらっぽい微笑をしながら言った。
「わたしの着ているこの皮、欲しいでしょう? もちろん、皮をくっつける、接着剤のゼリーも付けてあげる」
「……」
 わたしは黙り込んだ。
 男が言う事が本当ならば、この皮があればわたしは元の体に戻れるだろう。問題は、男がそう簡単に皮をくれるはずがないと言う事だ。奴の表情からも、それは伺えた。
「欲しいでしょう?」
「……」
「あげるわ」
 男は無造作に言った。


(つづく)