「檻〜ORI〜」 本章・皮の檻(六)
作:JuJu



 男がリモコンのスイッチを入れると、わたしのアソコに刺さっていたバイブが震え始めた。
「――何!? きゃああああっ!」
 振動の激しさに、わたしは自分のアソコが壊れてしまうのではないかと思った。
「どうだバイブの快感は? 堪らないだろう」
「あううう……」
「言葉も出ないか。しかし、出力はまだ弱だぞ。今から乱れていては先が思いやられるな」
 こんなに激しいのに、弱い振動だなんて……。この後、男がバイブの振動を強くする事は安易に予想できた。
「おねがい……もうやめっ……はうっ……ううっ」
 わたしはその予想に恐怖し、やめて欲しいと訴えようとしたが、声が言葉にならない。
「ふーむ? 予想以上に効いているらしいな。本来の持ち主だと、皮もよく馴染むらしい」
「ほ、本来の持ち主……って?」
 男の言葉に疑問を持ったわたしは、快感に襲われながらも何とか訊ねた。
「おまえはそれを、自分そっくりに造った皮だと思っているかも知れない。
 だが違う。それは、お前の体から剥いだ皮だ。
 安心しろ。剥いだと言っても、お前の体にゼリーを塗って皮の複製を取っただけだ。
 理解できないか? 無理もないな……。
 いいだろう、詳しく教えてやる」
 男は部屋をながめた。
「まず、お前がいるこの部屋だが、ここはSMプレイをするために俺が造った部屋だ。完全に防音されており、決して声が外に漏れることはない。
 そう。俺の趣味はSMプレイをする事だ。
 昔はこの部屋に風俗嬢を呼んでは、SMプレイを繰り返した物だ。
 だが、それもすぐに飽きてしまった。なぜなら、どの女も過激なことを要求するとストップを入れたからだ。
 SM嬢といえども身体が資本なのだ。身体にダメージを受ければ、今後の商売に差し障ると言う訳だ。『この程度の調教ではまったく物足りない。金はいくらでも出すからやらせろ』と言っても、拒否されるだけだった。
 それに、奴らは擦れていた。SMに慣れすぎているのだ。
 俺はまったく誰の手も加わっていない素材から、自分好みの肉体へ調教したかった。性に汚れていない無垢(むく)で真っ新(さら)な肉体を、自分の思いのまま、開発し調教して、俺の作品として完成させたかった。
 それを満たす為には、女を拉致してここに監禁するしかない。だが、そんな犯罪行為は出来ない。万一にでも事が公(おおやけ)に漏れれば、今の社会的地位と身分を失う危険がある。それにSMを続けるには金がかかる。この趣味のためにも今の生活を捨てる訳にはいかなかった。
 しかし、どんなに抑制しても、欲望は収まらなかった。
 そんな俺に、転機がやってきた。
 深夜。俺はいつもの闇商店で、商品を物色していた。この暴走してしまいそうな欲望を、SM道具でも買うことによって、何とか紛らわそうと思っていたのだ。
 SM道具や怪しげな商品に混じった商品棚から、俺はあるビンを見つけた。
 感とでも言うのか、理由は解らないが、俺は惹きつけられるように、ラベルさえ貼っていないそのビンを手に取った。中の液体は、ぶ厚いビンの中で、店の薄暗い明かりを受けて不思議な色を放って揺れていた。
 店の親父に聞くと、それは名もないゼリーで、店ではただ「ゼリージュース」と呼んでいるらしい。
 効能を聞くと、まさに俺が欲していた物そのものだった。
 普通ならば、こんな怪しげな物を信用する奴はいないだろう。俺だってそうだ。
 だが、俺はこの店を信用していた。この店は品揃えは悪く、店の親父怪しげで、値段もかなり高かったが、その分、品質は満足出来る物ばかりだったからだ。
 俺は親父に金を渡すと、ゼリーと即効性の睡眠薬を買って店を出た。



(つづく)