「檻〜ORI〜」 本章・皮の檻(四)
作:JuJu



 皮を脱ぐために、わたしは裂け目に手を伸ばした。
 だが不思議な事に、中に入る時に広げた、胸から腹まで続く大きな切れ目がなくなっていた。目立たなくなっているとかではなく、跡形なく消えていたのだ。
(――あ。そういえば男がわたしの皮を着ていたときも、切れ目は無かったっけ)
 一瞬慌てたが、すぐにそのことを思い出した。皮の中に入れていたゼリー状の液体……あれは皮の裂け目を塞ぐ為の物だったに違いない。
(そう言うことならば、あの男が皮を脱いだ時と同じ様にすればいいのね)
 男が脱いだ時の真似をして、胸を掴んだ。いまいましい皮を引き裂く為に力を込めて、両手を左右に一気に広げる。
「痛っ!」
 激痛がするだけで、皮は剥がれていなかった。
(男が脱いだ時は、あんなに簡単に脱げたのに。どうして……)
 やり方が悪かったのだろうか?
 その後わたしは、繰り返し何度も胸を左右に広げたが、その度に痛みが走るだけで、一向に剥がれる様子はなかった。
(急がないと、男が戻って来ちゃう)
 焦りが、「不気味な皮を早く脱ぎたい」と言う不安と重なり、試すたびに起こる激しい痛みも忘れ、ヒステリックに何度も何度も胸を引っぱった。
 ――その時、ドアが開いた。
 男が戻ってきたのだ。
 わたしは慌てて、何もしていないそぶりをした。
 男はさっきまで裸だったのに、戻ってくると背広を着ていた。
 もしかしたら、わたしの服を持ってきたのではないかと期待したが、その手は何も握られてはいなかった。
(自分だけ服を着て、ずるい……)
 乾いた靴音を響かせ、男が近づいてくる。目の前まで来ると、無言で腕を伸ばし、わたしの両胸を掴んだ。
「な、なに?」
 あまりの唐突な行動に驚いていると、男はわたしの胸を掴んだまま左右に開いた。ちょうど、さっきのわたしがしていた様に。
「痛い!」
「ふむ」
 男は手を離すと、満足そうに頷いた。
「何するのよ!」
「気にするな」
「気にするわよ!」
「癒着(ゆちゃく)具合を調べただけだ。お前の胸などに興味はない」
「癒着?」
「皮がお前の体の一部になったと言うことだ。
 皮の中にゼリーが入っていただろう。あれは、お前の体に皮を貼り付けるための接着剤だ。時間が経つと皮膚に癒着する様に出来ている」
「え? あのゼリーって、裂け目を塞ぐだけじゃなかったの?」
「そうだ。今や、お前が着た皮とお前の皮膚は一体になった。
 その皮を剥がすと言うことは、お前の全身の皮膚を剥がすと言う意味だ。そんな事をすれば、お前は死んでしまうだろうがな。
 つまりお前は生涯、その皮を着つづける事になる」
「そんな……」
 衝撃を受けているわたしに構うことなく、男は懐から何かを取り出した。
「さて。これがなんだか分かるな?」
「それって……。まさかバイブ?」
「そうだ。バイブだ」
 わたしは目を見開いた。
 バイブならば、さっき男が、わたしの振りをしていたときにも入れられたばかりだからよく憶えている。問題なのはその大きさだ。それは子供の腕ほどもあった。あれほど大きいと思っていた先程のバイブでさえ、これを見た後ではものすごく小さく感じる。こんな大きさのバイブが存在すること自体が、信じられなかった。
「そ、それを、どうするつもり? まさかわたしに入れるつもりなの? うそ? 絶対無理! そんなの入るわけがない! さっきのバイブでさえやっと入ったのに、そんな大きな物を入れられたら。……壊れちゃう!」
「俺は入れない」
「ほっ……」
 安心したのもつかの間だった。男はわたしの足元にバイブを投げ捨てると言った。
「拾え。自分で入れるんだ。
 サイズの事は心配ない。この程度、楽に飲み込む」



(つづく)