「檻〜ORI〜」 本章・皮の檻(三) 作:JuJu 奇妙な感覚を振り払うため、目を閉じて頭を振った。 ゆっくりと息を吐き出すと、わずかに気分がやすらいだ。 目を開けると男がいない。 「?」 どこに消えたのだろう? そう思っていると、いきなり胸を掴まれた。 「ヒッ!?」 男は後ろにいた。 背後から腕を伸ばし、わたしの胸を掴んでいる。 「あっ、あっ」 声が勝手に漏れた。 本来のわたしならば、こんな事をされれば振り返って男の頬を叩いている事だろう。だが今のわたしは違った。逃げ出すどころか、もっと触って欲しいと思っているのだ。 男の指が移動し乳首に触れる。さらなる快感が体中を駆けめぐる。 「どうだ? バイブとはまた違う気持ち良さだろう」 いつの間にか、耳元まで口を近づけていた男がささやいた。 わたしの姿をしていた男に、バイブで責められていた時を思い出し、顔が一気に熱くなった。 「そ、そんな事ない!」 「本当かな? どれ」 「あ? あんっ」 男はわたしの胸を強く揉んだ。同時に口から嫌らしい声が漏れる。 (相手はわたしを拉致した男なのに。そんな男に胸を触られて欲情するなんて、冗談じゃない) その思いが、快感の鎖から逃れる力を与えた。 わたしは男の腕を振り払った。後ろを向き、男の目を睨み付ける。 「いい加減にして!」 男もわたしの目を睨み返して来た。 わたしはさらに怒りをこめて、男の目を見た。 こんな時なのに、快感の余韻が胸を刺激していた。 こんな感覚は初めてだった。わたしは男の手に、何か仕掛けがあるのではないかと考えた。そうでもなければ、ただ触られただけで、こんなにも強い刺激を受けるはずがない。 男に悟られないように、視点を男の手に滑らせた。 男は普通の手をしていた。道具も持っていない。 視点を男の目に戻す。 (じゃあ、どうしてあんなに感じたの? わずかな間とは言え、拉致されている事も忘れさせる程の快感は、一体どこから来たと言うの?) さっき、わたしになりすました男に胸を触られた時も、これ程の快感はなかったはず……。 (もしかして、皮!? 着せられた皮のせい?) そうだ、男の言動に集中していた為に気がつかなかったが、このモヤモヤとした感覚は、皮を着せられた時から起こっていた。 皮に何か仕掛けでもしてあったのだろうか? 急に、今着ているこの皮がとてつもなく恐ろしい物に感じられてきた。 男は長い間わたしの事を睨み返していたが、ついに根負けしたのか、あきれたように「フン」と鼻を鳴らして目を閉じた。 そして背を向けると、睨み合いに負けたことを恥じているのか、部屋から出ていった。 睨み合いに勝った喜びはなかった。それよりも、この皮を脱ぎたくて仕方がなかった。 (男が居ない今のうちに皮を脱いでしまおう。 皮を着ていなくても外見は変わりないみたいだし、しばらくなら、ごまかせるだろう) まず、部屋を見渡して脱いだ皮を隠せる場所を探す。だが、なかば予想していたとおり、四角くて何もないこの部屋に、皮を隠せる様な場所はなかった。 (それでもかまわない) 男の命令にそむけばどうなるかわからない。が、今はそれ以上に、この不気味な皮を脱ぎたくて仕方がなかった。 (つづく) |