アナタに訊きたいコトが・・・・ 7
沈み行く夕陽のまぶしい荒川の土手をクラブ帰りの学生や、健康の為にマラソンをする人や、犬に引きずられながら散歩をする男の人が歩いていた。そんな土手の下の河原では30代ぐらいのカップルがキャッチボールをしていた。
「ご、ごめん」
男の方は謝りながらボールを放る。
「もういいて」
そう言いながらエプロンをした女はボールを受けて、謝り続ける男に投げ返した。
「で、でも・・」
「もういいて言っているだろう」
そんな会話を交わしながらキャッチボールを続けていた。
「私があんなものを買ってこなければ・・・」
「まったく酷い目に会ったぜ。間違えて乗ったから降ろしてくれって言っているのに。回送だから途中の駅に止まったらダイアが狂うから、終点まで止まらないとかぬかしやがってぇ。東京までノンストップはないだろう。その上、京都から東京までの料金もしっかり取りやがるんだから」
ショートヘヤーのどこか上○彩に似た少女がぶつくさいいながら荒川の土手を歩いていた。ふと河原を見ると仲良くキャッチボールをしている男女が居た。
「だから、こんな事になるとは思わなかったのだろう?」
ボールを投げながらエプロン姿の女が男に言った。
「ええ、あなたが疲れているみたいだから買ってきたのだけれども。あんな妖しげなお店で買うんじゃなかった」
男は鼻をすすりながら涙声で言った。
「綾菓子(あやかし)漢方薬房か。でもおかげで俺はこんなに元気になったぞ。お前のおかげでゆっくりと休めたからな。お前こそ、俺の代わりに馴れない仕事をして疲れてないか?」
「いえ、あなたの大変さがよくわかったわ。でも、私達いつになったら戻れるのかしら」
「そうだなぁ」
この二人は、今は夫の身体になった妻が買ってきたドリンクのおかげで入れ替わってしまったのだ。そのおかげで1週間休まずに働いていた夫は妻の身体でゆっくりと休む事が出来たのだが・・・
土手をトボトボと歩いていた○戸彩似の少女が、二人の会話を聞きとめた。
「なに?入れ替わり!」
少女は獲物を見つけた猫のように猛スピードでキャッチボールをする二人のほうに土手を斜めに駆け降りながら叫んだ。
「ど、ど、どこで買ったんだ。そのドリンク」
突然聞かれた夫婦は戸惑いながら、夫になった妻が答えた。
「チラビタドリンクですか?綾菓子薬房ですが・・・つぶれましたよ」
勢いよく駆け降りたので少女は、その言葉に落胆したのか。止まれずにそのまま荒川へとダイビングしてしまった。
「ドボ~~ン」
大きな音と水しぶきを上げて、少女は川の中央部に落ちた。
「だ、大丈夫か?」
「だ、だ、誰か大変!人が落ちたわ!!」
泳げない二人は助けを求めたが、土手の人通りは途絶えていた。
少女は川の流れにぷかぷかと浮かびながらブツブツと何か呟いていた。
「つぶれた・つぶれ・・つぶ・・・」
日が沈み、暗くなっていく空を見つめながら少女は東京湾へと流れていった。まるで、飲み捨てられたドリンクのビンのようにプカプカと・・・