最初の戦いから数日。 とある場所の地中深くに作られた広間に設置された巨大スクリーンに、 戦いの一部始終が映し出されていた。 その映像を見つめる数人の人影 いや、時折見える尻尾のような影は、彼らが人間ではないことを示していた。 「あれは何だ」 「『ゼリージュースロボ』です」 小柄な少女が、低い声で発せられた問いに答える。 いや、スクリーンの光に照らし出された少女の姿は、やはり人間のものではない。 ぬめぬめと光る肌は淡い青色をしており、その両手の指の間には水かきのような薄い膜が張っている。 そして何よりも、スカートの中からは細く長い尻尾が伸びていた。 そして身長は130cmほどの小学生くらいの背丈だが、その凛とした口調は、彼女が明晰な頭脳の持ち主であることを示唆していた。 ![]() 「ゼリージュースロボ……じゃと?」 少女の答えに、傍らの老人が顔をしかめる。彼もまた、その下半身に恐竜のような太い尻尾を有している。 「あのパワー、そして数々の超兵器。間違いなく機体に『ゼリージュース転換炉』が搭載されております。我々が欲して止まないエネルギーの源が」 「なんと、それでは……」 「はい。何も人類の絶対防衛ラインを正面突破して『ゼリージュース力研究所』の占拠を企図しなくとも、あの3体のロボットを奪取すれば良いのです。何としてもあのロボットを我が『両性人類帝国』の手中に収めなければなりません」 「よくわかった。で、ネオテニー教授、貴殿に策はあるのか?」 空気がビリビリと震えるような低い声が、閉ざされた空間の中に響く。 声の主は、その場にはいないようだ。 「あの機体の動きから推察するに、パイロットはまだまだ未熟とみました。そしてパイロットの調べは既につけております」 スクリーンに、ゼリージュース力研究所の門から出てくる、亮、勇人、そして優希の三人と彼ら一人ひとりのデーターが映し出される。 「おお、さすがネオテニー教授」 老人が相好を崩す。だがネオテニーは傍らの老人を見ようともせず、低い声の主に対して言葉を続ける。 「パイロットに策を仕掛けましょう」 「成算はあるのか?」 「策はここに。連れて来い」 ネオテニーの言葉と共に、二人の兵士が縛られた学生服姿の男子を部屋の中に連れてくる。 「何なんだよ、ここは、俺をどうしようって言うんだ。まさか食おうなんて、いやだ、俺なんか食っても美味くないぞ」 「静かにしろ、何もとって食おうというんじゃない。ただ、お前の体をしばらく借りるだけだ、人間」 ネオテニーはそう言うと、男子に近寄って口付けをする。 「ひ、やめろ…んぐんぐ、ん~~」 ネオテニーの口の中から青いゼリー状のものが口伝いに男子の口に入っていく。 それと共にネオテニーの姿は徐々に縮んでいく。 「んぐ~んぐ~」 ゼリー状になり完全に男子の体の中に入ってしまったネオテニー。 ぐったりとなる男子。その縄が解かれる。 やがてその姿が少しづつ変わりはじめる。 髪が伸び、肩幅は狭く体全体が華奢になる。そしてお尻と胸はむくむくと膨らんでいく。一方股間のモノはどんどん縮んでいた。やがてそこは縦の筋状の窪みに変わってしまった。 「ふふふ、人間の体か、なかなかいいものだ」 目を開いた男子の口から出た声、それはネオテニーのものだった。 学生服を脱ぎ捨てると、その姿は透き通るように白い裸体の美少女に変わっていた。 「あれを出せ」 全身真っ黒の兵士の手でセーラー服が出され、美少女はそれを着込んでいく。着終えたその姿は、もう制服姿の女子高生そのものだ。 ネオテニーは美少女女子高生の姿でその場にひざまずく。 「我ら両性人類は地上では長く生きていることはできませんが、こうして人間の体を乗っ取れば活動できます。私がこの姿でパイロットに近づきましょう。この目でロボットを直に見てまいります。そして見事ロボットを奪ってまいりましょう。 「よかろうネオテニー教授、貴殿に任せる」 「必ずやゼリージュース転換炉をこの手に収めてみせましょう。お任せください」 ゼリージュースロボ 第2話 ゼリージュースマシン強奪計画 作:toshi9 挿絵:◎◎◎さん 「おーい、優希」 「あ、勇人、おはよう」 朝の高校への通学路、先を歩くブレザーの制服姿の少女を見止めた少年が声をかける。リボンとネクタイ、スカートとズボンの違いはあるが、彼もまた同じブレザーの制服を着ている。 その声に振り向き、少年に答える少女。 声をかけた少年は清水勇人。ゼリージュースマシン2号機、ブルーマシンのパイロットだ。 声をかけられた少女は小野優希。ゼリージュース力研究所所長・小野俊行の娘であり、ゼリージュースマシン3号機、イエローマシンのパイロットである。 二人とも千葉市内の東高校に通う1年生だ。 「あれから博士の様子どうだった?」 「解散した後、パパにこってり怒られちゃった。全く、敵をやっつけたんだから、あんなに怒らなくてもいいのに。パパなんか嫌いよ」 「まあ俺たちにとって最初の戦いだったからな。シュミレーションと緊張感が全然違うよ。操縦桿を握っていると心臓がばくばく鳴ってたよ」 「そお? あたしはへっちゃらだったけど」 体の前で両手でカバンを持って歩きながら、すまし顔で答える優希。 「何言ってるんだ、勝手な行動取りやがって。九条さんにも言われただろう、もっとチームワークを大事にしなさいって」 「だって、要するに敵を研究所に近づけないように全部倒せばいいんじゃない。そんなの簡単でしょう」 「この戦いって、そんなもんじゃないと思うけどなあ」 「戦うってそんなものよ。ところで……ねえ、亮お兄ちゃんは?」 「朝練があるらしいよ」 「空手の?」 「ああ、大会が近いらしいからな」 「そうなんだ。転校して間もないのにもう大会出場なんて、さすが亮お兄ちゃんだ」 「へへっ、まあそうでもないさ」 「何にやけてるのよ。勇人に言ってるんじゃないんだから」 「あはは、そうだったな。さあ、始業に遅れるから早く行こう」 「あ、待ってよ~、勇人」 視界に入ってきた校門に向かって駆け出した勇人の後を追いかけるように、優希も走り出した。 「男子ども喜べ! 女子の転校生だ。 霧谷七尾さん、入って」 勇人と優希は同じクラスである。始業のチャイムが鳴り、朝のホームルームの始まりを待っていると、程なくしてクラス担任の早乙女美凪が教室に入ってきた。そして彼女に呼ばれてセーラー服を着た女子が教室に入ってくる。 「また転校生? ここのところ多いな~」 「でも、かわいい子」 「長い髪、それにあの肌、白くて透き通っているみたい」 「でも何よ、男子ったら見とれちゃって。全く」 クラスの女子がざわつく。 一方の男子は、黒板の前に立つ女子に見とれて声も出ないといった様子だ。 七尾と呼ばれた少女は、黒板に『霧谷七尾』と書くと、クラスの面々を見渡してぺこりとお辞儀した。 「霧谷七尾です。よろしくお願いします」 「わからないことがあったら、クラス委員長の小野さんに聞くといいわ。優希ちゃん、お願いね」 「はい!」 美凪に呼ばれた優希が返事すると、七尾は優希を一瞥し、もう一度お辞儀する。 「小野さん、よろしくお願いします」 「優希でいいわよ、こちらこそよろしくね。わからないことがあったら何でも聞いて」 「感じのいい子だな。あれ? お前、委員長だったんだっけ?」 隣の席から、勇人がささやく。 「この間クラスで選挙やったじゃない。あ、選挙の時は、まだ勇人たち転校してなかったんだね」 「まあな、しっかしお前が委員長だなんて、うちのクラスもお先真っ暗だな」 「なによ、失礼ね。この優希ちゃんにまっかせなさい」 優希がそう言って胸をどんと叩くふりをする。 「やれやれ、どこからその根拠のない自信が湧いてくるんだか」 「はいはい静かにして。それじゃ霧谷さんは、優希ちゃんの横の窓際の席が空いているからそこに座って」 「はい」 七尾は颯爽と机の間を歩き、優希の隣の席に座った。勇人の席とは丁度反対側だ。 「あれ? 床が濡れてる。雨でもないのに変ね。ま、いいか。それじゃ今日のホームルームはおしまい」 そう言って、美凪は出て行く。 それから一時限の授業が始まる間、七尾を囲んでクラスはちょっとした喧騒に包まれていた。 さて、その頃ゼリージュース力研究所には、再び伊吹防衛軍長官が訪れていた。 「長官、朝早くからありがとうございます。この間はいきなりの実戦で詳しい説明する暇もありませんでしたな」 「なあに、論より証拠。先日の戦いでゼリージュースロボの力、この目でしかと見せてもらったよ」 「改めてお見せしましょう。これがゼリージュースマシンです」 研究所の中央制御室の巨大スクリーンに格納庫で整備されている三機に機体が映し出され、続いてCGによってその合体した姿と搭載された兵装が次々に映し出される。 その映像をポインターで指し示しながら、小野博士が説明を開始する。 ![]() 「3機のゼリージュースマシン、『レッドマシン』『ブルーマシン』『イエローマシン』が合体することで『ゼリージュースロボ』に変形します。合体のパターンで3つのロボットになるのは、既にご覧になった通りです」 「うむ、あの変形合体システム、凄いものだ」 「このロボットのコードネームは『ストロベリー』。[レッド-ブルー-イエロー]の組み合わせで合体し、女子高生の姿に変形します。パイロットは清水亮。空中戦と地上戦を得意とする最も汎用性の高い機体です。搭載兵器はゼリージュースビームとゼリージューストマホーク」 「うむ」 「そしてこのロボットは、コードネーム『ブルーハワイ』。[ブルー-イエロー-レッド]の組み合わせで合体し、女性教師の姿に変形します。パイロットは清水勇人。空中戦と地中戦と得意としています。装甲は薄くなりますが最も俊敏性に優れています。搭載兵器はブルーハリケーン、ボトルクラッシャー、そしてゼリージュースカッター」 「なるほど」 「最後にこのロボットは、コードネーム『パイナップル』。[イエロー-レッド-ブルー]の組み合わせで合体し、メイドの姿に変形します。パイロットは娘の小野優希。地上戦と水中戦を得意とし、スピードには劣りますが、装甲は3機中で最も厚く強化されています。搭載兵器は桜島大根おろしとパイナップルミサイルです」 大スクリーンの映像で繰り広げられる変形とその搭載兵器の威力に、伊吹長官が改めて感嘆の声を漏らす。 「ふーむ、全く凄いものだな。よくぞこんなマシンを作り上げたものだ」 「はい、無限のエネルギーを秘めたゼリージュース転換炉があればこそです」 「そう、そのゼリージュース転換炉のことだ。せっかくの転換炉をなぜわざわざあのようなロボットの動力炉にしたのだ。発電用に設計すれば、日本のエネルギー問題は一挙に解決するのではないのか? 総理も早期の本格転換炉の建設着工を望んでおられる」 「各機体に搭載しているのは、テスト用の小型実証炉です。合体して初めて本来の能力を発揮できるよう設計していますが、結局先日の戦いでのロボの出力は計画の30%でした。100%の出力を生み出す為には、まだまだ改良しませんと」 そう言って、小野博士が笑う。 「あのパワーで30%の出力だと!」 「はい。計画通りの出力を発揮できるようになれば、本格プラントを数個建設するだけで日本のエネルギーの全てをまかなってしまうでしょう。ですが、今建設したとしても、必ず奴らが転換炉を収奪もしくは破壊しにきます。ですから実証炉は3機のゼリージュースマシンに別々に搭載したのです」 「なるほど、大事な実証炉を一度に破壊されないようにという訳か。しかし機体を奪われたらどうするのだ」 「ゼリージュースマシンは、彼ら3人にしか動かせないようにセキュリティ設定しております。他の人間がコックピットに入っても、何一つ動かすことはできませんよ」 「3人こそ転換炉の番人という訳か、その役目、彼らのような少年少女には重すぎるのではないか?」 心配そうに見る伊吹長官に、小野博士は笑い返す。 「なあに、あいつらはそれほどやわではありません。マシンの転換炉で出力データーをとりつつ、セキュリティ万全の本格炉の建設を進めますよ。任せてください」 「ふむ、期待しているぞ」 さて、場面を高校に戻そう。 昼休み、優希は七尾を校内案内していた。 「ねえ、七尾ちゃんって呼んでいい?」 「構わないけど」 「どこから来たの? 「……西の彼方から」 「西の彼方? 七尾ちゃんっておっもしろ~い」 前を歩く優希がけたけたと笑う。 「ねえ小野さん」 「私のことも優希って呼んでいいよ」 「……優希さん、あなたにお願いがあるんだけど」 「お願い?」 「うん」 じっと優希を見詰める七尾 「優希さん、私を見て」 「え? きゃっ!」 まばゆい光が優希を襲う。そして……。 「ただいま~友だちつれてきたよ♪」 研究所のオペレーティングルームに、七尾を連れた優希が現れる。 プシューッと小さな駆動音を立てて開いた自動扉から入ってきた二人と見て驚く九条京子。彼女はオペレーティングスタッフのリーダーだ。 「優希ちゃん、ともだちってあなた……。ここは関係者以外立ち入り禁止区域よ。わかっているでしょう」 「この子は今日うちのクラスに転校してきた霧谷七尾ちゃん。あたしゼリージュースマシンを見せてあげるんだ」 「ちょ、ちょっと優希ちゃん、あなた何を言って……!?」 「いいのいいの、さあ、七尾ちゃんこっちよ」 「ありがとう、優希さん」 扉を出る優希と、その後に続いて部屋を出て行く七尾。 優希はセキュリティカードで次々に扉を開いてゼリージュースマシンの格納庫に向かって七尾を案内する。 京子は慌てて所長席に電話した。 「博士、博士、優希ちゃんの様子が」 「どうした、何を慌てて? 君らしくないぞ、九条君」 「それが、優希ちゃんが友だちにゼリージュースマシンを見せるってここに連れてきて、今、格納庫に向かっているんです。何だか様子が変でした」 「なに? 全くあの馬鹿娘が。映像は撮っているか?」 「はい。今からそちらにお送りします」 パネルを操作する京子。 京子から送られた格納庫に向かう二人の画像に見入る小野博士。 「ふーむ、九条君、格納庫の扉は絶対に開くんじゃないぞ」 「でも、パイロット用のカードキーを使えば、電源を落としても格納庫までたどり着けるように設計されています」 「ちっ、そうだったな。仕方ない。亮君と勇人君に緊急コールサインを送るんだ」 「了解しました。他には?」 「無駄かもしれんが、念のために格納庫のハッチはロックしておけ」 「はい」 小野博士の指示にパネルを操作する京子。 その頃、優希と七尾は早くも3機のゼリージュースマシンが並んだ格納庫の中に入っていた。 「どお、かっこいいでしょう。これがあたしの乗っている『イエローマシン』よ。あっちが『レッドマシン』と『ブルーマシン』」 「ねえ優希さん、あれにあたしも載せてくれない」 「うん、いいよ、一緒に乗ろう」 イエローマシンのハッチを開けてコックピットに乗り込む優希と七尾。七尾は興味深そうに計器類を見ている。 「優希さん、これ飛べるの?」 「もっちろん。ねえ九条さん、ハッチを開けて」 コックピットの計器にパイロットキーを差し込むと、優希はモニターに向かって話しかける。 画面に映った京子は、優希の顔を見るなり顔をさっと蒼ざめる。 「駄目よ、優希ちゃん、あなた一体どうしたの?」 だが美沙を無視して、後ろに座った七尾に向かって振り返る。 「七尾ちゃん、駄目だって」 「何とかならないの?」 「よお~っし、七尾ちゃんの為だ」 優希は操縦席パネル下のレバーを引く。すると格納庫のハッチが徐々に開いていく。 「これは研究所の電源が落ちた時でも出撃できるようにする非常出撃レバーなんだ」 「へえ~、なるほどね」 「行くよ、イエローマシン、はっ……」 「バッカモン! 優希、何をやってる」 「あ、パパ」 操縦席のモニターに小野博士が映る。 「だって七尾ちゃんが見たいって言うから」 「ゼリージュースマシンはおもちゃじゃないんだ、二人とも早くマシンから降りなさい」 「くすくすくす」 優希の後ろで、七尾が含み笑いをする。 「貴様、ただの女子高生じゃないな。何者だ」 「我が名はネオテニー、ゼリージュース転換炉はもらっていくぞ」 モニターの博士に向かってそう言うと、七尾は優希に向かって後ろからささやく。 「優希さん、あたし早く空を飛んでみたい」 「うん。イエローマシン、はっしん!」 「きゃっ」 急加速で真上に向けられたカタパルトで青空に向かって飛び立つイエローマシン。 オペレーティングルームの小野博士と京子たちは、大型モニターの画像でそれを追いかける。 「ネオテニーと名乗っていたやつ、優希を操っているな。亮君たちはまだか!?」 「博士、奴らが現れていないのに緊急呼び出しだなんて、どうしたんです」 新しい画像の窓が開いて、亮と勇人が映し出される。 「おお、来たか、早くイエローマシンを追え」 「敵ですか?」 「いや、どうやら優希が敵に操られているようだ。勝手に飛び出していきおって。このままではイエローマシンが奴らの手に渡ってしまう」 「で、俺たちはどうすれば?」 「考えるのは後だ、1秒でも惜しい。とにかく発進してイエローマシンを追え。対策は追って連絡する」 「わ、分かりました」 パイロットスーツに着替えることなく、学生服のままコックピットに飛び込んだ二人は、マシンを急発進させた。 レッドマシン、続いてブルーマシンが格納庫から空に飛び出す。 そしてイエローマシンの飛び去った西に向かって機首を向けた。 「で、博士、どうやってイエローマシンを捕まえたら」 「こちらのモニタリングではイエローマシンは巡航速度のようだ、フルブーストで追いかければ15分で追いつける。レッドマシンとブルーマシンで挟み込んで強制合体するんだ。成功したらすぐさまイエローマシンの操縦系を切る」 「合体って、シンクロせずに? そんな無茶な」 「どんな体勢でも合体できるように訓練しているだろう。イエローマシンが敵の手に落ちないうちに合体するんだ、急げ!」 「やるしかないか、行くぞ勇人」 「全く優希もしょうがないな、ラジャー。博士、行きます」 「頼むぞ、二人とも」 「ゼリージュースマシン、フルブースト!!」 淡い飛行機雲を残して、加速する2機のゼリージュースマシン。 「勇人、いたぞ」 マシンのレーダーと九条たちのナビゲートで、イエローマシンを最短距離で追う2機の視界に前方を飛行するイエローマシンが入ってくる。 「イエローマシンを目視で確認」 「よし、合体するんだ」 並んで飛んでいた2機は、ブルーマシンが前に出、レッドマシンがその後ろにぴたりとつき、いて直列飛行に変える。 勇人は通信をイエローマシンに繋ぐ。 「優希、お前なにやってるんだ」 モニターに映った優希に向かって、言葉を叩きつける勇人。 「だって、七尾ちゃんがゼリージュースマシンを見たいって」 「優希、そいつは敵だ、敵が化けているんだ」 「え? 何言ってるの 七尾ちゃんは友だちだよ」 「お前は騙されているんだ、よく考えればわかるだろう。いいかげん目を覚ませ」 「勇人のばかぁ、そんなひどい事言わないでよ」 モニター越しに口論する二人。だが優希の後ろに座る七尾は不気味に笑う。 「ふふふ、もう遅い。どうやら迎えが来たようだ。このゼリージュースマシンはもらっていくぞ」 3機の飛ぶ西の彼方に黒い点が現れる、そしてそれは一直線にゼリージュースマシンに向かってくる。 ぐんぐんと迫ってくるそれは、コウモリの羽根を持ったイモリのような巨大怪物だった。 「メガ両生類ギド、このマシンを飲み込むのだ」 その声と共に七尾の体から青いシルエットが抜け出てくる。それはぶよぶよのゼリー状のものから徐々に変化し、小柄な少女の姿に変わっていく。しかしそれは人間ではない。スカートの中の臀部からは尻尾が生え、両手のあいだに水かきがある。 一方青いゼリーの抜け出た七尾は、意識を無くしたようにがっくりと椅子に座ったままうな垂れてしまった。 「え? 七尾ちゃん、どうしたの?」 「我が名はネオテニー、ふふふ、あれしきの催眠光線でここまで連れてきてくれるとは何とたあいのない。これでゼリージュース転換炉は我が両性人類のもの」 「催眠? 両性人類? あなた敵なんだ、よくも七尾ちゃんを」 「ふふふ、もう遅い。大人しく寝ているんだな」 ネオテニーの目が光る。それと共に、優希はがっくるとうな垂れて意識を失ってしまった。 口を大きく開いたギドは、コントロールする術を失ったイエローマシンに迫る。そしてその機体を頭からがっちりとくわえ込んでしまった。 「ふふふふ、ゼリージュース転換炉はもらったぞ」 ネオテニーはそう言ってコックピットの扉を開いてギドの頭に飛び移る。 イエローマシンをくわえ込んだギドは長い舌を伸ばし、イエローマシンの機体に絡みつけていく。そしてイエローマシンは徐々にギドの口中に飲み込まれていく。 優希が気を失ったままのイエローマシンのコックピットの大型モニターには、赤くぬめぬめとしたギドの口中の粘膜が映し出されていた。 「優希! くそう、させるか」 口中にイエローマシンの機体が完全に飲み込まれる寸前、亮のレッドマシンがイエローマシンの後ろから強制合体する。 合体と同時にレッドマシンの後部にスカート状のカウリングが広がり、その中からすらりとした脚が、そしてギドの口中のイエローマシンの機体の左右からほっそりとした腕が伸びる。 「こなくそお」 生えた脚で、亮はギドの喉につま先蹴りをくらわす。 「グゲェ」 たまらず咥えたイエローマシンを吐き出すギド。 吐き出されたイエローマシンは、推力を失ったまま体制を崩して落下する。 「今だ勇人!」 「よっしゃあ」 勇人は、ブルーマシンを加速させて合体した2機を追い越すと、2機の前に出る。 「チェエエンジ、ブルーーハワイ、スウィーーーッチ、オオオン!!」 叫ぶと同時に速度を緩め、勇人はイエローマシンの前部にブルーマシンを強制合体させる。 ブルーマシンから端整な顔が現れる。 半身の姿だったゼリージュースロボは。ブルーマシンが合体することで女性教師のような姿に変形していた。 そして、再び口を大きく開いて向かってくるギドの牙を間一髪体をひねって避けると、間合いを取った。 ギドと対峙して空中でホバーリングするブルーハワイ。 「勇人くん、ゼリージュースカッターよ」 モニターの向こうの京子が指示を出す。 「よし、ゼリージュース・カッターーー」 手に持つ出席簿状の武器をギドに向かって放るブルーハワイ。 だがカッターは狙いを外れ、ギドの胴体ではなく両脚を断ち切る。 「ギ、ギギャア」 猛り狂ったように羽ばたくギド。 猛烈な衝撃波がロボを襲う。 「風が、くそう」 「亮くん ストロベリーに変形よ。イエローマシンの機体はこちらでコントロールする」 亮に京子からの指示が飛ぶ。 「了解、任せろ! オープンボトーール」 亮の声を合図に、3機は合体を解く。 「チェェエンジ、ストロベリー、スイッッチーーーオン」 飛行する3機は、今度は赤の機体を先頭に白の機体、黄色の機体と一直線に並び合体した。 白い機体から腕が伸びる。黄色い機体からしらりとした脚が伸び、同時に赤の機体はネコミミのような突起の生えた女子高生のような顔立ちに変形する。黄色い機体はさらにプリーツスカート状のスクリーンを広げていた。 「ストロベリー、見参」 腕を交差して、見得を切るストロベリー。 「こいつ、よくも優希を、許さないぞ」 「亮くん、落ち着いて。トマホークとビームの合わせ技でいきましょう。飛行する相手には有効よ」 「よし、ゼリージュース・トマホーーーク」 ストロベリーの手に持つ学生鞄状の武器から短い柄と鋭利な刃が伸びる。それをギドに向かって投擲するストロベリー。 ゼリージュース・トマホークは、狙い違わずギドの太い腹部にグサリと突き刺さる。 「今よ、亮君、ゼリージュース・ビームを使いなさい」 「よっしゃあ、ターゲット、ロック・オン。いくぜ、ゼリージュース・ビイイイイム」 セーラー服をまくりあげると、ストロベリーのおへその辺りから赤い光線が発射される。そしてビームは収束すると、ギドの腹部に突き刺さったトマホークの柄に雷のように落ちた。 「グギガァ」 腹に刺さったトマホークにビームの直撃を受けたギドは、腹部から爆発してしまった。 「くそう、また会おう」 胴体からちぎれ飛んだネオテニーの乗ったギドの頭部に小さな羽根が生える。そしてそのままスピードを上げて西に向かって飛び去っていった。 研究所に戻り、格納庫に収容されたレッドマシンとブルーマシンから降りた亮と勇人がオートコントロールで着陸したイエローマシンのコックピットに入ってみると、意識を取り戻した優希がモニター越しに小野博士にこっぴどく怒られていた。 機内に入ってきた二人に気がついた優希は、きまり悪そうにモニターのスイッチを切る。 後部座席には、気を失ったままの七尾が突っ伏したままだ。 「まったく転校生に化けて優希に近づくなんて、なんてやつだ」 「そもそもお前が能天気なんだ。俺たちはいつどこで狙われているかわからないんだから気をつけないといけないって春香さんに言われてるだろう」 「もう、わかったわよ。今散々パパに言われたばかりなんだから」 気の強い優希が、さすがに今回はしょんぼりとしている。二人はやれやれと顔を見合わせる。 「う、う~ん」 「あ、七尾ちゃん気がついたみたい」 「七尾? この子がその転校生か」 顔を挙げ、目を開いた七尾がきょろきょろと周りを見回する。 「何だ、ここは? お、俺はいったい?」 「え? おれ?」 「な、なんだこの服は」 制服の上から両胸を揉み、そしてスカートの中に手を突っ込んだまま叫ぶ。 「そ、そんな、俺が女??」 「七尾ちゃん、どうしたの?」 「お、お前だれだ」 「何言ってるの? 七尾ちゃん、あたしだよ、小野優希」 「お前なんか知らない。それに『ちゃん』なんて、俺は男だ~!!」 「「え? ええ!?」」 それが後に四人目のパイロットとなる霧谷七尾と優希たちの、はじめての出会いだった。 だが彼女がゼリージュースロボのパイロットになるのは、まだ先のお話。 (了) 2012年7月28日 脱稿 後書き 第1話を書いてから4年経ってしまいました。でもこの作品、内心ずっと続きを書いてみたいと思っていたんです。たまたま今年◎◎◎さんにお会いした時に手書きのイラストをいただきまして、それで600万ヒットの頃までには書き上げればいいかなと思いながら第2話を書き始めました。まあぎりぎりになりましたが、600万ヒット時に掲載できてよかったです。 今回も楽しんでいただければ幸いです。 そして◎◎◎さん、イラスト本当にありがとうございました。 登場人物 清水亮 =レッドマシンのパイロット。高校3年生。清水兄弟の兄。 清水勇人=ブルーマシンのパイロット。高校2年生。清水兄弟の弟。 小野優希=イエローマシンのパイロット。小野博士の娘。高校2年生で、 勇人とはクラスメイト。 霧谷七尾=ネオテニー教授に体を乗っ取られた男子高校生。 ネオテニーの力で美少女になってしまう。 小野博士=ゼリージュースの生みの親。ゼリージュースが超エネルギーに 転換できることを知り、ゼリージュースマシンを開発する。 柳沢博士=小野博士の妻。その思考パターンは夫の小野にも理解できない 九条京子=「ゼリージュース力研究所」のオペレーター3人娘の1人。 ロングヘア。ゼリージュースマシンをナビゲートする。 新庄彩 =「ゼリージュース力研究所」のオペレーター3人娘の1人。 ショートカット。所内の情報管理担当。 北村春香=「ゼリージュース力研究所」のオペレーター3人娘の1人。 ポニーテール。外部の情報管理担当。 伊吹長官=防衛軍の統合幕僚長官。小野博士の理解者。 早乙女美凪=さおとめみなぎ。優希と勇人のクラス担任。 ゼリージュースロボ ストロベリー=亮が操縦する。女子高生の姿をしている。 必殺技は「ゼリージュースビーム」 ブルーハワイ=勇人が操縦する。女教師の姿をしている。 必殺技は「ブルーハリケーン」、「ボトルクラッシャー」、 「ゼリージュースカッター」 パイナップル=優希が操縦する。メイドの姿をしている。 必殺技は「桜島大根おろし」・・何て名前だ(笑 両性人類帝国 巨大両生類を操り、人類を強制的に両性人類に同化させようと 目論んでいる。その目的は謎。 ネオテニー教授=両性人類帝国の幹部。 |