やっぱりスカート #18 アシンメトリー 作:夏目彩香 by Saine ※この小説は夏目彩香風の小説が書けるように独自に調整したAIエンジン「Saine」(通称)を執筆に用いています。 休日の昼下がり。駅の近くにある落ち着いた雰囲気のイタリアンレストランは、心地よい喧騒とオリーブオイルの香ばしい匂いに包まれていた。 窓際の明るいテーブル席で、池田心優(いけだみゆう)は食後のカモミールティーが入ったカップへ静かに手を伸ばした。 足元では、今日のために選んだキャメル色のフレアスカートが、椅子からこぼれ落ちるように豊かな波を作っている。少し厚手のウール混紡生地は、秋の深まりを感じさせる確かな重みを持っていた。脚を組み替えるたびに、裏地がストッキング越しに滑らかな摩擦を生み、温かい空気を裾の内側へ柔らかく閉じ込める。男性であった頃には決して選ばなかった秋らしい色合いと、たっぷりと生地が使われた服の重力。それが今では、休日のリラックスした自分を形作る最も心地よい輪郭として、細胞の隅々にまで定着していた。 「このお店のパスタ、本当に美味しいですね。美咲(みさき)さんに教えてもらって良かったです」 心優は、カップをソーサーへ戻しながら向かいの席へ向かって柔らかく微笑んだ。 「喜んでもらえてよかったです。ここのシェフ、季節の素材を活かすのがとても上手なんですよ」 向かいの席で微笑みを返した若本美咲(わかもとみさき)の足元でも、彼女の動きに合わせて複雑で美しい衣擦れの音が微かに鳴った。 今日、美咲が身に纏っているのは、左右で丈の長さが異なるアシンメトリースカートだった。右側の裾が長く、左側が短いという不規則なカッティング。さらに、軽やかに透けるネイビーのシフォン生地と、重みで艶やかに落ちるブルーグレーのサテン生地という、異なる二つの素材が複雑に組み合わされている。 美咲が足を少し動かすだけで、サテン生地が重力に従ってしっとりと滑り落ち、その上をシフォン生地が微かな風を捕まえてふわりと舞い上がる。重さと軽さ。光沢と透け感。予測不可能な不規則な揺れが、大人の女性が持つミステリアスな気高さを完璧に演出していた。白のシンプルなブラウスを合わせることで、そのスカートの複雑な表情がより一層際立って見える。 「美咲さんのそのスカート、すごく素敵です。歩くたびに表情が変わって、ずっと見ていたくなりますね」 心優が感嘆の声を漏らすと、美咲は少しだけ照れたようにグレージュのパンプスを小さく動かし、サテンとシフォンの裾を揺らした。 「ありがとうございます。でも、少し不規則な形をしているので、歩く時に布の重さが左右で違って、独特の緊張感があるんですよ。綺麗に見せるためには、少しだけ身体の重心を意識しないといけない服なんです」 「服の形に合わせて、歩き方も少し変えるんですね。……なんだか、すごく分かります」 心優のその実感を込めた言葉に、美咲はふと真剣な、プロのアパレル店長としての観測眼を光らせて、真っ直ぐに心優を見つめた。 「心優さん。今日お会いした時からずっと思っていたんですけど……もう、以前は中身が航(わたる)さんだったなんて、微塵も感じさせないくらい自然な女性の所作が身についていますよね。何か、心境の変化のようなものがあったんですか?」 美咲のインタビューのような問いかけに、心優はキャメル色のフレアスカートの膝をそっと撫でながら、少しだけ照れくさそうに笑った。 「あはは、そうですか? でも、自分でも不思議なんです。最初はスカートの制限が窮屈で、早くズボンに履き替えたいとばかり思っていたのに。……今は、ヒールを履いて、このスカートの重みを感じていないと、逆に落ち着かなくなってきちゃって」 「服の重みが、安心感に変わったんですね」 「はい。この服を着て、歩幅を狭めて歩いていると、自分が社会の中で『一人の女性』としてちゃんと立っているんだって、実感できるんです。航くんが私の身体を大切に扱ってくれたように、私も彼として、この女性の身体を一番綺麗な形で守っていきたいって……自然にそう思えるようになりました」 心優の迷いのない言葉に、美咲は嬉しそうに目を細めた。服がただの装飾ではなく、完全に彼女のアイデンティティとして定着している。その美しい事実を目の当たりにし、美咲自身の心もじんわりと温かくなった。 その時、テーブルの上で、美咲のスマートフォンが短く震えた。 「あら、ごめんなさい」 美咲は手元へ視線を落とし、画面をタップした。メッセージアプリを開いた瞬間、彼女の細い指先がピタリと止まり、瞬きを忘れたように画面の文字へ釘付けになった。 『お母さん、この間お店のバックヤードで見つけた変なノート。暗号みたいな文字で書かれてたんだけど、ちょっと面白そうだったから私なりに解読してみたの。これ、何かの物語のメモ?』 そんな呑気な前置きとともに、長女の美波(みなみ)から送られてきたのは、数枚のノートの写真と、それを翻訳したと思われるテキストデータの羅列だった。 美咲は、息を潜めてそのテキストを目で追った。 『対象ノ外見(素肌ヤ衣服)ニ触レ、盾トナラントスル強烈ナ庇護ノ渇望ヲ抱ク時、姿ハ変容スル』 『呪縛ヲ解クニハ、対象マタハ其ノ血ヲ分ケタ者(一族)ノ耳朶(みみたぶ)ニ触レ、絶対的ナ安堵ノ息ヲ吐クコトヲ要ス』 その文字列を脳内で処理した瞬間、美咲の身体を、バチッという強い静電気が駆け抜けたような衝撃が襲った。アシンメトリースカートの裾を掴んでいた指先に、無意識のうちに強い力がこもる。 脳裏に、数日前の路地裏の記憶が鮮明にフラッシュバックする。突発的な秋の強風。飛来した街路樹の枯れ枝。その時、影山は彼女の前に立ち塞がり、トレンチコートの隙間から、彼女が着ていたボルドーのニットワンピースへ強く触れていた。 『対象の外見に触れ、強烈な庇護の渇望を抱く時』。 そして、風が通り過ぎた後、美咲の姿になった彼は、彼女の横髪を耳に掛けながら指先で『耳たぶ』に触れ、心底からの深い安堵の息を長く吐き出した。 『対象の耳朶に触れ、絶対的な安堵の息を吐く』。 魔法や呪いといったファンタジーの類いではない。あれは、彼が自分を全力で守ろうとし、自分の無事を心底から願ってくれたという、極めて不器用で真っ直ぐな『愛情の証』そのものだったのだ。 「……美咲さん? どうかしましたか?」 心優が心配そうに覗き込む声に、美咲はハッとして顔を上げた。 「あっ……いえ、なんでもありません。娘から、少し変なメッセージが届いただけですから」 美咲は鼓動を落ち着かせながら、素早くスマートフォンのキーボードを叩き、美波への返信を入力した。 『すごいノートを見つけたのね。でもお母さんにはさっぱりわからないわ(笑)ただのファンタジー小説のアイデアかもしれないし、あんまり気にしなくていいんじゃない?』 送信ボタンを押す。美咲としては、あくまで「大人の余裕」で平静を装い、深く追求させないように軽くあしらったつもりだった。しかし、この『はぐらかすような絶妙な文面』が、かえって美波の鋭い知的好奇心を煽り、「お母さん、何か隠してるな」と悟らせる決定的な隙を与えてしまったことに、今の美咲は気づいていなかった。 スマートフォンを伏せ、美咲はテーブルの下でアシンメトリースカートの裾をもう一度静かに撫でた。 衣服や身体への接触が、変身の鍵になる。 もし、彼が別の服を着た誰かを同じように強く守ろうとしたら、その姿にも変わってしまうのだろうか。アパレルのプロとしての抗いがたい探究心と、彼に対する女性としての確かな好意。 「心優さん。実は今日の午後、影山さんと少しだけお会いする約束をしているんです。……もしよければ、この後彼を私の家へ招待してみようかと思うんですが」 「えっ、本当ですか? 娘さんたちもいらっしゃるんですよね?」 「ええ。でも、だからこそ、彼がどんな風に家族と接してくれるのか、見てみたくて」 美咲の言葉に、心優はキャメルのフレアスカートの膝上で両手を重ね、静かに微笑んだ。 あの夜景の見えるラウンジで出会った時から、美咲は自分たちにとって、女性としてのスタイルや歩み方を優しく導いてくれた大切な恩人の一人だ。そして、ミラベルが実行したこの不可思議な「入れ替わり」や「変身」の能力について、当事者以外で唯一すべてを知り、受け止めてくれている大人の女性でもある。 だからこそ心優は、あの時「白鳥舞衣」の姿に変えられていた影山が、元の男性の姿に戻って過去の罪を告白して以降、美咲とプラトニックで不思議な関係を築き始めているのを、注意深く、そして祈るように見守っていたのだ。 「美咲さんなら、きっと彼の中にある本当の誠実さを見つけてあげられると思います。……応援してますね」 心優の心からの言葉に、美咲は少しだけ照れたようにアシンメトリースカートの裾を揺らし、「ありがとうございます」と頷いた。 ランチを終え、二人はレストランの外へ出た。秋の午後の柔らかな日差しが、街路樹の葉を透かして歩道に優しい影を落としている。 「それじゃあ、また」 「はい。気をつけて」 二人は軽く手を振り、それぞれの方向へと歩き出した。 心優の足元では、キャメルのフレアスカートがウール特有の確かな重みを持って脚を包み込み、彼女の帰途を温かく守ってくれる。 一方の美咲は、これからの時間へ向けて少しだけ背筋を伸ばした。歩くたびに、シフォンとサテンの異なる生地が複雑に絡み合い、アシンメトリースカートが不規則で美しい揺れを作る。大人の女性の密かな知略と、彼に対する不器用な愛情を胸に秘めたまま、美咲の足音は待ち合わせの並木道へと向かって静かに響いていった。 少し日が傾き始めた午後。駅前の喧騒から少し離れた、落ち葉の舞う並木道。 美咲は、待ち合わせ場所のベンチの横で、見慣れた無骨な背中を見つけた。 影山隼人は、少し緊張した面持ちで立っていた。その広い背中には、美咲が先日プレゼントした薄手のカーディガンが羽織られている。その下には少し色褪せたグレーの厚手コットンTシャツ。下半身は、建築現場の足場にも耐えうる丈夫な黒のチノパンに、使い込まれたダークブラウンのワークブーツという出で立ちだ。飾り気のない大人の男性の全身コーディネートだが、柔らかなカーディガンの編み目が、彼の分厚い筋肉の張りを少しだけ和らげ、秋の風景に心地よく馴染ませていた。 「お待たせしました、影山さん」 美咲が声をかけると、影山はビクッと大きな肩を揺らし、慌てて振り返った。 「あ、いえ。俺も今来たところですから」 不器用な動作で軽く頭を下げる影山の視線が、美咲の足元でふわりと揺れたアシンメトリースカートへと落ちる。透けるシフォンと艶やかなサテンの不規則な揺れに一瞬だけ目を奪われたようだったが、すぐに「いけない」と自分を戒めるように視線を上げた。 「そのカーディガン、とてもよくお似合いです」 美咲が微笑むと、影山は照れくさそうに太い首の後ろを撫でた。 二人は並んで、落ち葉がカサカサと音を立てる並木道を歩き始めた。影山は、美咲から一定の距離を保ち、彼女のスカートの裾が風に舞うたびに、自分の大きな身体が風除けになるよう無意識に立ち位置を微調整している。 穏やかな会話が続く中、前方の交差点で異変が起きた。 「危ないっ!」 前方から、ブレーキ音と人々の小さな悲鳴が響いた。スマートフォンの画面を見ながら猛スピードで走ってきた自転車が、並木道に飛び出してきた小さな男の子を避けきれず、突っ込んでこようとしていた。 「っ!」 影山の筋肉が、思考を完全に置き去りにして爆発的に弾けた。 地面を強く蹴り、数メートルの距離を跳躍するようにして滑り込む。自転車と男の子の間に強引にねじ込み、男の子の小さな身体を背中から包み込むようにしてアスファルトの上へ転がった。 その瞬間だった。男の子の首元には、少し肌寒いからと母親が巻いてあげた、大判のテラコッタ色のストールがしっかりと巻かれていた。影山の分厚い右手が、男の子を庇うと同時に、その「母親のストール」を強く掴み込んでしまったのだ。 『対象の衣服に触れ、盾とならんとする強烈な庇護の渇望を抱く時』。 その強烈なスパークが、影山の脳内でバチリと弾けた。 ドンッ!という鈍い音とともに、自転車のタイヤが影山の背中を打つ。 美咲が駆け寄ろうとした視界のど真ん中で、信じられない現象が起きた。ストールを掴んでいた影山の分厚い腕が、一瞬にして白く華奢な女性の腕へと収縮した。無骨なチノパンとワークブーツは、目の前へ悲鳴を上げながら駆け寄ってくる「本物の母親」が着ているのと同じ、テラコッタ色のニットとキャメルのプリーツスカート、そしてパンプスへと、ノイズのように書き換えられてしまったのだ。 「え……?」 男の子に駆け寄った本物の母親が、横で倒れ込んでいる「自分と瓜二つの女性」を見て、信じられないものを見るように目を丸くした。 影山(母親の姿)は、突然ヒールの高いパンプスとプリーツスカートに重心を書き換えられ、アスファルトの上でパニックを起こして息を呑んでいた。 美咲は、その光景に小さく息を呑んだ。 昼間のランチで読んだノートのテキストが脳内でマニュアルとして機能していたため、変身のメカニズム自体は理解できていた。しかし、彼女にとっても「服装まで完全に当人の物へと変わってしまう」というのは予想外の驚きだった。 数日前、突風の日に影山が自分の姿に一瞬だけ変わった時は、ダボダボになった彼自身のマウンテンパーカーとチノパンを着たままだった。それが今回は、対象の女性が着ている服も、足元のパンプスまでが完全に書き換えられている。 (変身能力を持った者は、時間の経過とともにさらに能力が大きくなっていくの……?) 美咲は、今すぐにでも美波を問い詰めて、あのノートの解読を進めてもらいたいと思っていた。美波がまだ送ってきていないテキストの続きに、きっとそのヒントとなる記述があるに違いない。 だが今は、目の前でパニックに陥っている彼を助けるのが先決だ。美咲は一瞬の驚きと思考をスッと心の奥へ押し込め、アパレル店長としての冷静さと大人の女性としての判断力を取り戻した。 「影山さん、動かないで!」 美咲は、ヒールの音を響かせて影山(母親の姿)の前に滑り込むと、羽織っていたトレンチコートのフロントをバサリと大きく広げた。その広い布地で、周囲の野次馬や本物の母親からの視線を完全に遮断するブラインドを作る。 「そこの、男の子の耳たぶに、そっと触れて。そして、心の底から安堵の息を吐き出してください」 美咲の静かで確固たる声に導かれ、影山は震える指先を伸ばし、男の子の小さな耳たぶへ微かに触れた。自転車から彼を守り抜けた。その事実が、深い安堵をもたらした。 「……本当によかった。怪我がなくて」 影山が、震える息を深く吐き出した瞬間、テラコッタのニットとプリーツスカートが幻のように消え去り、元の無骨なTシャツとチノパンを着た、大柄な影山隼人の身体へと戻っていた。 事態が収束し、母親と男の子が何度も頭を下げて去っていった後。 公園のベンチで、影山は深く頭を抱えていた。 「……すみません。またあんな無様な姿を……。俺みたいな不完全な男が、あなたの隣を歩く資格なんて、ないんです」 自分が女性の姿で晒される恐怖を知ったからこそ、そして、美咲にまた迷惑をかけてしまったという自己嫌悪が、彼を深い絶望へと沈めていた。 美咲は、影山の隣に静かに腰を下ろし、ゆっくりと脚を組み替えた。 シャラッ、と。アシンメトリースカートのシフォンとサテンが擦れ合い、不規則で複雑な音が鳴った。影山が、その微かな音に反応して足元を見た。右が長く、左が短い。全く規則性のない、ちぐはぐで不完全なシルエット。 「影山さん。私のこのスカート、どう見えますか?」 「……とても、綺麗です。歩くたびに表情が変わって……風に揺れる姿が、美しいと、思いました」 影山が正直に答えると、美咲は柔らかく微笑んだ。 「そうですよね。このスカートは、左右非対称で、完璧に揃ってなんかいないんです。……でも、だからこそ、動いた時に予測できない美しい揺れが生まれるんです。影山さんはご自分のことを不完全だと言いました。でも、その不器用な力のせいで、あなたは今日、あの男の子を傷一つなく守り抜いたじゃないですか」 美咲の言葉が、秋の冷たい風と一緒に、影山の胸の奥へと静かに染み込んでいく。 「過去の罪も、突然姿が変わってしまうその力も、すべてが完璧に揃っていない、あなたの歪さかもしれません。でも、その歪さを抱えたまま、誰かを真っ直ぐに守ろうとするあなたの不器用な誠実さは……このアシンメトリーの揺れのように、私にはとても、美しく見えます」 完璧でなくてもいい。不完全なままの自分を、彼女は真っ直ぐに見て、肯定してくれている。 影山の目が、僅かに熱く潤んだ。 美咲は、立ち上がり、トレンチコートの襟元を整えながら、少しだけ悪戯っぽく微笑んだ。 「あの不思議な力のこと。そして、影山さんの不器用な誠実さのこと。……もう少しだけ、詳しく知りたいです。これから、私の家に来ませんか? 娘たちも家にいますけど、紹介も兼ねて。ゆっくり、お茶でも淹れますよ」 その誘いは、大人としての明確な境界線を越えるための、静かで気高い合図だった。 「……はい。喜んで、お伺いします」 影山は、深く、真っ直ぐに頭を下げた。 しかし、再び顔を上げた瞬間、影山の広い背中がビクッと大きく強張った。 「あ、あの……美咲さん。今からお伺いするということは、娘さんたちにも初めてお会いする、ということですよね?」 「ええ。二人とも家にいるはずですから」 その言葉を聞いた途端、影山の太い筋肉がカチコチに硬直した。いきなり年頃の高校生の娘たちがいる家へ、自分のような無骨で過去に罪のある男が手ぶらで押しかけるわけにはいかない。どう思われるか、不審がられないか。途方もない緊張感が一気に押し寄せてくる。 「す、すみません、美咲さん。少しだけ、駅前へ寄らせてください。手土産を……せめて手土産を何か買っていかないと……!」 分厚い手で頭を抱えながら、本気で狼狽えて焦る影山の姿に、美咲は思わずくすりと笑い声をこぼした。不器用で、真っ直ぐすぎるほど真面目な人だ。 「ふふっ。分かりました。じゃあ、娘たちが喜びそうな美味しいお菓子を、一緒に選びに行きましょうか」 秋の夕暮れ。不規則に揺れるアシンメトリースカートの足音と、男性の無骨なワークブーツの足音が、寄り添うようにして並木道を駅の方向へと歩き出した。互いの不完全さを愛おしく思いながら、そして影山は未知の「家族との初対面」という極度の緊張感にマウンテンパーカーの中で冷や汗をかきながら、二人は美咲の最もプライベートな空間へと向かっていく。 (つづく) あとがき 読んでいただきありがとうございます。夏目彩香です。 Saineによる作品はいかがでしたか。右と左で長さが違い、シフォンとサテンという全く異なる生地が複雑に重なり合うアシンメトリースカートは、決して「完璧に整った」服ではありません。しかし、その不規則な形だからこそ、風を受け、歩みを進めるたびに、予測できないほど美しい揺れを生み出します。それはまるで、消せない過去や不器用さといった「歪さ」を抱えながらも、誰かを真っ直ぐに守ろうと必死に手を伸ばす、大人の誠実な姿そのもののようです。完璧ではない自分を恥じるのではなく、その不完全さごと愛おしいと受け止めてくれる人がいる。不揃いな裾が秋の夕暮れに揺れるような、不器用な大人たちの温かな余韻を、皆様にもご一緒に感じていただけたなら幸いです。 読後のご感想などありましたら、X(旧Twitter)の @skyseafar までそっとお寄せいただけると嬉しいです。 |