やっぱりスカート #06 ???

作:夏目彩香


池田心優(いけだみゆう)、飯沼航(いいぬまわたる)、白鳥舞衣(しらとりまい)の三人は大型モールの中にある大きな通路を歩きながら、とあるショップへと向かうのだった。所々で外国人観光客と思われるグループともすれ違ったりするのだが、通路の幅が広くてぶつからずゆったりと歩くことができるのだ。さっきまでとは違って密着することも無い心優と舞衣だったが、心優の方から舞衣に対して積極的にアプローチして舞衣の手に触れたり、肩を組んだりしていた。

そんな二人が駆け足気味で歩いて行ってしまったため、航は二人から遅れて通路を一人で歩いていた。歩きながらこれまでの出来事を頭の中で振り返り始めているのだった。

ーー今までのことを振り返ってみるとこうなる。

航の姿をしているのが、ワタシことヤッファの世界からやって来たミラベルが変身している姿だった。ミラベルは卒論を準備するためにこの世界にやって来て、協力者として航を選ぶのだった。航には付き合っている彼女がいて、それが池田心優、心優と付き合っている航には心優に対しての願い事があり、その祈りをミラベルに聞かれてしまい協力者になるのだった。

航の願いと言うのは、スカート姿の心優が見てみたいと言う願いなのだが、ミラベルは心優の意識を預かった上で航の姿に変身して、航を心優の身体に憑依させることで、心優のスカート姿を見ると言う願いを叶えるのだった。それによって、航は心優のワンピース姿に始まりタイトスカート、ティアードスカートと心優が普段は見せることの無い姿とその感覚を感じるのだった。

そして、タイトスカート姿の心優を見つけてカメラで盗撮をしていた男性がおり、航の姿をしたミラベルによって見つかってしまった。その男性は一連の行為を見逃してもらう代わりに、ミラベルの卒論のために協力者になるのだった。彼は白鳥舞衣という航の会社の後輩に姿を変えられていた。身体だけが変わったため、彼が身に付けているものは変わりが無く、男物を着ている舞衣として航の前に出るしか無かった。

さらには心優と舞衣が同じ高校に通っていた同学年だったことがわかり、身も心もすっかり心優となってしまった航にとっては、本来は自分の後輩である舞衣のことを益々身近に感じてしまい、急接近するきっかけとなってしまった。それが、ここまでのいきさつだった。

ということで、心優と舞衣の二人はお揃いの衣装を身につけるためにとあるショップへと入って行った。そして、少し遅れて航が店内へと入って行くのだが、店の中を見回してもどこにも心優と舞衣の姿を見つけられなかった。この店に入ることは決まっていたし、この店に入って行く姿を遠くから確認していたので間違いないはずだ。思い切って店員さんに聞いてみることにした。

「あの、済みません。ちょっと前に20代の女性二人がこの店に入ったと思うんですけど、どこにいるかご存知ですか?」

航が話しかけたのは見た目は30代くらいの若い女性で、ネームプレートには「若本」(わかもと)と言う名前が刻まれていて、店長と言う文字が添えられていた。

「はい、お客様。あなたがお連れ様の飯沼様ですね。女性二人と言うのはティアードスカートの女性とジーンズ姿の女性で間違いないですよね。同年代の男性が店に入って来たら、ちょっと待っていただくように言われていましたので、もう少々お待ちください」

と言うことで航は若本店長に案内されて、店内の隅にある休憩スペースで椅子に座って待つことにした。実はこのお店は一人一人接客がついて、奥にある部屋で一通り揃えて行く感じのお店で、普段は10代の若者が親を連れ添ってやって来るのだ。しかし、ハイシーズンは過ぎているために、やって来るお客さんはほとんど無かったので、若本店長は来店した航に対話を仕掛けて来るのだった。

「ただいまお時間よろしいでしょうか?お二人からはスポンサーと言うことを聞いておりまして、本来はお二人に販売することができないものなのですが、事情をお聞きしたところ店長判断で購入できるようにしたいと思っています。代金のお支払いは飯沼様からしていただけるとのことでしたが、間違い無かったでしょうか?」

若本店長から支払いについて聞かれた航だったが、店にディスプレイされている商品を目線で追いながら質問に答えるのだった。

「もちろん間違いありません」

「かしこまりました。お二人に気軽にプレゼントするような代物ではない、意外と高価なものですので念のため確認を取らせていただきました」

「店長さん、済みません。そして、彼女の無理な願いを聞いてくれてありがとうございます。本来は望ましくないこととは言え、今しか機会が無いですし、僕もあの服を着た彼女を見てみたいと思ったので相談してみたらって言ってたんです」

「さようでございますか、私どもとしましても今は閑散期ですので、こうやって少しでも利益の足しになるのならお力になれるかと思いました。それに、大きな視点で見てみれば対象者であることは間違い無いことですし、来年度はリニューアルいたしますため在庫をどうにかしなければなりませんので、助かったりするんです。サイズさえ合えば本日すぐにお渡しできるかも知れません。他に何かご用はありますでしょうか?」

そんな話をすると航は安堵の様子を浮かべた。すっかり心優らしく振る舞えるようになったはずの航が何を考えているのかはっきりとわからないが、次に行きたい店と服装については聞いていたので、あとは待つだけだった。

「店長さん、他に何ですが、二人の様子を見に行ってもらえますか?どのくらい待っていれば会計できるようになるのか、時間がかかるようならちょっと行って来たい場所がありますので」

「いいですよ。ちょっと様子を見に行って聞いて来ますね」

と若本店長が奥の部屋へと向かおうとしたところで、航が呼び止めた。

「あっ、それならあともう一点あるんですけど、このスマホで写真を撮って来てもらえますか?撮影できない状況だったり、二人が断られるようだったら撮らなくても結構なんですけど」

「はい、じゃあ、飯沼様の言われた通りに様子を見に行って来ますね。それでは、スマホもお借りします」

若本店長は二人がいる奥の部屋へと消えて行く。一人残された航はスマホも持って行かれたので、椅子に座ったまま卒論のことを考え始めていた。

数分後、奥の部屋から若本店長が戻って来た。

「飯沼様、お連れ様お二人の写真を撮って来ました」

スマホを渡されると、航はさっそく写真を確認し、二人の試着姿が写し出されていることまで確認できた。

「ありがとうございます」

若本店長に対して丁寧にお礼の言葉をかけると、彼女からの報告を待っていた。

「あっ、お二人の様子なんですけど、お二人はだいぶ愉しそうにしていましたよ。あと数分したら部屋に通して良いとのことだったので、当店のスタッフが知らせてくれるまで少々お待ちください。写真では確認できたと思うんですが、やはり、直接目で見ると惚れなおしてしまうかも知れませんね。お二人ともとてもよく似合っていましたよ」

彼女の報告を聞いたところ、あと少しということなのでこの店を抜け出す必要は無かった。航の心が落ち着きを取り戻し、スマホの中に写し出された二人の姿を眺めていた。二人とも笑顔を浮かべており、特に心優の表情は普段は決して見せることの無い表情で溢れていた。何か心の奥で閉じこもっていた気持ちを解放したようにも思えるが、それは本物の心優では無く航が自分の理想とする心優を演じているからなのかも知れない。短い動画も収められており、そこには心優と舞衣のはしゃぐ姿が映しだされていたのだ。

「あの、お客様、お客様」

そんな風に画面にのめり込んでいると奥の部屋から出て来たと思われるスタッフさんが声をかけて来た。写真の世界に吸い込まれている内に、ほんのわずかだがうたた寝をしてしまったようだった。

「あっ!」

「お二人がお待ちかねですよ。どうぞこちらへ」

彼女はそう言って航を奥の部屋へと案内するのだった。部屋とは言っても完全に部屋として区切られているわけではなく、天井の方は空間が空いていて、ドアで区切られているだけだった。

扉の前に立つ航だったが、この向こうに写真で見るのと同じ衣装に身を包んだ二人が待っている。そのことを考えるだけでも航は思わず緊張して胸の高鳴りを抑えきれないでいた。そもそもは卒論を書きたいがために準備をした一つ一つのことのため、ミラベルも航の姿に変身したのだが、航自身が持っている心優に対する思いがさらにはっきりとわかって来た。自分自身の中に取り込んでおいた本物の心優の魂が蠢(うごめ)いており、抑えきれないほどの力として解放されようとしているのだった。念のためノックをしてからドアノブに手をかけていた。

「お邪魔しま~す」

そう言いながら扉を開くとそこには思っていた以上の光景が待っていた。

(つづく)





(あとがき)

今回はスカート姿は無かったので、タイトルをどうしようか悩んでしまいましたが、次回のために公開しない形を取ってみました。いきなり次の展開に進むのではなく一つ間を入れることになりましたので、二人のお揃いの姿はスマホの中だけで見える状態、実際にこんなお店があるかはわかりませんが、大きなショッピングモールは埼玉県にある某ショッピングモールをイメージして書いています。次回こそ二人のお揃いの姿が公開となりますが、書き進めていませんのでしばらくお待ちください。なお、着せてみたいスカートがあればリクエストも受け付けています。引き続き、気長にお付き合いをお願いいたします。

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