やっぱりスカート #05 ティアード

作:夏目彩香


飯沼航(いいぬまわたる)は隠し撮りをしていた男性と一緒に、同じフロアにある誰でも利用可能なトイレへと入って行った。その一方、喫茶店の席で航の帰りを待つ池田心優(いけだみゆう)は航からメッセージを受け取っていた。どうやら思ったよりも時間がかかるとのことで、喫茶店から出て他のショップを回って待っててもいいとのことだった。そのため、席を立って会計を済ませてちょっと見て回ることにしたのだ。

まずは喫茶店の向かいにあるセレクトショップに入ることにした。心優が店に入って探すものと言えばもちろんスカート、ここでも夏物の涼しげなスカートがズラリと並べられている。デザインも生地も色も長さも様々で、とても選び切れそうになかったが、目の前にある薄手の生地でできたロングスカートが気になった。手に取って身体に当てて見るとビビッとした感覚がやって来て、すぐに試着してみることにした。天然綿を使った淡いイエローのティアードスカート、ティアードの切り替えが中間に2本入っていて、裾に向かってふわっと広がっていくデザイン、透け感は無く足捌きのしやすいキレイなシルエットでドレープのたるみが堪らなく、歩くたびに素肌に纏わりつく感じが快適だった。このスカートにさっき履いたミュールサンダルもピッタリ合うだろうし、トップスにはベージュのキャミソールにシースルーのカットソーを羽織るといい感じになりそうだった。ここでも三点を手に取り試着室へと入る。着替えてみると想像した以上に心優にピッタリのスタイルに仕上がっており、惚れ惚れしてしまった。トートバッグからミュールサンダルを取り出して履き替え、全身のコーディネートまで確認したのだが、直感通りのすっきりとしたスタイルとなって、心底気に入ってしまった。試着室から出るやいなや店員さんを呼び止めると、着たままでの会計を頼んでみると快く応じてくれた。会計を済ませて店を出ると航からのメッセージが届いていた。エスカレーター前の広場で待ってるとのことだった。新しい服装に着替えを済ませた心優は、さっきまでのスーツ姿とは打って変わり開放的な気分に切り替わった。心を落ち着かせつつ航の待つ広場へと向かった。

今いるこのファッションビルはエスカレーター前が少しだけ広くなっており、その周囲には小休憩ができるようなスペースが用意されている。広場の休憩スペースにあるソファに腰をかけている航を見つけると、ゆっくりと近づいて行き自分の存在に気づいてくれるのか、ドキドキしながら航の目の前に立つと航の目線が突き刺さって来る。

「おっ、心優!また新しいコーディネートを見つけたんだね。とっても似合ってるよ。こんな感じの心優もいい感じで、堪らないなぁ」

さっきまでのスーツ姿から着替えたことに気づいた航は驚くそぶりも見せることなく言った。そして、同じソファの隣に座っている人物と一緒に立ち上がって紹介を始めるのだった。

「心優、紹介するね。こちらの方は会社の後輩の白鳥舞衣(しらとりまい)さん、ここで偶然会ったんだけど、時間があるって言って、同棲中の彼女にどうしても会わせて欲しいって言うもんだから、ここで待ってたんだ」

心優はパッと見た瞬間に航の同僚の白鳥さんであることがわかっていた。しかし、心優としては初対面となるので面識がないそぶりをしながら軽く自己紹介をするのだった。

「初めまして、池田心優です。航くんとは同棲中なんですけど、二人とも結婚はまだ先のことだと思っているのですが、そのタイミングが来たらお知らせしますね。今後ともよろしくお願いします」

なんだか落ち着かない様子の白鳥舞衣だが、いつも会社で会う時の姿とはだいぶ違って、いつものフェミニンな服装ではなく、男物に包まれていつもと違った感じなのだ。ぶかぶかのジーンズに大きめのTシャツ姿に加えて、首から一眼レフをぶら下げ、背中にショルダーバックを背負っている。足元にはメンズの好みそうな大きめのサンダルをなぜか履いている。いつもの舞衣からするとギャップが大きいのだが、その思いを黙ったままにしていると、彼女の方から口を開き始めたのだ。

「あっ、心優さん。初めまして白鳥舞衣です。飯沼先輩とは同じチームで働いているんですが、さっきたまたま会って今日は予定も無く寂しくしていたので、良かったら二人の買い物に同行してもいいかなって思ったんです。ちょっと話を聞いたところ、私でも写真撮影したり協力できることがあるんじゃないかって思ったんです。なので、今日は時間があるので心優さんが迷惑じゃなければ手伝わせてください、まっ、先輩から言われたら断るってのも無理な話なんですが……」

たまたま出会った同僚と言うこともあり、時間もあると言うことだったので、心優の中でもちょうどいいタイミングだと言う思いが湧き起こっていた。航も同じ気持ちなら何も問題無いとすぐに判断してお願いすることにした。

「あっ、そう言うことなら私からもお願いしたいです。郊外のモールにも行ってみたかったのですが、二人だとカーシェアで車を借りて行くっても微妙だったのですが、三人なら航くんに運転してもらって行くにもちょうどいいかと思うんです。どこかで撮影会して行くってこともできるだろうし、どうかしら?」

実は一人で席に座っている時に、本当なら車を借りて郊外にあるモールに行ってみたいとの計画が頭の中を巡っていたのだ。その思いを実現する絶好の機会となり、もともとの計画が進んでいった。

「じゃあ、決まりってことで、さっそくカーシェアの予約入れたよ。車はこの建物の裏にある駐車場にあるみたいだから、乗り込んで一気にモールに向かおう」

航はいとも簡単にスマホのアプリを操作してあっさりと予約してしまった。三人はさっそく車の置いてある建物の裏へと向かって次の目的地へと移動した。

ここは航と心優の住まいから車で30分ほど離れたショッピングモール、日本最大級と冠されているだけあって、巨大な駐車場に駐車すると貴重品を手に持ってショッピングモールへと入って行く、さっきまでいたファッションビルとは違い大きな吹き抜けが開放的な空間を演出している。心優は天井の高さをいつもよりも感じていた。車の中では会話もなく気まずい雰囲気が続いていたが、閉鎖空間から開放されたのか、モールの中を歩き始めると心優はさっきから気になっていたことを舞衣に尋ねてみるのだった。

「あのぅ、ところでこの服装って白鳥さんの私服なんですか?どうみても男物のような気がするんですけど」

解放的なモールの通路を三人が横一列に並んで歩いても、すれ違うこともできるほど余裕のある空間だった。心優は舞衣の服装がどうしても気になってしまうようだった。すると舞衣は一瞬、航に視線をやるのだが、困惑した表情を浮かべた。

「あっ、これ?普段からよく着ているコーディネートなんです。中学や高校の制服も普段はパンツスタイルを好んで着ていたし、乙女チックな格好はもちろん女子力無いってよく言われるんです。会社に行く時はフェミニンな格好してるんですが、あれはサブスク使ってスタイリストが服を選んでくれるサービスを使うようになって、少しずつ勉強しているところなんです。でも、休みの日の私服にはそんな気を使っていないので、適当にクローゼットから取り出した服装で済ませてしまったってわけ」

心優はそんな風に話す舞衣の姿を見ていると、実はあることに気づいたのだった。今はまだ確認しないで知らないふりをすることにして、相手の出方を待つことにした。

「そうなんですね。実は私も制服はパンツを選んでいたし、普段はパンツスタイルでスカートは履かないって思っていたんですけどね。航がどうしてもって言うので、今日はこうやって履いてみることにして、ここにやって来たのもスカートを全然持っていないので、航に数着買ってもらおうと滅多にない機会を掴みにやって来たのよね」

「そうそう、僕が心優のスカート姿がどうしても見たいって思ったから、数着買ってあげることになったんだよね。もし良かったら白鳥さんも気に入るものがあればプレゼントしたいんですが、いいですか?」

そんな風に航が言ったので、さすがに舞衣はびっくりしたようだ。

「えっ、そんなぁ。いいんですか?」

「だって、いつも仕事でお世話になってるし助けてもらってるからね。そのお礼くらいさせてください、それにその服装じゃせっかくのデートもできないだろうし」

航は隣にいる心優に何も気兼ねすることもなく言った。

「航がこんなこと言ってるんだから、私からもお願いします。白鳥さんの気に入るものも一緒に買ってもらいましょう」

航の彼女である心優からそう言われると舞衣の気持ちは少し楽になったようだった。

「心優さんでしたっけ、飯沼さんの彼女にお墨付きまでもらったので、そんなに言うならプレゼント受け取りたいと思います。それでもって、せっかくならお揃いの衣装にするのはどうですか?」

「お揃いの衣装?何か着てみたいものがあるってことよね」

「心優さんって、もしかして私と同じ高校に通ってませんでした?クラスは違ったけど、同じ学年に心優って生徒がいて成績上位の常連だったのを覚えてるんだけど、確か苗字は池田では無かった。そして、私と同じパンツ姿で登校する女子生徒がいたって覚えていて、それが心優さんじゃないのかなって思ったの」

舞衣はようやく気づいたようで、これで心優からも心置きなく話せるようだった。舞衣はさっきよりも明るい表情を浮かべ、当時の思い出が頭の中に流れて来ているようなのだ。パンツ姿で投稿する同学年の生徒がもう一人いたことを思い出し、名前が「ミユ」と言うことを思い出したらしい。

「と言うことは舞衣さんって、マイマイ?同じ学年にマイマイって呼ばれてた生徒がいたのは覚えているんだけど、苗字までは知らなくて、パンツ姿で登校する生徒が他にもいて、それがマイマイだってことくらいしか知らなかったのよね。マイマイは私と違って学校の公式行事ではスカートを履いて、その時はミニスカート並みに折り畳んでいたから、普段の姿とは対照的だったみたいよね」

そして、心優と舞衣が同じ高校に通っていたことを確証すべく、二人は顔を見合わせて、一斉に卒業した高校の名前を言ったのだが、まさに一致していた。

「わっ、やっぱり、そうだったのね!私たち、いい関係になりそうね。お揃いの衣装って、やっぱりアレを着なくちゃ!」

なんだか舞衣は一気にギアチェンジしたようでテンションが一気に上がっていた。そして、地味な衣装のままアレが取り揃えてられていると言うショップに向かって、ショッピングモールの通路を突き進むが、その足取りはさっきよりも軽くなっていた。

(つづく)


(あとがき)
今回はティアードスカートが登場しました。軽い感じの素材感が多いのですが、ここではちょっと重ための動きをする感じにしてみました。次の展開では二人がお揃いの衣装を身につけることになります。大きなショッピングモールに移動したので、なんでもあるのでどんなスカートになるのかを想像しながらお待ちくださいね。なお、着せてみたいスカートがあればリクエストも受け付けています。引き続き、気長にお付き合いをお願いいたします。

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