やっぱりスカート #01 はじまり 作:夏目彩香 同棲中の彼女はパンツ派、そんな彼女にスカートの魅力を伝える彼だが、彼女にスカートを履いて欲しいと懇願するもなかなか実現しない。ある日、そんな願いをいつも以上に切に祈った次の日の朝、目覚めるとベッドから起き上がることができなくなっていた。どうやら彼は金縛りにかかってしまったようで、さらに何やら声が聞こえて来た。 『そんなに願っているのなら、その願い、叶えてあげるわね』 金縛りから解放されたかと思った彼だが視線を下に向けると動きの固まった自分の姿が見えた。「一体なんなんだ?」そう思った彼の前には、まるで幽霊のように透き通った姿の彼女が現れた。 『怖がらなくてもいいのよ。あなたには彼女のように見えるでしょうけど、隣の部屋で寝ている彼女をトレースして持って来ただけなのよ。そして、この語りかけも彼女のように聞こえてるでしょ。でも、ワタシの卒論を手伝ってもらうって決めたんだから、もう逃れられないわ』 今起きている状況からすれば、不思議なことで片付けられるのであろうが、身をもって体験しているだけに、信じるしか無かった。そして、目の前にいる彼女のような姿をした存在は次の瞬間、僕の身体に飛び込んで行くのだった。身動き取れずにいたはずの身体はムクっと起き上がり、しかもそれは彼の意思とは関係なく動いていた。 「えっ、えっと。これがあなたの身体なのね。この声聞こえているでしょ。ゴホン!!」 彼の身体で大きく咳き込んだかと思うと、彼の身体は目を大きく見開いていた。 「あっ、あっ、あ~。僕こと、飯沼航(いいぬまわたる)は願います。僕の彼女、池田心優(いけだみゆう)のスカート姿を見てみたいと思っています。いつもパンツスタイルばかりで、スカートは絶対履かないって言ってるのですが、どうかこの願い叶えて欲しいのです!!」 まさに寝る前に祈っていた願い、まるでビデオを再生しているかのように彼の口から出て来ていた。さらにこの様子を上空から見つめている彼にとっては不思議な光景だった。 「あなた、こんな風に祈っていたわよね。たまたまこの辺りをウロウロしていたらこの祈りを聞きつけて、ワタシの卒論にピッタリだったから駆けつけたってわけ。まずは彼女の心の内を探ってあげたんだけど、幼い頃のトラウマが残っていて、どうやらパンツしか履けないみたいね。ワタシだったらあなたの願いを叶えられるんだけど、どうかなぁ。さらに助けてくれたら卒論も書けるのよ。お互いにウィンウィンになるってわけだけど、どうかしら?」 部屋の上空をプカプカと浮いている彼、自分の身体に取り憑いている者の正体については全くわからないが、ワタシと呼んでいることや口調からして心優ではない存在だと確信できた。それに加えて、彼の願いを叶えてくれると言うのも、嘘ではないと思うのだ。 『君の正体は全くわからないんだけど、願いを叶えてくれるって言うのならわかました。君の卒論のお手伝いもさせてもらいます!』 フワフワ、ゆらゆらしている彼の言っていることは、自分の姿をした何者かにも伝わっていた。 「じゃあ、これからあなたにはワタシがこうしているように彼女の身体に入ってもらうわね。彼女の身体に入って、あなたの意思で彼女を動かせるようになれば、スカート姿だって思いのままになるって寸法よ!いいわよね?」 フワついてる彼にとっては実のところ何を言っているのかさっぱりわかっていなかったが、これから起ころうとしていることに対して合意するしか無かった。 『僕の意思で彼女を動かす?そんなの考えたこと無かったよ。それなら服装も思いのままになるよね。でも、彼女の同意も得ずにやってしまっていいものなのかなぁ?』 「そんなこと心配するんじゃないわよ。ここに来る前に彼女の心の中を探ってみたって言ったわよね。彼女は本当はあなたにスカートを履いた姿も見せてあげたいって思っているし、憑依するドラマなんかを見る度に航だったら自分に憑依してもらうのも悪くないなって思ってるのよ。万一何かあった時にはワタシが記憶を操作すればいいからね。とにかく卒論に協力してもらうためにも、あなたには彼女の身体に入ってもらいます!」 『じゃあ、もう少し確認したいことがあるんだけど』 「何かしら?」 『ちゃんと元に戻れますか?』 「もちろん」 『僕が彼女を動かしている間、彼女の意識がどうなるのか心配なんだけど』 「もうすでにワタシが預かってしまいました。心配には及びません。良ければあなたの身体で彼女の意識を呼び起こすことだってできるのよ」 『えっ?それってどう言うこと?』 「彼女の身体を探ってから、ワタシが彼女の身体を出る時に、彼女の意識である魂も一緒に取り出して来ちゃったのよ。今はワタシの中に包まれている状態で眠っているような感じなんだけど、ワタシの中から外に解放すればあなたの身体を彼女が動かすことだってできるのよ。でもって、彼女の身体はあなたが入れるようにもう準備ができてるってわけ、隣の部屋に行って身体に重なればいいだけよ」 『とにかく、疑問は解けました。とにかく僕が彼女に入って、僕の好む服装に着替えればいいってわけだよね。すでに僕が彼女に入れるようになってるって、なんだか信じられないけど、こんな風にフワついているんだから、信じるしかないよね』 彼はそう言うや壁をすり抜けて隣の部屋へと移動していた。そこにはスヤスヤと寝息を立てて眠っている彼女、心優の姿があった。魂は抜かれてもまるで冬眠をしているかのように生きているのか、生命を維持するために最低限必要な動きをしている。 『じゃあ、とにかく心優ゴメンな、ちょっとだけ僕が心優になって過ごして見せるからね』 フワついている彼はそう呟くと彼女の身体に飛び込んで行くのだった。 (つづく) (あとがき) 全く新しいシリーズとして、パンツ派の彼女にスカートを履かせていく展開の作品になります。一本が短めのお話で連載していきますのでちょくちょくアップできるかも知れません。細く長くを目指すお話となりますので、気長にお付き合いをお願いいたします。感想等はX(旧Twitter)は @skyseafar までお送りください。 |