作:夏目彩香(2008年5月26日初公開)
「俺、金森のことが好きです。俺と付き合ってください!」 「えっ、今なんて?」 「俺と付き合って欲しいんです」 人影が少ない大学のキャンパス、廊下の突き当たりで竹中澄人(たけなかすみと)は同じサークルで知り合った金森亜紀(かなもりあき)に告白をしていた。 「気持ちは嬉しいんだけど……」 「まさか、付き合ってる人がいるの?」 「ううん、そうじゃないんだけど、やっぱり告白は本人にしてこそだと思うから……私が応えるわけにはいかないから」 「だから、俺は金森のことが好きなんだ。もし良かったら。付き合って欲しいって」 「あっ、金森って私のことだったよね。澄人のこと大事に思ってるけど、付き合ったら別れるかも知れないよね。澄人は大事な存在だからいつまでも一緒にいて欲しいの」 「そっか、金森は俺とはずっと友達のままがいいって、そういうことだろ」 「ごめん。亜紀の気持ちを少し読んじゃった。澄人のことを好きなんだけど、別れが怖くて付き合えないみたい」 「それが、金森の本心か?」 「そうみたい。亜紀は澄人とは深い付き合いになることを望みながら畏れてるよ」 「告白の練習は終わり。な~んか、金森に直接告白するのやめようかな」 「なに言ってるの、澄人。男だったらどうにかしてみなさいって、亜紀の畏れを取り除いてあげればいいのよ」 「あっ、そうか。お前って冴えてるな」 「じゃ、亜紀から離れて元の体に戻るよ。できるだけ亜紀らしく振る舞ってやったから」 「ああ、わかってるよ。ありがとう」 そう言うと亜紀は床に倒れている、澄人の友達の三崎(みさき)と並ぶように寝そべると段階と意識が無くなっていった。それと同時に三崎がゆっくりと起き上がった。 「よっ、澄人」 「なにが、よっだよ」 「まだ10分しか憑依できないんだって、うまくやっただろ。あとはお前の力だからな頑張れよ」 「あぁ、ありがとう。で、さっき言ったことなんだけど、別れることを畏れてるって、ホントなのか?」 「そんなの話てる時間なんてないよ。俺が抜け出て1分ぐらいで意識が戻るんだから、俺は行くぜ。じゃあ、報告を楽しみにしてるぜ」 そう言って三崎はその場を立ち去って行った。そして、三崎がいなくなってから亜紀の意識が戻り、床からゆっくり起き上がる。 「あれ?私ったらどうしたのかしら?」 「金森さん、三崎が倒れたのを見て、金森さんも気を失ったんだよ」 「えっ、そうだっけ?」 「そうだよ」 「でも、なんで助けてくれなかったの?」 「あっ、それは……三崎の奴を介抱してたから。実は俺って、女の人に免疫が無いからさ」 「とにかく私は大丈夫。私、竹中君のことをよく知ってるんだから」 「そうかな?」 「そうよ。竹中君が私のことを好きなことも気づいちゃってさ」 「えっ?今なんて」 「この際だから、私から告白しちゃいます。私と付き合ってください」 亜紀の方から告白されてしまった竹中はちょっと戸惑ってしまった。 「えっ、金森。それって俺が言うべきセリフだよ」 「あっ、そっか。じゃ、言ってみて」 「俺、金森のことが好きです。俺と付き合ってください!」 「もちろん、喜んで。私、竹中君とはずっと友達でいたかったけど、さっき気を失って起き上がったら、なんだか勇気が沸き上がって来たのよね。たとえ何かがあって別れても友達ではいようね。それが私との約束だよ」 「あぁ、わかったよ。これからよろしく」 翌日、俺の家に澄人が来ていた。昨日のことを直接聞きたいと押し掛けて来たのだ。 「澄人、昨日は亜紀とどうだったんだ?」 「あっ、それなんだけどお前のおかげなのかうまく行ったよ」 「そうか、そうだろうと思ったよ。亜紀の心の中にも付き合いたい気持ちでいっぱいだったからな」 「三崎、お前って亜紀の気持ち読んだんだろ」 「まぁな。次なら亜紀とまったく同じ行動ができるだろうし。なんかあったらまた相談してくれよ」 「相談してくれって言われても、お前の憑依能力はどうせまだ10分しか持たないんだろ」 「あっ、そうだったよな。長い時間憑依できるようになったら、また亜紀になってやろうか?」 「そんなことしなくて、いいって。金森とはこれからちゃんと付き合うんだから」 「わかったよ。お前に気付かれないように気をつけるからな」 そう言うと、三崎はその場に倒れた。きっと憑依の特訓でもしているのだろうと、澄人は考えていた。 (完) |
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