好きよ好きよも今のうち(021 - 025)
作:夏目彩香(2003年9月17日更新)
021
「なんなの?絵奈。後で遊ぼうって言ったのに、祐介に言ってちょっとこっちへ来たんだけど……」 恵美は冷や冷やしながら、絵奈の口から出てくる言葉を待った。 それでも恵美は平静を装うかのようにしているが、目の前の絵奈が絵奈では無いことはわかったし、康夫のことを知っている奴と言うこともわかった。もしかして、こう言うことができるのは……そう、康夫の中に思い浮かんだのは真矢直樹の姿だった。 ベッドから立ち上がった絵奈はクローゼットを開けて、何かを探しはじめた。恵美はバッグの中から本当の恵美が入っている小瓶を取り出し机の上に置いた。絵奈もすぐに本当の絵奈が入っている小瓶を机の上に置いた。 小瓶が2つ揃って、中に入ってるのは裸の女性、しかもその女性に変身してる自分たちがいる。これだけでもかなり興奮しそうな状況だった。 |
022
ここは祐介の部屋。ちょっと行ってくると言った割にはなかなか恵美が戻って来ない。女同士で何をしているというのか、恵美が俺よりも絵奈のことを気にしているのなら気に入らない。一人部屋に残された祐介はちょっと気分が悪いようだった。 しかし、そんなことを考えている矢先に、恵美が部屋に戻って来たのだ。待ちかねていた祐介は恵美の前に立ちふさがる。 「今まで何してたんだよ」 祐介の上に恵美が乗っているような形、恵美はキスをやめると祐介の体をまたいで座りだした。 「ねぇ。祐介って我慢してない?」 「恵美ったら、昼間っから何をするんだよ。絵奈だっているんだし」 「ねぇ。このワンピース邪魔なんだけど、脱がしてくれる?」 「祐介も脱いで」 二人は祐介のベッドの上で裸の体を寄せ合うと、更に激しい交わりをするようになった。祐介の部屋の中で恵美と祐介の快楽を伴う声が響いていた。祐介が恵美の体を嘗め尽くすと、恵美の方も逆に祐介の体を嘗め尽くしていた。 「ねぇ。祐介。これつけてよ」 |
023
祐介の部屋に恵美が戻る前のこと。そう、直樹が変身していた絵奈と康夫が変身していた恵美がお互いの変身を入れ替えたばかりだった。さっきまで絵奈に変身していた直樹は恵美に変身して、恵美に変身していた康夫は絵奈になった。客観的に見ればお互いに入れ替わったように見えるが実際にはそうでは無かった。 その証拠に着ている服はさっきのままであった。恵美になった直樹はさっきまで絵奈として着ていたグレーの部屋着を着ている。サイズが小さいためかストレッチ素材がずいぶんと伸びている。そして、絵奈になった康夫はと言うと、恵美の着ていた黄色のワンピースを着ていた。絵奈の方もサイズが大きいようだ。 とりあえず二人はお互いの着ているものを全て交換することにした。二人は恥ずかしさを見せることも無く、服を脱いでいる。もちろん下着もである。お互いに何も付けていない、全身素っ裸の状態になった。二人は不気味な笑いを浮かべながら、お互いの白い肌を見つめ合っていた。均整のとれたスタイルの恵美と、まだ成長途中の絵奈のスタイルが絵奈の部屋にある大きな鏡に映し出された。 「なぁ。康夫。このまま写真でも撮らないか?」 絵奈のデジカメでお互いに裸の姿を写すと、お互いに自分の下着を身につけた。絵奈は出かけることにしたので、なぜかクローゼットの前にあった制服に手を取った。絵奈の制服は典型的な紺のセーラー服だった。スカートはもちろん紺のヒダスカート、足を入れてファスナーを留めると腰でひっかかった。絵奈の膝頭が見える膝上丈だった。 そして、上着は中間服だったので白をベースとした長袖に紺の襟がついて、そこには2本の白いラインが入っている。横のファスナーを開いて頭からかぶると、ファスナーを留めてやる。着替えている間、恵美はじっと見つめていた。最後に、紺のスカーフを手に取ると、慣れた手つきで襟の下に結び目をつくってやる。この上に紺のカーディガンを羽織って着替えが完成した。 さすがに康夫だけあって、絵奈の能力を完全に引き出すのはお手のものだ。最後にクローゼットの中から紺のハイソックスを見つけて、それを履いた。着替えを終えると、まだ下着姿の恵美の前でクルッと一回転してみせた。 「どう?恵美。これで完璧でしょ」 それでも恵美の体に変身した直樹は、さっき絵奈がベッドの上に脱ぎ捨てた黄色のワンピースを手に取り、背中のファスナーに足をゆっくりと入れた。右手を後ろに回して、ファスナーを上まで上げようと思うが、上まで上がらない。 「康夫。ファスナー上げるの手伝ってくれないか?」 ワンピースの着心地を確かめながら、目の前の鏡に立つ恵美。 このままだとお互いの会話が絶え間なく続きそうだ。絵奈は恵美から絵奈の入った小瓶をもらうと、空の小瓶を3本もらった。 「恵美。ありがと。私これからでかけて来るからね。セーラー服を着て外出するの子供の頃の夢だったしね。あなたのおかげでその夢がようやく叶うんだなって」 そう言うと絵奈は本物の絵奈の入った小瓶と空の新しい小瓶を3本、それにデジカメと勉強道具をカバンの中に入れると部屋から出て行きました。 玄関で黒いローファー型革靴を見つけると、それに絵奈の小さな足を入れていきました。玄関の扉を開けると風がスカートの中に入って来てスースーとした感じ、絵奈になった康夫は図書館へ向かいました。 |
024
図書館は駅のすぐそば、絵奈になった康夫はさっきと逆の方向へと歩き出しました。憧れのセーラー服と言うこともあって、気分はノリノリ、軽く飛び跳ねるかのように歩いています。周りからはちょっと大胆かとも思えるステップを踏んでいるに違いありません。すれ違う人たちが絵奈の方をじろじろと見てくるからです。 それでも康夫はそんな感覚がとても心地よく思えて、更には絵奈の若さがとてもいいものだと歩きながら感じていたのです。歩くたびにプリーツスカートがふわふわと揺れて、風が強くなると足にべったりとついてきます。 絵奈は図書館への道を歩きながら携帯電話をかばんの中から取りだし、メールを打ち始めました。絵奈の友達の田島由奈(たじまゆな)と佐伯奈美(さいきなみ)の2人に対して宛てるメールだと言うのが送信先を見て分かります。 内容はどうやら図書館で一緒に勉強しない?とのこと、夕方の図書館に集まって勉強をするなんてことで、絵奈も集まってくれるのか不安があったようです。しかし、すぐに返事が返ってきて、二人とも「オッケー」の返事が返ってきました。このメールが送られて来た時に、絵奈は思わず軽くガッツポーズをつくっていました。 道を歩きながら、ガッツポーズを出してる時には誰にも見られていませんでしたが、これからはもっと絵奈らしく振る舞おうと、自分に向かって注意を促しているようでした。
そして、10分ほどで図書館の前に到着しました。図書館と言っても青少年向けの図書館で、高校生が利用しやすい環境のため、この図書館には高校生の利用者が多いのです。絵奈は土曜日で学校へ行かないにも関わらず制服を着たまま図書館の前で二人の友達を待っています。 春先とは言っても、図書館の前で待っていると少し肌寒さを感じる絵奈。スカートの中に入ってくる風は心地よいよりも冷たく感じているようでした。結局、先に図書館へ入ってしまうことにした絵奈は、まずはトイレへと向かいます。女性用のトイレに入ると、一番奥の個室にノックして、誰もいないのを確かめてから中に入りました。しっかりと鍵を閉めて、便座を閉めたままその上に腰を下ろしました。 携帯電話で二人に中で待っていることを伝えると、それぞれちょっと遅れるとすぐに返事が返ってきました。時間があるので、絵奈はさっきかばんに入れてきたものを確認することにします。本物の絵奈が入っている小瓶と、新しい空の小瓶3本があることを確認すると新しい空の小瓶の中から1本を取り出して、直樹が言っていた新しい小瓶の秘密を思い出しました。 その内容を要約してみると、新しい小瓶は前のものと違って外からは透明に見るのですが、実は中からはただの鏡にしか見えません。外の様子をうかがい知ることができなくなるため、安心して変身することができます。名前を呼んだ人が近くにいる場合に小瓶の中に入れることができるのは同じで、小さくなりながら裸の姿で中に入って行きます。服は小さくならないので、その場に残ることになります。 そして、キャップを閉めても変身は始まりません。小瓶を飲み込むことで中に閉じこめた人と同じ姿に変身できるのです。小瓶が体の中に入ってしまうので、小瓶を隠す場所に困ることも無いのです。あとは、その場に残された服や靴を着替えればいいのです。しかし、自分の着ていた身につけていたものが残るので、これは白い小瓶の中に入れておくことができて、同様に飲み込んでしまえば隠し場所に困りません。小瓶は体の中から好きなときに取り出すことができて、それは口から出て来ます。 更に、新しい小瓶だと重ねて変身することも可能。絵奈の姿のまま違う人に変身をすることが可能なので、変身を一度解かなければならなかった点が改良されていた。ちょっと使い方が難しくなったが、絵奈は新しい小瓶をすぐに使いたくてしょうがないような表情をしていた。トイレの中で笑いが止まらなかったのです。 |
025
「ねぇ、祐介。気持ちよかった?」 康夫の変身した絵奈が図書館へ到着した頃、直樹の変身した恵美と祐介はベッドの上でゆったりとした時を過ごしていた。ベッドの中に二人は抱き合ったまま寝ている。祐介の中に恵美が包み込まれているような状態。祐介は気持ちよく寝ていた。 「祐介。眠っちゃったの?……睡眠薬ようやく効いたみたいね」 祐介が眠っているのを確認しながら恵美はゆっくりとベッドの中から出た。下着すら着けていない姿のまま祐介の顔をじっ~と見ていた。 「こいつ、本気で恵美のこと好きみたいだな。恵美の本当の気持ちも知らないくせに……」 そういうと恵美のバッグの中に隠していた本物の恵美が中に入っている小瓶を取り出した。中にはやることが無く退屈な恵美の姿が現れた。小瓶の中の恵美は目の前に全裸の自分がいやらしそうに見つめていることで、衝撃を受けているようにも見える。 「何々?小瓶の中で喚いても誰にも聞こえないって、恵美さん」 そういうと、小瓶を寝ている祐介の目の前まで持って行った。 「こいつが祐介だよ。まだ本当の恵美とは会ったことが無いのに、すっかり本物だと思って、一気に裸の関係まで……」 小瓶の中では目の前のことを見ていられない恵美の姿があった。 「どうせ小瓶の中にいる記憶は無くなるんだ。聞くも聞かないも同じだよ。せっかくだからあんたの言葉を聞かせてよ」 そういいながら、バッグの中に手を入れるとポストイットのようなものを取り出した。そして、小瓶にペタッと貼り付けると、ポストイットのようなものから音が聞こえてきた。すすり泣きのようだった。 「この小瓶用につくったポストイット型スピーカー。これを取り付けると小瓶の中の音声が聞こえるんだけど、泣いていちゃ君の大事な声が聞こえないじゃない、一緒に話そうよ」 すると、小瓶の中からはすすり泣きを抑えながら声が聞こえてきた。 『あなたって一体誰なのよ。こんなことして何が楽しいの?』 「楽しいんだって。あんたのように幸せそうに暮らしているのが気に入らない親友の頼みからはじまったことだからな」 『人の幸せを奪うようなことして偉そうに言わないでよ』 「一応、偉そうには言ってないんだけどなぁ」 『とにかく、あなたは誰?どうして、こんなことができるの?』 「ん?そんなに気になるか?まぁ、教えてやってもいいか、どうせ記憶は無くなるんだから」 『記憶がなくなってもいいから聞きたいの』 祐介がすやすやと寝ているベッドにゆっくりと腰をかけて脚を組んだ。もちろん全裸のままだった。 「そんなに言うなら教えてやるよ。この小瓶には中に入った人物に変身できる効果を持っていて、それを使ってあんたの姿に変身してるんだよ。だから、この身体はあんたの身体のように見えるけど、ただ変身してるってわけ」 『それで、あなたは何者?』 「まぁまぁ。時間はたっぷりあるんだから。あんたの会社にいる田口って知らないかい?」 『えっ?総務課に田口さんっているわ。あなたどうして知ってるの?もしかして、田口さんなの?』 恵美は小瓶の中で目を大きく見開いていた。 「ふっふ~ん。そうって言いたいけど、今は違うよ。さっきまでは、田口があんたに変身していた」 『えっ。何ですって!?』 「ついさっきまではね。でもって、ちょっと事情があって俺と交代してもらったよ。君の身体にちょっと興味が沸いちゃってね」 『まさか、あなたって田口の親友ね』 「あぁ。そうだよ。俺、真矢直樹があんたの身体に変身してるってわけ」 『信じられない』 そういうと、小瓶の中にいる恵美は一気に力が抜けて気を失ってしまった。すると、恵美はゆっくりとポストイット型のスピーカーを剥がしながら不気味な笑みを浮かべていた。 |
あとがき
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