小瓶の中に入ってる美野の目の前には2人の美野がいました。コンタクトレンズをつけている美野は白のノースリーブワンピースの上に黄色いカーディガンをかけて、黄色いハイヒールを履いています。そして、眼鏡姿の美野は黄色のAラインスカートに白いブラウスの上からブラウンのカーディガン姿、足にはグレーのパンプスを履いています。本物の美野が2人の美野に見つめられる変な構図でした。
「先輩。もういいですか」 「かばんに入れておけ」 本物の美野が入った小瓶は美野のバッグの中へと入れました。 「美野の顔見たか。びっくりした顔がたまんなかったよな」 「先輩もそうでしたか、僕もそう思いました。それで、2人とも美野だと混乱しませんか?」 眼鏡の美野がコンタクトの美野に話ている。 「そうだろう。2人美野がいるのは本来おかしいんだからな」 「じゃあ、美野に双子の妹がいたってことにしたらどうですか?」 「それいいよな。じゃあ、お前が美野の妹だ。名前は美恵(よしえ)でどうだ?」 「美恵ですか……まぁ、いいっす」 2人はどうやら意見がまとまったよう。 「それじゃ、これからは双子の姉妹ってことでよろしくな」 「わかりました。美野姉ちゃん」 「それって、なんか恥ずかしいな」 美野はくすぐったい仕種を見せる。 「そろそろ、成りきらないと駄目ですよ。先輩」 「わかった、わかった。これからは美野と美恵に成りきることにしよう」 どうやらこれから2人の成りきりがはじまるらしい。
美野と美恵はサークル部屋を出ることになった。サークル棟を一緒に歩くだけでも周りの視線を浴びる、美人姉妹が歩いているのだから当然と言えば当然。しかも双子のように見える2人はどんな動きをしても同じに見えるのだ。
2人が向かったのは未だにお花見をしている会場。2人の先輩であるそこにはサークル長が一人で花見気分に浸っていました。もうべろべろに酔ってしまったようで、美野と美恵の姿を見ると、鼻の下を伸ばして近づいてきます。
「お~い。君たち。一緒に遊ばないかい?」 サークル長がそう言うと、まずは美野が近づいて行きました。 「私たち、双子なんです。席を一緒にしてもよろしいですか?」 「なんて、礼儀が正しいんだ。もちろんいいよ」 2人は靴を脱ぐとサークル長の前に膝を立てて座りました。 「さくらがきれいですね。他にお花見している人はどこへ行ったんです?」 「もう、誰もいないよ。だいぶ涼しくなってきたからね。みんな家に帰ったみたいなんだ」 「お酒あります?私がついであげます」 サークル長とは美野が話をしている。 「それにしても、だいぶ寒くなりましたね。どこか違う場所に行きませんか?」 「ん?君たちと一緒に?」 「まずは、ご飯でも食べに行くのはどうですか?」 「いいよ。君たちの分まで俺が奢ってあげるよ。なんでもいいから食べに行こう。」
3人は近くのファミリーレストランへ移動して、夜ご飯を一緒に食べることになりました。 「メニュー決まった?」 ウェイトレスさんに3人がメニューを伝えると、サークル長はグラスに入った水を一気に口に入れました。 「忘れてたけど、俺の名前はひろし。君たちの名前教えて欲しいなぁ」 「ん。私は美野で、こっちは妹の美恵。私たち双子なの」 美野はぶりっこするような感じでひろしに言います。 「私、トイレ行ってくる」 「オッケー」 美恵はトイレへと行ってしまいました。 「それにしても君たちずいぶんと似て良すぎだね。全部同じみたいだ」 「そうですか?双子だから当然だと思うけど」 「でも、声までそっくりだってのは初めてだよ。そっくりと言うか完璧に同じみたい。目をつぶるとどっちがしゃべっているのかわからなくなりそう」 ひろしはべらべらとしゃべりはじめます。 「ん~。そうね。私たち声までそっくりってのもよく聞きます。じゃあ。あとでカラオケでも行きますか?」 美野は目の前にいるひろしをじっと見つめながら、お願いをするような表情に感情を込めて言いました。 「そうだな。カラオケ。いいねぇ。君たちと一緒ならどこでもいいよ」 「じゃあ。決まりね」 そう言ったところで美恵がトイレから帰ってきました。 「どうだった?」 「最高」 「じゃ、私も行ってくるから」 美恵が席に戻ると、次は美野がトイレへと向かいました。ひろしと美恵が2人きりになると、お互いになぜか気まずい雰囲気になります。 「そう言えば、君は眼鏡かけてるよね。なんでコンタクトとかしないの?」 「私の方は、コンタクトが体に合わなくて、いつも眼鏡にしてます」 「そっか。眼鏡取ったら可愛いと思うのに。ちょっと外してくれる」 「えっ?駄目ですよ」 そうは言ったものの、ひろしの強引さによって美恵は眼鏡を外した。 「あっ。お姉さんとそっくりだね。しいて言えば化粧の仕方が違うくらいか」 「そうですか。私たちって外見は似ていても性格が全然似てないんです」 ひろしはだまったまま頷いている。 「まぁ、違う人間だからね。何でも同じってことはあり得ないからね」 そう言ったところで、美野がトイレから帰ってきた。ゆっくりと席に戻ると、3人が頼んだものがウェイトレスさんによって運ばれてきた。 「まずは、食事しましょう。このあとでカラオケに行きましょうね」 こうやって3人は楽しい食事を始めたのでした。
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